群馬県の状況と産経新聞の姿勢

5月20日の産経新聞群馬版の記事から

公共施設の再編協議本格化 群馬
県立公共施設の必要性をめぐる協議が本格化している。施設の利用者が増えず、多額の赤字を発生させているためで、県財政の厳しい運営が続く中、施設存続に疑問を示す意見が強まっている。「公共施設のあり方検討委員会」(委員長・茂木一之高崎経済大教授)はすでに、旧知事公舎を解体するよう答申し、今後、その他の施設の存廃に関しても、一定の方向性を打ち出す。ただ、美術館や公園など、収支といった客観的基準で判断するのが困難な施設が多く、協議の行方は不透明だ。(小川寛太)
■61施設が赤字
 同委で協議対象としているのは、旧知事公舎のほか、公園やスキー場、教育施設など68施設ある。このうち、61施設は収支が赤字を計上しており、18年度決算ベースでみた県財政の負担額は、約58億円に上る。
 特に、「県立自然史博物館」(富岡市)は、入館料や施設使用料など約4000万円の収入に対し、支出は約4億5400万円と、約4億1400万円の赤字を計上。17年に建設費約72億円をかけて整備された「県立ぐんま昆虫の森」(桐生市)も、約3億9500万円の赤字となるなど、5施設の赤字額は3億円以上だった。
 「つつじが岡公園館林市・花山部分に限る)」だけが黒字で、約5100万円に上った。
■10月に中間報告
 同委は4月24日の第2回会合で、維持・管理費が膨大になるなどとして、平成19年9月以降、利用されていなかった旧知事公舎の解体を答申。県管財課は「今月末から6月上旬までに、解体業者の選定に入りたい」としている。
 今後の協議は、旧知事公舎を除く67施設から抽出した県直営の24施設のうち、経費負担の多い施設など14施設の存廃問題を優先して扱う。このうち、ぐんま昆虫の森をはじめ、「県立館林美術館」(館林市)、「県立高齢者介護総合センター」(前橋市)、「県立ぐんま天文台」(高山村)、「県立近代美術館」(高崎市)は、10月をメドに中間報告を取りまとめる。
 施設の必要性だけでなく、民間委託や市町村への移管、指定管理者制度の導入など、存続させた場合の運営方法を明記した形で、大沢正明知事に答申するとみられる。
■道筋は不透明
 協議は、公共施設の特性を踏まえたものにならざるを得ず、「『赤字だから廃止するべき』と、企業経営の論理を持ち込めない」(県関係者)との面が強い。
 例えば、館林美術館では、収入の10倍以上となる支出が発生し、約2億2600万円の赤字を計上(18年度決算ベース)。しかし、地元からは、「東毛地域は文化施設が少ない」「文化度の高さは、企業の進出条件の中で上位に位置する」と存続を求める声が強い。
 文化や教育など価値判断が難しい施設について、同委はどんな判断を下すのか、その道筋は描き切れていない。

群馬県公共施設のあり方検討委員会のページを見てみますと,まだ3月21日に開催された第1回委員会のものまでしか掲載されていません。
そこで事務局が作成した「公共施設一覧表【県の経費負担が多い順】」という資料が第1回委員会で配布されたことが出ています。この「公共施設」ですが,何か定義があるのでしょうか。高校とか保健所などは出ていませんけれども。
教えてください。>ご存じの方
さすがに委員からは,「公共施設一覧表、県の経費負担の多い順で並んでいるが、単純にこれだけでは全くわからない。例えば入場者数などが参考にあるとよいのでは。」という声が上がっています。議事概要でこれですから,実際の発言は,さらに事務局側の資料の在り方と,その背景にある考え方を批判したものであったんだろうと思います。
この委員の声のように,委員会では,収支差よりも,むしろそれぞれの機関の存在意義,県民ニーズ,社会的ニーズ,時代ニーズ,活動の成果が議論の中心になることを期待します。

産経新聞の記事の背景にある思想は「赤字」もしくは「収支といった客観的基準」の原則適用か。

さて,このブログでも,2月5日のエントリーの「図書館以外は不要」橋下氏、大阪府施設の廃止・売却検討−小さな政府(地方行政ですが)を目指す大阪府の新知事追記部分で,大阪府の事例に関し,産経新聞が「赤字額が最も多かった施設は、ワッハ上方大阪市中央区)で4億2900万円」と書いていることや「大阪府立の中央・中之島の両図書館の運営収支は2館あわせて年間約16億円の赤字」と書いていることを取り上げていますが,群馬県の事例でも産経新聞の論調は相変わらずですね。
「美術館や公園など、収支といった客観的基準で判断するのが困難な施設が多く」と弁明してはいますが,これは逆に,「収支といった客観的基準」が原則第一と産経新聞が考えてことを表明しているものです。
県費投入額と存在意義,効果を見ていくべきところを,「赤字」一言で済ませてしまう貧困さが見えてきます。
確かに効果の面に於いて,例えば県立自然史博物館は立地が必ずしも良くないことも含め,利用者増を含めその施設の効能を高めていくこと向けて取り組んでいくことが必要でしょうし,県立ぐんま昆虫の森は過大とも言える施設を負ってしまったことなど,これまでの在り方についての批判,見直しは必要かとは思いますけれども。
 また,ぐんまフラワーパークについては,このブログで何回か触れたところです。
 一方,県立ぐんま天文台の施設とその活動については,群馬県の誇る先進的な取組として評価したいと個人的には思っています。


ちなみに,年間300万人が訪れる上野動物園では,(入園料収入)/(仮定総経費)をもし計算してみると,43%程度ということですから,産経新聞の論調を借りると,年間10億円程度の「赤字」ということでしょうか。上野動物園の機能を展示公開だけと仮定してみても,年間300万人の娯楽と学習に役立っているのであれば,10億円の税金投入はかなり効率が良いものだと思いますけれども。当然,動物園の機能は,展示公開だけにとどまらず,動物の生態・形態の探究を行う調査研究や,希少動物の保全・保護など多岐にわたりますから,十分おつりが来ていると,私は個人的に思っていますし,そう考えている都民は数多いのではないかと思います。
なお,ちなみに,日本国の「防衛事業」では,年間4兆7千億円の「赤字」ですから,ぜひ産経新聞にはそのあたりも取り上げて欲しいと思います。

5月26日追記 群馬県公共施設の在り方検討委員会について

5月26日のエントリーに第2回委員会の概要を紹介しています。

5月22日追記 岡山&公の施設って?

5月22日の毎日新聞岡山版の記事から

県:行財政改革 直営の32カ所など、140施設見直し 休廃止、民間譲渡も
厳しい財政状況を踏まえ、県は今年度から、改訂第3次県行財政改革大綱に基づき、県有140施設の在り方の見直しに着手する。休廃止や民間への譲渡などを含めた全庁的な見直しは初めてという。県行政改革推進室は「個々の施設の現状分析をしっかりと行い、県民サービスにも配慮しながら進めていきたい」としている。
 見直しの対象となるのは公の施設のうち、県の設置条例で設けられた施設。内訳は県立記録資料館、県福祉相談センターなど直営32施設と、県立美術館や県総合展示場コンベックス岡山など指定管理者制度を導入している108施設。
 同課は施設の事業内容、利用者数、運営経費などについて現状分析した上で、「設置の意義が薄れていないか」「他の類似施設と競合していないか」「施設の利用率が低くないか」などの観点から見直しを実施。8月ごろに中間とりまとめを行った後、休廃止、民間・市町村への譲渡、縮小などに区分した最終とりまとめを11月ごろに公表したい考え。
 施設の廃止などの場合には、関連条例の廃止など県議会の議決が必要となるが、来年度以降、順次進める方針。【佐藤慶

岡山県も見直しですか。
記事中に「見直しの対象となるのは公の施設のうち,県の設置条例で設けられた施設」って書いてあるけれども,もう一つ限定が必要でしょう。例えば千葉の場合,県立高校は,地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百四十四条の二第一項の規定に基づき,千葉県立高校設置条例で設置しています。こういう書き方ならば県の設置条例で設けられた施設として見直しの対象になるんでしょうね。
岡山県の場合も県立高校設置条例があるんですけれども,千葉県と違って,学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第二条の規定に基づくものと規定しています。また,保健所は当然岡山県保健所条例ですが,これも根拠法が違っていて「地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項」に基づくものとなっています。このように地方自治法でなく,別な根拠法に基づくものは見直しの対象ではないと言い切ってくれればわかりやすいんですが。