愛媛新聞が社説で,博物館の民間委託に危惧を。

8月26日付の愛媛新聞の社説で,「学芸部門に予算や権限が与えられなければ,博物館の本来機能が果たせない」「単なるイベントホールになっては,県が博物館を設置している意味がなくなる」と,当然ではありますが,明確に指摘をしています。
総合科学博物館などはそれほど古い機関ではないですが,当初から,プロパーの学芸員を育てようという明確な意志が見えていました。それらの努力が今,実を結びつつあるところだと思います。行政側の熟慮を期待します。

博物館の民間委託 研究など本来機能を見失うな

 県の直営施設の存廃を検討してきた「公の施設のあり方検討部会」が、総合科学博物館(新居浜市)と歴史文化博物館(西予市)への指定管理者制度の導入を決めた。美術館(松山市)についても同制度の導入を今後の検討課題とした。
 導入の狙いは、民間活力を取り入れて管理運営の効率化を図り、県の財政負担を軽減することに尽きよう。
 指定管理者制度は二〇〇三年の地方自治法改正で新設された。それまで公共団体や第三セクターに委託していた公共施設の管理・運営を企業や民間団体に開放する制度である。
 博物館や美術館の役割は学術・芸術資料を次代に継承していくことで、本来は経済効率優先とは相反する。しかし、「官から民へ」の流れは文化施設をものみ込んでしまっているのが、愛媛や全国の現状だ。
 博物館などの基本的機能は収集、展示、教育、研究である。目立たないが、研究が最も重視される機能だ。研究があってこそ系統だった収集や企画展示が可能になる。
 それが、競争入札で運営管理者を決めるとなると、肝心の研究の継続性が保証されるのか不安がつきまとう。また研究と収集、展示機能などとの連携もおぼつかなくなる。
 短期間で管理者が変わる可能性があるのも心配な点だ。研究とは無関係に、多くの入場者が見込める展示ばかりになる恐れがある。単なるイベントホールになっては、県が博物館を設置している意味がなくなる。
 今回の検討部会案は両博物館の指定管理者制度導入に当たっては、専任学芸員による資料収集・保存や調査研究の分野を除くとしている。
 公的機関が担うべき分野を重要視したともいえ、一定の評価はできる。ただ、効率性と博物館機能のバランスをとった折衷案との見方もできよう。将来については、長崎歴史文化博物館長崎市)のように学芸部門を含めた民間企業への委託の可能性は残されている。
 県は部会が決めた内容を検討し、十月中に最終的な方向性を決めるが、学芸部門と指定管理者との仕事の割り振りや指揮命令系統が焦点となる。
 学芸部門に予算や権限が与えられなければ、博物館の本来機能が果たせない。単に効率的なサービスという観点だけの運営では困る。文化の創造や育成には長い時間がかかる。数字の論理に走らず、博物館を育てていく姿勢が欠かせない。
 現在、指定管理者に委託している県有二十六施設の指定期間は三年が中心。長期的な運営が求められる博物館には、十年単位の期間が必要だろう。情報公開など透明性や公正性を確保する制度の確立も求められる。
 総合科学と歴史文化の両博物館については、これまで幾度も「不採算」部門のレッテルを張られてきた。しかし、関係者には「ハコモノ行政」のツケを長年、払わされているとの思いもあろう。効率性だけに走って、同じ轍(てつ)を踏む愚は避けたい

2008年5月9日追記 指定管理者選定に向けて説明会が行われる。

5月9日の産経新聞愛媛版の記事から。

4施設の指定管理者募集 愛媛県教委
愛媛県教委は県総合歴史文化博物館(西予市)など所管する4施設の指定管理者を募集することになり、9日から順次、施設ごとに現地説明会を始める。
 総合歴史文化博物館のほか、県生涯学習センター(松山市)▽えひめ青少年ふれあいセンター(同)▽県総合科学博物館(新居浜市)−の各施設。説明会は生涯学習センターとえひめ青少年ふれあいセンター(生涯学習センターで同時開催)が9日午後1時半から。総合科学博物館は15日、歴史文化博物館が16日で、いずれも午後1時から。
 申請の受付期間は6月20日〜7月15日。7月下旬〜8月上旬にかけて審査し、8月中旬に候補者を決定する。申請資格は県内に主たる事務所を置き、または置こうとする法人や団体などとなっている。指定期間は平成21年4月1日〜26年3月31日(予定)。問い合わせは愛媛県教委生涯学習課((電)089・941・2111、内線2931)へ。

愛媛県教育委員会のページによると,総合科学博物館,総合歴史文化博物館において指定管理者が担う業務は次の通りとのこと。

(2) 愛媛県総合科学博物館
 ア 博物館法第3条に規定する事業に係る業務のうち、教育委員会が定める業
   務(プラネタリウムの運営、生涯学習の促進及び援助並びに施設の提供に関
   する業務を含む。)
 イ 博物館の利用の許可に関する業務
 ウ 博物館の利用に係る料金の収受に関する業務
 エ 博物館の利用の促進に関する業務
 オ 博物館の施設、附属設備及び備品の維持管理に関する業務
 カ その他教育委員会が定める業務
 キ 博物館の資料の特別利用に係る料金の収納事務に関する業務

(3) 愛媛県歴史文化博物館
  ア 博物館法第3条に規定する事業に係る業務のうち、教育委員会が定める業務
   (生涯学習の促進及び援助並びに施設の提供に関する業務を含む。)
  イ 博物館の利用の許可に関する業務
  ウ 博物館の利用に係る料金の収受に関する業務
  エ 博物館の利用の促進に関する業務
  オ 博物館の施設、附属設備及び備品の維持管理に関する業務
  カ その他教育委員会が定める業務
  キ 博物館の資料の特別利用に係る料金の収納事務に関する業務

さらに,詳細を業務仕様書から見てみると,総合科学博物館については業務の役割分担は大まかに次の通り。

(1) 学芸業務
博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業(以下「学芸業務」という。)は、教育委員会が配置する学芸員等の職員(以下「学芸員等」という。)が行うこととし、学芸業務の一部については、学芸員等との緊密な連携のもと、指定管理者が実施する。
(2) その他の業務
指定管理者は、来館者サービス業務、生涯学習業務、施設等の利用許可、利用促進業務、施設の維持管理業務、その他必要な業務を行う。

個別にまとめて見ると,展示業務に於いては次の通り。

○常設展示
指定管理者は、常設展示の適切な環境管理を行うとともに、博物館資料の保全と展示の活性化を図ること。

○特別展示
指定管理者は、自然・科学・産業に関する特別展示を年1回以上実施すること。なお、この場合、学芸員等と企画内容や経費の調整など、緊密な連携を図ること。また,特別展示のテーマや内容は連絡調整会議で協議の上決定する。展示資料の他機関からの借用にあたっては,学芸員が調査及び交渉を行い,指定管理者が旅費の支払い,資料搬送,管理等の業務を行う。展示している資料の管理は、指定管理者の業務。指定管理者は、学芸員等と連携して、展示している資料に関する解説(資料解説ラベルなどの対応)を行う。学芸員等と連携し、展示に関するパンフレット、図録、報告書等を作成し、頒布する。

○企画展示
指定管理者は、自然・科学・産業の専門的なテーマに関する無料の企画展示を年3回以上実施すること。なお、この場合、準備に係る経費を支出すること。

教育普及活動関係は次の通り。

○総論
指定管理者は,企画内容については学芸員等と事前に協議する等、教育委員会と連携を図りながら、効率的・効果的に事業を実施すること。また、博物館友の会の育成・支援やボランティアの運営に取り組み、県民の積極的な参加に努めること。

プラネタリウム
指定管理者は,プラネタリウムの機器の管理,投影を行う。番組については協議を行いながら開発・更新する。

○サイエンスショー
学芸員が準備及び制作を行い,研修をして,指定管理者が実演する。

○講座・講演会
指定管理者が実施する。

○友の会,ボランティア,博物館実習の受入
学芸員等と協議しながら指定管理者が実施する。

コレクション,調査研究業務は次の通り。

基本的には教育委員会が実施。指定管理者は収集資料の輸送,資料整理補助,燻蒸(定期+臨時),研究紀要の発送とホームページでの公開を実施。なお,収蔵室への立ち入りは学芸員等が同行しない限り禁止。

その他,広報と建物の維持管理は指定管理者が担当する。
指定管理者は指定管理業務以外に,飲食物提供・物品販売事業等を館内で実施することができる(教育委員会へは事前通知のみ)。また広告事業を実施できる(教育委員会の許可が必要。さらに広告事業によって利益を得た場合には、博物館の適正な管理運営のために充当することとされている)。
入館料等は利用料金制度を導入。
 といったところのようです。
基本的に調査研究とコレクションの管理は教育委員会が主体的に責任を持って学芸員が担うということにはなっていますが,指定管理者と学芸員の業務の連携体制が極めて複雑な構図になっていて,これでうまくいくのか,心配です。
 コレクションの収集においてすら,資料の輸送は指定管理者の業務ですので,例えば産業遺産関係の大型資料の運搬は制限されてきそうです。また,資料の性格を無視して,「効率的な」荒っぽい輸送方法が取られる可能性も捨てきれません。当然,学芸員は資料の保全の観点から,運搬・輸送等へ要望を出すでしょうし,出さなければならないですが,「お金」を握る指定管理者が受け入れるかどうか不安です。一方,「良心的な」指定管理者だと,収益が悪化するかもしれません。結局,「コスト>資料の保全」というプリンシプルを持つ指定管理者しか生き残れないということになってしまうのではないか。
また,企画展示や教育普及活動,物販にしても,不安要素がたくさんあります。
 物販を例に取ると,指定管理者は高く売りたいものに関する情報を企画展示で取り上げるという手法をとるかもしれません。博物館の展示は,「○○は歴史的or学問的に大変意義がある,貴重なものである」という主張の発信になります。展示や教育普及活動は,そもそも,公的な機関が直に行うとしてもイデオロギーフリーはありえない,すなわち「中立性」というのは幻ですが,これが販売促進と結びつくと,そんなレベルではない極めて偏向したものとなってしまいます。つまるところ,博物館の機能を失わせることとなってしまいます。
愛媛県立の博物館への指定管理者制度の導入にあたっては,かなり熟慮して業務分担を行おうとしたことはわかりますが,不安要素は山積みです。