群馬県公共施設の在り方検討委員会について2

5月20日のエントリーで触れた群馬県の公共施設の見直しの件,4月24日に開催された群馬県の「第2回群馬県公共施設のあり方検討委員会」の議事概要が県のサイトにアップされていました。
14施設について審議の対象とするとのこと。14施設とは ○旧知事公舎○群馬県立近代美術館群馬県立歴史博物館群馬県土屋文明記念文学館○群馬県立自然史博物館○群馬県立館林美術館○群馬県立高齢者介護総合センター○群馬県精神障害者援護寮○群馬県立北毛青年の家○群馬県立妙義少年自然の家群馬県立東毛少年自然の家群馬県生涯学習センター○群馬県立ぐんま天文台群馬県ぐんま昆虫の森 とのこと。
14施設に絞った事務局案に対して委員からも意見もあったが,結局は概ね押し切って,委員の意見によって中間報告後に追加審議するということになったようです。

委員会での博物館関係のやりとりから一部を引用

<質疑>
(委員)近代美術館、歴史博物館、土屋文明記念文学館、自然史博物館、館林美術館の5施設は、博物館、美術館であり、他県でも設置されていると思う。こういった施設は赤字になるのを覚悟で運営しているのか、全国的な状況は分かるか。
(事務局)これらの施設は、博物館法上の規定により、収益を上げられないことになっており、収支が黒字ということはあり得ないのではないか。本日、資料としてご用意していないが、今後、個々具体的な検討対象になれば、全国状況について資料提供させていただきたい。
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(委員)各施設には、ソフトとハードの両面があり、いかに施設を有効に活用するかが 大切。人件費はかかるが、文化振興や教育の面から美術館や博物館、図書館には、 学芸員や司書が、青少年施設には指導のための専門的な知識を有した指導員がいる。こういう人たちが、より専門的な知識を得るために研修を受けるなど、かえって人件費がかかるようなこともある。そういう人件費まで減らしてしまうと、施設としての役割がなくなってしまい、かえって無駄な施設になってしまうのではないかと思う。人件費に当たるかどうか分からないが、これまで以上に研修費をかけて、より有効に活用していくことも考えられるのではないか。
(委員長)評価でも人件費は難しい。公共施設の事業評価については、国交省ガイドラインを策定し、評価システム、シミュレーションを作っている。これは、どちらかというと道路などについて、事業評価をするものであるが、人件費をいかに扱うかが難しい。単にコストと考えてよいのかという問題がある。また、地方公共団体が人件費を支出することによる需要効果もある。いたずらに人件費を制約する議論には問題があると思う。御指摘のように内容をよく考える必要があるが、個別に見ていくと逆の意見もあり難しい。
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(委員)自然史博物館の収支状況を見ると、予算上、18年度よりも19年度の方が売り上げが減るだろうと見込んでおきながら、支出では、人件費を17,000千円上げている。そもそも予算づくりにおいて、どこまで赤字を増やすことが許されているのか。民間的な考えではあり得ないことである。予算づくりはどうなっているのか。
(委員長)それぞれの施設で予算を決めているわけだが、どういう基準で予算化を図っているのか。全般的に利用者数が減少傾向にある。各施設所管部局の責任で利用度合いを上げていく必要があるが、一つの施設を巡っても様々な意見がある。大切なことは、県民の皆さんが、それぞれの施設をどう評価しているか、ということである。他県でも、公共施設のあり方研究を実施しており、全てではないが、施設ごとに県民の意見を聴取している。近い将来、そういうことも必要ではないかと思っている。
(委員)赤字が問題かというと、そうではなく、費用がどれだけかかるかということだと思う。教育施設で見れば、教育施設にどれだけ費用をかけて、どれだけの効果があるのか、ということが大切だと思う。費用をどんどんかけてもよいということではなく、群馬県の力に見合った施設をこれからも充実させていくし、また新しいものも作っていくことが大切。そして役割を終えたら整理していけばよいと思う。民間では、収支が釣り合わなければいけないが、美術館などの教育機関では、どれだけ費用をかけられるのか、ほかの美術館に比べて、どれだけ費用対効果があるのか、あるいは、県民の評価があるのか、ということだと思う。県民だけでなく、近隣の県民も引っ張り込んでみてもらいたい。こういうことを常に頭に置きながら、どれだけ費用をかけたらよいのか考えてもらえばよいと思う。人件費も同じである。天文台の研究職員の中から、その研究成果を認められて、大学教授になる人も出てくるだろう。大学の定員の関係から天文台で研究している職員もいると思うが、そういうレベルの人をむしろ引っ張ってきてはどうか。かつて、三菱化成が生命科学研究所を作った。三菱化成は、その研究所では全く稼いでいないが、すごい学者が揃っており、素晴らしい研究成果や人材を生み出している。美術館や昆虫の森、天文台などには、そういう要素がたくさんある。そういう中で、県の財政を健全化する方向で考えていければよいと思う。
(委員)どういう施設が県民の最大多数の最大幸福のために必要なのか、そして、そのために、どれだけ公費を支出してよいのか、ということだと思う。検討対象の14施設は、教育文化関係がほとんどで、こういう施設が対象としてあげられるのは非常に残念である。成熟社会になると、心の問題が重要になる。こういう施設の役割は大きいのではないか。また、日本の科学技術アップのためにも必要ではないか。
(委員)なぜこのような委員会が設けられたのか、国や大阪同様、本県も例外ではない。教育資源、文化振興資源はどんどん減っていると思うが、県の資源が限られている中で、いかに資源を有効活用するかということだと思う。弱者救済の資源を削ってまで、教育や文化に充てるのか、というのがこの委員会の議論になると思う。費用対効果、どうしたら効率的に運営できるのか。指定管理者に関して、先ほどの所管課長の説明の中で、文化関係では、全国で10%の施設において管理部門で指定管理者が導入されているということであったが、これは注目すべきことだと思う。
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(委員)なぜ、入場者が伸びないのか、赤字体質が直らないのか、特に、博物館関係では、企画展で入場者が伸びないのが一番の理由だと思う。本県の場合は、東京に近いこともあり、東京で開催している企画展を本県に持ってくることが難しい面があると思うが、地方でも魅力的な企画展をやっているケースもある。もう少し横の連携に努力して、そういう企画展示を群馬県でもっとやるようにすれば、栃木、埼玉、長野などからの集客は見込めると思う。そういうネットワークの面での努力が少し足りないのではないかと思う。当然、お金がかかることなので、趣味の世界でやっていいものと、収支バランスを考えながらやらなければならないものとがあると思う。近代美術館や館林美術館で開催された企画展が、巡回されることがほとんどないような感じを受けている。このあたりの努力はいかがなものか。人に来てもらう施設だから、そのための努力をしなければ何の意味もないと思う。
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(委員)近代美術館は、今週リニューアルオープンするとのことである。同じ敷地内にある歴史博物館と、今後どのような形で運営していくのか見てみたい。また、自然史博物館は、年間4億円以上の赤字が出ているが、年間入館者が16万人となっている。最終的には、教育施設ということであれば、全て残しておかなければならないと思うが、赤字をどうするか。赤字でもよいと考えたときに、それでは何で判断するのか、一つには、先ほど申し上げた入場者数だと思う。自然史博物館は、4億円の赤字があるが、子どもたちにとっては面白い、興味がわく施設なのだと思う。美術館については、館林にもあるので、近代美術館かどちらか1館にしたらどうか。
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(事務局)当面10月までに中間報告をまとめていただくことになるので、まずは、そのための施設を選んでいただきたい。基本的には、中間報告取りまとめ後も、この14施設については検討していただくことになると思う。10月までに委員会を開催できる回数は限られており、また、現地調査もその間に2日間しかない。もう少し対象施設を絞り込んでいただかないと実質的には難しいのではないかと感じているので、ご検討をお願いしたい。
(委員長)スケジュール的には厳しいが、貴重な意見なので、中間報告を取りまとめた後にでも、検討できればいいと思う。
(委員)委員長に一任したい。
(委員)委員長が提案したものを10月までに検討し、10月以降に、ただいま意見のあった施設を優先的に取り扱うということの確認が取れればよいと思う。
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そういえば,自然史博物館の企画展への試みが評価され,昨年,国のナイスステップな研究者として代表者の館長が表彰されていましたね。
ナイスステップな研究者2007のプレス資料(科学技術政策研究所)から

【成果普及・理解増進部門】
○ 長谷川 善和 群馬県立自然史博物館 館長
  荒俣 宏 博物学研究家・作家

サイエンスとアートの融合を実現した科学系博物館展示の企画開催

 群馬県立自然史博物館は、1996 年10 月の開館以来、長谷川善和館長の陣頭指揮
の下、科学・自然史学をより深く理解するための拠点として教育、研究、普及活動
に力を入れてきました。特に2005 年に開催した「ニッポン・ヴンダーカマー展 荒
俣宏の驚異宝物館」(主催 群馬県立自然史博物館、日本大学芸術学部)は、従来
の企画展とは異なり、作家荒俣宏氏(当時日本大学教授)の創案を基に日本大学芸術
学部の木村政司教授が指導する大学院生・学部生60 人が制作にあたるという異色
の特別展として話題を集めました。本研究所調査資料No.141「科学館・博物館の特
色にある取り組みに関する調査」でも取り上げたように、特に評価すべき点として
は、
 ①自然史博物館と芸術系大学の多様な人材の融合
 ②手作りでありながら、クオリティの高い、展示開発コストを抑えた企画展の
  実現
 ③博物学という切り口でアートとサイエンスに対する興味を広い層に喚起する
  ことに成功したこと
以上の3点が挙げられます。
 同博物館はその後も質の高い企画点を実施しています。一方、博物学史に造詣の
深い荒俣宏氏は、長谷川館長と協力して上記の特別展を実現したほか、博物学書の
収集と紹介など、自然史学の普及に貢献してこられました。

そういえば,昨日のエントリーで紹介した『フタバスズキリュウ発掘物語』も長谷川氏の著書ですね。

9月19日追記

9月19日の読売新聞群馬版の記事から

昆虫の森、天文台県直営で存続へ−有識者会議が意見集約
巨額赤字が県財政を圧迫しているとして存続させるかどうかが問題になっている「ぐんま昆虫の森」(桐生市)と、「ぐんま天文台」(高山村)の2施設について、「県公共施設のあり方検討委員会」(茂木一之委員長・高崎経済大学教授)が、今後も県の直営施設として存続させる方向で中間答申をまとめる見通しとなった。19日の会議で事務局が存続を前提に赤字幅の圧縮を求める方向でたたき台を示し、最終的な意見集約に入る。中間答申は10月中にまとめられる予定。
 これまでの議論では、昆虫の森について、「子どもに必要な施設で存続した方が良い」「平日にいかに大人を呼び込むかが大切だ」「事業が縮小して魅力がなくなってしまわないように肯定的に考えるのが良い」といった意見が続いた。廃止や規模縮小を唱える意見は皆無で、集客力アップのため、レストランや休憩所の設置を求める意見まで出た。
 天文台についても、県外の子どもから入場料を取るべきだとの意見が出たが、廃止論は出なかった。また、両施設とも指定管理者制度の導入を求める明確な発言はなかった。
昆虫学者の矢島稔さんが園長を務める昆虫の森は、2005年8月に設置された。昨年度は約9万6000人が来場したが、中学生以下は無料のため、入園料収入はわずか1580万円。チョウが一年中見られるようにするための温室管理などに膨大な費用がかかり、4億4000万円の赤字が出ている。また、1999年に全面オープンした天文台の昨年度の赤字は3億5900万円だった。
 両施設を巡っては、大沢知事が昨年の知事選で名指しでその赤字体質を批判。特に昆虫の森については、チラシなどで「ツケを県民の税金でまかなうとは何ともムシのいい話!」「群馬の恥!」などとしていた。
 同委員会は、こうした赤字県営施設のあり方を見直す目的で設置され、今年4月には旧知事公舎の取り壊しを答申。それに沿って、同公舎は今夏、取り壊されている。

ぐんま昆虫の森」と「ぐんま天文台」について,直営として存続させる方向性が出るようで,歓迎いたします。
それにしても,「赤字」という表現は,有識者会議またはその事務局が使っているのかもしれませんが,ちょっとどうかなと思います。
 有識者会議の第2回委員会での「 赤字が問題かというと、そうではなく、費用がどれだけかかるかということだと思う。」「美術館などの教育機関では、どれだけ費用をかけられるのか、ほかの美術館に比べて、どれだけ費用対効果があるのか、あるいは、県民の評価があるのか、ということだと思う。」という委員の発言や,第5回委員会での「昆虫の森も天文台も同じだが、必ず費用がかかる。活動を活発にすればするほど、費用がかかる。県の財政状況から、どのレベルまで許されるのか、という考え方で、こういった施設は運営されていると思うが、収入と支出の差が赤字で、赤字は悪であると考えると、こういった施設は全然作れなくなってしまう。できた施設もどんどん廃止していかなければならなくなる。これは赤字ではない。施設にかかっている経費がこれだけあって、群馬県の実力としてこれを負担できるのか、ということだと思う。」という委員の発言にもあるように,費用と効果若しくは重要さの兼ね合いであり,県の県民に対するスタンスの問題しょう。
 もちろん,業務の効率化を図ることも大事ですし,効率性の悪さに対して「赤字体質」という表現での批判も許容範囲かとは思います。
 でも,昆虫の森の「赤字」が4億4000万円だの,天文台の「赤字」が3億9500万円だのという読売新聞の表現方法は異様です。「受益者」から授業料を徴収している公立高校についても,「赤字」額を表現するのであれば,首尾一貫していますけれども。


10月21日追記 ぐんま昆虫の森,ぐんま天文台,近代美術館,館林美術館存続

10月18日の上毛新聞ニュースから

県公共施設4つは「存続」諮問機関が中間報告案
大沢正明知事の諮問機関「県公共施設のあり方検討委員会」は十七日、県庁で会合を開き、財政支出が大きいことから優先審議した五施設のうち、ぐんま昆虫の森桐生市)など四施設を「存続」とし、高齢者介護総合センター(前橋市)を民営化するとした中間報告案を了承した。茂木一之委員長は近く、大沢知事に中間報告を答申する。
 存続としたのは昆虫の森のほか、ぐんま天文台(高山村)、近代美術館(高崎市)、館林美術館(館林市)。
 ただ、昆虫の森にある生態温室については「亜熱帯の環境やそこに住むチョウなどを展示する必要性は低い」として、温室の新たな活用法を検討するよう提言。また、昆虫だけでなく、里山の自然を活用し、施設の魅力を高める努力を求めた。
 高齢者介護総合センターは「施設運営にノウハウと実績を持つ団体に譲渡し、民営化することが適当」と提言。同センターが担ってきた高齢者介護の研修部門は「県が責任を持って、介護現場と一体化した形で実施していく必要がある」と存続を求めた。
 報告の総論には「既に投じた資源を無駄にすることは許されず、廃止や譲渡が困難な施設は当面存続させ、今後有効に活用することを考えざるを得ない」と判断の難しさをにじませた。その上で、管理運営を徹底的に見直し、利用者を増やす努力を施設側に強く求めた。
 委員会は来年二月に再開。次回からは歴史博物館(高崎市)、土屋文明記念文学館(同)、自然史博物館(富岡市)、精神障害者援護寮(伊勢崎市)、北毛青年の家(高山村)、妙義少年自然の家富岡市)、東毛少年自然の家太田市)、生涯学習センター(前橋市)の八施設を審議する。

正式な中間報告が,じきに,群馬県のwebサイトに掲載されるんだろうとは思います。
利用者数に対する過度の偏重はどうかとは思いますが,博物館や公開天文台は,やはりどれだけの人に,どれだけのサービスをできているかということが極めて重要ですので,原文は見ていませんが,概ね妥当な方向性が示されているのかと思います。
それにしても,昆虫の森についての地域の課題重視の方向性は妥当だと思いますし,美術館等においても,地域の文化の発見が重要な課題となるところです。そのため,学芸員の調査研究については,学芸員の自由な発想を生かしながらも,地域の課題に向かい合うという機関のミッションに沿った研究が求められていくこととなるでしょう。
ただ,天文台での調査研究に関する扱いは難しいところですね。天文教育に関する地域の課題に応えていくことは重要ですが,天文台の調査研究は,それだけに特化させるわけにはいきません。自然科学研究に対する地方公共団体の投資として,天文学の調査研究に人材と予算を投入し,自然科学発展に対する自治体の貢献とするとともに,そのことによって,天文教育の促進を図り,また施設の価値を高めるということになります。行政と住民の理解と支援,そのための機関評価が課題となってくることと思います。
来年は,歴史博物館,土屋文明記念文学館,自然史博物館を中心に,引き続き議論を見ていきたいと思います。