釜石市の鉄の歴史館

河北新報の5月21日の記事から

オンブズメンバーの館長就任認めず 釜石・鉄の歴史館
岩手県釜石市の観光施設「鉄の歴史館」の館長人事で、指定管理者が任命した人物について、市民オンブズマンの活動歴などを理由に、市が就任を承認していないことが20日、分かった。市民オンブズマンいわて(盛岡市井上博夫会長)は「オンブズマンに対する攻撃」と反発。市に質問書を出し、承認しない理由を明らかにするよう求めている。
 歴史館は指定管理者制度を導入した2007年度から市内の民間会社が運営する。会社は当初、岩手県内の学識経験者に館長就任を要請したが、了承を得られず、07年度は館長不在だった。
 会社は異例の事態を解消しようと今年4月、元教員で鉄の歴史に詳しい同市の中川淳さん(74)を館長に任命した。だが、市は認めず、別の人物に就任を要請しているという。
 中川さんは、旧釜石市民病院の東北大医学部への寄付金問題で04年、市を相手に行政訴訟を起こした市民オンブズマンいわてのメンバー
 館長人事について、野田武則市長は「規定で人事は市と指定管理者が協議の上で決めるとされている。市を訴えた人物が釜石の顔である歴史館の代表に就任するのは、市民の理解を得にくいとの意見もある」と説明する。
 中川さんは会社の要請を受けた4月から事実上、館長として働いている。中ぶらりんの状態について「指定管理者制度にしながら人事にあれこれ市が口を出すのはおかしい。観光客への対応など館長業務が停滞しては経営にも響く」と話している。
 オンブズマンいわては16日、人事を承認しない理由をただす質問書を市に送った。今月末を回答期限としている。

記事が「観光施設」となっているので,ちょっと調べてみましたら,確かに鉄の歴史館は教育委員会所管の施設ではないんですね。「釜石市立鉄の歴史館条例」によると,都市公園法に基づく公園施設として位置づけられているようです。
なお,指定管理者の募集要項を見ると鉄の歴史館の設置目的は「釜石市の鉄の歴史や、大島高任をはじめとする先達の業績などを永く伝え残し、広く市民や観光客に周知する。」となっています。
指定管理期間は2007年4月1日から2012年3月31日までの5年間。市としては,釜石物産センター(地方自治法第244条に基づく施設:住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設)と一体的に指定管理に出したいという希望を明言して,指定管理者の募集を行っています。そして,募集に対して2者から応募があり,有限会社 陸中海岸グランドホテルが指定管理者となって,施設の管理運営を行っているというわけです。
今回の騒動は,その背景がよくわかりませんが,市長によると,館長は市と指定管理者が協議の上決めるということになっているようです。指定管理者が協議の場に出した提案を市が拒否したわけですが,拒否の理由が「市を訴えた人物が就任するのは市民の理解を得にくいとの意見もある」では弱いのではないでしょうか。訴訟自体,東北大学に寄附金の返還請求を出すことを市長に求めるものだったわけですし。
まあ,続報を待ちましょう。

なお,鉄の博物館は博物館相当施設です。
同じく博物館相当施設に指定されている小倉城庭園(北九州市)の館長不置問題について,2007年5月9日のエントリーの追記(2008年5月21日)で触れています。館長を置くことが必要だと考えているだけ,博物館のガバナンスという点では,北九州市行政よりも釜石市行政の方がずっと ましです。

5月22日追記

河北新報の5月22日の記事から

釜石市と管理者館長人事で協議 鉄の歴史館問題
釜石市の観光施設「鉄の歴史館」の館長人事で、指定管理者が任命した館長を市が承認していない問題で、市は21日、指定管理者である市内の民間会社を訪ね、館長人事の決め方について話し合った。
 総務企画部長ら市幹部3人が会社に出向き、経過などを説明。人事規定を盛り込んだ協議書の内容を踏まえ、「今後、市と指定管理者の両者が協議し決める」と確認した。
 事実上、館長として今年4月から働く元教員で市民オンブズマンいわて(盛岡市)メンバーの中川淳さん(74)について、市総務企画部は「中川さんも含め、検討する」と話した。
 ・・・

続報第一弾です。
新聞報道もあり,市行政側の動きも速くなってきたようです。

6月20日追記

6月20日の毎日新聞岩手版の記事から

釜石市立鉄の歴史館:館長、1年以上不在 指定管理者人事に市が難色
釜石市立鉄の歴史館の館長が昨年4月から1年以上も不在になっていることが、19日開かれた定例議会一般質問で分かった。指定管理者が起用した元中学校教員に市側が難色を示しているためだが、公共施設責任者の人事を巡る対立は異例だ。
 菊池孝議員(共産)が「ゆゆしき問題だ。釜石のイメージを損なう」と市の見解を求めた。野田武則市長は「反省している。早急に選任したい」と後任を急ぐ考えを示した。
 館長不在は指定管理者が昨年4月、第三セクターから陸中海岸グランドホテルに代わったのに伴い前館長が退任したのがきっかけ。ホテル側は製鉄体験教室の指導など鉄に詳しい中川淳さん(75)を後任に挙げ、協定に従い市に協議を申し入れた。しかし、市は「人材を広く募るべきだ」として中川さんの就任を認めていない。
 今年4月には「オンブズマンいわて」(井上博夫代表)が「拒否の理由は何か」と市に質問書を送付。東北大医学部外郭団体に対する市からの寄付金を巡る中川さんの住民監査請求、訴訟との関係を暗にただした。
 中川さんは「住民に与えられた権利を行使しただけ」と当惑。ホテルの野村亨平社長も「市側からは特定の人物の名前を挙げて打診があったが、中川さん以外には考えられない」と主張。市観光交流課の金子健一課長は「拒否しているわけではない。訴訟なども関係ない」と強調する。【鬼山親芳】

協定書がどうなっているのかはわかりません。公開されている募集要項には「市は、必要に応じて報告を求め又は調査を行い、指示を行うことができます。指定管理者は、市から指示があった場合には、速やかに改善しなければなりません。」という事項も,一応ありますが,今回の事象とは関係のないことですね。
5月22日の報道では,館長人事について「市と指定管理者の両者が協議し決める」ということになっているとのことですが,「協議」と言っても,両者が完全にイーブンな立場ではないでしょう。


市の鉄の歴史館条例では

(指定管理者の業務)
第16条 指定管理者は、次に掲げる業務を行うものとする。
 (1) 鉄の歴史館の入館の許可に関する業務
 (2) 鉄の歴史館の施設及び設備の維持管理に関する業務
 (3) 前2号に掲げるもののほか、鉄の歴史館の運営に関する事務のうち、市長のみの権限に属する事務を除く業務

となっていますから,基本的に運営は指定管理者がほとんど全て責任を持つと考えられます。

もともとは鉄の歴史館条例には

(鉄の歴史館管理運営委員会)
第13条 鉄の歴史館の円滑な運営を図るため、市長の附属機関として釜石市立鉄の歴史館管理運営
 委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2 委員会は、委員12人以内をもって組織し、委員は、学識経験を有する者のうちから市長が委嘱する。
3 委員の任期は、2年とする。ただし、欠員が生じた場合における補欠委員の任期は、前任者の残任
 期間とする。

という項目もあったのですが,現条例では無くなっています。これは,鉄の歴史館の管理運営について,なるべく指定管理者に委ねるという釜石市の思想で削られたものと思われます。
実際,鉄の歴史館と実質一体的に指定管理者の募集が行われた釜石物産センターに関しては,18年度に開かれた市の釜石物産センター運営協議会会議録を見てみますと,事務局が次のような説明を行っています。

・・・運営協議会を削除することとしました。今まで、同協議会から意見を聞きながら運営をしてきたのですが、来年度以降は、指定管理者が利用者からダイレクトに意見を聞き、運営に役立てることとなります。
・・・現在の指定管理は、施設管理を指定管理者が行い、エレベーター等の設備の保守点検業務は市が契約しておりますが、来年度以降は、指定管理者に全て任せることとなります。
・・・運営協議会を廃止することについては、指定管理者に直接声が届き、運営に即結び付けることができると思います。協議会を廃止するといっても、消極的なものではありません。

また,同協議会での委員からの「今後は、運営その他を全て指定管理者に任せることになるのでしょうか。」という質問に対し,事務局は「そのとおりです。」とも回答しています。
鉄の歴史館の運営についてのやりとりではありませんが,市には同様の考えがあったということを推測することができます。


博物館相当施設である鉄の歴史館の運営をホテル会社が行うことについて,私自身は抵抗があります。現在の運営状況はわかりませんが,2008年3月の市議会では,海老原議員から「指定管理者制度が導入されるまでは(18年度)、「鉄の歴史館管理運営委員会」があり、運営のあり方について外部から見る制度があったわけであるが、現在はどのようになっているのか?」という質問があり,それに対しても,市は「指定管理者制度を導入する際に、業者へ第三者委員会の立ち上げを要請し、それなりの了解を得ていたが、残念ながら今までのところ開かれていない。何とか年度内の開催を要請している。」と回答しているような状況であり,もう少し開かれた運営を期待したいところです。
が,それでも,市の姿勢としては運営を仕様書の範囲で任せるということにしたわけです。だからこそ,市としては第三者委員会の立ち上げは「要請」ベースであるわけです。


今回の館長人事の協議については,館の運営を中心的に担う指定管理者が案を出して協議に臨んでいるわけです。現在は「合意」に達していないようですが,そもそも拒否の理由を示さない状態では,市は誠実に協議を行っているとは言えないのではないかと心配になります。
それでも,市が「館長は広く募るべきだ」という案を出して協議に臨もうとするのであれば,市はこれまでの「運営を指定管理者に委ねる」という方針を変更する必要があるのではないでしょうか。

2009年3月19日追記 市と指定管理者の連携は?

釜石市立鉄の歴史館のホームページですが,更新がとまっていますね。
フラッシュ後のトップページだけを見ますと,ファイルスタンプ上は2008年12月20日に更新されたことになっていますが,おそらくこれは一括でディレクトリ構成を変えたか何か。「what's new」では指定管理者制度への移行前の2007年1月16日が最後の更新で,実質それで更新がストップしています。
2008年12月議会で,議員から質問があったところによると,ホームページの担当は指定管理者ではなく,市が担当しているとのこと。 もちろん,指定管理者がコンテンツを作成して,市と協議の上で,市がアップするということもありえるんでしょうけれども,いずれにせよ連携がうまくいっていないのではないかと考えられます。
この施設は利用料金制を導入していますから,もちろん指定管理者としては,企画展その他の情報を積極的にwebサイトで発信することで,入館料収入の増加へと繋がる可能性もありますが,実質このような施設での入館料収入というのはたいした金額ではありませんから,それほどインセンティブとして働くとも思えない。 まあ,難しいところですね。

3月23日追記

3月23日の毎日新聞岩手版の記事から

釜石市立鉄の歴史館:中川館長退任へ 指定管理者側、後任の人選急ぐ
釜石市立「鉄の歴史館」の館長問題で、指定管理者側の要請で事実上の責任者を務める中川淳館長(75)が今月末で退任することが22日分かった。指定管理者側は新年度に間に合うよう、市側の承認も得られる後任の人選を急いでいる。
館長人事を巡っては07年4月、第三セクターから指定管理者を引き継いだ市内のホテルが元中学教師の中川さんに白羽の矢を立てた。市と指定管理者間に館長人事についての規定はないが市は難色を示し、中川さんは市の承諾がないまま館長に就任した。
 昨年4月には「オンブズマンいわて」が東北大医学部外郭団体への市からの寄付金を巡り、中川さんが起こした住民監査請求や訴訟との関係を暗にただす質問書を市に送付。これがきっかけで館長不在問題が表面化した。
 中川さんは「宙ぶらりんは嫌なので退任することにした」と説明。ホテルの野村亨平社長も「やむを得ない」と退任を認め、事態打開のため身を引く決意をしたのではとおもんぱかった。【鬼山親芳】

どうしても,市の不作為の罪のように思えてしょうがない。

3月29日追記

2009年3月29日のエントリー「鉄の歴史館の館長に行政側の推薦した人が就任予定」で,その後の経過を追記しました。