博物館の施設設備及びその運営に関する指針

11月14日のエントリーで書いたところだが,国立博物館・美術館にも施設の管理・運営に市場化テストが導入されるとのこと。
人類共有の財産が大切に保管されている施設。その環境の変動は文化財等に大きな影響を及ぼす。3年程度で管理主体が変わる制度では心許ないと思うのは私だけなのか。
もし,そのような業務を担うところが出た場合,次の法令,規程や指針など(これだけでは当然足りないのだが)を厳重に遵守するとともに,文化財の状態は一点一点異なるのであるから,その一点一点に責任を持つ学芸員の指示に十二分に従って欲しいと思う。当然,それなりの経費が必要になるが,それは当然必要な経費なのだから。


文化財保護法」(1950年)
公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」(2003年,文部科学省)
有形文化財(美術工芸品)の展示を主体とする美術品または美術工芸品を多く取扱う博物館等の施設配置に関する基準について」(1970,文化庁文化財保護部) ネットで見つからないので,下に揚げておきました。
文化財公開施設の計画に関する指針」(1995年,文化庁文化財保護部)
文化財(美術工芸品等)の防災に関する手引き」(1997年,文化庁文化財保護部)
重要文化財の所有者及び管理団体以外の者による公開に係る博物館その他の施設の承認に関する規程」(1996年,文化庁)
文化財の生物被害防止に関する日常管理の手引」(2002年,文化庁文化財部)
文化財保存施設(収蔵庫)の防犯対策の強化について」(2002年,文化庁文化財部)
埋蔵文化財の発掘調査に係る出土品・記録類の適切な保管・管理について」(2003年,文化庁文化財部)
重要有形民俗文化財の所有者及び管理団体以外の者による公開に係る博物館その他の施設の事前の届出の免除に関する規程」(1996年,文化庁)

この項は,まだ続く予定。

寺社等の文化財被害の現状 1月25日追記

2007年1月25日の読売新聞の記事に,寺社等で公開されている文化財等の被害の現状が一部紹介されていました。

文化財に落書き・破損被害、25都府県45件で確認

国や都道府県指定の文化財が落書きや破損などの被害を受けたケースは、最近5年間で少なくとも25都府県で計45件確認されていることが読売新聞の調査で分かった。
 大半が屋外にある建造物で、国宝へのいたずらもあった。自治体からは「手口が悪質化している」との指摘が出ているが、文化財は保護とともにできる限り公開することが求められており、管理の難しさも浮かび上がっている。
調査の対象は、全国47都道府県の教育委員会。2003〜07年に国指定の重要文化財登録文化財、史跡、都道府県指定の文化財が傷つけられた事例を尋ねた。被害があったと回答したのは東京、大阪、秋田、奈良、岡山など25都府県。03〜05年は年4〜8件だったが、06年は14件に増え、07年も9件だった。
 計45件の被害の主な内訳は、落書きが24件、破損が10件、放火が4件で、仏像の盗難や遺跡の盗掘もあった。8割が屋外にある建造物で、国宝も3件含まれている。摘発されるなど文化財を傷つけた人物が特定されたのは7件にとどまった。
 被害事例では、07年8月、香川県の「丸亀城天守」(国指定の重要文化財)で、窓の格子に古くぎが打ち込まれ、漆喰(しっくい)の一部がはがれ落ちた。新潟市の「萬代橋(ばんだいばし)」(同)では同月、カラースプレーによる落書きが6か所見つかった。萬代橋日本橋に次いで重要文化財に指定された国道橋梁(きょうりょう)として知られる。
 独特の二重らせん構造が有名な福島県会津若松市の「旧正宗寺三匝堂(しょうそうじさんそうどう)」(通称・会津さざえ堂、同)でも、出口部分の壁や戸に多数の落書きが確認された。
被害の傾向について、多数の文化財を抱える奈良県教委は「大胆かつ悪質化している」と分析する。法隆寺では06年2月、仏像が盗まれた際に鎌倉時代に建てられた国宝「西室(にしむろ)」の木製格子6本がのこぎりのようなもので切り取られた。名古屋城の「東南隅櫓(やぐら)」(国指定の重要文化財)が同4月に落書き被害にあった愛知県教委は、「愉快犯の割合が増えている」と言う。
 1950年施行の文化財保護法は、文化財の保存と活用を図ることを目的とし、文化財の所有者に、「可能な限り公開するなどの文化的活用に努めなければならない」と求めている。
 複数の教委は「文化財を非公開にすることはできず、防犯対策は限られている」と話しており、「巡回・点検の強化」や「注意看板の設置」などの対応を取っている所が多い。
 (2008年1月25日03時08分 読売新聞)

建造物等の大型の文化財の場合の問題もありますね。所有者の権利を一部制限せざるを得ないので,私立博物館に準じたように,固定資産税の免除等は行われているところですが。
「公開」については,何らかの補助が出ればよいと,ナイーブに思うところでもあります。
いずれにせよ,人類共有の財産である文化財等の所有者・管理者は,博物館も含め,人類共有の財産を守り,未来へ伝えていくという責務を負っているところですから。

2008年3月2日 追記 参考資料

1970年の文化庁の「有形文化財(美術工芸品)の展示を主体とする美術館または美術工芸品を多く取扱う博物館等の施設設置に関する基準について」が,ネットに転がっていないようなので,ここに掲出しておきます。

有形文化財(美術工芸品)の展示を主体とする美術館または美術工芸品を
多く取扱う博物館等の施設設置に関する基準について
                          昭和45年
                         文化庁文化財保護部

1 施設について
  施設は耐火構造で,建築基準法,消防法,同関係諸法令等に準拠し,各
 種防災施設を備え,展示室・収蔵庫などに温・湿度調整設備を完備したも
 のであること。

 (1)環境
   建物は周辺に十分な専用スペースのあることが望ましく,市街地に在
  る場合は,それに応じた防災施設等の諸設備が完備していること。

 (2)建物
   A 必要な施設
     展示室・収蔵庫・荷解き場(以上を「展示区画」と呼ぶ。)
     管理棟(事務室・管理人室)・研究室・図書室,サービスエリア
    を不可欠の施設とし,このほかに講堂・写真室・作業室(修理及び
    工作),殺虫室・食堂・厨房があることが望ましい。
   B 配置
     展示室・収蔵庫・荷解き場は有機的な連絡を保つことが必要で,
    前記各室は同一平面に配置さ れていることが望ましく各室間の運
    搬は,動線を短く,かつ,単純にし,垂直移動はできるだけ避けら
    れる配置であること。
   C 展示区画
    1) 展示品の搬出入に十分な広さの出入口,通路を有し,展示,収
     納などに対して十分な天井高があること。
    (注)展示室,荷解き場の一部は4メートル以上の天井高を有する
      ことが望ましい。
    2) 展示室・収蔵庫は地上に設けることが望ましいが,やむを得ず
     地下に設置する場合は,側壁・床下にドライエリアを設けること。
    3) 展示室の面積は延面積の30パーセントを超えず,最低1,000平
     方メートル以上あることが望ましい。           
    4) 美術工芸品収納のための収蔵庫の面積は,展示室の50パーセン
     ト以上であること。
    5) 展示室及び収蔵庫の床・壁・天井は二重構造とし,コンクリー
     ト壁・スラブには断熱材を打込み,内壁との間は,100〜150ミ
     リの空間を設け通気をはかること。また床は木材その他の軟質材
     でふいてあること。
    6) 無窓を原則とするが,展示区画に窓のある場合は,網入りガラ
     スを用い,甲種防災戸で閉鎖できること。
   D 展示区画以外の各室
    1) 展示区画の機能を損なわない配置であること。
    2) 食堂・厨房など火気を使用する室は,展示区画から独立してい
     ること。
   E 防災区画
    1) 展示区画内の各室間は,相互に防災区画として独立できること。
    2) 展示区画と他の区画との間は,甲種防火扉(断熱材充填・煙返
     し三段以上)により,完全に隔離できること。
 (3)防災設備
   A 警火・漏電警報等の防火設備,消火設備,避難設備及び避雷の諸
    設備を必要とするが,立地条件,面積に応じた十分な配慮が必要で
    ある。
    1) 諸設備は,建築基準法・消防法・同関係諸法令等の規定による
     ものを最低限とする。
   B 防犯設備は,防犯灯・防盗装置など十分な設備を必要とし,施錠
    には十分な配慮が払われていること。
    1) 展示区画から他区画または戸外へ通ずる扉は,本締め錠を用い
    ること。
    (注)蝶番は容易に破壊されない構造であること。
   C 消防署,警察署,館内での非常通報の方法が確立し,観客誘導等
    の放送設備があること。
 (4)空気調和設備その他
   A 温湿度調整
     展示区画のうち特に展示室及び収蔵庫は2系統以上の空調機によ
    り展示,収納物件の材質に応じた温湿度調整ができること。空調の
    風速は,秒速1メートル以下とし,恒常的に強い風が,収納物件に
    直接当たらないようにすること。機械は24時間運転を原則とする。
    1) 調整の標準値は摂氏20度,相対湿度60パーセントとする。但
     し,温度は,その土地の夏期における最高気温の平均値マイナス5
     度,冬期平均気温プラス5度程度保持でもよい。
    2) 立地条件,気象条件が良好な場合には,温湿度の振幅に充分留
     意して,空調機の運転,時間運転を行ってもよい。
    3) 空調機械には自動記録装置を併設すること。
   B 換気設備
    1) 機械による強制換気と機械によらない自然換気を必要とする。
    2) 都市,海岸,工場地帯等では必要に応じ,空気浄化のための濾
     過装置を使用すること。
 (5)設備・備品
   A 展示室用の常設の陳列ケース(壁付,のぞき,独立),台,保護棚
    1) 展示に必要十分な数量が各種常設されていること。
    2) 各ケース共開口部が広く,施錠完全なものであること。
    3) 壁面に固定したケースの後壁は,建物の壁体とは別個のもので,
     ケースの奥行は80センチ以上,腰高は60センチ以上あること。
    (注)ケースのガラスは厚さ8ミリ以上のフロートガラスを使用し,
      大型のガラス面は特に枠及びガラスの厚さに十分の強度をもた
      せること。またフレームレスのケースの場合は強化ガラスを用
      いること。
    4) ケースの枠はスチールを原則とするが,床,後壁等は虫の発生
     の恐れがない吸排湿性の材料で被うこと。
    5) ケース内は防塵を考慮しつつ,照明装置から発生する熱を排気
     できるようにすること。
   B 収蔵庫用,常設の収蔵品用棚,戸棚,箪笥
    1) 強度があり狂いが少なく,樹脂の浸出の少ない,吸湿性のある
     材質を使用してあること。
    (注)杉,シオジ,タモ,ツガ,モミ等が好適,桧は不適,ラワン
      などの虫の出るおそれがあるものは使用しないこと。表面仕上
      材としての金属はなるべくさけること。箪笥は桐材が望ましい。
    2) 棚板の形式はスノコ式が望ましい。
   C 展示区画用照明(自然光・人工照明)及び照度
    展示品の劣化・褪色を早めることのないよう十分配慮を払うこと。
    1) 自然光の場合に,天空光・直射光による紫外線の影響を受けな
     いよう,防禦手段が講じられていること。また,直射光は完全に
     遮断でき,かつ照度の調節が可能であること。
    2) 人工照明(白熱灯・蛍光灯)の場合,展示品が熱をおびないよ
     うに配慮されていること。
    3) 蛍光灯は必ず褪色防止処理の施されたものを使用していること。
    4) 展示品に対する照明は,自然光,人工光ともに展示品の表面照
     度が200ルックス以下に押さえられていること。
   D その他の設備・備品(エレベーター,展示品運搬車,加湿器,除
    湿器,温湿度計など)
    1) 展示区画内各室が同一階でないときは,展示品専用エレベータ
     ーを必要とする。
    2) 展示品運搬用台車を常備すること。
    3) 必要に応じて除湿器,防湿器が援用できる態勢にあること。

2 職員及び構成について
 美術工芸品の適正な保存管理および十分な警備を行うに必要な経験豊かな
学芸員と警備員,機械技師などが在籍すること。
 (1)学芸員(専任)
    1) 学芸員は,歴史,美術史関係の専門家で,美術工芸品の取扱い
     に精通し,経験年数3年以上で十分な実績をあげているものであ
     ること。
    2) 館の性格,規模に応じて各専門分野にそれぞれ必要な人数が配
     属されていること。
 (2)警備員(警備・看視)
   警備員は常勤職員で,有事の際の処理,連絡等について十分な教育が
  行われていること。その人数は展示室等の単位面積,部屋割りなどによ
  って適確に配置されていること。
    1) 看視は見透しのよい場所のとき,展示面積300平方メートルに
     つき1名を原則とし,複雑な部屋割りやケースなどの配置の実状
     に応じて増員してあること。
    2) 現場の配置人員に対して十分な交替要員を保持すること。交替
     要員は勤務人員の50パーセント以上を必要とする。
    3) 特別展などで観客動員数の増加が予想される場合は,警備もそ
     れに応じて増員できる態勢にあること。この場合は非常勤職員で
     よい。
    4) 休館日,夜間には日直および宿直を置くことを原則とし,それ
     には常勤の館員が当たること。日直および宿直を警備会社等に委
     託する場合は,内容を熟知させ,館員との緊急連絡方法を確立し
     ておくこと。
    5) 各室及びケースの錠の貸借は,受渡し簿に必ず記載し,完全な
     錠の管理を行うこと。
 (3)機械技師
   電気,空調機器保守のため,専門技師の常勤者(交替要員を含む)を
  必要とする。但し,確実な契約により外部に委託してもよい。

3 展示品
 展示面積に対応し,年間計画に基づき陳列替えを行うに十分な展示品(寄
託品を含む)を収蔵保管すること。
 (1)展示品
   展示面積10平方メートルあたり平均1点を展示することを標準とし,
  収蔵品の数は館蔵品,長期寄託品を含んで,標準展示数の6倍以上を保
  有すること。
 (2)展示品の管理
   A 展観中のもの,収蔵中のものを通じ,日常の点検,現状確認が適
    確に行われ,万一異常の発見された場合,直ちに適切な処理を講じ
    うる態勢にあること。
   B 展示品の受入れ,貸出し,返却,購入等にかかる管理簿を完備し
    ていること。
   C 館蔵品を含む展示品の調書,写真等の資料が整備されていること。

4 運 営
 平常陳列を中心に組織的,計画的な公開展示を行っていること。社会教育
施設として,それにふさわしい普及,教育,研究活動を行っていること。施
設(建物及び防災施設等諸設備)に対する警備,管理,保守のための十分な
体制がとられていること。
 (1)公開
   A 公開は平常陳列を原則とし,標準年間公開日数は250日以上であ
    ること。
   B 陳列替えは年間最低6回以上行い,展示品の種別,材質強度に応
    じて陳列日数の制限が考慮されていること。
   (注)指定文化財の公開については,別に設けられている「国宝,重
     要文化財公開取扱注意事項」の規定に準じた厳密な日数制限が望
     まれる。
 (2)普及調査活動
   A 陳列解説,講演,講習会等が年間計画に基づいて実行されている
    こと。
   B 刊行物として所蔵品目録,特別展目録,年報,紀要などが刊行さ
    れていることが望ましい。
 (3)施設の管理など
   美術工芸品を取扱うにふさわしい適切な施設の警備,管理,保守が,
  日常計画的に実施されていること。


※丸数字は機種依存のため変更しています。例えば1の丸数字は「1)」と直しま
した。
2008年8月29日追記

有形文化財(美術工芸品)の展示を主体とする美術館または美術工芸品を多く取扱う博物館等の施設設置に関する基準について」の文書を見つけましたのでリンクを置いておきます。→http://www.nier.go.jp/jissen/book/19_27/19_27_03.pdf#page=93