琵琶湖文化館&しが県民芸術創造館

9月15日の毎日新聞滋賀版の記事から

県:4団体7施設、廃止を 県行革委提言、見直し計画策定へ
深刻な財政難に直面している県は外郭団体や施設の廃止・統合を検討している。嘉田由紀子知事が設置した「県行政経営改革委員会」(委員長、大道良夫・滋賀銀行頭取)が8月に外郭4団体と7施設の廃止を提言。これを受けて年内には見直し計画を策定し、今後5年間の実施計画の策定に入る。
 廃止を提言した4団体は、びわこ空港周辺整備基金▽県下水道公社▽糸賀一雄記念財団▽県住宅供給公社。「民間でも目的が果たせる」ことを理由に挙げる。同じく7施設は、滋賀会館▽しが県民芸術創造館▽県民交流センター▽水環境科学館▽虎御前山教育キャンプ場▽アーチェリー場▽琵琶湖文化館−−で、利用率の低さや老朽化などを指摘している。
 法人税収への依存度が全国的にも高い滋賀県は今回の経済不況で大打撃を受け、来年度予算が230億円足りない状況に陥っている。8月21日に大道委員長から提言書を受け取った嘉田知事は「県は財政破綻(はたん)のがけっぷち。重く受け止め、なぜ行政改革が必要か、財政事情を県民に説明しながら計画をまとめたい」と述べた。【後藤由耶】
◇「地域の文化、守って」 対象の団体、存続へ嘆願署名
 見直しの対象となっている団体や文化施設の利用者らからは存続を求める声が上がっている。吹奏楽や合唱などの音楽団体や美術団体は1日から、しが県民芸術創造館の存続を求める署名運動を展開。既に1700人分を集めたという。同館を含む3施設と1公園の指定管理者として管理・運営している財団法人滋賀県文化振興事業団は14日、嘉田由紀子知事に再考を求める意見書を提出。岸野洋理事長は「地域に根ざした文化を守ってほしい」と訴えた。
 08年から休館中の琵琶湖文化館大津市)は国宝と重要文化財を213点収蔵、その量は全国の博物館で6番目に多い。水族館、プール、レストランもある「総合レジャー施設」だった開館当初は年間来場者数は10万人を超えていたが、水族館が琵琶湖博物館に移った96年以降は2万人前後に低迷。同館長の山田栄蔵・県文化財保護課長は廃止提言に「くやしい」と漏らした。
 提言で、「可能な限り早期に廃止」と位置付けられた「しが県民芸術創造館」(草津市)の端洋一・事業課長は「利用が増えている矢先になぜ廃止に」と戸惑う。ホールの利用率は開館以来70%台を維持し、08年度は約72%。利用者らでつくる同館の存続を願う会は「私たちの創造活動の足場。財政が厳しいとはいえ、納得しがたい」と、1万人を目標に署名を集める構えだ。【後藤由耶、安部拓輝】
==============
 ◆外郭団体の見直し◆
 【廃止(4)】びわこ空港周辺整備基金、県下水道公社、糸賀一雄記念財団、県住宅供給公社
 【統合(2)】県文化振興事業団、県障害者雇用支援センター
 ◆施設の見直し◆
 【廃止(7)】滋賀会館、しが県民芸術創造館、県民交流センター、水環境科学館、虎御前山教育キャンプ場、アーチェリー場、琵琶湖文化館
 【移管・売却(17)】きゃんせの森、朽木いきものふれあいの里センター、三島池ビジターセンター、日野渓園、安土荘、長浜荘、さつき荘、きぬがさ荘、福良荘、醒ケ井養鱒場、奥びわスポーツの森、荒神山少年自然の家栗東体育館、柳が崎ヨットハーバー、伊吹運動場、比良山岳センター、ライフル射撃

琵琶湖文化館については2008年4月25日のエントリー『上総博物館,琵琶湖文化館など』でも触れたことがありましたが,2008年4月から公開を取り止めていました。国宝や重要文化財をはじめ,貴重な資料を保存・管理しておりましたし,文化財保存機関としてのスタンダードを達成していたことから,資料の寄託も多数受けていたところです。
滋賀県政経営改革委員会は8月21日に「外郭団体および公の施設の見直しに関する提言」を嘉田知事に提出していましたが,毎日新聞の記事で初めて知ったところです。琵琶湖文化館については次のように書かれています。

老朽化により博物館機能を維持できないことから、廃止が適当である。ただし、3,600 点を超える寄託品を含め5,000 点以上の文化財を収蔵しており、別の展示保存施設が確保されるまでの間は、必要な管理を行うこと。

既存の施設の老朽化は否定できませんね。ただ,別の展示保存施設が確保されるのがいつの日なのか,それまでの間行われるべきとされている「必要な」管理がスタンダードに沿って行えるだけの体制を取ることができるのか,など不明な点も多く,寄託資料の行く末が心配されるところです。


しが県民芸術創造館(1988年に県立草津文化芸術会館としてオープン。2006年に現名称に改称)については,私はむしろ,現名称になってからの初代館長である北村想氏に対してのトラブルしか,寡聞にして知りません。

県内の各市町に文化ホールが整備され、市町ホールにおける芸術創造活動が進展するなど、同館を現在の役割に位置づけた時点に比べ、ホールを取り巻く状況が変わってきていることから、可能な限り早期に廃止するべきである。なお、移管や売却が可能な団体等がある場合は、その検討を行うこと。

これについては,何とも。


琵琶湖文化館ホームページ
琵琶湖文化館ブログ
琵琶湖文化館の存続,充実強化を!

9月27日追記

9月27日の毎日新聞滋賀版の記事から

博物館存廃問題:識者や市民「考える会」 来月発足へ草津で会合−今後のあり方探る
財政難を背景に県内の博物館で休館や開館日の縮小が相次いでいることから、「これからの博物館のあり方を考えよう」と、研究者や博物館関係者、市民らによる「滋賀県の博物館の将来を考える会」が10月1日に発足する。26日には草津市内で設立準備集会が開かれ、研究者らが博物館の役割や重要性について語った。
 県内では琵琶湖文化館大津市)が08年4月から休館しており、さらに県行政経営改革委員会は今年8月、同館の廃止を知事に提言。また、栗東歴史民俗博物館栗東市)は開館日を縮小、野洲市歴史民俗博物館(野洲市)でも、開館日の縮小が検討されている。
 この日の集会には約50人が参加。講演でNPO法人「城郭遺産による街づくり協議会」の中井均理事長は「近江は城館跡が約1300カ所もある『城の国』だった」と紹介し、山城跡に実際に立つ意義とともに、博物館で資料を目の当たりにすることの重要性を強調。また県立大の京楽真帆子教授は、「採算を考えなくてもいいのが公共施設だ、と開き直ってもいい。博物館がなくなれば、資料が流出し、県民の歴史が消えてしまう」などと述べた。
 パネルディスカッションでは、会場も交えて意見交換が行われ、小笠原好彦・滋賀大名誉教授が「(現在ある)博物館をいかに守るか、ということとともに、21世紀の視点から県立の歴史博物館を作り、打って出ることも重要。構想を打ち出すよう県に要求していくべきだ」と総括した。
 次回例会は11月7日午後1時半から、JR大津駅前の平和堂アル・プラザ滋賀大大津サテライトプラザで。問い合わせは事務局(県立大市川研究室0749・28・8415)。【中本泰代】

2010年1月23日追記

1月22日の京都新聞の記事から

休館でも収蔵品数が1・5倍に−琵琶湖文化館
琵琶湖文化館大津市)への寄託品が増えている。2008年4月に県の財政難で休館になったにも関わらず、昨年12月に国宝、重要文化財(重文)が1点ずつ寄託されるなど2千数百点が増加し、収蔵品数は休館前の1・5倍に達している。文化館は「休館中でも活動が評価されているようだ」としている。
 寄託された国宝は淳祐内供筆聖教(平安時代)。菅原道真の孫で石山寺三代座主淳祐が書写し、寺では座主以外は開くことが許されていない聖教。重文は絹本著色仏涅槃図(鎌倉時代)でいずれも石山寺大津市)所有。
 文化館の所蔵品は国宝3件18点、重文64件197点となった。
 滋賀県教委が調査を終えた金剛輪寺所蔵の古経典など2000点なども寄託され、所蔵する文化財は休館前の5000点から7700点になった。
 文化館によると、本堂建て替えや住職の不在などでの管理上の問題から短期の預かりの問い合わせもある、という。
 県教委によると、東京国立博物館の要請を受け、今年末に米・メトロポリタン美術館で一部寄託品が公開される。県外でも出品される予定がある。
 文化館は「調査研究を進め、多くの人に湖国文化財を紹介する機会を作りたい」としている。

琵琶湖文化館が,博物館の主要業務である調査及び資料の取扱いを堅実に行ってきたは,勧告・承認出品施設として認められていることなどからも明らかだったところで,文化財所有者,国立博物館等の文化財関係者の理解と支援も得てきていたということですね。
休館中のため,県行政からは,コレクション等に係る本体業務への支援も低下してしまい,公開できないことと相まって,寄託資料の引き上げが増えるのではないかと心配してきたところですが,何よりです。
しかし,今回は京都新聞が一定の記事にしていますが,やはり展示公開をし,文化財保存の重要性とともに,文化財をはぐくんできた地域の歴史と文化を伝え,また市民とともに地域価値を創造していく方向に動かなければ,琵琶湖文化館そして学芸員がこれまで築き上げた信頼と理解,支援もじり貧になってしまうのではないか,という危惧は引き続き抱えているところです。

2011年2月3日追記

2月3日の毎日新聞滋賀版の記事から

県立琵琶湖文化館:収蔵品移転を協議 県が来年度、有識者で検討会
県の財政難を理由に08年度から休館中の県立琵琶湖文化館大津市打出浜)について、県は来年度に有識者による検討会を立ち上げ、収蔵品の移転に向け協議を始める。候補地は県立安土城考古博物館(近江八幡市安土町下豊浦)と県立近代美術館(大津市瀬田南大萱町)が有力で、来年度中に提言をまとめる。【安部拓輝】
築50年の琵琶湖文化館は、展示室が手狭となり、収蔵庫へのエレベーターがないなど文化財の保管にも難点を抱える。県は施設の老朽化などを理由に08年4月から休館し、09年12月には廃止を決めた。
そのうえで県は昨春、収蔵品の活用に向けたプロジェクトチームを設置し、協議を本格化。文化館OBや学芸員を交えて、移転の課題や候補地の洗い出しを進めてきた。
移転先は現在のところ、安土城考古博物館と近代美術館が有力。ただ、安土城考古博物館は大津、草津など都市圏からのアクセスが悪く、一方の近代美術館も既に収蔵庫が満杯の状態だ。
新たに設置する検討会は、文化財や美術の専門家ら約10人で構成し、収蔵庫の増・新築の可能性を協議するほか、展示に必要な設備についても提言をまとめる。文化財を寄託している寺社などにも活用方法の希望を聞く方針だ。
県教委の担当者は「施設の新設は財政的に厳しいが、近江の宝を再び鑑賞できる環境を取り戻したい」と話している。

収蔵資料の保管・活用に,どれぐらいの資源をかけるかは不明ですが,提言を期待したいと思います。
博物館のコレクションていうのは,完成ということは,本来−または普通は−ないはずで,新たな資料が追加され,成長する余地があってこそのコレクションだと思っています。スペース的にも,人的にも,そして将来の見通し的にも,琵琶湖文化館のコレクションは,やはり厳しい状態。確実に,でも,速やかに良い方向に向かってほしいのですが。