市民とともにミュージアムIPM@九州国立博物館
市民の目で害虫チェック 薬品に頼らず 九博の文化財守る NPO法人 28、29日シンポで報告
太宰府市の九州国立博物館(九博)に眠る文化財を害虫から守るため、市民の目と手が活躍している。化学薬品に頼らない「総合的有害生物管理(IPM)」という先進的な活動で、地元の二つの特定非営利活動法人(NPO法人)が支えている。この市民参加の文化財保護を報告するシンポジウムが28、29日、九博で開かれる。
休館日の16日。九博ロビーに展示されている「大宰府政庁南門」模型を、三角巾(さんかくきん)にマスク姿の女性たちが掃除していた。発光ダイオード(LED)ライトで照らして害虫や害虫の卵がないかを慎重にチェックし、模型に直接触れないよう、はたきを空中で踊らせてほこりを払う。
女性たちは太宰府市のNPO「文化財保存活用支援センター」(2005年設立)のメンバー。大半が学芸員の資格を持つ。九博に業務委託され、ほぼ毎日、閉館後や休館日に展示物清掃や収蔵品管理を担う。もし害虫などを見つけたら、自分たちで直接処理せず九博の職員に報告して処理してもらうのがルールだ。森田レイ子代表(62)は「入館者が多い九博は人と一緒に害虫侵入の恐れも高く緊張感がある」と話す。
博物館では、紙や絹、木を食べるシバムシなどの害虫やカビが収蔵品の大敵だ。従来は定期的に薬剤散布していたが、04年末に殺虫剤として使われていた臭化メチルが使用禁止となり、IPM導入が課題となった。IPMは「薬だけに頼らず、害虫を避ける方法を確立する」という農業分野から生まれた発想で、九博は05年10月の開館当初から導入してきた。
ただ、IPMには多くの手間が必要なため、九博はボランティア養成にも力を入れた。ボランティアから誕生したのが筑紫野市のNPO「ミュージアムIPMサポートセンター」。定年退職後の男性を中心に12人で07年9月に設立。現在はボランティアとしてではなく、九博の業務委託で月8回は収蔵庫や文化財搬入通路などを清掃している。出たごみはルーペで害虫の死骸(しがい)や卵などを点検する徹底ぶりだ。
こうしたNPOの活躍で、九博では害虫被害はほとんどないという。サポートセンターの新原茂春さん(61)は「文化財の保護に役立っている実感がある」。本田光子・九博博物館科学課長(57)は「これほど市民の力を生かしてIPMを進めている博物館は他に例がない」と胸を張る。
28日からのシンポジウムのテーマは「市民とともにミュージアムIPM」。両NPOのメンバー3人とボランティア2人が活動を紹介するほか、専門家の講演もある。九博内にある文化財保存修復施設などを特別公開するバックヤードツアーも開催。いずれも参加無料。九博博物館科学課=092(918)2838。
IPMの考え自体は,実際の取組に繋がっているかどうかは別として,博物館の世界では普及しているところかと思います。特に,生物系標本については,形態学的分析のみでなく,分子生物学的分析にも用いられる可能性が高くなってきていることから,臭化メチルやヨウ化メチルが標本DNAに与える影響も考慮しなければならず,IPMへの取組が強く求められています。
今回の西日本新聞の記事は,さらに,業務委託としてのNPO法人の取組とのタッグマッチという要素も加わる先進的な例ですね。
九州国立博物館が属する独立行政法人国立文化財機構のページを見てみると,「露出展示品IPMメンテナンス」という件名で,一般競争入札が行われ,NPO法人文化財保存活用支援センターが落札したと出ています。
感情的には,施設ボランティアと,一般競争入札による業務委託の他に,何か第三の道があっても良いのではないかとも思いますが,あればあったで,NPOへの過度な依存が生じ,結局は継続性が失われる恐れも出てくる。
長期的に見守りたい,先導的な事例です。