博物館制度,学芸員制度もろもろ

博物館法の見直し作業が,文部科学省で行われている。
 昨年10月から博物館関係者数人による「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」が開催され,博物館法の改定の方向性について検討が行われてきたのだが,その新しい時代の博物館制度の在り方について(中間まとめ)が3月に発表された。
 また,その中間まとめに対する意見の募集が4月23日まで行われた。
 中間まとめでは,博物館の教育機能に大きな比重を置いていた。これは,米国のAAMによる「Excellence and Equity(卓越と公平)」,英国のDavid Andersonによる「A Common Wealth: Museums and Learning in the United Kingdom((Department of National Heritage, 1997) republished by DCMS in a second edition as A Common Wealth: Museums in the Learning Age (The Stationery Office, London, 1999)(共通の富)」の衝撃に影響を受けたものである。
 しかしそのため,資料の保管・活用と未来への継承という,博物館固有の役割に対する視座が薄れてしまっているように思った。博物館本来の役割が社会に認知され,また博物館自身がコアのミッションとしてすでに取り組んでいる状況で,教育機能の充実を訴えるのは当然であるが,そもそも博物館本来の機能が十分に社会,行政で認知されていない状況で教育機能のみ取り上げるのは,博物館の衰退に繋がってしまうという危惧は杞憂だろうか。
 (1)博物館の登録制度が「登録制度」なのか「認証制度」なのか,(2)そもそも博物館の定義とはと書かれながらその項で「非営利で継続的な機関」であることが一切触れられていない,(3)自らの収蔵品を持たない館についても博物館の範囲に含めてもよいのではという博物館機能の軽視,(4)博物館の専門職員である学芸員が何を担うのかという哲学の不在,など,課題は多い。
 学芸員については,まず,研究(「価値の発見」と言い換えても良いか),資料の収集,保管,継承を中心業務として規定すべきであろう。もちろん学芸員が教育的機能を担うことも触れるべきであろう。そして,研究や資料の管理を行わず,教育活動を担当している専門職員を学芸員に含めることの功罪を検討すべきであった。中間まとめでは,学芸員の範囲を広く取りすぎてしまっており,このままでは,今後,資料の収集・管理・継承機能を行政がさらに軽視してしまう可能性がある(資料のことを扱わなくっても学芸員と言っていいと捉えられかねない可能性がある)。

学芸員の軽視の一例

4月4日の琉球新報の記事から

学芸員配転、権利の乱用 退職の財団女性職員勝訴

 首里城公園(那覇市)に勤務していた博物館学芸員資格を持つ女性が、海洋博公園(本部町)への配転を命じられ、病気休職後に退職させられたのは不当だとして、海洋博覧会記念公園管理財団に配転と退職の無効を求めた訴訟で、那覇地裁田中健治裁判長)は3日までに、女性の主張を認める判決を言い渡した。
 田中裁判長は「海洋博公園での物品や飲食物の販売などが学芸員としての専門的業務とは全く無関係であることは明らか」として配転命令を権利の乱用と判断。
 女性が休職期間満了後の辞令交付式に出席しなかったために、退職とされたことについても、「(財団側は女性が辞令交付式に出席しなければ退職とする意向を)当日になって女性の携帯電話の留守番電話にメッセージを残したにすぎず、著しく信義に反する」と認定した。
 判決によると、女性は首里城公園で主に企画展などを担当していたが、海洋博公園に配転後は予算執行状況表の作成や売上金の集計、繁忙期には売店での弁当販売などの業務を行っていた。

まあ,海洋博公園管理財団は,首里城公園内の植物、動物、施設(建物、工作物),清掃等の日常の維持管理並びに利用者案内,催物,広報などの運営管理を担当しているということですので,調査研究とか資料の保管・継承という役割は担っていないようにも感じます。首里城の価値,沖縄(琉球)の歴史の価値の創造を首里城公園は担っていないということです。
博物館の本来機能の軽視と,学芸員の本来業務の軽視は,お互いに負の相乗効果となって,地域の力の衰退に繋がってしまいます。

追記 海洋博覧会記念公園管理財団の恥知らずな控訴と高裁の判決

海洋博公園管理財団は学芸員の配転と詐欺的解雇が那覇地裁判決で認められなかったことを不服として控訴していましたが,判決が出ていました。
8月30日の沖縄タイムスの記事から

2007年8月30日(木) 夕刊 5面
 配転無効 二審も認定/海洋博財団の控訴棄却

 首里城公園管理センターの調査展示係主事として、特別展などの企画・展示を担当していた博物館学芸員資格を持つ女性が、雇用元の海洋博覧会記念公園管理財団に、海洋博公園への配転とその後の退職の無効を訴えていた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は三十日、女性の訴えを認めた一審・那覇地裁判決を全面的に支持し、財団側の控訴を棄却した。
 財団による女性の退職措置に効力はなく、配転命令権の濫用をあらためて認めた。
 判決によると財団側は、女性の休職期間満了直前の一審の和解協議で、復職を認めながら方針を変更。控訴審判決は「女性側に不意打ちを与えるもので、誠意に欠け、著しく信義に反する」と指摘。「方針を変更するなら、理由を説明し、辞令交付式に出席できるよう時間的余裕に配慮する必要があった」と述べた。
 女性の業務は配転後、物品や飲食物の販売などになっており、今年三月の一審・那覇地裁判決は「学芸員としての専門的業務とはまったく無関係」と配転命令権の濫用と認定。病休後に退職扱いになったことについても、連絡の方法などが信義に反すると認めていた。

学芸員云々ということもありますが,そもそもひじょうに不実な行いが行われていたのではないでしょうか。判決では,海洋博覧会記念公園管理財団(冨田祐次理事長。役員構成はこちら:pdfファイル)の行為は「誠意に欠け,著しく信義に反する」ものと,明確に指摘されています。
ryuubufanさんのジオログの8月30日8月31日あたり(9月にも)のエントリーでも取り上げられています。

追記

2007年5月24日に,日本学術会議から「博物館の危機をのりこえるために」という声明が出されました。
 今日の行政改革の流れの中で,国公立博物館に指定管理者制度市場化テストの導入が実施,または検討されていますが,このように管理運営者が短期間に変わる制度が,単に短期的な効率性という関連から導入されることを博物館の危機として表明したものです。詳しくは,5月28日のエントリーで触れています。