広島市現代美術館で副館長が今年度限りで辞任−指定管理者制度とのからみ?

中国新聞ニュースから
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200612230142.html

人員削減に失望?副館長辞職 '06/12/23

 本年度から指定管理者制度を導入した広島市現代美術館が、学芸員の人材難に揺れている。制度導入の際にベテラン3人を放出したのに加え、学芸トップの副館長(53)が本年度限りでの辞職を表明。後任探しなど体制の立て直しを迫られている。副館長は辞職の理由に「新制度で人件費が削られ、必要な人材を確保してもらえない不信感」を挙げる。同館の指定管理者は、人件費など大幅なコストダウンを迫られていた。

広島市現代美術館は昨年指定管理者を公募。指定管理者の業務の範囲は「美術品及び美術に関する資料の収集、保管、展示及び供用に関すること」「美術品等の観覧及び利用に関する必要な説明、指導及び助言に関すること」「美術に関する調査研究に関すること」「美術に関する講演会、講習会等の開催に関すること」「現代美術館の建物及び設備の維持管理に関すること」などとなっており,ミュージアムの活動の全体にわたるものである。
 公募には,吉本興業,インターグループ(通訳,翻訳,国際会議,人材派遣等),財団法人広島市文化財団の三者が応募した。
 審査の結果,財団法人広島市文化財団が今年4月から4年の期間で指定管理者となったものである。
公募の際に市が提示した管理費上限は12億9,470万6千円。それに対して,財団の提案は11億5,683万円。もし,管理費上限が,従来の美術館運営費用の実態に即したものだったとすると,年間約3,500万円の支出削減を行わなければならないこととなる。そして,おそらく比較的高給であったベテラン学芸員を市美術館からはずした。。。

ミュージアムは,簡単に言えば,コレクションとコミュニケーションにより今の人々,将来の人々にサービスする機関である。学芸員は,コレクションの収集・保存・活用を担うと共に,展示やワークショップのコーディネイトなど人々のコミュニケーションの核となる存在である。学芸員の質・量の低下は,よほどの工夫がない限り,ミュージアム活動の沈滞を意味する。それが断行されてしまったのだから大変なことである。
記事で述べられている副館長の「不信感」は,直接的には,財団に対する不信感であろう。また,副館長が博物館の具体的業務のまとめ役,実質のトップ(おそらく,館長は財団法人広島市文化財団の理事長で,非常勤的)であろうから,その異常さを裏付けるものである。

12月9日の日経新聞に,学芸員が3人異動したことなどについて,もう少し詳しく載っていたようです。
paco_qさんの12月11日のエントリーに紹介されています。
http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20061211/1165782794

「これでは優秀な人材を確保できない。美術館の担い手がいなくなる」と語るのは,広島市現代美術館の小松崎拓男副館長。同館は今年度から指定管理者制度の適用を受け,従来の財団が4年間の期限で指名された。同時に市から出向していたベテラン学芸員3人が一度に異動になった。
空席を埋めるのは,新規採用された1年契約の嘱託職員と臨時職員1人ずつ。2人とも美術館勤務は初めてだ。月給は15万円程度で昇給もない。「この処遇では家庭のある人は定着しづらい。人がいなければ,建物があっても美術館は内側から崩壊していく」と小松崎氏は嘆く。4年間しか運営期間が保証されない中では,じっくり人を育てることもままならない。

おそらく協定書には,次のような文言が盛り込まれているはず。ベテラン学芸員3人がいなくなって,業務要求水準を満たしているのか。

2 業務不履行時の処理
(1)管理運営業務が業務要求水準を満たしていない場合又は使用者が施設を使用する上で明らかに利便性を欠く場合、広島市は指定管理者に対して改善の指示を行うことができる。
(2)広島市等は、指定管理者が広島市の指示に従わないときはその指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の停止を命ずることができる。

たとえ業務要求水準を満たしていたとしても,美術館の持っていた公共サービスの質はすでに確実に悪化していると言えるだろうし,さらに,学芸系の機能の低下は長期間にわたる公共サービスの継続的な悪化を導くものとなっている。
13億円を11億円に削り,サービスの質が半分となったとしたら,明らかにコストパフォーマンスが悪くなったものと言える。それだったら,いっそのこと美術館をつぶすという選択肢もあるかもしれない(その際は,標本資料は他の美術館に無償移管すべし)。
美術館があることで,市民に文化的その他の効果があると判断するならば,さらに2億円を支出し,コストパフォーマンスを高めるべきであろう。
まずは財団の,そして市行政の対応を注視したい。

2007年10月31日追記

広島市現代美術館の副館長が決まったとのことです。
 中国新聞の10月31日の記事から。

現代美術館の学芸課長決まる '07/10/31

 広島市現代美術館(南区)の学芸課長に、フリーキュレーターの神谷幸江氏が11月1日付で就任する。同館は今年4月から指定管理者制を採用し、市文化財団が管理者となったが、前任の副館長兼学芸課長が3月末で退職。企画部門の要のポストが不在だった。神谷氏は神奈川県出身。オランダのデ・アペル現代美術センターの専門プログラムを修了。昨年まで米ニューヨークにある現代アートの美術館に勤務していた。

ニューヨークのNew Museum of Contemporary Art(組織としては活動中。展示は2007年12月にグランドオープン)にいらっしゃった方です。2006年10月に受けたインタビューの様子がここへ出ています。

2008年10月27日追記

シカッさんからコメントをいただいた件を中心に,2008年10月27日のエントリー広島市現代美術館のことについて触れました。

2009年2月23日追記

2月23日の中国新聞の社説から

広島市現代美術館 指定管理もっと議論を
広島市現代美術館の「指定管理者制度」による運営が、一部見直されることになった。
 その柱は、四年に一度募ることになっていた指定管理者を「非公募」に切り替えることだ。それに伴って、入場料をそのまま美術館の収入にし、経営努力を促す「利用料金制」を二〇一〇年度から採用する。
 民間のノウハウを生かし、運営を活性化しようと導入されて三年。どうして今見直しを迫られたのだろうか。
公募で選ばれ、これまで管理、運営に当たってきたのは市文化財団である。魅力ある展覧会などの企画、運営をするには専門的な知識や経験のある職員がいて、サービスを継続的に提供する必要がある。それが、非公募に転換し、今後も財団に託すことになった主な理由のようだ。
 「官から民へ」という小泉改革の一環として始まった指定管理者制度。これまで自治体が導入する際には、どちらかといえば経費削減ばかりに目が向きがちだった。
 だが、美術館や演劇ホールなどの文化施設には、本来の目的や市民に提供すべきサービスの内容がそれぞれにある。そうした面を含めて、どうやって中身を向上させていくのかが、十分議論されないまま制度が導入されたのが実情ではなかったか。
 現代美術館の場合も例外ではないだろう。見直しは当然だ。これを機に根本から考え、市民の合意を形成すべきではないだろうか。
 指定管理者制度の導入で、美術館の運営管理費は四年間で計十一億六千万円と、〇四年度基準では二割減った。人件費を削るため、市から出向していたベテランの学芸員三人を引き揚げさせ、嘱託で埋めた。
 一方で、例年、十万人前後の入館者数を十五万人以上に増やす目標もある。予算の縮小で、派手な特別展をしにくくなっている中、手持ちの収蔵作品を紹介するコレクション展で切り口などを工夫しているが、目標には遠い。
ヒロシマに刺激を受けて、作品を制作する現代アーティストは多い。二十年前、広島市が全国に先駆け、比治山に現代美術館を建てたのは、アートによるヒロシマ発信が目的の一つだった。
 このため展示や運営のレベルにこだわり、入館者をいかに増やすかが、なおざりになっていた面もあった。幅広い市民にどうやって目を向けてもらうか、知恵をしぼる必要がある。
 山の上で待っているだけではなく、例えば市中のギャラリーなどと協力し、美術好きの市民と交流を図る。金沢21世紀美術館のように、市内の全小中学生を招待するのもいいだろう。ファンを開拓していきたい。
 利用料金制では、客がたくさん入れば館の予算も増える。頑張りどころだ。ただ、少なければ予算が縮み、魅力的な展覧会が開けなくなる恐れもある。それが市民の望むことなのか。市民も一緒に考えるべきだろう。

広島市現代美術館が文化価値創造のレベルにこだわってきた歴史と,培ってきた財産については,きちんと評価すべき。そのことについては,非公募が適切であることも含め,社説も一定程度は押さえているように思います。そして,もちろん,市内・市外を含め利用者は多いほどいい(多すぎてはいけない)し,利用料金制はインセンティブの働く一つの指標になります。
ただ,利用料金制は,それが減少したときのみではなく,常に両刃の刃にもなりえることも留意すべきでしょう。