齋藤報恩会自然史博物館閉館へ

1月5日の河北新報の記事から

斎藤報恩会自然史博物館が3月閉館
東北で発見された化石標本など貴重な資料を展示する仙台市青葉区の「斎藤報恩会自然史博物館」が3月、閉館することになった。運営する財団法人斎藤報恩会(斎藤温次郎理事長)によると、財政難が影響したという。東北の自然史研究をけん引してきた75年の歴史に幕を下ろす。
 閉館後は、従来行ってきた学術研究への助成を中心に事業を続ける。規模を縮小した新展示スペースを今年中にも開設することも検討する。
博物館は1933年に開館した。貝類や魚類の化石標本、ナウマン象骨格、鳥類のはく製など約10万点を収蔵。収蔵品の一部を展示する常設展と、年に2、3回の特別展を開催し、市民に親しまれてきた。
 近年は建物の老朽化に加え、収蔵品の保管、収集のコストが財政を圧迫。数年前から事業見直しを進めていた。
 科学関連の収蔵品のほとんどは2006年、東京・上野の国立科学博物館に寄贈した。昨年6月には常設展を休止した。
 最後の特別展として、10日―3月8日に「ようこそ恐竜ラボへ!」を開催。化石を中心に最先端の恐竜研究を紹介する。国立科学博物館も24日―2月22日、報恩会の足跡をたどる企画展を開く。
 自然史博物館の土地と建物は07年に売却済み。報恩会は賃貸契約が切れる3月、仙台市青葉区の西公園近くに移転する。斎藤理事長は「研究博物館的な場所がなくなるのは寂しい限り。今後は現在の展示物をコンパクトにまとめ、記念館のような場所を造りたい」と話している。

斎藤報恩会自然史博物館の標本が国立科学博物館に寄贈されたことについては,この日記の2007年1月10日のエントリー「夕張市美術館閉館か?+収蔵品は?」の後段で触れたことがあります。
それにしても,新国立美術館など,美術館は企画展メインのところがありますが,自然史系や歴史系の博物館では,普通,常設展がメインです。その常設展も2008年6月には休止していたということは,すでにそのころ閉館は既定事実となっていたようですね。残念です。

以下,少し堅いですが,個人的な主張です。

博物館は,国民をはじめ人々の教育,学術,文化に貢献することが期待されている機関です。博物館という財は価値財であり,そのため,国や地方公共団体は,一つは,自ら博物館を設置し,サービスを提供してきています。さらに,博物館法などの制度を通して,私立博物館の活動も支援してきました。
その私立博物館,特に75年の歴史を誇る斎藤報恩会自然史博物館が閉館に追い込まれることは重ね重ね残念です。これまで,同博物館が人類共通の財産として収集・保管してきた収蔵品は,引き続き国(というか独立行政法人国立科学博物館)が継承していくわけですが,それでも,仙台市,いや東北地方で行われてきた研究や展示,教育機能は失われてしまいます。


地域の自然や歴史,文化といった価値を再発見し,継承していく博物館。
 地域ごとの特色や扱う分野によって極めて多彩な博物館が,地域の人々の,また多様な興味・関心を持つ人々の核となり,精神的に豊かな社会を創る装置となってくると思っています。絵空ごとに過ぎないと言われそうですが,公立,私立,個人立の博物館,歴史,民俗,自然史,美術,はたまた地域の誇りに関する博物館,多彩な博物館が存続できればと願っています。

追記 企画展「東北地方の自然史研究」@国立科学博物館

新聞記事に出ていますが,「東北地方の自然史研究−斎藤報恩会の足跡とコレクション」と題する企画展の案内が国立科学博物館のサイトに出ています。

2月19日追記

2月14日の河北新聞の記事(河北抄)から

宮城県河南町の大富豪、斎藤善右衛門(1854―1925年)は、事業家にして大変な篤志家だった。
 「人が営利事業で得た財産は天財であって人類の幸福に提供すべきもの」。1923(大正12)年、300万円の基金を拠出した財団法人「斎藤報恩会」の設立の際、善右衛門はこう語ったという。
33年、青葉区に開館した同会の自然史博物館が、今開催中の恐竜展を最後に来月閉館する。収蔵品十数万点は、国立科学博物館(東京)にすでに寄贈済み。4月からは市内の別の場所に移り、主に報恩会の歴史を伝える施設として再スタートする予定だ。
 財団本来の趣旨は、学術研究費の助成にある。古くは東北大の本多光太郎、八木秀次両博士らを支援、今に至る工学系研究の礎をはぐくんだとされる。
折しも国立科学博物館は、企画展「斎藤報恩会の足跡とコレクション」を開催中。東北の自然史研究の成果に着目しつつ、「戦前から地域の学術研究を支えた、その先見の明は特筆される」と言う。
 果たしてきた役割の重みが今、増している。地域の側が、恩に報いる時なのだろう。

5月8日追記

5月8日の日経ネット東北の記事から

山形大、仙台の博物館から貴重な標本100点引き取る
国内有数の歴史と規模を誇った斎藤報恩会自然史博物館(仙台市)がこのほど閉館、収蔵品のうち野生動物の剥製(はくせい)標本約100点を山形大学が引き取った。戦前から国内外で収集し、現在では入手不可能とされる貴重な標本も多いが引き取り手がなく、廃棄処分の危機にあったという。山形大は一部を学内に展示するとともに、恒常的な展示場所や方法を早急に詰める。
 引き取ったのは鳥類や哺乳(ほにゅう)類の剥製や骨格標本計94点。ニホンカモシカイヌワシツキノワグマなど山形周辺に生息する動物のほか、カモノハシやハリモグラなど絶滅危惧種も含まれる。
 まず構内でイヌワシなど十数点の展示を始めた。山形大では「最上川学プロジェクト」が発足したばかりで、最上川流域の里山環境の保全を考える教材としても有効活用する考えだ。

収蔵品のほとんどは,国立科学博物館に寄贈されたということだが,全てではなかったんですね。展示等のからみで,一体的に国立科学博物館へ移管できなかったものでしょうか。
標本の保存を考えれば,山形大学より科博の方が良いようには思います。けれども,より現地に近いところでの保存・活用も意味が大きい。大学の教官や研究室レベルでの保存ですと,継続性がどうしても弱いので,山形大学として保存・活用体制が整備されればいいのですが。