大阪市が博物館に地方独法制度導入を申請へ
大阪市「7博物館、独法化」 国に特区提案へ、9月末メド判断
大阪市は27日、構造改革特区制度を使って市の博物館7施設を地方独立行政法人として一括運営できるよう30日に国に対し提案すると発表した。国は特区による博物館独法化の可否を9月末をメドに判断する。市は提案が認められれば、早急に特区認定を申請する。
市は大阪城天守閣など市立博物館7施設を所有。このうち天守閣など5施設は指定管理者制度で、2施設は直営で運営している。市は直営ではコストがかさみ、指定管理者制度も契約期間が2年と短いため継続的な調査研究などが難しいとしている。これらを単独の独法で運営すれば、業務管理の効率化や人材の相互活用による知識の共有などが図れるとしている。
市は独法化特区を2006年10月にも国に提案したが、当時は文部科学省などが博物館運営のあり方の見直しを検討しており、文科省から「検討結果が出るまで待ってほしい」と返答されたという。
大阪市が,市の博物館の運営について,直営でもない,数年ごとに主体が替わりえる指定管理者制度でもない,第三の途として地方独立行政法人制度の導入を検討し,国に要望していたことについては,すでにこの日記でも2007年5月28日のエントリー「日本学術会議声明「博物館の危機をのりこえるために」」でも少し触れたところでした。
また,2007年6月20日のエントリーで,2007年6月15日に出された文部科学省のこれからの博物館の在り方に関する検討協力者会議報告「新しい時代の博物館制度の在り方について」について触れましたが,その報告の21ページには次のような記述があります。
なお、現在、公立博物館については、直轄か指定管理かという二者択一となっているところ、一部の地方自治体に、国の博物館のような独立行政法人化を指向する動きがある。現在の地方独立行政法人法上、地方独立行政法人は博物館の業務を行うことはできないが、公立博物館がより効果的な運営を模索していく上で、その選択肢を増やすために、地方独立行政法人による博物館運営を認め、当該博物館が登録博物館となる途を開くことも、有意義であると考えられる。
このように,すでに,博物館関係者や学界では許容していることもあり,いよいよ,今回行われる大阪府市(9月11日修正:とんでもない間違いをしていました。修正しました。)の再特区申請は実現するのではないかなと考えているところです。
9月11日追記 日経ネットに記事がありました。
地方独法での運営探る──大阪市の7文化施設
大阪市が博物館など文化施設の新たな運営形態を探っている。市の7施設を地方独立行政法人(地方独法)として一括管理できるよう、現在国に提案中。実現すれば長期にわたる安定した運営などの利点があるという。公立ミュージアムの地方独法化は全国初のケースとなるだけに注目を集めているが、懸念する声も出ている。
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今回は06年度に続いて2度目の提案となり、9月中旬以降に最終的な回答がある見通しだ。「7施設が連携して展覧会を実施するなど、学芸部門の交流が盛んになれば」と市文化部の高井健司課長代理は期待する。
背景には、近年公立ミュージアムで導入が進む指定管理者制度の限界がある。同制度では運営主体を数年ごとに見直すことが多い。・・・「2年ごとに節目を迎える運営方式では、中長期的な視点で展覧会を開くこともままならない」と高井氏。・・・
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・・・独法は中期目標の策定や情報公開の徹底なども求められるため、組織の健全な運営も期待できる。
ミュージアム側の反応はどうか。市立自然史博物館の山西良平館長は「指定管理者制度の問題が多い中で、よりましな選択肢という期待感はある。前例がないだけに、自分たちで最良の運営形態を作っていければいい」と話す。だが一方で懸念の声も多い。大阪城天守閣の北川央研究副主幹は「独法化した国立館は目標を達成するため、集客を重視した活動に偏りがち。地方独法化した場合、それと同じように7つとも疲弊しかねない。そうした課題があることを現場の学芸員も交えてもっと議論すべきではないか」と強調する。
博物館の運営問題に詳しい東京大学の木下直之教授は独法化について「ミュージアムの透明性が期待できる一方、活動を評価するシステムをどう構築するかが要」と指摘する。来館者数や入場料収入など目に見える実績以外に活動の質をどう認めるのか、国立館は今も揺れている。大阪の7施設の場合、美術や科学など研究領域も運営形態もまちまちで、独法化が実現してもどれだけの効果があるかは未知数だ。「学芸部門が協働できる体制になれば質の高い展覧会ができるだろう。だが7施設の規模はそれぞれ違う。予算をどう配分していくのか」(市立美術館の守屋雅史学芸担当課長)との声もある。
国からはこれまでに、「提案の実現に向けて対応を検討」との回答があった。文化行政の根幹にかかわる問題だけに結果が注目されるが、実現した場合、どのように法人を作り、市民の理解を得るのか。後の課題も山積している。
(大阪・文化担当 関優子)
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博物館への指定管理者制度の導入の弊害は明らか。ただ,地方独法としてエージェンシー化した方が良いのかについては本当は疑問に思っています。直営ではなぜいけないのでしょうか。
エージェンシー化することにより,独法はより自主的・自律的(自立的ではなく)運営にせまられ,若しくは可能になり,より機動的・戦略的経営が可能になるという長所はあるでしょう。独法の収入,入館料収入はもとより,図録等販売収入,著作権収入,もちろん寄付など,多様な収入を直接独法が事業に投入することがせまられ,若しくは可能になり,入場者数の確保,企業への営業をはじめとする営業マインドの醸成へと繋がっていくでしょう。
収蔵品については,市から独法への出資財産となるため,特段の問題は出てこないと思います。
一方,直営に戻したとすれば,収蔵品は市の,そして市民の直接の財産のままです。
博物館の,そして博物館職員の経営マインド,営業マインドの醸成は,あまり見込めないかもしれません。
しかし,それは,博物館が市民の直接の財産であり,職員が公僕であるからです。
市民サービスこそが行動原理であるため,あらためて方向性の違う営業マインドを持つ必要がないからです。
記事中にも出てくる市立自然史博物館について,この日記の2006年5月31日の「博物館を元気にする人々」というエントリーで書いたことがあります。
大阪市立自然史博物館の開館以来の理念
「博物館は“市民”とともにあることによってのみ発展することができる」
元記事は,教育新聞の2005年9月29日の記事です。
このエントリーを書くために,いまもう一度大阪市立自然史博物館のサイトを覗いてみましたら,自然史博物館のミッションと中期目標が掲載されていました。
大阪市立自然史博物館は、展示や観察会などの教育普及活動を行なって市民のみなさんに自然を知り学んでもらうためのきっかけを提供し、自然と人間の調和した未来をともに追求していくための施設です。そして学芸員はこのために絶えず自然について調べ、資料を集め、保管し、その成果を展示・教育普及活動を通じて市民に還元しています。
大阪市立自然史博物館は過去50年以上にわたり、このような目的意識を核に市民とともに活動をしてきました。・・・
〔ミッション1〕
大阪の「自然の情報拠点」として自然史博物館の機能を発展させていきます
多くの市民が大阪の自然を知る・学ぶことができる場所として博物館の活動を強化していきます。また、(博物館)自ら大阪の自然環境について情報を集め、研究し、提供していくとともに、人々が自然に関する情報・標本を持ち寄り集積する場所として充実させます。また長居植物園内に立地するという条件をいかして、自然を愛し、自然に興味を持つ人々が集い交流する場所として博物館を活性化させていきます。
〔ミッション2〕
社会教育施設として、人々の知的好奇心を刺激し、見つめる学習の援助を行います
自然を見つめることは、自然を理解し保全していく上で大切な一歩です。多くの市民が自然に興味を持ち、自然のたいせつさ、命のたいせつさを感じ取れるよう、学習や自主的活動を援助します。また学校教育と連動した事業も展開し、子どもの科学的探究心や豊かな情操を育てます。
〔ミッション3〕
地域との連携を促進してより広範な市民との交流に努めます
博物館活動のパートナーとなるNPOやアマチュアを大切にし、自然愛好家の層を厚くしていきます。
〔ミッション4〕
他の機関との連携を進め、ノウハウの交流に努めます
広域のネットワークや学術連携、協働でのプロモーションにより、より高度な博物館活動を目指します。
〔ミッション5〕
魅力ある効率的な博物館づくりをめざします。
エージェンシー化が次善の策だというのもわかりますが,こういう機関は,市民の,市民による,市民のための機関として,直営のままでいてほしいと思うのですが。
12月5日追記 博物館への地方独立行政法人制度導入その後
構造改革特別区域推進本部のページに,「構造改革特区の第13次提案等に対する政府の対応方針について」という文書がアップされています。
それによると,現在の検討状況は次のとおり。
文部科学省として、博物館の登録制度については、引き続き検討を続けるが、博物館法第29条に規定されている博物館相当施設である場合については、地方独立行政法人が設置及び管理を行う施設においても、申請に基づき博物館相当施設として教育委員会が指定を行うことが博物館法上は認めることができるものと考えている。
総務省としては、当該博物館相当施設の業務を行うためには、地方独立行政法人法施行令の改正が必要と考えているが、地方独立行政法人の対象業務を拡大することについては、行政改革の観点から、国の独立行政法人において、廃止・統合や民営化を含め組織・業務について極力縮小する方向で見直すこととされていること等を踏まえ、慎重に検討する必要があると考えている。
以上、提案内容について、文部科学省と総務省において、協議を行いつつ、検討を行う。
文部科学省側では,地方独法が運営する施設は,博物館法第2条の登録博物館には現状なれませんが,第29条の博物館相当施設にはなりえますとのこと(登録博物館は教育委員会が所管という形になっていますので,地方独法が設置する博物館は登録博物館にはなれません。それを可能とするためには教育委員会の役割を含めた大きな議論が必要となります)。
ただ,地方独立行政法人法所管の総務省側では,行政改革の観点から独法を縮小化している時代に何事かという反応のようですね。
2009年9月までに結論を出すとのことで,まだ状況は未定ですね。
#それにしても,特区ではなく全国的に可能とするのであれば,地方独法法施行令の改正なんでしょうが,特区のみで可能とする場合,どの政令,どの省令を改正することが必要になるのか,皆目わかりません。