小倉城庭園について

2006年5月31日の日記の「指定管理者制度を巡るメモ」で触れた小倉城庭園において,北九州市が庭園の館長を「解任」したという。山本館長は,文化施設への指定管理者制度の導入について,導入の現状から,その欠点等について指摘をしていたことから,市が報復的に解任したのではないかと噂されているところである。
毎日新聞西部版,4月29日の記事からです。

北九州市小倉城・おひざ元の乱 突然「庭園」館長を解任 指定管理者制度を巡り対立

 ◇「展示助けられた」復職求める動きも
 江戸時代の大名屋敷を再現した北九州市小倉北区の市立小倉城庭園で、98年の開園時から館長を務めていた山本紀一氏(65)が3月末、市から突然「解任」されていたことが分かった。施設の指定管理者を巡り苦言を呈したことが背景にあるとみられる。事情を知った北橋健治市長が山本氏に謝罪したが、復職を求める署名活動が始まるなど小倉城のおひざ元は揺れている。【千代崎聖史】

 山本氏は茶道など伝統文化に造詣が深く、98年のNHK退職と同時に請われて初代館長に就任した。04年の指定管理者制度導入で、身分は館長から「市参与」に変わったが、当時の市総務観光部長からは「役割は変わらない。対外的には館長を名乗っていい」と説明を受けたという。施設の指定管理者は地場の百貨店・井筒屋から昨年4月、北九州まちづくり応援団株式会社(小倉北区)に移行している。
 山本氏が「解任」を言い渡されたのは3月30日。市の末松茂・総務観光部長と宇佐美健次・観光課長が庭園を訪れ「(委嘱期間1年の)任期満了なので来年度は更新しない」と通告し「指定管理者についていろいろ言い過ぎる」などと理由を話したという。
 指定管理者制度を巡っては「文化施設の管理などにはなじまない」というのが山本氏の持論。2月に市に提出した文書では、制度導入後に事務長が4人も変わった点などを挙げ「業務に支障が出てノウハウ蓄積もできない」と指摘。市に改善指導と正式な館長職復活を求めていた。
 ある庭園職員は「山本館長の顔と人脈で展示が随分助けられてきた。市は事情を知らなすぎる」と話す。
 一方、山本氏を知る文化人らは復職を求め署名活動を始めた。騒動を耳にした北橋市長は急きょ山本氏に会い「文書の存在は知らなかった。無礼なことをした」と謝罪したが復職には至っていない。
 宇佐美観光課長は「(言い渡しが)遅くなったのは事実だが、市参与を置いていると二重構造になる。指定管理者にすべて任せ、市が評価する制度本来の姿にした」と話している。
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 ■ことば
 ◇指定管理者制度
 公園や市民会館など自治体が持つ公共施設の管理運営を民間に委ねる制度。03年9月施行の改正地方自治法で導入された。サービス向上やコスト削減が期待できるとして全国的に導入の動きが広がっているが、行き過ぎたコスト削減が「管理運営の質を落とす」との指摘もある。

小倉城庭園を観光課が所管しているということが問題なのかもしれませんね。観光課のミッションに歴史文化の尊重,文化価値の発見と普及というものは含まれていないのでしょう。小倉城庭園の概要にしても,観光課では「小倉城主の下屋敷跡に、江戸時代の大名屋敷を再現した公園施設。」としているだけですし(ちなみに,小倉城については「約400年前に築城された小倉城を再建した、観光施設。」ですね)。
それにしても,現状に立脚した指摘をも許さないとは。。。北九州市でも「政策評価」を行っているのでしょうが,これでは「評価」は絵に描いた餅ですね。

ちなみに,現在の小倉城庭園の指定管理者(指定管理期間:2006年4月1日〜2009年3月31日)は,北九州まちづくり応援団株式会社(2005年6月27日設立,出資者:北九州商工会議所,(株)井筒屋,小倉中央商業連合会,東陶機器(株),(協)日専連北九州,(株)安川電機,小倉興産(株),第一交通産業(株),西鉄バス北九州(株),(株)小倉伊勢丹シャボン玉石けん(株),国際興業(株),(株)九広,石川金属工業(株),中央記念(株),福岡地所(株),(株)朝日広告社)です。資本金2,100万円,事業所従業員数4人とのことです。

山梨県鳴沢村のなるさわ富士山博物館も3月末で閉鎖したようです。ここも,博物館ではない,ただの展示施設・観光施設だったところのようです。http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/living/40883/

 

2008年5月21日追記 館長不在の小倉城庭園

小倉城庭園に関する北九州市議会でのやりとりから
(橋本和生議員の質問)

最後に、小倉城庭園について尋ねます。
小倉城庭園は、小倉城水環境館と一体で指定管理者制度が導入され、株式会社井筒屋が平成16年度、17年度の2年間、平成18年度からは株式会社井筒屋を含む北九州まちづくり応援団株式会社が指定管理者になっています。小倉城庭園は、平成10年9月に開館。庭園の中に展示棟だけでなく書院、茶室を備え、日本の伝統的な生活文化をテーマに、館長を初め学芸員などがその運営に当たってきました。
 ところが、本年3月末に小倉城庭園の館長が契約解除されるという事態になりました。館長は、小倉城庭園が開設された当初から庭園の運営に携わってきた方です。
 そこで、3点尋ねます。
 1つは、庭園の館長についてです。
 今回の館長の契約解除について、当局は館長は必要ない旨伝えたとしています。小倉城庭園は博物館相当施設として県教育委員会の指定を受けていますが、その位置づけが変わったのか、また、館長不要とした理由は何か、答弁を求めます。
 2点目は、北九州まちづくり応援団株式会社が提案をした事業計画書についてです。
 小倉城庭園の体制は12名で、事務長と企画マネジャーは株式会社井筒屋の正社員で、まちづくり応援団に出向の形をとっています。当然待遇は株式会社井筒屋の雇用契約が適用されますが、人件費等についてどのようになっているか、答弁を求めます。
 3点目は、庭園の運営についてです。
 庭園の案内係などは、指定管理者のまちづくり応援団が雇用するのではなく、株式会社井筒屋が雇用したパート社員です。パートの方は賃金が低く、雇用期間も短期で、結果庭園運営等についてノウハウの蓄積ができない等々指摘がされています。雇用の安定を図るなど、改善すべきであります。

(経済文化局長の答弁)

私からは、小倉城庭園についてお答えをさせていただきます。
 平成10年9月に開館しました小倉城庭園は、日本庭園を初め書院棟や研修室、企画展示室などの機能を備え、礼法を中心とした日本の伝統的な生活文化を多くの市民や観光客に伝える都市公園施設として設置され、運営面では観光と密接なかかわりがあるということから、観光課が担当しております。
 そこでまず、博物館相当施設の位置づけについてお尋ねがございました。
 御指摘のように、小倉城庭園は平成13年11月に福岡県教育委員会から、博物館法第29条に規定する博物館相当施設の指定を受けております。この指定に当たりましては、小倉城庭園で企画展を行う場合、博物館相当施設の指定を受けることで社会的認知度が高まり、他の施設等から、より質の高いものを借用できるという効果を期待したものであり、現在でもその位置づけは変わっておりません。
 次に、館長を不要とした理由についてお尋ねがございました。
 小倉城庭園では、平成16年度の指定管理者制度の導入に当たり、市としての館長職を廃止したところでございます。その理由は、指定管理者の責任において、民間の創意工夫を生かした運営により、利用者サービスの向上や集客力の向上等を図るという指定管理者制度本来の趣旨を生かすためでございます。
 しかしながら、既存の施設としては市で初めてとなる指定管理者制度の導入を円滑に行うため、企画展に関するアドバイザーとして非常勤嘱託の参与を置くこととし、元館長にその職を委嘱したものでございます。その後3年が経過し、指定管理者制度が定着した現在、非常勤嘱託参与を置く理由がなくなっていること、元館長が小倉城庭園にかかわっていただいて通算9年間に及ぶこと、こういったことを総合的に判断しまして、このたび市の非常勤嘱託参与の任期満了に伴い、更新を行わなかったものでございます。
 次に、小倉城庭園の運営に係る人件費等についてお答えをさせていただきます。
 小倉城庭園の運営業務には、現在12名が従事しておりまして、その内訳は、指定管理者である北九州まちづくり応援団株式会社の出資企業のうち、株式会社井筒屋からの正社員2名と常勤の有期雇用の9名、計11名の出向社員とシルバー人材センターから派遣されている夜間警備等の担当者1名となっており、指定管理者の年度計画書に示された人員配置が行われております。出向社員11名の従事内容ですけども、正社員2名については事務長と営業、企画の総括担当者、それ以外の9名につきましては、経理、庶務、広報の事務担当者2名、企画展の実施にかかわる担当者2名、受け付けや施設案内業務の担当者5名となっております。これら従事者の人件費等につきましては、北九州まちづくり応援団株式会社と株式会社井筒屋との合意に基づき、御指摘のように、株式会社井筒屋の給与制度等を適用しているとお聞きしておりまして、本市が支払う指定管理料及び施設の入場料等の収入をもって賄われております。
 最後に、雇用の安定等についてお答えをします。
 指定管理者制度のもとで雇用されます従事者の人件費等の処遇につきましては、指定管理者が関係法令を遵守して定めることであり、基本的には市が関与すべきでないと考えております。案内業務などを行う従事者について、ノウハウの蓄積がないなどの指摘があるとのことでございますけども、実際の運営の中で利用者からの苦情等は聞いておらず、利用者アンケート結果からもサービスの低下は見られず、適材適所の配置のもと、適正な運営が確保されていると判断をしております。
 今後、小倉城庭園の管理運営につきましては、利用者サービスの向上を初め公の施設にふさわしい取り組みがなされているかどうか、本市の指定管理者評価制度に基づいて評価していくこととしており、その評価結果に基づいて、必要があれば指導するなどして、適切な管理運営が確保されるよう今後とも努めてまいりたいと考えております。以上でございます。

まあ,いわゆるゼロ回答ですね。
若干解説しますと,博物館法に於いては,登録「博物館に,館長を置く」(博物館法第4条)とされています。そして「館長は,館務を掌理し,所属職員を監督して,博物館の任務の達成に努める。」こととされています(博物館法第4条第2項)。
一方,登録される「公立博物館は,当該博物館を設置する地方公共団体教育委員会の所管に属する」(博物館法第19条)とされており,教育委員会所管でない小倉城庭園の場合,登録博物館になることは不可能です。このことから「博物館の事業に類する事業を行う施設で,・・その他の施設にあっては当該施設の所在する都道府県の教育委員会が,文部科学省令で定めるところにより,博物館に相当する施設として指定したものについては,第27条第2項の規定を準用する」(博物館法第29条)の適用を目指して,相当施設の申請を行ったというわけです(第27条第2項の規定とは,都道府県教育委員会が私立博物館に対し指導または助言を与えることができるというものです)。実際上,相当施設は,設置者要件等で登録博物館にはなれないが,登録博物館に準ずるものとして取り扱われることが期待されるという意味合いになります。
この相当施設の実際上の意味合いは,北九州市政も認識していて,「企画展を行う場合、博物館相当施設の指定を受けることで社会的認知度が高まり、他の施設等から、より質の高いものを借用できるという効果を期待した」という答弁に現れています。


文部科学省令(博物館法施行規則)においては,相当施設の指定については次のようになっています。

第3章 博物館に相当する施設の指定

(申請の手続)
第18条  法第29条の規定により博物館に相当する施設として文部科学大臣又は都道府
県の教育委員会の指定を受けようとする場合は、博物館相当施設指定申請書(別記第6号様
式により作成したもの)に次に掲げる書類等を添えて、国立の施設にあつては当該施設の長
(大学に附属する施設にあつては当該大学の長)が文部科学大臣に、都道府県立の施設にあ
つては当該施設の長(大学に附属する施設にあつては当該大学の長)が、その他の施設にあ
つては当該施設を設置する者(大学に附属する施設にあつては当該大学の長)が当該施設の
所在する都道府県の教育委員会に、それぞれ提出しなければならない。
 一  当該施設の有する資料の目録
 二  直接当該施設の用に供する建物及び土地の面積を記載した書面及び図面
 三  当該年度における事業計画書及び予算の収支の見積に関する書類
 四  当該施設の長及び学芸員に相当する職員の氏名を記載した書類

(指定要件の審査)
第19条  文部科学大臣又は都道府県の教育委員会は、博物館に相当する施設として指定
しようとするときは、申請に係る施設が、次の各号に掲げる要件を備えているかどうかを審
査するものとする。
 一  博物館の事業に類する事業を達成するために必要な資料を整備していること。
 二  博物館の事業に類する事業を達成するために必要な専用の施設及び設備を有すること。
 三  学芸員に相当する職員がいること。
 四  一般公衆の利用のために当該施設及び設備を公開すること。
 五  一年を通じて百日以上開館すること。
  前項に規定する指定の審査に当つては、必要に応じて当該施設の実地について審査す
るものとする。

第20条  削除

第21条  文部科学大臣又は都道府県の教育委員会の指定する博物館に相当する施設(以
下「博物館相当施設」という。)が第19条第1項に規定する要件を欠くに至つたときは、
直ちにその旨を、国立の施設にあつては当該施設の長(大学に附属する施設にあつては当該
大学の長)が文部科学大臣に、都道府県立の施設にあつては当該施設の長(大学に附属する
施設にあつては当該大学の長)が、その他の施設にあつては当該施設を設置する者(大学に
附属する施設にあつては当該大学の長)が当該施設の所在する都道府県の教育委員会に、そ
れぞれ報告しなければならない。

第22条  削除

第23条  文部科学大臣又は都道府県の教育委員会は、その指定した博物館相当施設に対
し、第19条第1項に規定する要件に関し、必要な報告を求めることができる。

(指定の取消)
第24条  文部科学大臣又は都道府県の教育委員会は、その指定した博物館相当施設が第
19条第1項に規定する要件を欠くに至つたものと認めたとき、又は虚偽の申請に基いて指
定した事実を発見したときは、当該指定を取り消すものとする。

すなわち,相当施設申請時には,施設の長の氏名を届け出る必要がある。一方,指定要件としては館長に関する要件はなく,学芸員に相当する職員がいることが求められるというわけです。
そのため,今回の北九州市政の答弁は,新たな申請はできないけれども,館長がいないからといって指定を取り消されるものではないという法令解釈に基づくものと考えられます。あまり適当ではないにせよ,直ちに違法とは言えないものです。


市としては「指定管理者の責任において、民間の創意工夫を生かした運営により、利用者サービスの向上や集客力の向上等を図る」「指定管理者制度のもとで雇用されます従事者の人件費等の処遇につきましては、指定管理者が関係法令を遵守して定めることであり、基本的には市が関与すべきでない」との答弁に現れているように,施設の運営については,指定管理者が創意工夫を生かすことが大事だと考えているようです。
これ自体は指定管理者制度の一つの特徴であり,ある面で当然なことです。
小倉城庭園は北九州市都市公園、霊園、駐車場等の設置及び管理に関する条例で定められている有料施設の一つです。その点では,到津の森公園駐車施設などと並びの「施設」です。そう考えると施設の長を置かないという市の考えも見えてきます。既存施設の管理を,施設の外部にCEOと取締役会を持つ指定管理者の営利法人北九州まちづくり応援団(株)が行うというだけです。
でも,
 市は一方で,答弁にあるように,「他の施設等から、より質の高いものを借用できる」ために博物館相当施設になったと言っています。とは言え,すでに,その博物館相当施設の長がいないのですから,責任を持って借りる主体がいないということです。
 企画展開催の主体は誰なんでしょう。組織の体をなしていない小倉城庭園のはずはありません。文書の手続き上も,実体上も,指定管理者である株式会社が企画展開催の主体ということでしょう。
 小倉城庭園はただの施設,ただの場所というだけの意味合いと堕してしまいます。
 言葉の上では「現在でもその位置づけは変わっておりません。」と答弁しているものの,主体的に博物館活動を行うべき組織という2001年の博物館相当施設申請時とは既に市の考えは変わってしまっていて,駐車施設と同様の施設として取り扱うというのが北九州市行政のお考えとしか考えられないのです。だからこそ,館長は置く必要はないという結論が出てきたということでしょう。
直ちに違法とは言えないものの,いまの北九州市政がガバナンスをする小倉城庭園には博物館相当施設としての意味合いは全くありません。むしろ,他の博物館相当施設にとっては,同類項に括って欲しくない「悪しき」事例となりかねないものです。



ちなみに,「博物館に相当する施設の指定について」(昭和46年6月5日 文生社第22号 各都道府県教育委員会教育長あて 文部省社会教育局長通知)の別紙3に,参考として「博物館に相当する施設指定審査要項」というものがあります。そこには「職員」として次のように記述されています。

3 職員
 職員は一般職員のほか,専門職員としてつぎのいずれかに該当する職員を有すること。
 (1) 学芸員有資格者
 (2) 学芸員に相当する者
    学芸員に相当する職員は少なくともつぎによるものとする。
   ア 高等学校卒の職員は  10年以上の経験を有する者
   イ 短期大学卒の職員は   7年以上   〃
   ウ 大学卒の職員は     5年以上   〃

市として「博物館相当施設」を標榜する以上,これは現状でも,もちろん満たしているんでしょうね。>北九州市さん(施設の設置者ですからね)