新しい時代の博物館制度の在り方について(報告)を読んで

現在文部科学省で進んでいる博物館法改正への動きについては,4月26日のエントリー5月28日のエントリー(日本学術会議の報告「博物館の危機をのりこえるために」),そして6月15日のエントリーで触れたところです。
6月15日に,「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」の最終報告が出されるということは,6月15日のエントリーで触れましたが,ようやく,その内容が文部科学省のページにアップされていました。新しい時代の博物館制度の在り方について(報告)(PDF:1,080KB)です。
内容は,まだ精読していませんが,中間まとめ以降の意見募集とヒアリングを踏まえ,修正がなされているようです。
 自分の感想を踏まえつつ,若干を紹介。

  • 登録博物館数が少なく,特に公立博物館については,登録されるインセンティブが少ないこと。一方,私立博物館・美術館は,登録のインセンティブが働き,或る程度登録博物館が増加しつつあることが紹介されています。
  • 登録博物館・博物館相当施設の水準は,博物館類似施設より高いこともデータとともに紹介されています。
  • 博物館に求められる役割として「集めて,伝える」基本的な活動をベースとして,市民の価値創造の場となることとしており,ここはかなり評価できるかと思います。それゆえ,博物館の基本的定義として,「資料の収集保管,展示による教育,調査研究」を一体として行われていることと明確にしています。中間まとめでは,社会教育施設の側面が強調され,博物館の博物館たるところがはっきりしていませんでしたので,これは大きな進化だったと思います。
  • とはいえ,資料については,いわゆる科学館等の「科学の法則を理解するための資料を,入れ替えつつ展示しており」「博物館として必要な資料を有していると考えるべきである」としており,保管・継承されるべき実物資料と,そのうち廃棄される展示装置の区分を放棄するという自家撞着に陥っています。
  • 国立新美術館を想定していたのではないかと思われる「自らの収蔵品を持たない館」についての直接の言及は避けられており,ここはかなり批判があったんだろうなと思われます。ただ,「複数の博物館が緊密なネットワークのもとで」「分担して進める」など「資料を豊富に有する館と,展示に関する調査研究を専ら行う館が相補的な関係にあるのであれば,一体として登録博物館と考えても良いと考えられ」とされ,抜け道は確保しているようです。
  • 新しい登録制度については,現在,登録博物館が少ない最大原因であるインセンティブの欠如はスルーしています。「私立の登録博物館への税制上の優遇措置が登録制度の意義をより高める効果を発揮している」としながら,これ以外のメリットについては具体的には何も触れていません。せめて,科学研究費補助金の申請ができることや,思い切って,登録美術品以外の寄贈,寄附についても税額控除の対象とするなどに言及しても良かったのではないかと思います。
  • 学芸員制度については,中間まとめより整理されてきたように思います。修士課程重視から,実務経験重視へシフトしているようです。中心は,大学で「学芸員基礎資格」を取得し,博物館に採用されて1年の実務経験以上で「学芸員となる資格」と整理されています。
  • 大学院における専門教育についても触れられています。ただ,博物館側の要請としては,大学院に於いて考古学や美術史,自然科学等の専門分野をしっかりと修得し,自ら研究できる能力を求めていたはずです。ところが,「報告」では,どうも「博物館学コース」の新設を謳っているようです。専門分野の学修を行わず,「博物館学」に特化した修士を,いったいどれだけの博物館が採用しようとするのか,疑問です。このあたりも,自家撞着に陥っているように思います。
  • 指定管理者制度については,制度の危険性を述べつつ,「指定管理者制度も直ちに博物館制度の趣旨と相容れないものではなく」など逃げを打っているのは中間まとめどおり。
  • 公立博物館の原則無料規定についても,「登録博物館の入館料に関する考え方としては,入館料は無料ないしできるだけ低廉な価格に設定することが望ましく,少なくとも児童生徒については,無料とすることが望ましいと考えられる」というのは中間まとめどおり。ただ,ユネスコの「博物館をあらゆる人に解放する最も有効な方法に関する勧告」を紹介していることは評価できます。
  • 一方,私立博物館等にとっては「少なくとも児童生徒については,無料とすることが望ましい」とするよりもユネスコ勧告にあるように「少なくとも1週間に1日,あるいはこれに相当する期間無料とするべきである」の方が良かったのではないかという気もします。まあ,ユネスコ勧告を引いているのだから,少なくても,それぞれの登録博物館にどちらかの選択を委ねるような運用ができれば良いように思います。
  • 博物館や博物館職員の倫理規定の重要性が触れられていることは評価します。「博物館の扱う資料は,社会から託された貴重なものであ」り,公平性,公正性といった倫理性は,publicな機関としての博物館の最低ラインです。
  • 博物館に関する総合的な専門機関の設立については,何だかよくわかりません。アメリカですと,博物館職員や博物館,学生を会員とした民間機関「アメリカ博物館協会American Association of Museums」と国家組織「博物館図書館サービス機構Institute for Museum and Library Services」が連携して,認証制度や第三者評価を行っています。日本では,日本博物館協会という博物館を会員とした民間機関(個人会員を想定していないため,小さな連絡組織に過ぎないところが違いますが)がありますが,「報告」で求められている「専門機関」の母体になり得るのか不安です。とはいえ,「専門機関」を別に作るのであれば,国家的な委員会にしなければならないでしょう。民間機関レベルで設立すると日本博物館協会との関係が難しいものになります(労務対策のための第二労働組合を思い起こしてしまいます)。
  • 博物館法への具体的な反映(財務省等との調整が相当程度必要でしょう)や具体的な登録基準については,先送りです。また,大学での「博物館に関する科目」の追加・拡充を必要としつつ,具体は先送りとなっています。「『中央教育審議会』等でさらに検討」とされていますが,本当に中教審で良いのでしょうか。博物館の独自性が骨抜きにされて,社会教育機関としての機能のみが重視されてしまう不安があります。

とりあえず,いまのところのメモでした。

ちなみに,意見募集で寄せられた意見のいくつかは次に。
http://museum.cocolog-nifty.com/hakumonken/2007/06/post_9fb8.html
http://d.hatena.ne.jp/takibata/20070514/p1