博物館法改定案

博物館法の改定については,この日記でも,何度か触れたところです。
その改定の法案(社会教育法等の一部を改正する法律案)が,ついに,2月29日付で国会に提出されたとのことです。文部科学省のページに,改定案等が出ています。
新旧対照表を見てみると概略は次の通り。

  • 博物館資料に,電磁的記録を含むこととする。
  • 博物館がおおむね行う事業として,ボランティアその他の市民参画の奨励を追加する。
  • 文部科学省都道府県教育委員会学芸員対象の研修を行うよう努めることとする。
  • 博物館は自己評価と改善に努めることとする。
  • 博物館は,住民等が博物館事業の理解を深めることに努めるとともに,運営状況に関する情報を積極的に提供するように努める。
  • 博物館協議会の委員を任命できる範囲に家庭教育の向上に資する活動を行う者を加える。

というところでしょうか。
登録制度については,変更無し。学芸員の資格についても,条文上は変更無し(一部修正されていますが,文部省告示「学芸員補の職に相当する職等の指定」で指定されていたものと実際上は変更無しではないかと思います)。


ミュージアムの小径さんのところに,文科省担当者が兵庫県博物館協会研究会で行ったスピーチの概要が出ています。詳細はそちらをぜひご覧いただきたいとおもいますが,

パブコメは99通で、7〜8割は関係者からのもので、一般の関心が薄い。

という発言が紹介されていました。
これは,文部科学省の「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」がまとめた「新しい時代の博物館制度の在り方について」(中間まとめ)に対するパブリックコメント(2007年3月30日〜4月23日)のことですね。
確かに,パブリックコメントの結果を見てみますと個人92名のうち,博物館職員が54件,科学館職員や天文台職員を含めると67件ですから,7割が博物館等職員ということです。博物館は研究機関でもありますから,学会や大学の職員も半分関係者のようなもので,そこまで含めると86件と,9割以上が関係者と言っていいですね。
本来,博物館のステークホルダーは学会,大学にとどまらず,当然一般市民も含まれます。(将来世代もステークホルダーだと私は思っていますが,まあさすがに将来世代からのパブリックコメントは不可能ですから除外しても良いでしょう。) その一般市民からのパブリックコメントが少ないというのは,結局,市民自身が受益者or支援者という意味でステークホルダーになっていないという,博物館と市民との関係性を象徴しているものでしょう。


今回奇しくも博物館法改定案にも盛り込まれましたが,

第9条の2 博物館は,当該博物館の事業に関する地域住民その他の関係者の理解を深める
 とともに,これらの者との連携及び協力の推進に資するため,当該博物館の運営の状況
 に関する情報を積極的に提供するよう努めなければならない。

博物館が行政とともに,公立博物館という機関の機能を日常的に,積極的に表明していくことが大事だなと思います。


そういえば,以前の「博物館研究」(日本博物館協会発行:1994年8月号)にHarold Skramstad(ヘンリーフォード博物館)の「卓越した不公平」という小文が翻訳されて掲載されていました。

『卓抜と公平(Excellence and Equityアメリカ博物館協会が,博物館の在り方について1992年に出した報告書である(引用者注))』は我々博物館界の全てに対し,博物館がどんな特別なものであるか,また社会にどんな価値を付加するのかという基本的な問題を問い返す機会を提供している。過去において我々がこれらの質問をした時,全ての博物館に当てはまる単純な一つの答えに到達する傾向があったが,現在ではそれはもはや不可能である。
将来においては,博物館を含む個々の施設全てが,その施設独自の戦略を持ち,その地域独自のニーズに奉仕するというやり方で社会に価値を供給する個々の能力で評価されなければならない。全ての博物館に適応するルールはないというのが全ての博物館に当てはまる唯一のルールである。

多様な博物館が存在することこそが博物館の強さかもしれません。そうだとしたら,博物館法は博物館振興のためにあった方がいいとは思うけれども,どのような役割を担うことが博物館のためになるのか,人々のためになるのか,社会のためになるのか,根本に立ち戻る必要もあるように感じます。