博物館法施行規則の一部を改正する省令が公布されていた

追っておりませんでしたが,博物館法施行規則の一部を改正する省令(文部科学省令第22号)が4月30日に公布されいます。
文部科学省のサイトの中に見あたりませんでしたが,官報の4月30日号外第93号(5月29日までは確認可能)で見ることができます。
パブコメ段階のものと基本的には同じですが,変更点がいくつか。

  • 第7条でパブコメでは「前条に規定する試験科目に相当する学修を修了した者」が「前条に規定する試験科目に相当する学習を修了した者」となっていること。
  • パブコメ段階の附則第4条(在学生が修得した旧科目の読替)が削除。
  • パブコメ段階の附則第5条が第4条となって,視聴覚教育メディア論の若干の救済拡大。
  • パブコメ段階の附則第6条が第5条となって,おそらく?在学生の救済もここで(追記:誤解していました。在学生の救済は第3条及び第4条で読むことも可能となっています。下記5月14日追記参照)。視聴覚教育メディア論取得者の若干の救済拡大。但し,例えば旧科目で博物館経営論1単位のみ修得した者を博物館経営論2単位修得した者とみなすため,単位数の増はあくまで学芸員資格に関する場合のみの読替という限定をつける。
  • パブコメ段階の附則第8条が第7条となって,試験科目の視聴覚教育メディア論合格者の若干の救済拡大。

というぐらい。
4月2日のエントリー「博物館法施行規則を改正する省令案パブリックコメント開始(4月22日まで)」で書いた,視聴覚教育メディア論取得者の救済だけは,何とかなったのかもしれません(追記:そもそも心配していたことが誤解でした。下記5月14日追記参照)。まあ,他は難しいだろうと思ってはいましたが,粛々と省令が改定されることとなってしまいました。

この省令の施行は2012年4月1日。 学芸員の専門性,博物館の多様性を失わせる方向の改定ですが,現実に博物館に与える影響が少なくなることを祈るばかりです。

同日追記

社会教育主事講習等規程の一部を改正する省令,図書館法施行規則の一部を改正する省令も,4月30日付で,上記インターネット版「官報」のサイトに出ています。

5月14日追記 在学生への措置

文部科学省が編集し,株式会社ぎょうせいが発行している『文部科学時報』5月号に特集「学芸員養成の充実方策」が掲載されていました。
  (2011年8月23日追記 http://www.gyosei.co.jp/home/read/monka09050/index.htm# から,一部の記事を見ることができます)
その中に,文部科学省生涯学習政策局社会教育課が執筆した「博物館法施行規則改正」という記事が載っています。

汎用性のある基礎的な知識(MuseumBasics)の習得を徹底する観点から、「博物館に関する科目」の内容を精選することにしたのです。

ホントかなと思ってしまいます。

改正省令が適用されるのは、その施行の日(平成二四年四月一日)以降に入学した者で、施行日より前から引き続き同一の大学に在学している者は、従前どおり一二単位を修得すれば学芸員資格を取得することができます。

これは,今まで誤解していました。確かに附則第3条,第4条を見るとそう読むこともできそうですね。
つまり,2011年度入学者までは,旧科目の全単位を修得しても良いし,もちろん新科目で全単位を修得しても良いということです。旧科目で修得することとしてしまえば,例えば博物館資料保存論を修得する必要はないということです。4月2日のエントリーは間違って解釈してしまっていました。

言うまでもなく博物館活動の基礎は研究であり、学芸員の研究者としての地位の向上や、その意欲の向上を図る観点から、学芸員がよりいっそう研究しやすい環境を整備することも重要です。

>>文部科学省様 そのとおりだと思います。


それにしても,文部科学時報特集を見ても,大学の「博物館学者」と,実際に博物館に携わっている人の考え方の乖離が見て取れます。実際に博物館に携わっている人の考えが良いということではありませんが,どうしても「学者」の側は,多種多様なものである博物館の差異を切り捨て,自分のイメージする博物館像に頼って論を進めているように思えてしょうがありません。
博物館学者」は,自分のイメージや,マスとしての統計のみでなく,民族誌や自然誌のように,博物館の多様性を基盤に置いた博物館誌の記載から再スタートしなければ,砂上の楼閣を積み重ねるばかりになるのでは。

5月27日追記 文部科学省のサイトにもアップされていました。

図書館法施行規則の一部を改正する省令及び博物館法施行規則の一部を改正する省令等(平成21年4月)
あとで読みます。
第7条は「学修」でした。

5月28日追記 雑誌「社会教育」

全日本社会教育連合会が発行している「社会教育」の2009年4月号が「社会教育職員の役割とは何か」という特集になっています。
その中に文部科学省社会教育課の栗原氏の「文化を伝え創造する学芸員の役割を考える」という記事が掲載されています。そこから引用

今年の2月に協力者会議の第二次報告『学芸員養成の充実方策について』がまとめられました。協力者会議の基本的な考え方としては,大学における学芸員養成教育を“博物館のよき理解者・支援者の養成の場”と位置づけるのではなく,学芸員として必要な専門的な知識・技術を身に付けるための入口として位置づけ,汎用性のある基礎的な知識(=Museum Basics)の習得を徹底する観点から,「博物館に関する科目」の内容を精選することとしました。
※ 下線はironsandによる。

基本的な考え方と,今回の改定の結果は,やっぱり別物に思います。
氏の小文ではICOMのICTOP(専門職養成国際委員会)のカリキュラム指針の概略が紹介され,我が国の現在の学芸員養成教育は,その一部しか満たしていないことが紹介されています。そして国際的に遜色のない人材を育成するためにも,まずは大学段階でしっかり基礎を身につけることが不可欠としています。
カリキュラム指針は英語版,フランス語版,スペイン語版で出ていますが,その一部を簡単に紹介します。

各能力分野(一般業務要件,博物館学,経営,教育普及活動,情報・資料の維持管理)について求められる能力の程度は,個々人の業務範囲や業務の性質によって異なる。本紙心は,専門職員が博物館の専門分野または重点分野について十分に知識があることを前提にしている。
本指針のねらいは,博物館職員の継続的な学修ニーズに対応することである。職員のキャリアを通じて,あるいはフォーマルおよびインフォーマルの研修形式の組合せにより,本指針の内容を習得していくことが期待される。

大学段階でMuseum Basicsとして何を習得させるのか,一定の範囲内での議論は協力者会議でなされたとは思いますが,やはり一貫していないように思います。