指定管理者制度の見直し

足利市立美術館のことについて,6月25日のエントリー「足利市立美術館が指定管理者制度廃止」で書いたところですが,7月19日の日経新聞に関連の記事が出ていました。

公立ミュージアム 指定管理見直し 最適な運営探る
 地域の特性や規模に対応
公立の美術館・博物館に指定管理者制度が導入されて三年。運用を見直す動きが全国の自治体に広がり始めた。廃止や変更に踏み切る事例が相次いでいるほか,独立行政法人化といった代替方式を模索するケースも現れた。ミュージアムに最適な運営方法が改めて問われている。
・・・北海道伊達市に立つ市立宮尾登美子文学記念館。市は地元のNPO法人,だて観光協会を指定管理者に選び,運営を任せてきたが,今年度から直営に切り替えた。
 理由は,館の設置目的を従来の観光客誘致から,市民のための文化施設へと大きく変換したためだ。「市全体で文化を柱にした街づくりを進めたい。その拠点となる施設は直営が望ましいと判断した」と山崎博司・商工観光水産課長は言う。・・・市は館の位置づけ自体が誤っていたとして,管轄を観光担当の経済環境部から教育委員会に移管。同委員会の組織で市の文化事業を担う噴火湾文化研究所に委ねた。大島直行所長は「本当の意味の文学館を目指し,十年,二十年先を見据えた企画に取り組む」と話す。
・・・昨年,文化庁の調査によれば,回答した公立館550のうち,全体の17%にあたる93館が(指定管理者制度を)導入していた。
 その一方,運営主体を数年ごとに選び直す仕組みは,継続的な研究や企画,人材育成を必要とする美術館・博物館にはなじまないという主張も以前からある。・・・栃木県足利市は・・・来年度の管理者更新を機に,直営に戻すことを決めた。・・・「継続して運営できる保証がなければ市民の信頼は得にくくなる。作品寄贈や寄託が減る恐れを感じていた」と足利市立美術館の吉田哲也館長は語る。
長野県も06年度から長野県信濃美術館に(指定管理者制度を)導入してきたが,来年度の管理者更新期には業者を公募しないことにした。当面は,現在の県文化振興事業団を管理者に指定し続ける方針だ。
・・・慶応大学の上山信一教授は「運営形態は各自治体が地域や施設の特性,規模などに応じて,ケース・バイ・ケースで考えるべきだ」と話す。重用なのは「優秀な人材を確保できる形態を選ぶこと」。・・・「直営に戻すから改革後退というものでもない」
 これまで自治体は施設の特性や人材確保より越すと削減効果を狙って,指定管理者制度に飛びついた側面があった。直営への揺り戻しといった“反省”を経て,個々の美術館・博物館に見合う運営方式を選ぶ機運が生まれてきたともいえる。・・・・・(文化部 小川敦生,白木緑,舘野真治)

指定管理者制度の導入にあたっても,いろんな形態があります。学芸部門は直営という例もあちこちで見られますし,公募でなく実績を持つ人材がいる非営利法人を指定管理者とする例もあります。更新期の問題は残りますが,指定管理期間を長期とする例もあります。
単に建物・敷地の管理を行うのでなく,文化的機能を担い,活動を行うことが博物館・美術館の運営。それぞれのミッションを達成できる運営体制を確保することが自治体のガバナンスに求められているところです。

そういえば,上野動物園指定管理者制度を導入していますね。動物の一番間近にいる飼育係は,動物との信頼関係を築くのが極めて重要な仕事。上野動物園がどうしているのかと見てみたら,さすがに公募ではなく財団法人東京動物園協会を指定管理者としていますね。指定管理期間は10年間。
 10年後にも,引き続き公募でなく,東京動物園協会を指定管理者とする必要があると思います。でも,それならば,指定管理者制度を導入しないという方法もあったようには思いますが。



参考までに伊達市議会の会議録から
2007年9月11日

市長(菊谷秀吉)・・・本年度は宮尾先生関連の多くの資料を所有する高知県立文学館と連携を図り、常設展示を充実するとともに、宮尾登美子文学記念館解説ボランティアの協力を得ながら、来場者へのホスピタリティーの向上に努めるよう指定管理者であるだて観光協会に指導しております。いずれにいたしましても、現在の指定管理者の契約が本年度で切れることから、来年度以降の運営につきましてはより市民の認知度を高める方向で抜本的な運営方法の見直しを含め、検討を進めているところであります。
・・・
実は先ほどの答弁の中で抜本的なと申し上げましたのも、今まで観光ということを余り意識し過ぎたのではないかと。むしろ文化的な視点からこういった施設の管理運営ということを考えていくべきではないかということで、実は所管を含めまして来年の3月で指定管理者も切れることから、そういう意味で抜本的に変えていこうと。・・・今までのように観光という経済的な視点ではなくて、むしろ文化的な視点から取り組んだほうが今議員ご指摘のような点についてはもっと適切に対応できますし、また手法としてもいろいろ考えられるのではないかと、こういうことで答弁をいたしました。

2007年9月12日

市長(菊谷秀吉)・・・問題は人材なのです。・・・やっぱりそこに自分なりの情熱を持って、この館を一人の人でも多くわかってもらうとか知ってほしいとかということをやっていただかないと、・・・。・・・人を育てるということはやはりそこにいる人が自信を持って自分たちの仕事をしてもらうということも大事だと思うのです。・・・きのうお答えをしましたように観光という視点では限界があるなと。文化という視点でもう一度この施設を見直しすれば、切り開かれる道があるのではないかという気がいたしておりますので、また先ほど無人化という話ありましたが、これは無人化はとてもできません。やっぱり貴重な資産、財産がありますので、これはもうできませんので、当然人がそこを管理するということになりますので、単なる管理からもう少し一歩進んで次のステップに行けるように、・・・。