松岡農水大臣の自殺の原因?

日経BP立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第110回「松岡氏らの自殺を結ぶ『点と線』 『緑資源機構』に巨額汚職疑惑」から

緑資源機構」関係者の相次ぐ自殺の謎
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まず5月18日、地元後援会の元幹部、内野幸博氏が自宅で首吊り自殺。
 次いで5月28日、松岡前農水相が自宅(議員宿舎)で、首吊り自殺。
 翌5月29日、緑資源機構の前身、森林開発公団の理事をしていた山崎進一氏が、自宅マンションで飛び降り自殺。
この3件の自殺は、当然相互に関係があると考えられてしかるべきである。謎の連続自殺を結ぶ糸は、緑資源機構の談合事件である。
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特捜部で焼失した「謎のダンボール」の中身
緑資源機構の官製談合事件は、実は早くから調査が進んでいたもので(公正取引委員会の調査は、昨年秋から)、5月の連休明けにも一挙に強制捜査に着手する段取りになっていた。
 ところが、その連休明け早々にとんでもない事件が起きた。
 特捜部が公正取引委員会からあずかっていた段ボール箱200箱分の資料のうち、最重要の資料が入った特A級の1箱だけが紛失してしまったのだ。
 紛失の理由はよくわからないが、いま表向き伝えられている話では、係員が誤って焼却処分してしまったということになっている。
 その箱の中に何が入っていたかというと、九州の中央山地を南北に横断する(えびの高原から、五家荘阿蘇へつづく全長194キロ)「大規模林道菊地・人吉線」の工事発注にかかわる資料だった。
 この大規模林道建設工事は、林道といっても、道路だけでなく水源林涵養と田畑などの農地開発を一体として行うという大事業で、熊本県だけで、総工費154億にものぼる大計画だった。
 この大事業の主体となっていたのが、緑資源機構なのである。
林道だけでない「154億円の大事業」の入札疑惑
松岡前農水相は、この熊本県に落ちる154億円の大事業の落札を全部自分が仕切り、各工区でそれを落札する業者から経営規模によって23パーセントの上納金をおさめさせた上に、松岡氏の選挙区そのものである第6工区と第7工区では、自分の息のかかった地元業者に、「鞍岳建設」と「ひのくに建設」という架空の建設会社を作らせ、そこに入札を落としてしまうというとんでもないことまで行っていたのである。
先の林道談合事件で摘発されたのは、この大規模林道事業の本体部分の落札ではなく、そのとばくちの、調査事業と測量事業の部分だけである。それは事業全体が10億円規模だから、動いた金も百万円の単位でしかなかったのである。
 しかし、本体部分は、その10倍以上の事業規模だから、松岡氏の懐に入る予定だった金額も、単純にパーセントで見積もって、3億4億円にのぼったものと見られる。
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特捜部の取調べの日に最初の自殺者
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特捜部の資料紛失事件のすぐあと、緑資源機構の九州林道事業の入札を担当していた林道課長が、検察庁から事情を聞きたいと呼び出しを受けた。課長は事情聴取などすぐすむと思って、着がえももたずに上京したが、それから8日間にわたって取調べがつづき、帰宅が許されたのは、5月18日だった。
思い出していただきたいが、最初の自殺者(内野幸博氏)が出たのが、この日である。おそらく、特捜部で8日間もぶっつづけに追及を受けた林道課長は、事件の背景を全部しゃべってしまったにちがいない。
 自殺した内野氏は、松岡前大臣の地元有力者として、一連の談合の仕切り役をつとめるとともに、業者から松岡前大臣のもとに政治資金を流し込む集金システムの中心にいたと考えられている。
 検察は、このキーマンの自殺で再び大ショックを受けたものの、事件の全貌はすでにつかんでいたので、すぐにそのショックから立ち直り、ベテラン捜査官を九州に送りこんだ。
 補強捜査につとめると同時にこれまで大事件を常に担当してきた特捜部最強の特殊直告1班をこの事件解明の担当とし、さらに他の班からも応援検事を集め、また全国の地検からも応援の検事を集め、リクルート事件なみの総力戦体制で本格捜査に踏み切ったところだった。
 その捜査が刻一刻、自分の身辺に及びつつあるのを知った松岡前農水相は自殺し、それにつづいて、やはり捜査の最終段階でキーになる情報を握っていた緑資源の前幹部もまた自殺したということらしい。
大規模汚職疑惑の幕引き図る安倍首相
ここまで背後の事情がわかってみると、前回書いた、安倍首相の捜査の進行状況にかかわる指揮権発動まがい発言の重大性がわかるだろう。
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安倍首相がそのような検察のオフレコ・コメントを利用して、「本人の名誉のためにいっておくが」などというマクラ言葉付きで、「これまで身辺捜査をしたこともないし、これから捜査する予定もなかったと聞いている」などと、わざわざ発言するのは、要するに松岡自殺を機縁にして、この事件の捜査に幕を引けといっているに等しいトンデモ発言なのである。
検察はとっくに着手していた松岡前農水相事件
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八木特捜部長は、02年の鈴木宗男代議士の「やまりん」事件当時、特捜部副部長として、すでに松岡前議員の取調べに直接あたっていたが、そのときは立件にいたらなかったという因縁を持つ。
 就任記者会見での発言は、すでにこの事件で期するところがあった上での発言と思われるが、ここで、松岡自殺・安倍指揮権発動まがい発言にだじろぐことなく、ぜひ初志を貫徹して、事件の全容解明にあたってほしい。
 ここで、安倍発言にたじろいで、事件の真相解明のホコ先がにぶるようなことがあれば、再び検察庁の看板に黄色いペンキが投げつけられるようなこと(92年に金丸信自民党元幹事長の佐川急便闇献金事件に対する検察の疑惑追及が弱腰で許せないと怒った市民が起こした事件)がもう一度起こりかねないだろう。

そもそも,特捜部の資料紛失事件も闇ですね。どんな力学が働いているのか。
松岡利勝の自殺のバックにあったのは,誰か,個人なのか,それとも安倍自民党という組織の無形の圧力なのか。

7月15日追記

5月28日の松岡氏死後すぐ,彼が5月26日に阿蘇市の実家を訪れたとともに墓参りを行ったことが報道されていた。
しかし,その後明らかとなった事実では,彼は5月末熊本に訪れた際には,実家にはもどらず,もとより墓参りもしなかった。熊本市内に滞在していたとのことである。松岡氏が墓参りに行ったのは4月8日のことだったという。
報道では,あたかも,死を覚悟し,墓参りを行ったという論調が圧倒的になってしまったが,これは作られた報道だったと言わざるをえないだろう。それは,直接的には阿蘇市議会議員の阿部樹範氏の虚偽の言動で引き起こされた。
自殺の背景には何があったのか。誰が,何を隠したかったのか。なぜ松岡氏は「殺されて」しまったのか。闇は深い。