福島県の県立白河高等学校でPTA(親と教師の会)が偽装解散

昨年4月の話ですが。
福島県立白河高校のPTAに十数年雇用されていた職員が,給与の大幅引き下げの条件を示され,一方的な不利益変更として交渉を続けていたもの。3月には県の労働委員会に提訴。ところが,4月に入り,職場から排除,すなわち高校の管理職員(PTA役員)が出勤してきた職員を押し返し,以後,PTA側は交渉の席につかなくなった。
「解雇」されたらしき職員は,交渉ができなくなったため,4月にPTAを提訴。すると,PTAは5月26日の総会で,反対意見はあったものの討議をうち切り採決し,「解散」を決めたもの(ただし,討議をうち切ったせいもあり,解散手続きは不明確。後に判決では「解散した場合の清算人に誰が就任するか明文の定めはなく,前記臨時総会により選任されたとの事実も認められないから,民法74条を準用して,解散時の代表者 (会長)であると認められる○○○○が清算人になったというべきである。」と整理している。)。
6月5日に第1回口頭弁論。裁判長は「人格なき社団で解散したとしても,精算が終了するまでは社団として存続するので,当事者適格は失わない」として,出廷を要請したがPTA側は出廷せず。裁判長はここで結審にせず,もう一度PTAにチャンスを与える。しかし,,
6月19日に第2回口頭弁論。裁判長によると「被告に出頭を求めたが解散を理由に出てこないため,書面を留置送達した」。(しかし出廷,反論もないので)「弁論を終結し,言い渡しを7月10日午後1時10分より行う」と。
7月10日判決。当然,原告の全面勝訴。
判決の中で裁判長は「被告は一件記録により権利能力なき社団であると認められるものであるから,民法73条の類推適用により,清算の目的の範囲内でなお存続するものとみなすべきである。そして,本件訴訟が係属している以上,清算が完了したとはいえない。」とし,「前記の通り,解散時の代表者(会長)が清算人になったというべき」としたところである。
判決では,4月以降の未払い給与とともに,地位確認も認めているところである。即ち,精算途中の「清算人」の責務は大きいものと言えよう。
それにしても,独立行政法人労働政策研究・研修機構のページ(7月10日)で,本判決を取り上げているが,そこでの白河高校校長の遠藤教之が「PTAが総会を開き解散を決め、清算したのだからコメントする立場にない。」というコメントには脱力する。遠藤君は社会が担当だったと思うんだが,よくもまあ判決に真っ向から対決する不条理なコメントを「コメントする立場にない」と言いながら出せたものだと思う。
4月以降の未払い給与は,毎月,当然積み重なって来ています。PTAは総会で「解散」を採決しましたが,実際には,その後も学年保護者会が組織されているところであり,裁判逃れ,支払い逃れの「偽装解散」であることは明らか。
清算は完了せず,法的には「権利能力なき社団」として存続しながら,「解散済み」として債務にはほおっかむり。県立高校の授業料を払わないモンスターペアレンツが話題になっていますが,白河高校にはたくさんのモンスターペアレンツがいるようです。
恐ろしい人たちです。

なお,PTA清算人は,その後も原告に全く支払う姿勢を見せないため,原告側では,別途,前会長を相手に損害賠償を求める裁判を起こしたところです。前会長は,今回は,不利益変更条件の提示と解雇に至った経緯等の「正当性」を主張しているようですが,何しろ,事実関係は既にPTAとの間の確定判決があるわけですから,問題にもならないでしょう。
すでに,福島県立白河高校PTAは未だ解散途中であり,責任を果たしていないと言うことは明らかになったのですから。
どこまで労働者の人権を踏みにじろうとするのか。重ね重ね恐ろしい人たちです。

追記

「白河高校元父母と教師の会会長『石塚氏・辺見氏を支援する会』」NO.1という,タイトルのチラシがwebに掲載されていました。

白河高校元PTAは,元PTA1年契約雇用職員のK氏に雇用問題で訴えられ解散を余儀なくされた

当事者意識の欠如。または根拠無き被害者意識。

元PTA会長の石塚・辺見両氏が行ったことは,すべてPTA役員会,総会の決定に従ったものです。
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元会長個人が提訴されるということは理解できません。

PTAという人格無き社団が,自信の責務を逃れるため,解散の意思決定をしたこと自体も責められますが,確かに総会決定ですね。そして,一審確定判決にもあるように,まだ清算途中。清算人は解散させるために最善の努力をなすべきで,その中に債務を解消することも含まれています。残念ながら清算人は自然人であり,人格がありますから,「解散」はできませんね。

PTAは法外な雇用の権利を要求される団体では断じてありえない。

「法外」な雇用の権利とは?はて。 白河高校周辺の労働法制は,どうなっているんでしょうか。


「第一回公判を傍聴して」という傍聴記も掲載されています。書かれた方がどのような方かはわかりませんが,「元」PTAの構成員なんでしょうね。人の足を踏みつけ,裁判という解決の場から逃げた「元」PTAのね。


結局,働く一人の人間にきちんと対峙することができず,うつむいたまま,あっちの方を向いて組合に対して「アカ」攻撃をするのみ。


白河高校の子どもたちは,きちんと「政治・経済」や「倫理」もならっているんでしょうけれども,身の回りの大人達の特殊な労働法制観にとまどっていることでしょう。新自由主義の蔓延,グッドウィル事件に代表されるように労働条件が悪化しつつある今日,労働者自身が声を上げることが極めて重要になってきています。白河高校の子どもさんたちが,身の回りの「勝手な」大人たちに影響されることなく,または身の回りの「勝手な」大人たちが反面教師となって,自らの心と体を守れる人間として成長して欲しいと切に願っています。

2月6日 追記 法廷内の写真撮影

2月5日に清算人(元PTA会長)等を訴えた裁判の公判があったとのことです。
元PTA側の立場から見たブログに記事が出ていました。ところが,驚いたことに,法廷内の写真が2枚掲載されています。1枚は被告(元PTA会長等)側を撮影した写真,もう一枚はそのブログ主が「かたき」のように攻撃している原告(不当解雇された職員)&原告代理人の写真です。
裁判所法第71条では次のようになっています。

第71条 法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。
2 裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。

この法律に基づき,裁判長は「民事訴訟規則」第77条の「法廷における写真の撮影、速記*1、録音、録画又は放送は、裁判長の許可を得なければすることができない」を適用して,公正な裁判の執行に努めているわけです。
裁判長が,法廷の写真を撮ることを許可する可能性はもちろんあります。しかし,原告や被告が写り込むような写真撮影を許可することはまずないでしょう。もし裁判長が許可したならば,それは公正な裁判手続きという面からも批判されて当然ですし,当事者が裁判官忌避をしたら,認められるかもしれないほどのものでしょう。逆に言えば,裁判長がこのような写真撮影を許可することはまずありえないことです。
この写真は,ブログ主が傍聴した友人からもらったもののようです。まず,間違いなく,この「友人」が裁判長の許可なく原告&被告を撮影し,その写真をブログ主が公開しているということでしょう。
「友人」は法廷等の秩序維持に関する法律により制裁を受ける可能性もあります。
 また,「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決)とされていますから,「友人」は原告や被告から訴えられるかもしれませんね。


どうも,元PTAサイドには,上記したような「特殊な労働法制観」を単に持っているだけでなく,日本の法律や常識が及ばないところで生活している人たちがいるようですね。

2月11日 追記 もう言葉も出ない

「PTA」支援者のサイトを見ると,もう言葉も出なくなってしまいます。
blog.livedoor.jp/reims777/archives/50879204.html
きっとね,「思わぬ反撃」にあって「被害者意識」で凝り固まっているんですね。 「雇用者責任」って知らないんでしょうね。感じたこともないんでしょうね。いつも,そんなんなんでしょうね。
# なんか,もう,こんな「棘」のある文章を見て。。自分も「棘々」になっているのは認識しているんですけれども。。。

11月11日追記 清算人(元PTA会長)等を訴えた裁判の判決

福島中央テレビのニュースから

元PTA職員の解雇訴訟 元会長らに支払い命じる
白河高校のPTAの元事務職員が、元PTA会長らに未払いの給料の支払いなどを求めた裁判です。
 裁判所は、元職員の訴えを一部認め、被告の元会長らに100万円余りの支払いを命じました。
 訴えを起こしているのは、白河高校PTAの元事務職員、柏木○○さん43歳です。
 訴えによりますと、柏木さんは、去年4月に、賃金の引き下げをめぐって対立していたPTAから雇用契約を更新されなかったため、その後の未払いの給料256万円の支払いなどをPTAの元会長2人に求めています。
 その後、PTAは解散しました。
 きょうの裁判で、福島地裁白河支部の高瀬順久裁判官は、原告の訴えを一部認め、102万円あまりの支払いを元会長らに命じる判決を言い渡しました。
 判決後に柏木さん側は、雇用期間満了による解雇・いわゆる雇い止めされたことについて、「有効とされたのは納得できない」としましたが、「被告が責任を負うことが認められた点は重要」と述べました。
 一方、被告の元会長らは、「雇用期間が3月で満了であることなど、一環して主張してきたことが認められた点は評価する」とコメントしています。

詳しい情報がないので,そのうちに。
とりあえず参考になるかもしれないリンク「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する基準」(厚生労働省告示) (神奈川労働局労働基準部のページです)。

11月15日追記

今回の判決では,PTAが違法解雇した後の4月から8月までの給与の支払いが被告に命じられています。すでに,PTAの職員としての地位が認められているからです。
ただ,社団なき法人としてのPTAが「解散」したことについては認め,あくまで清算人として債務の支払い努力に不足があったという判決になっているようです。PTA解散のきっかけとしては今回の脱法行為があったんでしょうけれども,実質的に解散してしまっているということなんでしょうね。

*1:メモについては,いわゆるレペタ事件の最高裁判決(最高裁昭63(オ)436号 平元・3・8大法廷判決)に於いて「裁判所としては、今日においては、傍聴人のメモに関し配慮を欠くに至っていることを率直に認め、今後は、傍聴人のメモを取る行為に対し配慮をすることが要請されることを認めなければならない。」とされたことから,全国全ての裁判所に於いて事実上解禁されています