指定管理者の自発的な努力に期待しすぎるのも・・・

2007年6月2日の室蘭民報の記事から

「かもけん」有志が室蘭市青少年科学館支援の会社設立
  【2007年6月2日(土)朝刊】
室蘭市青少年科学館の指定管理者・NPO法人科学とものづくり教育研究会(愛称・かもけん)の小川征一さん(64)と三上慎晶さん(30)がこのほど、同館の運営支援を柱とした株式会社「KMクリエイト」(以下KM)を設立した。NPO法人の立場では事業化しづらかった収益が発生する業務をKMが担い、収益を子供たちの教材費として活用する。財源確保に向けたユニーク策で、自主事業を充実させて市民還元する狙いだ。
 館長の小川さんと職員の三上さんの2人が出資し3月に設立、小川さんが代表取締役に就いた。事業内容は「出前科学館」など各種出前講座や退職教員の講師派遣、イベントプランニングや音響機器の操作・レンタル業務、デザイン製作など。従業員は非常勤職員を含め18人。
 市青少年科学館は現在、指定管理者のかもけんが、市の管理運営委託料約5600万円(平成19年度予算額)と入館料収入で運営している。通常は外部委託する清掃管理業務などを自営で賄うことで支出を抑制してきたが、人件費や施設の維持費などを差し引くと、子供たちのために使う材料費などに年間100万円程度しか残らず、自主事業の拡充を図るには心細かった。
 さらに従来、市が拠出していた燃料代など光熱費の実績払いが19年度からなくなり、燃料代の高騰や気象条件によっては自己負担増が予想されるなど「これまで目いっぱいの経営努力はしたが、今後収益増は見込めない」と判断した。NPO法人は、総支出の5割を超える収益事業ができない制約などを背景に、法的な問題がないか慎重に検討を重ねた上で設立に踏み切った。
 KMの業務は始まっている。元民放テレビ局技術部員だった三上さんの音響技術を生かし、ジャズコンサートなどのイベント業務をすでに複数受注するなど、KMの事業主体になっている。4月には、ぷらっとてついち(市内輪西町)で、教育施設以外では実質初となる「出前科学館」を実施、今後も隔月開催が決まった。ボルト人形「ボルタ」の委託販売もKM設立の効果の1つだ。
 小川さんは「収益を上げる仕組みをつくりたかった。株式会社が1つあれば、収益を上げて地域貢献、市民還元がしやすくなる」と展望する。今後はアルバイトの採用も検討、将来的には人材育成につなげたい考えだ。
 小川さんは「職員を減らせば人件費が浮いた分、資金に余裕が出るが、市民サービスが低下してしまう。それは避けたかった」と語る。科学の面白さやものづくりの楽しさを伝える「プロモさん」(指導員)が来館者をいつでも出迎えられる環境あってこその科学館という自負があるからだ。
 自主財源の確保に向けたユニークな動きに、室蘭市教委では「独自に収益を上げる動きはまさに民間の発想」と注目している。小川さんらは「1年目の収益は少なくとも500万円、1000万円が目標。人的資源を有効活用し利益を上げることで科学館に還元していきたい」と張り切っている。

NPO法人科学とものづくり教育研究会の,すばらしい取り組みだと思います。
 そして,NPOとは別会社を設立し,その収益を青少年科学館につぎ込まざるを得ない状況も見えてきます。
科学館の管理を行っている団体が実質オペレーションするという,そういうモデルでなければ,この会社も収益は上げられないだろうとは思いますが,いろいろと難しい問題も出てくるように思います。
「独自に収益を上げる動きはまさに民間の発想」という室蘭市教育委員会は,裏を返せば,当初の指定管理条件では,青少年科学館の効果的運営は不可能だったと自供しているようなものです。指定管理者の献身的とも言える活動がなければ,青少年科学館は衰退するのみだったと自供しているようなものです。市の責任として,そういう姿勢で良いのでしょうか。
市民が公共サービスに主体的に参画すると言えば,かっこいいですが,市民が献身的に活動しなければ公共サービスの質は保てなくなる可能性もあり,長期的には,どこかで無理が出てくる可能性がより高まるでしょう。


また,取り越し苦労でしょうし,「かもけん」では起こらないでしょうが,もう一つ危惧があります。公の施設の指定管理者にNPOがなり,別法人で,でも実は同組織の株式会社が,公の施設を直接・間接に利用する「ビジネスモデル」となってしまうのではということです。
 いくつかの地方自治体で,指定管理者の公募の段階で,営利法人とNPO法人に明示的に差を設けている場合があります。また,指定管理者の選定の段階でも,営利法人とNPO法人の採点に差が出てしまうことも考えられます。NPO法人を隠れ蓑に(2006年12月11日の記事の事例も,そう取られてもおかしくないように思いますが),公の施設を直接・間接に利用して収益を上げ,営利法人の出資者へ富が流出してしまう危惧は,念頭に置いておく必要があるでしょう。

2009年11月2日追記

2009年11月2日の室蘭民報の記事から

笑顔広がる室蘭の科学館祭「かもけん」満4歳記念して
室蘭市青少年科学館の指定管理者で、NPO法人・科学とものづくり教育研究会かもけん(小川征一理事長)の「満4歳 誕生記念科学館祭〜科学とものづくりチャレンジ教室」が1日、同館で開かれ、趣向を凝らした工作や実験教室、特別展示などが子どもたちを楽しませた。
 教職員OBらで構成される科学とものづくり教育研究会かもけんは、定期的にイベントを開催し、子どもから大人まで幅広い世代が楽しく学べるメニューを提供している。
 この日も、アイロンビーズなどの工作教室をはじめ、水素の性質を探る実験、巨大シャボン玉、ポップコーンや焼きいも作りなどを用意して、訪れた子どもたちに科学のおもしろさを伝えた。
 館内では、メンバーが作った木のおもちゃやビー玉遊びのコーナーが設けられ、子どもたちだけでなく、父母たちも童心に帰って一緒に楽しむなど、親子の笑顔が広がっていた。
 (松岡秀宜)