医療崩壊がらみで佐野市民病院

1月23日の下野新聞の記事から

佐野市民病院が新規入院受け入れ休止へ(1/23)

 深刻な医師不足などで経営難が続いている佐野市民病院が、1月末から新規入院受け入れを一時中止し、4月からは内科系外来診療を縮小する方針であることが23日、分かった。常勤医を派遣している獨協医大壬生町)との間で4月以降の常勤医4人の継続勤務の確約が取れておらず、既に2月から8人となることが決まっていた常勤医数が、さらに減る可能性が濃厚になったためだ。さらに門脇淳院長自身も経営責任を取る形で退職の意思を示していることも分かった。

佐野市の政策審議会では,2005年9月30日から,約1年間かけて市民病院のあり方について検討を行ってきていた。
 市のホームページに14回にもわたる会議資料の一部が掲載されている。
そして14回目の2006年9月28日,地域医療における市民病院のあり方に関する最終答申(PDFファイル)がまとめられた。
そして,そこにあるのは「職員定数の見直し」「業務の民間委託」であり,また運営形態であった。例えば「地方公営企業法の一部適用」では,「医療行為と病院経営に関する責任者が不明確」になり,「地方公営企業法の全部適用」では,「これまで」同様で「解決につながらない」。また「地方独立行政法人」では,「理事長の権限は限定される。また中期計画等は別の経営形態でも可能である」とされ,そして「指定管理者制度」において,「開設主体は設置者である市が担うため、政策医療の維持が可能。また、経営は民営化されるため効率的な経営が期待できる。」との美辞麗句のオンパレード。
 医療法人等で,どっか目当ての所があったんでしょうかね?現在直営ですから,何か医療行為の実績のある社団法人や財団法人を市が持っているわけもないですし。
まあ,こんな市のガバナンスであれば,職員が逃げ出すのも当たり前でしょう。大学の医局は引き上げ,看護婦は退職していく。もっともつぶしがきかないと言われる事務職員でも,指定管理者制度が既定路線であれば,迷うのも仕方なし。
 そして,地元だから,または,その他当然の理由でしがみついて残る職員の中に,いつもの例ですけれど,目の前の患者を大事にしようとした医者や看護婦,事務職員がいて,結局,給料や労働時間という面で一番損をする。

2007年3月4日 追記

佐野市民病院について,2月8日の東京新聞常勤医師不在の危機と続報

常勤医師不在の危機
佐野市民病院 最後の3医師態度保留

 医師不足で経営危機に陥っている佐野市民病院(二百五十八床)で、四月以降も勤続するとみられた常勤医三人が、態度を保留していることが七日、明らかになった。
 同病院は八人の常勤医のうち、すでに五人が三月末に病院を去る可能性があるため、四月以降は常勤医が不在になる可能性さえ出てきた。
 同市はこの日の市議会全員協議会で、病院の情勢について報告。態度を保留した常勤医三人は三十−四十歳代で、いずれも医局に属していない。背景には、病院運営に対する不安や不満があるとみられる。
 病院側の報告によると、本年度の経営状況は二億円の赤字。同市は二月補正予算で対応するため、本年度の一般会計からの拠出は過去最高の総計十億円となる。
 こうした状況を踏まえて、同市側は今後の病院運営について、運営のみを民間に委ねる指定管理者制度を導入する方針を表明。四月一日までに新院長を招へいし、入院や外来、一次救急などに対応できるだけの医師確保に努力する考えを強調した。
 これに対し議会サイドからは、「指定管理者制度では、市民のニーズに合った運営が困難」などとして慎重論が出た。 (梅村武史)

議会サイドで,指定管理者への慎重論が出ているようですが,佐野市行政は秘密裏に指定管理者を引き受けそうな法人と個別交渉を進めているようです。
労働環境,雇用環境は悪化し,看護士,薬剤師,医師等の資格者がいよいよ留まりにくくなるのではないかと,心配されます。これで,市長さんは本当に責任がとれるんでしょうか。
2月28日の毎日新聞の記事です。

佐野市民病院の経営問題:新制度移行で「職員は非公務員に」 市議会で答弁 /栃木

 指定管理者制度の導入により、存続を目指している佐野市民病院問題で、同市は27日、同制度に移行した場合の病院職員の処遇について「移行時に整理解雇され、非公務員となる」との考え方を示した。同日の3月定例市議会一般質問に対し、病院事務部が答えた。
 同病院によると、現在の職員は計224人で、事務職、医療職とも同市職員。指定管理者の選定先が決まり、新病院への移行が実現すると、職員は整理解雇され、市職員の身分も失うことになる。整理解雇の場合、自己都合退職より優遇される規定があり、勧奨退職と同様の基準で退職金が上積みされるという。
 退職の手続きは、同市の職員分限に関する手続き条例に基づき進められるが、市側は「個々の職員と十分協議したい」と答弁した。
 同問題では、市民有志が今月11日、「市民病院を存続させる会」(小林正義、町田順一両代表)を結成。早期の医師確保、市民の命を守る拠点としての存続などを求め、署名活動を展開、福田富一知事にも提出する予定。同会事務局の岩月秀樹さんは「救急医療の現場で、搬送先の確保難などの影響が出ているとも聞く。県にも関心を持ってもらいたい」と話している。署名活動の問い合わせは、岩月さん(電話0283・25・2215)。【太田穣】

毎日新聞 2007年2月28日

また,3月1日の毎日新聞の記事です。

佐野市民病院の経営問題:管理者候補で市長「交渉、いい方向に」−−市議会 /栃木

 指定管理者制への移行による存続を目指している佐野市民病院問題で、同市の岡部正英市長は28日の3月定例市議会で、管理者候補の医療法人との交渉について「いい方向に向きつつある」との感触を述べた。寺内富士夫議員(市民フォーラム)の一般質問への答弁で明かした。ただ、具体的な交渉状況や見通しについては言及を避けた。
 寺内議員は、昨年11月、副院長を含む日本医科大出身の常勤医師3人が相次いで退職する直前、市側が独協医大から新たな幹部医師派遣を提示されたり、市長が副院長と意見交換していた経緯を指摘。「市長のやり方がまずかったと認めるか」と責任を追及した。これに対し、岡部市長は関連を否定した上で「議会でやりすぎると、『佐野市民病院には医師を派遣しない』とはっきり言われたことがある。建設的な意見を吐いてほしい」と反論した。
 また、指定管理者を巡る独協医大との交渉について、岡部市長は独協医大側から6項目の条件が出されていたことを認め、「ハードルが高くお断りする形になった」と不調に終わった経緯を一部明らかにした。【太田穣】

毎日新聞 2007年3月1日

心配です。

3月18日 追記

指定管理者を視野に入れた院長人事でしょうか。
3月17日中日新聞の記事です。

新院長に福光氏内定  佐野市民病院

 佐野市は十六日、佐野市民病院の運営体制について、三月末で門脇淳院長(65)の定年退職を認め、後任の院長は四月から一年の任期で、外科医の福光正行氏(68)に内定したと発表した。
 福光氏は東京大学医学部卒業の医学博士。社会保険中央病院外科医長、JR東京総合病院副院長を経て山梨県の医療法人「ふじよしだ勝和クリニック」理事長兼院長を先ごろ退任した。
 同市によると、同病院は民間医療法人に指定管理者として運営を委ねる方向で調整を開始。福光氏は自らの人脈で六十歳代前半の男性小児科医を採用するほか、医師確保に奔走しているという。
 同病院は常勤医の相次ぐ退職で運営困難になり、残る七人の医師も「ほとんど全員が三月末で退職願を出している」(病院関係者)。岡部正英市長は記者会見で「(院長不在という)最悪の状況からは抜け出せた」と安どの表情をみせたが、今後も厳しい病院運営が続きそうだ。 (梅村武史)

佐野市民病院の指定管理者候補を選定まで 2008年5月25日追記

東京新聞3月19日の記事から

佐野市民病院 新年度も常勤医5人 関係者『現状維持がやっと』
医師不足による経営不振が続いている佐野市民病院は、新年度を現状の常勤医師5人体制のままで迎えることが18日、分かった。医療関係者が流動する年度の切り替え時期に医師確保が進まなかったことは、今秋の指定管理者制度移行をめざす同病院にとって痛手になるとみられる。関係者は「最大の努力をしたが増員できず痛恨の極み」と話している。 (梅村武史)
 二次救急の輪番を担える10人以上の常勤医師確保が同病院の最大の目標。受け皿となる医療法人財団「青葉会」(本部・東京都)からも強く要望されており、福光正行院長を筆頭に努力を続けてきたが、増員には至らなかった。5人の医師の一部に入れ替えがあり、非常勤医師も現状の55人前後の見込み。
 中里博行事務部長は「医師不足が予想以上に深刻で、周辺病院でも常勤医師を減らしている。現状維持がやっとだった」と残念そうに話した。
 同病院は医師不足による当直体制の弱体化から足利赤十字病院、佐野厚生総合病院と共に長年担ってきた両毛広域医療圏(足利、佐野両市)の二次救急輪番を休止中。新年度の休止も既に決まっている。新年度からは、佐野市から8億3千万円の赤字補てんを受ける。一方で本年度から糖尿病と人工透析治療に特に力を注ぐなど、市内外から多くの患者を集めて収益を見込める分野も育っている。

何とか,ぎりぎりのマンパワーで現状維持してきたところでしたが,遂に
5月25日の毎日新聞栃木版の記事から

佐野市民病院の経営問題:10月民営化へ 15年度黒字目指す
経営難が続く佐野市民病院問題で、佐野市は23日、民間に運営を委託する指定管理者として協議していた「医療法人財団青葉会」(東京都)を正式に選定し、6月議会に指名議案を提出することを明らかにした。可決後に調印し10月から運営を民営化する。管理期間は9年半で15年度の黒字転換を目指す。
 青葉会の事業計画書などによると、入院258床と16診療科目は維持される。移行当初は、常勤医師5人で始動するが、新規入院の抑制により現入院患者約90人に退院を促すことはないという。
 佐野市は5年前から年10億円前後の赤字補てんをしてきたが、常勤医師を9年後に20人を確保し医療体制を整え15年度の黒字転換を見込む。移行当初の2年間は赤字補てん限度額は7億円として、その後は2年おきに見直す。【古賀三男】

指定管理者制度の導入。医療専門職は残るのか?議会で可決されるのか?
 常勤医師確保の主体は病院の設置者が担うのか,管理者が担うのか。
 9年後には指定管理料をゼロにするつもりのようだが。

青森県平川市 平川病院のケース 4月17日追記

東奥日報の4月16日の記事より

■ 平川病院市営へ1万3千人署名提出

 平川市直営での国保平川病院存続を求め、同病院を守る会は十六日、市役所を訪れ、木村友彦会長が市民一万三千八百二十二人分の署名を外川三千雄市長に手渡した。
 同病院は、患者数の減少で経営が厳しく、二月からは常勤医二人だけの体制で、運営自体が危機にひんしている。同市は一月下旬に指定管理者制度による民間委託の方針を示し、外川市長が民間病院と折衝中。
 市民の三分の一を超える署名を木村会長から受け取った外川市長は「重く受け止め、今後の判断に生かしていきたい」と話した。同市長は、十八日の市議会議員全員協議会で、民間病院との折衝の経緯を説明した上で、あらためて議会とともに(1)民間委託での病院存続(2)診療所への転換(2)廃院−を選択肢に病院の在り方を協議する。

市行政では,一度指定管理者制度導入方針を固めたものの,地域医療を受ける当事者からノーがつきつけられた形ですね。市民の三分の一の署名はなかなか重いです。
 とはいえ,市直営にしろ,指定管理者制度を導入するにせよ,現状の規模での運営は行政の財政負担も大きい。
 市直営だと,医師はもちろん,看護師,事務職員とも市の職員となるため,人件費の抑制が困難。
 指定管理者制度を導入すれば,少しは市の負担が減らせるとともに,おそらく,看護師,事務職員の給与を圧縮し,医師の給与は現状,またはそれ以上とするという手法がとられることでしょう。しかし,医療水準が市直営に比べ,低下する危険も高まる。
 公立病院の7割は赤字だが,民間病院も半数は赤字。公立病院は,救急医療や小児科など,採算のとれにくい,民間病院が手を引く分野への集中が求められるせいもあるだろう。それは,行政コストと考えざるを得ないのではないか。
 そして,本来的に赤字体制を見直し,医療サービスの向上を考えるのであれば,医療サービス自体(公立だけでなく,医療法人によるものも含めて)が優れて公共的・公益的なものである地平に立つことが必要だと思う。先進国同士で比べてみれば現在,極めて廉価に抑えられている医療費,診療報酬を見直すことが必要である。医療費を人々が共通で負担すべき経費であることを再確認しなければならない。その地平のもので地域格差を減らす方策,すなわち富の再分配が国家レベルで行われることが必要なのではないか。

平川病院 休止 4月19日追記

東奥日報の4月19日の記事より

平川病院、常勤医ゼロで来月休止

 平川市国保平川病院は、院長と副院長が三十日付で退職するため、五月から病院休止になることが十八日、分かった。五月以降、期日をおいて無床の診療所に移行する見込みだ。同日の議員全員協議会で、外川三千雄市長から常勤医二人の退職と、病院の民間委託交渉が不調に終わったことの報告があり、無床診療所へ転換させることで意見を集約した。
 全員協は非公開で開かれた。選択肢として挙げられた(1)指定管理者制度での民間委託(2)無床診療所への転換(3)そのほかの方法−についてあらためて協議した。
 協議終了後、大川喜代治議長は「病院存続を主張する人や、病院の使命は終わったという議論もあったが、大多数の議員が無床診療所を選択した。小さくなるが市で地域医療を守る」と話した。
 外川市長は「議員の意見を基に、検討委員会などで詰めていく。病院を休止する期間をできるだけ短くしたい」と答えた。
 診療所開設までの手続きとして、設置条例の制定など事前準備や、県への開設申請で実質一カ月近くかかる。前提となる常勤医の確保について、同市長は「あてはあるが、今の職場を辞めて来ることになるので、まだ期日がはっきりしない」と話しており、診療所開設時期は未定だ。
 通院している女性(70)は「これからどこへ行けばいいのか」と困惑顔。別の女性(78)は「救急車が来ない診療所なんて意味がない」と失望感をあらわにした。市内の主婦(50)は「市長はもっと市民の声に耳を傾け、患者を大事にしてほしい。転院させられた患者は泣いている」と訴えた。
 一方、市側は病院職員に対し、五月末までは病院休止中も勤務してもらうと説明したが、市職員労働組合は今後の処遇について団体交渉を申し入れた。

副院長は,もともと5月末までには,平川病院を退職し,むつ市の診療所(ここも以前は病院だったところですが)に向かうこととなっていたとのことですので,流れは止められなかったと言うことですね。
それにしても,この地方格差を招いているのは,そういう格差拡大を容認する政治を結果として支えているのは,自分たち有権者だという現実!!

2008年11月11日 佐野市民病院の指定管理者制度など

2008年10月1日から,佐野市民病院は指定管理者による経営が始まっています。指定管理者となったのは医療法人財団「青葉会」(東京都品川区)です。公募ではなく,医療法人「全仁会」からの推薦を受けたものです。
また,国保平川病院については無床の国保平川診療所として診察を行っています。