我が国の産業技術史資料2万点余りが廃棄へ

3月13日の読売新聞(関西発)の記事から

博物館頓挫で産業資料2万点余廃棄へ…大阪府など決定
万博記念公園大阪府吹田市)に建設構想があった「国立産業技術史博物館」用に、大阪府などで作る協議会が収集した発電所のタービンなど、江戸時代以降の産業資料2万数千点が、一度も公開されないまま、廃棄処分されることがわかった。構想はバブル経済崩壊後に頓挫し、公園内の旧万博パビリオン・鉄鋼館に保管されていたが、16日にも処理業者による搬出作業が始まる。専門家らは「日本のものづくりの歴史を語る貴重な資料。保存すべきだ」と批判している。
 府、大阪市大阪商工会議所日本産業技術史学会で作る同博物館誘致促進協議会が6日、廃棄処分を決定した。協議会は1986年に設立されたが97年以降は、休眠状態になっており今月末で解散する。
 資料は、関西電力東京農工大など約30の企業や大学、個人から寄贈されたもので、江戸時代の鋳物工場で使われた木製の人力クレーンや、大阪砲兵工廠(こうしょう)で使われた機械など歴史的な価値の高いものも多い。
 協議会は、博物館構想が頓挫後、資料の受け入れ先を探していた。しかし、鉄鋼館が、万博資料館「EXPO’70パビリオン」として改修されることになり、保管場所がなくなった。
 兵庫県尼崎市が、かつて同市にあった発電所の部品を引き取り、公開を検討するほか、大阪大も一部を受け入れるが、大部分はスクラップとして処分される見通しだという。
 事務局の大阪商工会議所は「万博記念機構の厚意で無償で保管してもらってきた。倉庫を借りれば年1000万円以上かかり、保管を続けることはできない」と説明。大阪府も「財政難で新たな府費投入が許される状況ではない」とする。
 一方、廃棄処分に反対した同学会の三宅宏司会長(武庫川女子大教授)は、「資源もエネルギーもない日本が先進国入りした理由を表す物証。他にはない物も多く、寄贈してくれた方々に申し訳ない」と話す。
 文化庁は「資料の価値が十分周知されていなかったため、引き取り手が現れなかったようだ。廃棄処分は極めて残念」としている。

同じく、共同通信ニュースから

万博公園の保管資料2万点廃棄へ 産業博物館頓挫で
大阪府吹田市万博記念公園に建設構想があった「国立産業技術史博物館」に収蔵するため集められ、公園内の施設に保管されたままになっていた江戸時代以降の産業資料2万数千点の大半が廃棄処分されることが13日、分かった。
 鋳造関係の文書や繊維、金属加工の機械類など。企業や大学、個人が寄贈し、大阪砲兵工廠で使われた旋盤や1930年代の関西電力発電所のタービンなど歴史的価値が高いものも多いという。
 博物館構想は70年代後半に始まり、86年には府や大阪市大阪商工会議所日本産業技術史学会が誘致促進協議会を設置。しかしバブル崩壊や財政難で計画は頓挫、90年代後半から協議会は休眠状態になった。
 資料は旧万博パビリオン「鉄鋼館」に保管されていたが、同館の改修を前に撤去を迫られた。協議会は廃棄処分と今年3月末での解散を決定、同月中に機械類の撤去を始める。一部が大学などに引き取られるほかは大半がスクラップになるという。

何を保存し、何を保存しないかというのは難しい問題。しかし、産業技術史学会の目を通して寄贈され、収集されたものが多いであろうことを考えれば、これらの資料は保存が望ましいものではないかと思います。
国立科学博物館とか、トヨタ産業技術記念館とか、何とか引き取り手が出ないものかと思います。
それにしても、EXPO’70パビリオンとかいうもの。まあ、記憶を保存する博物館と言えば聞こえはいいのですが、どうも、新たな作り物が中心の展示館のようにも感じます。それを作るために、産業遺産を捨てる。 本末転倒とはこのことでしょう。

追記

国立産業技術史博物館については、神戸国際大学教授の中村智彦氏のブログに詳しいことが出ています。
中村智彦氏は1999年に「博物館新設構想中断による問題の発生とその原因について」(日本ミュージアムマネージメント学会研究紀要第3号,pp.25-32)を出されています。それを読むと,国レベルでも文部省や通産省に,時期時期に,理解者がいたであろうことも想定できますし,バブル崩壊など時代の波に翻弄されたことも想定できます。その中で,大阪府の予算に於いて,国立産業技術史歴史博物館誘致費用は1996年度の85万円を最後に打ち切られてしまいます。その後は,思いを共有する人(個人や法人)の,ほぼ手弁当で維持されてきたことになります。
そして,思いを共有する個人が時代とともに高齢化し,誘致活動自体やネットワークの維持が低調になっていく。それに加え,誘致の主体が,おそらく法人格を持たない「協議会」であって,資料の法的な所有権すら明らかでないことなどの問題がそのまま残ってしまったことも,中村氏の論文で述べられています。
そして,中村氏は「最悪の場合,保管状況が悪化して,資料価値が低下してしまうこと」への懸念も表明しています。
今回の出来事は,その懸念を超え,最最悪の状況となってしまったということになります。
時間はほとんどないところですが,重ね重ね,国,国立科学博物館日本経団連,関係工業会等の支援を期待します。

3月19日追記

3月19日のエントリーでも紹介しておりますが,エル・ライブラリー 大阪産業労働資料館で,産業技術史資料のうち文献資料の救出プロジェクトが実施されます。救出の機会は3月23日(月)の1日のみ。

緊急のお願い。図書運搬ボランティア募集! 本を救え!大作戦
ボランティアを募集します。
来週、3月23日(月)(場所:エル・おおさか、時間:13:00ごろ〜)に本の運搬をお手伝いください。

お近くの方の支援を願っております。
(追記)→19日(木)午前10時54分、必要人数が集まり,ボランティアの受付を終了したとのこと。素晴らしい。