府立国際児童文学館続報

2月24日の朝日新聞の記事から

大阪の国際児童文学館「運営費半減約束するから存続を」
橋下徹知事の意向で大阪府が廃止・移転の方針を打ち出した府立国際児童文学館(同府吹田市)が24日、府から受け取る運営費の半減や利用者の倍増を約束する代わりに、存続を求める要望書を公表した。廃止・移転のための予算案や条例案を審議する府議全員に郵送し、府教委にも提出したという。
 文学館は要望書で、府から毎年支出されている指定管理委託料約1億7千万円について、09年度以降は、館長の報酬を半額にするなど人件費の削減や吹田市に財政支援を求めるなどして8千万円に抑えると約束。年間約5万人の利用者も、展示を充実させるなどして10年度には10万人に増やすとしている。
 府は文学館の蔵書や機能を府立中央図書館(同府東大阪市)に移す考えで、24日に開会した2月府議会に移転費用約5億9千万円を盛り込んだ予算案と廃止条例案を提出した。府教委地域教育振興課の担当者は「文学館の約束には説得力がない。実現できるか疑わしい」と話した。

博物館は,そしておそらく文学館も,その保有する資料は人類共通の財産であって,その価値を維持し,または増大させながら,確実に将来世代に受け継ぐことが使命です。単なる展示会は博物館とは全く異なるものですし,個人所有のコレクションも,未来への保存の担保がないため,博物館とみなせないと,私は思っています。
逆に言えば,博物館や文学館の使命である,資料の将来への継承のために,博物館や美術館という機関の存続は,それ自体が成し遂げられるべき使命となっています。
その点で,今回の国際児童文学館の「要望書」は,本来の使命を守り抜くためのぎりぎりの提案と感じます。教育委員会の担当者が,その思いを感じることができないことが,悲しく,なさけないです。

同日追記

2月25日の産経新聞の記事から

大阪の橋下知事 廃止方針の国際児童文学館の資料約12万点を返還へ
大阪府財政再建の一環として2月定例府議会に廃止する条例案を提出した国際児童文学館(同府吹田市)をめぐり、児童文学者の鳥越信さんらから寄贈した資料の返還を求められたことについて、橋下徹知事は25日、「寄贈されたから自分の物と突っぱねるのは、大変失礼だ」と述べ、寄贈された資料約12万点を返還する意向を明らかにした。鳥越さんらは同日午後、記者会見する予定。
 橋下知事は「一度、寄贈されたものは、返還できない」とする綛山(かせやま)哲男教育長に「府の所有物だから返さないというのは、府民感覚から大きく逸脱している」と返還に向けた検討を求めたことを明らかにした。
 その上で、府が寄贈者から返還を求められた場合、すべてのケースで返還すると限らないとしながらも、「今回は府が文学館の廃止という方針転換をしたので、寄贈者の意思を最大限配慮しないといけない」と述べた。
 鳥越さんらは先月下旬、文学館の廃止をめぐって、橋下知事と意見交換。現在の場所での存続を求めるとともに、府立中央図書館(東大阪市)に移転後の資料の公開方法などに懸念を示し、「移転を強行するなら本を返してほしい」と訴えていた。
 国際児童文学館は、昭和59年に開館し、蔵書は約70万点。府は来館者が少ないことなどを理由に廃止し、中央図書館に移転する方針を決めた。しかし、9月定例府議会で、当面現地で存続させることを求める請願が採択されるなど、廃止、統合を反対する声も根強い。
 府は平成21年度当初予算案に、移転先の中央図書館の書庫改造などを行うための費用として、5億8700万円を計上した。

鳥越氏が返還を希望することを表明していたことは,この日記の2008年6月6日の記事『大阪府の文化施策続報』の追記でも触れました。
確かに,現今の橋下府政の下で,人類共通の財産となっている大阪国際児童文学館の資料の一部(もとは鳥越氏所蔵品)の価値を維持し,高めるためには,鳥越氏が一度返還を受け,再度,パブリックなものとして仕切り直すことが確実です。返還は,その意味においてのみ,歓迎します。
しかし,優れた使命と活動を行っている国際児童文学館という機関が存続する限りは,そこが所有し,保管するのがベターであることは言うまでもない。
まあ,橋下氏の脊髄反射的な反応は,斜め上でした。

2月27日追記

コメントもいただきましたので追記します。
文学館の資料は,博物館の資料同様,文化的学術的価値を持つものとして考えられます。
 その価値を大事にしたいと思う人(鳥越氏側)が選ぶ選択肢は,
(1)調査研究機能,収集機能,公開機能を持つ国際児童文学館が保存・管理し,利用に供するとともに将来世代に継承する。
(2)それが叶わないのであれば,少なくても同様レベルの調査研究機能と保存・管理機能を持つところに委ねられるまで,自分で保管する。
(3)さらに,それも叶わないのであれば,少なくても適切に保存・管理し将来世代に継承できるようにする。
というものではないかと考えます。
(1)国際児童文学館の存続要求,(2)が返還要求,(3)が中央図書館に移転するが,協議の上,資料の特性に応じた取り扱いをとってもらいたいという要求になります((3)の体制によっては,(1)(3)(2)の順になるかもしれません)。


一方,橋下府政側として考えられる選択肢は普通,
(1)国際児童文学館を廃止し,中央図書館に移転する。資料は博物館資料というより原則として原本閲覧可能な図書館資料として取り扱う。
(2)国際児童文学館を廃止し,中央図書館に移転する。資料は博物館資料的に取り扱い,その価値を減損しないよう専門職員を入れるなどの措置をとる。
(3)国際児童文学館の予算を削った上で存続させる。
というものではないかと考えます。


何しろ,今回の資料は,寄託資料ではなく,あくまで寄贈資料です。所有権は府に移転しています。博物館資料は売却されることは原則あり得ませんから当然,財政的価値はゼロとして見なすべきものですが,文化的・学術的価値を有している府の財産,府民の財産となっているものですから,返還ということは,普通は選択肢には入りません。


以上,つまるところ,鳥越氏側が返還要求を出した時点では,両者が折り合えるところは(A)国際児童文学館の存続,(B)それが叶わないときは次善の策の協議のどちらかのわけです。
鳥越氏側の選択肢としては,存続が第一順位ですが,返還要求も選択肢の内です。ただ,府が飲むわけはないと鳥越氏が考えるのも当然です。ところがそれに対して,橋下氏の回答は,(A)(B)のどちらでもなかった。その驚きを,私は「斜めの方向」と表現しました。
 さらに,大阪府で強いて所有する価値があると思っていないから返すというような橋下氏らしい雰囲気を感じたものですから,私は「斜め上」と表現したわけです。

さらに同日追記

橋下氏が国際児童文学館の研究機能はいらないと表明したこと,継続性は,知事が替われば担保できないと表明したことが,博物館に与える影響を懸念します。大阪府立の博物館・美術館へ資料や絵画を寄贈しようとする人が,今後少なくなるだろうということです。

3月17日追記 財団法人国際児童文学館の人件費

メモだけ。平成20年7月の大阪府会臨時会の一般質問(7月10日:若林まさお議員の質問に対する教育長の答弁)から

府の派遣職員以外では、非常勤の理事長や館長のほか、プロパー職員として7名の専門員や司書がおり、15名の非常勤スタッフをあわせると、総勢27名で運営されており、人件費の総額は年間約1億円となっております。