大阪府立弥生文化博物館は廃止か。

2月5日2月12日のエントリーで,大阪府の橋下「改革」により,弥生文化博物館や近つ飛鳥博物館の機能と資料が危機に瀕していることを触れました。
昨日,4月11日に,大阪府庁内の改革プロジェクトチームによる「財政再建プログラム試案」(私案か?)が公表され,Webでも公開されています。基本パターンは施設等の維持管理費が1割減,事務費が2割減ということですね。
府内の市町村との関係のある事業についても,かなり俎上に上げています。より住民に近く,住民サービスに責任を持つ市町村からの反発は必至ですね。
さて,気になる府立博物館について,プロジェクトチームの試(私)案をかみ砕くと次の通り。

弥生文化博物館
廃止。近つ飛鳥博物館への移転・集約化。
コレクションは厳選して移転,他は知らない。
博物館の施設は売却,ただし,池上曽根遺跡にある展示部分のみは市への移管を検討。

○近つ飛鳥博物館
存続。他の博物館からの機能を集約し,府の総合歴史博物館に位置づける。

○泉北考古資料館
施設が老朽化しているため,まず堺市への移管を検討。
移管できない場合はコレクションは厳選して移転,他は知らない。

○狭山池博物館
まだ,建って7年と新しいため,地元大阪狭山市への移管はせず,共同運営による有効活用を検討する。
入館料の有料化や開館日の縮小によりコストの削減を図る(パフォーマンスも減るけれど)。

○現代美術センター
民間に売却した旧産業技術総合研究所跡地にある府所有施設に移転し,
民間主導の町づくりにおいて,アートと都市融合のまちのコンセプトづくりとして機能させる。

○上方演芸資料館
展示機能及び演芸ライブラリー機能のみ存続させ,既存の寄贈資料の保存・展示は確保する。
それ以外はやらない。

○大型児童館ビッグバン
とりあえず,まだ新しいから存続させる。

○花の文化園
場所が悪く,現状での売却は無理。そのため,当面,経費を縮減することとし,
その間,南河内地区の企業,NPO,ボランティアの支援を仰ぐように。うまくいかなかったら廃止。

○国際児童文学館
機能は中央図書館に移転させるので,その指示に従うように。
これまでの独自の機能を担ってきた財団法人は廃止。
施設も撤去を検討。

何か,現場の実状を無視して,本庁のお役人が,知事足下の本庁にとっていいとこどりしているように思えてしょうがない。


そのほか,気になるところでは。。。
地方独立行政法人大阪府立大学への運営費交付金は,研究費等の1割削減,事務経費の2割削減,入学金の値上げを行い,府の財政支出を133億円から15億円減少させる。
救命救急センター運営関係業務については,大阪赤十字病院や三島救命救急センター(財団法人大阪府三島救急医療センター運営)への府単補助金の廃止。泉州救命救急センター中河内救命救急センター(それぞれ泉佐野市,府保健医療財団に委託:ただし,中河内については,府保健医療財団を廃止しセンターの運営管理を病院機構等へ移管することも別に検討されている)の運営委託経費の1割削減。
学校教育では,小学校1,2年生において,1クラス38人から1クラス35人編成への移行が昨年完了したところであるが,来年度(平成21年度)から1クラス40人制度へ戻す。
財団法人大阪府文化財センターについては,「一定の自己収入を有する法人で、府の財政的・人的関与を最小限に抑制し、自立化を促す」と。そして発掘事業には市場化テストを導入。
財団法人大阪国際児童文学館については,蔵書を図書館へ移し,法人は廃止。


それにしても,弥生文化博物館の個表を見ても,「利用者一人当たりの府費投入額」とかいう,訳の分からない数字を算定していたり,誤字が山のようにあったり,そのやっつけ仕事ぶり,くだらなさにあきれかえる。・・・ああ,「利用者数」というのが出ていますね。その下に入館料金も書いてあるところを見ると,ここで言う博物館の利用者というのは、展示見学者のことだけを出した数字なんですね。それにしては「利用率」とは齟齬が出てくる。まあ,博物館を単なる公開施設としか考えていないプロジェクトチームの示した様式にあてはめたら,こうならざるを得ないのかもしれませんが。
学芸員も,コレクションも,こんなところにいない方が幸せでしょうねと,ちょっとPTに対し怒りモードです。

4月18日追記 disposal toolkit

2月5日のエントリーで,コレクションの廃棄について触れましたが,イギリス博物館協会(Museum Association)のページに,コレクションの廃棄マニュアル(Disposal toolkit)が掲載されています。大阪府庁の担当者は良く読んで置くように。。。。
ちなみに,ダイジェスト版(Disposal digest)も。

5月2日追記 プロジェクトチームと府教委の公開討論&遺跡

5月2日の朝日新聞の記事から

橋下PTと府教委、公開討論で激突
大阪府の改革プロジェクトチーム(PT)がまとめた財政再建案のうち教育施策をめぐり、1日、PTと府教委が約1時間の公開討論をした。PTが廃止や削減とした事業や施設について、府教委はすべて意義を強調、討論は平行線のまま終わった。橋下徹知事が6月に判断を下す。
「小学1、2年生の1学期の欠席者が約1万人減った。授業がわかりやすい、学校が楽しいという子が増え、保護者の9割が評価している」
 綛山哲男教育長は冒頭、小学1、2年生の35人学級を廃止し、40人学級に戻すというPT案に強く反発した。一方、PTは「毎月児童1人あたり1500円を負担している現状をどう考えるのか」と切り返した。
 いじめや不登校などに対応する教職員OBや非常勤講師の人件費カット、学校のいじめ対応を専門家が支える「こども支援チーム」の廃止についても、府教委は「子どもの命を救うセーフティーネットが壊れる」と主張。
 府立の弥生文化博物館(和泉市)を廃止し、近つ飛鳥博物館(河南町)に機能を集約する案では、PTが「遺跡がある場所に博物館がなくてもいいのでは」と迫ったのに対し、府教委は弥生、古墳それぞれの遺跡のそばにあれば歴史を肌で感じることができると、教育効果を強調した。

例えば35人学級問題について,「毎月児童1人あたり1500円を負担している現状をどう考えるか」というプロジェクトチームに対し,教育効果等35人学級の意義について主張する府教委。いまどきの行革ではよくある構図。
CVM(仮想市場評価法)*1を用いて,35人学級から40人学級に移行することで失われる価値を,円の単位で表すという手法もありますが,CVMを行うにも時間,手続き,予算が必要ですし,どうせプロジェクトチームは批判するんでしょうね。
府教委とプロジェクトチーム,どちらが正しく,どちらが間違いいということもできませんし,おそらく,それぞれの担当者は一生懸命なんでしょう。ただ,プロジェクトチーム側は,「児童1人あたり1500円」の負担を軽減するというメリットだけでなく,どのようなデメリットが生じるのかということも府民には説明すべきでしょうから,説明できていない現時点ではどうしても府教委側にシンパシーを感じます。
一方,昨日午前中にはこんなニュースも。
5月1日の産経新聞の記事から

橋下知事が売却方針の博物館敷地から大型首長墓 売却は不可能?
大阪府橋下徹知事直轄の改革プロジェクトチーム(PT)がまとめた「財政再建プログラム試案」(PT案)で施設売却の方針が示されている府立弥生文化博物館(和泉市)の敷地地下に、弥生時代の大型首長墓が埋まっていることが1日、関係者の話で明らかになった。隣接する国指定史跡・池上曽根遺跡の関連遺跡として追加指定される可能性があり、売却は事実上、不可能だという。同博物館を所管する府教委は同日午後、改革PTとの公開議論でこうした説明を行うとみられる。
 同博物館は平成3年、隣接する池上曽根遺跡の発掘調査の成果をもとに、弥生時代をテーマにした日本唯一の歴史博物館として開館した。建物の地下遺構は破壊されていたが、国道26号からの進入路近くからは、同遺跡の首長層を埋葬した大型方形周溝墓が数基確認された。このため、墓群は盛り土して保護している。
 この土地を売却する場合には発掘調査を行うが、史跡から100メートルほどしか離れておらず、「近畿で数少ない弥生の大型周溝墓群」として、追加指定されるとみられる。
 PT案は同博物館について、展示物を「近つ飛鳥博物館」(河南町)に移転し、施設は売却するとしている。
都出比呂志・大阪大学名誉教授(考古学)の話「弥生博物館の周囲が墓群であることは、これまでの調査でわかっている。近畿の大型周溝墓は残されておらず、きちんと調査すれば、追加史跡の価値は十分ある」
【池上曽根遺跡】大阪府和泉市池上町と泉大津市曽根町にまたがる弥生中期の日本を代表する環濠集落で、東西南北各約1.5キロ。昭和40年代から本格的な発掘調査が行われ、中心部の約11ヘクタールが国史跡に指定されている。平成7年には高床式の大型掘立柱建物跡がみつかり、ヒノキ柱の年輪年代測定の結果、紀元前52年に伐採されたことが判明。畿内の弥生中期の先進性が証明された。

「首長墓」という単語が,「首長竜」に見えてしまった。

5月8日追記 市民の会結成

毎日新聞大阪版の5月8日の記事から。

弥生文化博物館:存続求め、和泉で市民の会結成−−11日集会
府改革プロジェクトチームの財政再建試案(PT案)で廃止の方向が示された和泉市池上町の府立弥生文化博物館の存続を求めようと、地元住民らが市民の会を結成した。11日午後2時、同館近くの池上曽根史跡公園内で「存続を求める市民集会」を開く。同会は10万人を目標に既に約5000人分の署名を集めており、11日も会場周辺で署名活動をし、今月中旬に橋下徹知事あてに、集まった署名と要望書を提出する方針。
 PT案では同館を廃止し、府立近つ飛鳥博物館(河南町)へ統合する方向性が示されている。これに対し、和泉、泉大津両市の会社員や主婦、市議らが「府立弥生文化博物館を守る市民の会」を結成。同館が国史跡で弥生時代の池上曽根遺跡のすぐ近くにあることを強調し「博物館が遺跡の地にあってこそ、一体となって弥生時代を実感することができる」と訴えている。
 集会では、佐古和枝・関西外国語大学教授らが、同館の存続意義や魅力などを基調講演で紹介し、シンポジウムもある。また、PT案に異議を申し立てる宣言書を採択する予定。【久保聡】

大阪府の博物館をみんなで支援しようのサイトにも集会の情報が出ています。どこかの公会堂ではなく,地域の歴史のよりどころのシンボルであり史跡のシンボル的な展示でもあるいずみの高殿前で行うというのがいいですね。
大阪府行政が,もし,弥生文化博物館の府立近つ飛鳥博物館への統合を強行した場合,池上曽根遺跡からの出土品については,池上曽根遺跡への即ち地域への「返還」運動が起こるかもしれないなと感じてしまいます。

5月18日追記 文化経済学会と文化財保存修復学会

5月18日の読売新聞の記事から

「正しい歴史像に必要」…弥生文化博物館長が存続訴え
橋下徹知事直轄の改革プロジェクトチーム(PT)の財政再建プログラム試案に、統廃合が盛り込まれた大阪府弥生文化博物館(和泉市)の金関恕館長が17日、大阪市天王寺区で開かれたシンポジウムで、「博物館は正しい歴史像をつくるのに重要」と存続を訴えた。
 シンポは「21世紀の博物館と考古学」(文化経済学会関西支部主催)。金関館長は基調講演で「資料を保存・展示し、市民に理解してもらうことが歴史に対する貢献」と博物館の役割を強調。約300人の参加者に「活動を続けられるよう支援をお願いしたい」と求めた。
 また、文化財保存に携わる研究者らでつくる文化財保存修復学会はこの日、福岡県太宰府市で開いた総会で、同博物館などの統廃合案への抗議声明を決議した。「博物館施設は、文化財保護の意義を市民にアピールし、文化財を後世に伝える重要な場」とした上で「行財政改革の名のもと、行政が犠牲を強いることに大きな危機感を感じる」と訴えている。

大阪府,そして大阪府民の選択はどうか。


5月21日追記

5月20日の毎日新聞大阪版の記事から

弥生文化博物館:存続へ1万人の署名 和泉市「市民の会」提出
府改革プロジェクトチームの財政再建試案(PT案)で廃止方針とされた府立弥生文化博物館(和泉市)を巡り、地元の住民らで作る「市民の会」(南次郎会長)が19日、存続を求める府民の署名1万793人分を三輪和夫副知事に手渡した。
 南会長は「博物館や隣の遺跡公園では、子供たちがニコニコ笑っている。府にとっても地元にとっても、重要な博物館」と意義を説明し、署名とともに約600人の子どもたちが書いたメッセージ集を提出した。
 三輪副知事は「いろんな議論を踏まえて知事が判断を見極め、最終的には議会で決定する」と述べるにとどめた。【長谷川豊】

上記5月8日追記分で書いた市民の会の運動の一環ですね。まだ活動は始まったばかり。さらに声が拡がっていくことを。

6月4日追記

5月30日の日経ネットの記事から

「歓迎」の北の湖理事長 明暗分かれる府施設
大阪府財政再建策で橋下徹知事は30日、見直し対象となっている各施設の「将来」に言及。「一転存続」「やっぱり廃止」。関係者の明暗が分かれた。
・・・
 弥生文化博物館は、学芸員による出張講座など“汗をかく”アイデアを提案して、ひとまず統合を免れた。支援団体の広田幸子事務局長も「今までと違う博物館になる」と期待を込めた。
 これに対し「廃止」を覆せなかった国際児童文学館。・・・男性職員は「仮に文学館の機能がまったく理解されていないのであれば残念。正式決定ではないので、いちるの望みは持っていたい」と肩を落とした。
 微妙なのは上方演芸資料館ワッハ上方)の移転。・・・

まだはっきりとはしませんが,弥生文化博物館の近つ飛鳥博物館への統合は,何とか避けられそうな状況。ほっとします。とはいえ,かなりの経費削減は免れないでしょうが。
 国際児童文学館は,まさに大阪発の先導的な文化的試み。これが府立図書館の児童図書資源という状況に後退してしまうのかどうかを注目。

8月20日追記

忘れていましたが,6月6日のエントリーに続報を上げてあります。

*1:非利用価値を経済的に評価する手法。1989年のアラスカでのタンカー原油流出事故による自然環境損害額をCVMでアラスカ州は算定し,損害賠償を請求。産業界はCVMを批判攻撃したということもある。