小川原湖民俗博物館 &博物館相当施設についての覚え

1月26日の東奥日報の記事から

小川原湖民俗博物館閉館の可能性
国指定の重要民俗文化財を含む上北地方の民具など約一万五千点を所蔵している古牧温泉青森屋の「小川原湖民俗博物館」(三沢市)が閉館する可能性が出てきた。同館は約二年前から休館中だが、博物館の休館期限を二年と定めた博物館法の規定によると、三月末までに再開方法が定まらない場合には博物館登録が取り消される。経営再建中の古牧温泉は、今後の運営方法について三沢市などと協議を進めており、「一月中に方向性をはっきりさせたい」との意向を示している。

いえ,別に博物館法でいう博物館の登録が取り消されたとしても,閉館する必要はないのですが。そもそも,登録を受けていない博物館は,公立でも私立でもたくさん存在しますから。
wikipediaには,古牧温泉は2004年11月に経営破綻後,ゴールドマンサックスの主導で経営再建が進められてきたこと,2008年4月に古牧温泉のグランドホテルが古牧温泉青森屋と名称変更したことなどが書かれています。また,車庫の屋根裏には戦前の一時期,渋沢敬三の私設博物館「アチック・ミュージアム」が置かれたこと,そして小川原湖民俗博物館は渋沢敬三の博物館思想を具体化したものと記述されています。
ただ,登録博物館の設置者は,地方公共団体か財団法人,社団法人,宗教法人等であることと,博物館法に定められていますので,小川原湖民俗博物館の設置者も株式会社三沢奥入瀬観光ではないのだろうと考えられます。

小川原湖民俗博物館については,久垣啓一さんのブログ(2006年5月1日)にも詳しく紹介されています。

追記

青森県教育委員会ページで見てみると,(少なくても2005年10月段階では)小川原湖民俗博物館は博物館相当施設とされています。そうであれば,会社立でもおかしくはありません。
いずれにせよ,極めて先導的な博物館であったもので,もし,閉館ということになれば博物館史的にも大きな損失となるように思います。


以下参考までに博物館相当施設に関する条文の推移を追ってみます。
 まず,1955年7月の博物館法の改定で博物館相当施設について定められています(博物館法の一部を改正する法律:昭和30年法律第81号)。

博物館法
第二十九条 博物館の事業に類する事業を行う施設で、文部大臣が、文部省令で定めるところにより、博物館に相当する施設として指定したものについては、第七条及び第九条の規定を準用する。

そして,地方教育行政の組織及び運営に関する法律の施行に伴う関係法律の整理に関する法律(昭和31年法律第163号)により,博物館法第7条が削除され,代わりに第27条第2項が追加されています。何か,条文が変なことになってしまっていますが。

博物館法
第七条 文部大臣は、都道府県の教育委員会に対し、都道府県の教育委員会は、市(特別区を含む。以下同じ。)町村の教育委員会及び私立博物館に対し、その求めに応じて、博物館の設置及び運営に関して、専門的、技術的な指導又は助言を与えることができる。
第二十七条
 都道府県の教育委員会は、私立博物館に対し、その求めに応じて、私立博物館の設置及び運営に関して、専門的、技術的の指導又は助言を与えることができる。
第二十九条 博物館の事業に類する事業を行う施設で、文部大臣が、文部省令で定めるところにより、博物館に相当する施設として指定したものについては、第七条及び第九条及び第二十七条第二項第九条の規定を準用する。

昭和46年6月には第29条を変更し,都道府県教育委員会が相当施設の指定を行うようになりました(許可、認可等の整理に関する法律:昭和46年法律第96号)。条文もちゃんとなりました。

博物館法
第二十九条 博物館の事業に類する事業を行う施設で、文部大臣が国が設置する施設にあつては文部大臣が、その他の施設にあつては当該施設の所在する都道府県の教育委員会、文部省令で定めるところにより、博物館に相当する施設として指定したものについては、第九条及び第二十七条第二項第九条の規定を準用する。

昭和61年12月に第9条が削除されました(日本国有鉄道改革法等施行法:昭和61年法律第93号)

博物館法
第九条 博物館資料の日本国有鉄道による輸送に関する運賃及び料金については、国有鉄道運賃法(昭和二十三年法律第百十二号)第八条の規定の適用があるものとする。
第二十九条 博物館の事業に類する事業を行う施設で、国が設置する施設にあつては文部大臣が、その他の施設にあつては当該施設の所在する都道府県の教育委員会が、文部省令で定めるところにより、博物館に相当する施設として指定したものについては、第九条及び第二十七条第二項の規定を準用する。

衆議院の制定法律のページが最もオフィシャルなものですが,リーガルメディア株式会社の法なび法令検索のページは,改定過程を追いやすくなっています。

2015年4月14日追記

4月13日の東奥日報の記事によると,13日に株式会社三沢奥入瀬観光開発は,4月20日から星野リゾート青森屋の敷地内にある旧小川原湖民俗博物館の取り壊しを始めると,発表したとのこと。保管されている民具など約1万点の収蔵品は青森屋敷地内の遊休施設に一時移設するが,その後の移設先はまだめどがたっていないと。

2015年11月28日追記

11月28日の陸奥新報記事から

民俗資料の活用を模索/弘大
全国で、民具をはじめとする地域の貴重な資料が行き場を失いつつある。博物館の閉館に加え、資料が膨大なため保存場所や活用の仕方を見いだせないのが現状だ。民間の博物館である小川原湖民俗博物館(三沢市星野リゾート青森屋敷地内)もその一例で、閉館による今年4月の取り壊しの際、1万点以上の民俗資料が行き場を失っていたところを市民や行政・民俗学関係者、弘前大学が“救出”し、緊急避難的に現在それぞれが分担して保管。弘大地域未来創生センターでは、この資料の保存・活用プロジェクトを立ち上げ、南部地方の民俗資料の次世代継承への道を探り始めた。
小川原湖民俗博物館の収蔵品の一部を保管している弘大には学術関係者や博物館の関係者が次々と訪れており、民俗資料の未来についての関心は県内外問わず高い。16日には渋沢史料館(東京都)の井上潤館長らが弘大を訪れ、資料の内容や保管状況を確認した。
【写真説明】井上館長(右)ら全国の関係者も行く末を心配する小川原湖民俗博物館収蔵の資料の数々。弘大の学生、教員が一体となって保存・活用の道を探る=16日、弘大資料館

弘前大学資料館に期待ですが、できましたら、もともとの小川原湖民族博物館のコレクションが弘前大に再度集中し,一括して保存し継承できることを期待します。

2017年3月16日追記

3月16日のデーリー東北の記事から

小川原湖民俗博物館の資料1カ所に保存
三沢市教委は4月、旧小川原湖民俗博物館(同市)の収蔵品で、星野リゾート青森屋(旧古牧温泉)が一時保管していた民具など約3千点を、同市六川目2丁目の市六川目団体活動センターに移す。センターには既に同館の8679点を移設済みで、計1万点を超える資料が一カ所にそろうことになる。

この六川目活動センターは、2006年に廃校となった六川目小学校の建物を利用した施設。保存環境としては、それほどよくないというのが実際のところでしょう。でも、これ以上は望んでもしょうがない。 星野リゾートがさらに負担するとも思えず。
日本の民俗博物館の歴史にとって、とても貴重な資料群と言えるものが、保存・継承されていくことを期待します。