博物館での図録の頒布は公益事業か収益事業か
「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」(平成20年4月11日:内閣府公益認定等委員会)では,「【参考】公益目的事業のチェックポイントについて」の「【補足】横断的注記」において
収益事業等は明確に区分する必要がある。(例えば、博物館で売店事業や食堂事業を営む場合、当該事業は博物館事業とは区分する必要がある。)
という記載があります。例示という形ではありますけれども,「ミュージアムショップは紛うことなく収益事業と考えるべし」という内閣府公益認定等委員会の姿勢を感じさせる記載です。
しかし,必ずしもそうではないのかもしれないと思わせる材料もあります。
この公益認定等ガイドラインについては,案の段階でパブリックコメントが行われました(2008年3月1日〜30日)。パブリックコメントの結果を見てみますと,この記述についても意見が寄せられています。
【意見】
収益事業等は明確に区分する必要があるとして、例示に博物館での売店事業や食堂事業を挙げているが、削除していただきたい。
【回答】
収益を目的とした売店や食堂は、典型的な例として掲げたものです。(収益事業等以外を目的としているのであれば、その旨ご説明ください。)
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【回答】
認定法の規定上、収益事業等とは公益目的事業以外の事業のことです。
つまり,売店や食堂は必ずしも自動的に収益事業等として捉えられるものではなく,あくまで「収益を目的とした売店や食堂」を例示として挙げたという回答となっています。そのため,収益事業等以外(=公益目的事業)を目的としたミュージアムショップやカフェは,その旨を説明し,公益認定等委員会で納得が得られれば,公益目的事業として整理してもかまわないという回答のように思います。
公益目的事業の定義は,ここでの視点から簡単にはしょると,「文化及び芸術等の振興を図ることを目的とする事業」であるとともに「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する事業」であることです。そのため図録の販売については概ね次のようなチェックポイント等をクリアしていることを説明し,納得していただければ公益目的事業と認定されるように思います。
- 不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
- 専門家が適切に関与しているか(関与の形態としては、必ずしも法人で雇用している必要はなく、事業を遂行するに当たって適切な関与の方法であればよい)。
- いわゆる丸投げはないか。
- 公益目的として設定されたテーマを実現する内容になっているか。
- 公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えない
各地の美術館,博物館にあるいわゆるミュージアムショップでは,様々なものが販売されています。少なくてもそのうちの展示資料に関する図録やポスター,絵はがき,フィギュア等は,美術館,博物館での美的・知的体験を自宅でも実現する優れた教育的装置です。これらについて別会計,別事業として整理すれば,当該部分の「売店」事業は,ガイドライン上は優れて公益目的事業となります。
内閣府公益認定等委員会の公文書ですので,きちんと運用されるよう期待します。
ついでに,内閣府公益認定等委員会第13回(平成19年7月13日)の配付資料の「米国歳入庁におけるガイドラインの事例」(公益認定の話ではなく,あくまで非課税対象部分を定義しているガイドライン)から
米国では免税目的事業を明確に定めた上で、課税対象の非関連事業所得を定義。「非関連事業所得ではない部分」=「関連事業所得」を非課税としている。
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非関連事業所得は、免税団体(ironsand注:認定非営利法人と捉えて良い)が継続して営む取引又は事業による所得で、かつ当該団体の免税目的又は免税機能の遂行に実質的に関連していない所得である。
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美術館の飲食施設:
ある免税美術館が、美術館職員、従業員及び来館者が利用するための大食堂、カフェテリア及びスナック・バーを運営する。美術館の飲食施設は、来館者の興味を引くのに役立ち、かつ来館者は食事時間に外のレストランを探す必要がなく、美術展の鑑賞により多くの時間を費やすことができる。飲食施設があることによって、美術館の職員及び従業員が一日中美術館にいることもできる。したがって、美術館の飲食施設運営は、免税目的の遂行に十分貢献し、かつ非関連取引又は事業ではない。(ironsand注:そのため非課税)
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美術館のグリーティング・カード販売:
現代美術を展示する美術館が、他の美術コレクションによる選作が印刷された複製を載せたグリーティング・カードを販売する。各カードには、芸術家の名前、作品の題名又は主題、わかっている場合には制作日又は制作期間、及び美術館の名称が印刷されている。カードには適切な挨拶文が記載されており、依頼により、カードに氏名などを記入することができる。
当該団体は、美術館で運営している店でカードを販売し、かつ卸売店に数量割引で販売する。また、年間を通じて雑誌及びその他の出版物で広告されるカタログを通して通信販売でもカードを販売する。その結果、大量のカードがかなりの利益で販売される。
当該美術館は、所有権、メンテナンス及び芸術作品を一般人が鑑賞するための展示を基礎とする免税教育機関である。芸術作品の複製が印刷されているグリーティング・カードの販売は、一般人の芸術に対する意識、関心及び鑑賞力を高めることによって、美術館の免税教育目的の実現に十分貢献する。カードによって、その教育プログラムを共有するための美術館自体への来館者が増えるのを促進できる。カードが、利益を出して商業的に、かつ商業的なグリーティング・カード出版社と競合して販売されているという事実があるからといって、当該活動が、美術館の免税目的に関連しているという事実は変わらない。したがって、この販売活動は、非関連取引又は事業ではない。(非課税)
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美術館ショップ:
アメリカン・フォークアート展を維持運営した美術館が、美術館内で次のものを販売する店を運営する。
- 1) 美術館所蔵コレクションの複製及び他の美術館のコレクションからの美術品の複製(額、ハガキ、グリーティング・カード及びスライドに適した複製直し)、
- 2) 美術館所蔵コレクションからのアメリカン・フォークアート作品の金属、木材及びセラミックの模造品並びに他の芸術作品コレクションからの同様の芸術作品の模造品、
- 3) 芸術、特にアメリカン・フォークアートの歴史及び発展に関連する教育的文献及び学術的書物並びに土産品、並びに
- 4) 美術館が所在する都市の学術的書物及び土産品。
当該ショップは、所蔵コレクションに含まれている絵画の原画又は複製画の賃貸も行う。
すべての複製画には、芸術家の名前、複製された作品の題名又は主題及び美術館名が印刷されている。商品の各品目は、その販売が免税目的と関連しているかを判定するためには、個別に考慮されなければならない。美術館所蔵コレクションからの作品の複製及び模造品並びに当該美術館の所有でない芸術作品の複製を販売及び賃貸することは、芸術作品をより広い層の社会一般にとって身近なものとし、それにより社会一般の芸術に対する理解と鑑賞力が高まることで、美術館の免税教育目的の実現に十分貢献する。芸術関連文献の販売にも同様なことがいえる。よって、かかる販売活動は、非関連取引又は事業ではない。(非課税)
一方、美術館の所在する都市の学術的書物及び土産品の販売は、芸術又は芸術的試みと因果関係がなく、したがって、美術館の免税教育目的の実現に十分貢献しない。別の状況で、こうした製品の販売が他の免税教育機関の免税教育目的に関連しているという事実があっても、この結論に変化はない。更に、美術館が単に免税機能の実現に十分貢献する作品も販売しているからといって、当該作品の販売は、取引又は事業としての性格を失わない。したがって、当該販売は、非関連取引又は事業である。(課税)
これぐらいわかりやすいといいんですけれどね。なお,原本はこちら。
該当部分のみ引用すると次のとおり。
Museum eating facilities. An exempt art museum operates a dining room, a cafeteria, and a snack bar for use by the museum staff, employees, and visitors. Eating facilities in the museum help to attract visitors and allow them to spend more time viewing the museum’s exhibits without having to seek outside restaurants at mealtime. The eating facilities also allow the museum staff and employees to remain in the museum throughout the day. Thus, the museum’s operation of the eating facilities contributes importantly to the accomplishment of its exempt purposes and is not unrelated trade or business.
Museum greeting card sales. An art museum that exhibits modern art sells greeting cards that display printed reproductions of selected works from other art collections. Each card is imprinted with the name of the artist, the title or subject matter of the work, the date or period of its creation, if known, and the museum's name. The cards contain appropriate greetings and are personalized on request.
The organization sells the cards in the shop it operates in the museum and sells them at quantity discounts to retail stores. It also sells them by mail order through a catalog that is advertised in magazines and other publications throughout the year. As a result, a large number of cards are sold at a significant profit.
The museum is exempt as an educational organization on the basis of its ownership, maintenance, and exhibition for public viewing of works of art. The sale of greeting cards with printed reproductions of artworks contributes importantly to the achievement of the museum's exempt educational purposes by enhancing public awareness, interest, and appreciation of art. The cards may encourage more people to visit the museum itself to share in its educational programs. The fact that the cards are promoted and sold in a commercial manner at a profit and in competition with commercial greeting card publishers does not alter the fact that the activity is related to the museum's exempt purpose. Therefore, these sales activities are not an unrelated trade or business.
Museum shop. An art museum maintained and operated for the exhibition of American folk art operates a shop in the museum that sells:
- 1. Reproductions of works in the museum's own collection and reproductions of artistic works from the collections of other art museums (prints suitable for framing, postcards, greeting cards, and slides),
- 2. Metal, wood, and ceramic copies of American folk art objects from its own collection and similar copies of art objects from other collections of artworks,
- 3. Instructional literature and scientific books and souvenir items concerning the history and development of art and, in particular, of American folk art, and
- 4. Scientific books and souvenir items of the city in which the museum is located.
The shop also rents originals or reproductions of paintings contained in its collection. All of its reproductions are imprinted with the name of the artist, the title or subject matter of the work from which it is reproduced, and the museum's name.
Each line of merchandise must be considered separately to determine if sales are related to the exempt purpose.
The sale and rental of reproductions and copies of works from the museum's own collection and reproductions of artistic works not owned by the museum contribute importantly to the achievement of the museum's exempt educational purpose by making works of art familiar to a broader segment of the public, thereby enhancing the public's understanding and appreciation of art. The same is true for the sale of literature relating to art. Therefore, these sales activities are not an unrelated trade or business.
On the other hand, the sale of scientific books and souvenir items of the city where the museum is located has no causal relationship to art or to artistic endeavor and, therefore, does not contribute importantly to the accomplishment of the museum's exempt educational purposes. The fact that selling some of these items could, under different circumstances, be held related to the exempt educational purpose of some other exempt educational organization does not change this conclusion. Additionally, the sale of these items does not lose its identity as a trade or business merely because the museum also sells articles which do contribute importantly to the accomplishment of its exempt function. Therefore, these sales are an unrelated trade or business.
追記
本エントリーの趣旨は,図録の頒布は必ずしも収益事業と言い切れないのではないかということです。 公益事業に認定される余地があるのか,またどうすれば認定される可能性があるのか,までは言及するだけの力はありません。