国立博物館などに関する文化庁の検討会の提言

12月15日の産経新聞の記事から

国立文化施設に美術品確保を 基金設立を提案
文化庁の専門家検討会は15日、国立文化施設が高額な美術品や展示品を購入する資金を積み立てるために、運営する独立行政法人に新しい基金を設立する案をまとめた。財政削減で重要な美術品や展示品などを購入できないケースの解消を図る。
基金は、独立行政法人国立美術館」「国立文化財機構」「日本芸術文化振興会」「国立科学博物館」にそれぞれ設置し、国の交付金や寄付などをもとに、億単位で積み立てる計画。

10月21日のエントリー『国立文化施設等に関する検討会の議論から』で触れた専門家検討会が提言をまとめたとの記事ですね。
この検討会については,文化庁のサイトに,配付資料や議事概要が紹介されています。昨日,12月15日に第7回目の会議があったということで,早速その配付資料が掲載されています。
『国立文化施設等に関する検討会「論点整理」』というタイトルですので,最終提言というより,中間まとめのようなものでしょうか。文章中にアンダーラインが引かれている場所があって,強調するところなのかなとも思いましたが,どうやら,第6回目の会議の際の資料との主な差異点を示しているようです。印象に残りそうなところを。

国立文化施設等は、後述するとおり、独立行政法人への移行後、他の全ての独立行政法人と同様に一般管理費、業務経費や人員の削減が一律に課せられている。こうした状況は、法人の使命の達成や「国の誇り」「国の顔」としての機能の発揮はおろか、法人としての存立基盤すら危機にさらされていると言っても過言ではない。これはまさに、平成13年に制定された文化芸術振興基本法の目指す文化芸術振興の理念に反するのではないか。
本検討会は、まずこうした事態が続けば、我が国の文化破壊につながりかねないという危機感を強く表明する。

国立文化施設等の機能の充実強化とそれに必要な予算は国が責任をもって拡充を図るべきことを強く訴えたい。同時にこれらを指定管理者制度の導入等により疲弊する公立文化施設等に対するメッセージとしても位置付けたい。

公立博物館の指定管理者制度への言及がなされているところはいいなと思います。

事業の短期的な効率化に追われ、我が国の文化の継承と発展という長期的な視点が疎かにされている。・・・主たる事業である収蔵品等の収集・保管、展示・公演の企画・制作、調査研究、専門的職員の育成等を長期にわたって継続的に行うことが困難になりつつある。

公立博物館も同じく。

行き過ぎた効率化により、国立文化施設等の使命の達成自体が危うくなっている。効率化、収益の拡大等に比重がかかり過ぎる結果、本来の事業や運営が使命に基づいたものから、評価を得やすいものに陥りつつある。

公立博物館も同じく。経費の削減や入館料収入,ショップ収入の増,もちろん入館者数の増加など,数値的な部分が一面的に行政から評価される傾向があります。評価が,博物館事業のまっとうな評価になっていないところが問題。
(評価については,地域の価値の発見・創造や,共有財産であるコレクションの保管と未来への継承などの役割も持っていることを考えると,展示見学などの利用を行う住民だけの評価というわけにもいかない。住民とともに研究者等専門家,博物館界のピアなどからの多角的視点からの定性的評価が行われることが大事だと思います。そして,その評価を行政等博物館設置者が確実に受け止めることが必要ですが,そこはまた別問題。)

当面、同制度の運用改善により対処できる課題について着実に運用改善に向けた働き掛けを進めつつ、同制度とは異なる新たな法人制度の創設を視野に入れて検討を深めるべきである。

なるほど。

また、国立文化施設等の基本的特性に応じて適切に目標設定や評価を行うことができるよう、ローリング方式の採用も含め、評価の進め方や指標について、より詳細な検討が必要である。

ローリング方式というのは,どうやら,中長期計画を毎年見直すということのようですね。

国立文化施設等に対する定量的で一律な評価方法は文化的創造性になじまないため、国立文化施設等の基本的特性を十分に踏まえた事業・サービスの質と文化に関する価値の取扱いの良否に関する定性的な評価をより重視すべきである。
・・・専門家による事業の実施状況の実地による把握や、専門調査機関による調査を活用することが考えられる。その際、施設の利用者のみならず非利用者に対するアンケートも重要である。なお、研究評価など単年度評価に向かないものは複数年度評価とすることも考えられる。

定性的な評価を中心とすること,専門家の他,利用者,非利用者の観点も入れるなど多角的な評価を目指すことは博物館に向いていると思います。

各法人において自己収入の拡大に一層積極的に取り組む必要がある。しかしながら、国立文化施設等は、その公的性格から設定できる入場料等には自ずと限界があり、収支を度外視してでも必要な事業を行わなければならず、独立採算で自己収入のみにより事業を継続することはそもそも不可能である。

「入場料に限界がある」とは,入場料自体の存在は認めていること。実態はともかく,理念を語るなら少なくても「本来,無料にすべきという意見もあるところ」ぐらい言うべきではなかったのか。

そのほか各法人において、会員制の充実、収蔵品の貸出し、施設の貸出し、レセプション等、様々な手法を凝らして外部資金の一層の獲得に努めるべきである。

「収蔵品の貸出し」が引っかかります。博物館じゃないところに,収蔵品を貸し出すべきではない。そして,博物館に貸し出すときには実費はともかく,無料で貸すべきです。

収蔵品等の保存や収蔵庫の整備は、国民的理解を得て行うべきである。

もちろんそうなんですが,わざわざ書くほどのことか?それとも,これまで理解を得て行ってきていないのか。

国立の博物館・美術館は博物館法上の登録博物館ではなく、公私立の博物館・美術館とは異なる位置付けにあることから、国立の博物館・美術館を博物館法に位置付け、国立の役割、公私立との違いを明確にすることを検討すべきである。

そうであるべきと思います。だからこそ,入館料についての考え方が不統一なんではないかと思います。国立の博物館・美術館を博物館法に位置づけるのなら,原則として入館料無料ははずせません。「国立」を入れるから,「入館料無料原則」を下ろすなんてナンセンスですから。

とりあえず,メモまで。今後,最終提言?に向けた議論に興味があります。

12月20日追記

文化庁の報道発表資料のページに,本日付で『国立文化施設等に関する検討会「論点整理」(pdfファイル)』が掲載されています。
上記の,12月15日の会議時点とどう違うのか細かく見ていませんが,タイトルが『論点整理〜「国の顔」である国立文化施設等の危機的状況を打破するために〜』となっていますね。中味も,少し変わっているようですが,よくわかりません。