いちき串木野市(鹿児島県)ごみ発電問題

東工大(東京工業大学)発ベンチャー企業との間の問題のようです。
2006年2月16日の朝日新聞鹿児島版の記事から

いちき串木野市のごみ発電「計画倒れ」
いちき串木野市川上のごみ処理施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」が、発生したガスでディーゼル発電するという計画通りに機能していないとして会計検査院から指摘されていることが明らかになった。旧市来町が04年度から稼働させたが、発電が「計画倒れ」の状況だ。3月に再度の会計検査が予定され、国の補助金返還も考えられるという。
市来のごみ処理施設は、処理能力は1日24トンで、家庭などの一般ごみと食肉加工場の肉骨粉を処理。ごみを蒸し焼きにして発生したガスなどを原料にディーゼル発電する装置も備えた全国的に珍しい施設。発電能力は900キロワット。当初の計画では、九州電力に売電すれば年間約2千万円で維持管理費に充てられ、さらに余熱を近くの園芸施設の暖房に利用する構想もあった。
 ところが、同市によると、04年4月の運転開始後、7月に6基ある発電設備(1基の出力150キロワット)にトラブルが発生。その後施工業者に改修を要請し、昨年9月には旧市来町が約5千万円をかけて改修した。
 同年12月上旬の会計検査院の検査では、300キロのごみを燃やして運転した結果、6基のうち2基が正常に稼働しただけ。翌日に「仕様通りの能力が出ず、国庫補助金の効果が認められない」と指摘を受けたという。
 総事業費約9億9385万円のうち国の補助金は2億4793万円。ほかにNEDO新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金が6444万円。残りは起債などという。
 当初の予定通りに発電ができないのは、発生ガスにタール分やアンモニア分が予想以上に含まれるためと考えられている。同市の田中正幸助役は「計画通り発電できないプラントは受け取れないという立場で業者に改修してもらっている。設計を含めて責任の所在を明確にさせたい」と言っている。

「公会計監査と損益表示監査」さんの2006年11月10日付のブログによると,西日本新聞で続報があったようです。

いちき串木野市のごみ発電施設問題は様子見
11月10日付け西日本新聞朝刊の「いちき串木野市 補助金返還 当面なし ごみ発電施設問題 国会報告見送り」は、いちき串木野市のごみ処理発電施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」が計画通りに稼働していない問題で、会計検査院が10日に予定する国会報告に、この件を含めないと報じる。これで補助金返還の最悪の事態は当面免れることになるが、同院は「調査は継続中」としており、同センターが正常稼働しない限り、補助金返還の可能性は残ると記事は伝える。・・・同市は同院に対し、第三者機関に実施させた検証結果に基づき、来年3月までの施設改善計画提出を約束し、同院から意見を求められた環境省も同市の改善努力を評価したため、同院は補助金返還について「今後の状況を見て判断する」としたとのこと。
ただ、同市は施設の改善工事を行わせる基本設計会社と連絡が取れておらず、また第三者機関の改善案で施設が改善されるかも不透明なため、問題は長期化しそうと記事は伝える。

「基本設計会社と連絡がとれておらず」と,なにやらきなくさい臭い。
いちき串木野市の市報No.21(2007年7月20日発行)によると

市来一般廃棄物利用エネルギーセンターは、ごみ処理時に発生したガスを利用し発電を行い、施設でまかなった後の電気は売電し、余熱を利用して農業振興を図るという計画でした。
ごみ処理開始後3年が経過しましたが、ガス中に含まれるタール、アンモニア等が除去できないため発電機を回せない現状です。これまで改善工事が行われましたが期待したような成果は得られておりません。
平成17年9月に行った改善工事に係る費用負担が書面によるものでなかったために、基本設計をした会社が支払いを拒否したことから、市として調停の申立をしましたが不成立に終わり、現在市の顧問弁護士と協議中です。

ということで,連絡は取れ,改善工事も行われたようです。「構造設計的に欠陥製品だからちゃんと直せ」として改善工事に着手したものの,書面で証拠を取って置かなかったため,設計会社は改善工事費用の支払いを拒否しているようにも見えます。
それにしても,改善工事をしても機能しないのであれば,そもそも原理的に問題があるのではと,個人的に思ってしまいます。

いちき串木野市議会で市来一般廃棄物利用エネルギーセンター調査特別委員会の調査について報告がなされています。

エネルギーセンターの発案者である東京工業大学吉川邦夫教授を参考人として招致しております。なぜ発注仕様書どおりの性能を有していないかについてと、市来一般廃棄物利用エネルギーセンターの設備状況報告書についての、発案者としての見解を尋ねました。参考人の説明としては、まず、契約については実証性格を有する共同研究事業であり、性能が出るまで予想しないことが起こり得るとのことであります。

「教授」によると,(株)エコミートソリューションズが設計したものは「製品」ではなく「共同研究事業」ということですね。また不調に終わった調停については

「口頭とはいえ、改質炉等工事費約5,000万円のうち約2,500万円の負担については合意形成がなされ、当時予算措置もされている。エコミートは負担金支払いの義務がある」と(市は)主張しているのに対し、エコミート側は、1回目と2回目の調停では、「約束をしたことはない、合意形成はなかった」と主張していましたが、3回目の調停において、「旧市来町肉骨粉のペレット化と発電機への大型おがくずフィルターの設置については申し出たことがある。この工事費の見積もりが2,500万円であり、このことをもって、2,500万円負担を約束したかのように誤解している。肉骨粉のペレット化と発電機への大型おがくずフィルターの設置については、その意思はあるが、2,500万円を超えた部分については、市が払え」と主張し、4回目の調停では、「肉骨粉のペレット化と発電機への大型おがくずフィルターの設置の見積もり金額は約3,300万円で、これまで既に約2,340万円費やしているので、2,500万円との差額約 160万円は支払うが、残りの3,140万円は市が負担せよ」と主張したとのこと

と報告がなされています。そして今後については

さらに、発案者である東京工業大学の吉川教授を含めた工事関係者、すなわち、基本設計と施工監理を担当したエコミート・ソリューションズ、実施設計と本体工事をし、既にこの部門からは業務撤退したとされる三井三池製作所、発電部門を施工したヤンマー等関係者においては、それぞれがみずからの立場を主張するのみで、改善工事の提案はおろか、協調体制すら取れない状況にあります。

とのこと。

つまるところ,今回の件は,大学発のベンチャービジネスとのおつきあいは,ビジネスとしての契約ではなく,研究への投資として考えておかなければならなかったということを,行政側がわかっていなかったことから生じたということのよう。
でも,そんな具合で,大学発のベンチャービジネスって,ビジネスって言えるのでしょうか。

2008年2月20日の南日本新聞の記事から

いちき串木野ごみ処理発電 市が補助金返還へ 会計検査院が可能性示唆
いちき串木野市川上のごみ処理発電施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」が、現在発電できずごみ処理量も計画の約3割と当初計画通りの能力が発揮されていない問題で、会計検査院は19日、市に対し「補助金で造った施設として不十分。今後(国庫補助金などの返還を)指摘せざるを得ない」と、何らかの補助金返還が必要な施設として検査報告で指摘する可能性を示唆した。
 ・・・会計検査院の担当者は同日、実地検査を行った後、「検査過程でコメントは控えさせてほしいが、われわれの判断は意見として市に伝えた」と答え、結論は今秋の国会の検査報告がめどとなる見通しを示した。
 ・・・施設は現在、設計・施工業者の協力も得られず改善のめどは立っていない。市はこれまで施設の方向性を「会計検査院の判断が出るまでは、補助金全額返還を避けるために施設を使わざるを得ない」とし、今後も施設運営を続けるため08年度一般会計当初予算案に管理費8414万円を計上している。
 田中副市長は「補助金返還を視野に入れた見解が伝えられたと認識している。環境省とも協議し施設改善が困難な市の厳しい現状に理解を求め、今後の施設運営のあり方も再度検討したい」としている。

設計業者の(株)エコミート・ソリューションズと東京工業大学の吉川教授について,財団法人川崎市産業振興財団の「かわさき産学連携ニュースレターNo.16」(2004年6月20日発行)に情報がありました。

吉川邦夫教授 東京工業大学大学院総合理工学研究科 環境理工学創造専攻 工学博士
・・・これまで規制などでベンチャーが参入できなかったエネルギーの分野において、教授はその自由化の趨勢を敏感に受けとめ、画期的な“小型ゴミ発電と熱利用”(STAR−MEET)のシステムを開発し、さらに複数社の大学発のベンチャーを立ち上げてしまった。この、吉川教授の開発した“小型ゴミ発電”とは単なる廃棄物処理の装置ではない。ダイオキシン排出抑制、NOx 削減などの環境問題、高効率発電、ゼロエミッション、省エネ、さらに町興しまで、いま横たわる複数の難問の解決をターゲットにした、いわゆるソリューションシステムなのである。
国立大学の教官に民間企業の役員兼業が認められたのが2000年の4月、吉川教授に全国で五番目という認可が下りたのは8月なのだが、もう7月には、教授はベンチャー企業(EMS=エコミート・ソリューションズ・東京都千代田区、藤田淡水社長)を立ち上げている。仕事は順調で、昨年には、鹿児島県の市来町に日量20トンというゴミ発電施設をコンサルティング、すでに本格稼働の段階に入っている。そのゴミ発電による900KWの三分の二を電力会社に売電、また近郊の工場からの肉骨粉処理、さらに排熱は施設園芸の熱源と、補助金を含めた10億円の設備投資も数年でペイするという目論見だ。「人口7000人の鹿児島の片すみの町ですが、(小型ゴミ発電の)先進的な技術を導入し、それで町興しをしていこうという考え方です」(市来町大久保幸夫町長)
・・・“循環型社会”への転換を目指した、いま求められている産業パラダイムの創出にも合致するもので、導入意義の重要性にとどまらず今後の経済効率性や競争力にも大きな影響をおよぼすことは明らかだろう。
・・・もともと、超伝導プラズマ発電という高温エネルギー変換が専門の研究者であった吉川教授・・・モットーが「社会に役立つ研究」という吉川教授は、さらに手応えのある研究テーマを欲していたのだ。「ちょうど、ある企業からNEDOの大型プロジェトクである“高温空気燃焼技術”の研究開発の一環として、この技術を石炭燃焼に使えないかという要請があったのです。そして、その研究プロセスで、“高温空気で石炭をガス化し、精製後のガスの一部を燃焼させて高温空気をつくる”というアイデアを得て、それをさらに、廃棄物にも応用できるところまで進めました
やっかいだった生成ガス中のタールやダイオキシンの除去は、800℃以上の高温水蒸気と反応させて分解する技術で克服、さらに、そこで発生する低カロリーガスでちゃんと駆動できるディーゼルエンジンも開発できた。吉川教授は、小型ゴミ発電の研究開発には、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)から、5年間で10億円ものの研究資金を獲得している。・・・
的確に市場価値の手応えをつかむとともに、吉川教授の真骨頂として、デスクの上に4年間で3000枚もの名刺が積み上げられたように、連日、常に様々な企業関係者、また技術者、さらにニーズをもつ人々と意見交流しているという、開発営業マンほどの情報交換能力が上げられる。今回の「小型ゴミ発電」システムの開発では、本来、関係をもつはずのない10社以上のもの企業のテクノロジーが、吉川教授のコーディネートにより結びつき、ソリューション型の装置システムとして結実したのである。「いまアメリカのスターリングエンジンの開発会社と協力して、次世代のバイオマス発電システムを開発中です。また、高圧の水蒸気で、生ゴミ、汚泥、畜糞などを無害、無臭の燃料にしてしまう技術の開発も行っています」
さらなる進化をへて、いずれは、東工大発のサーマルリサイクル(廃棄物のエネルギー利用)の技術体系を打ち立てたい、との狙いも漏らすのだが、たしかに「“顧客の創造”が企業の目的」(ドラッカー)であるとすれば、吉川教授は企業のテクノロジーと社会ニーズを結びつけて、「“解決(ソリューション)”の創造をしている」といえるだろう。大学教官というよりも、まるで、気鋭のベンチャー企業の経営者みたいな吉川教授である。

とべたぼめ。
しかし,JSTからの10億円の研究資金にもかかわらず,結局,技術は「結実していなかった」ということですね。
東工大の産学連携推進本部の東工大発ベンチャー一覧のページに(株)エコミート・ソリューションズの情報が載っています。

(株)エコミート・ソリューションズ/代表者:白石英材
tel:03-3511-0861/URL:http://www.ecomeet.co.jp/index.htm
     主な事業概要:廃棄物ガス化発電システムを中核に企業の廃棄物に
            最適な処理システムの設計等を行う
   申請資格該当条項:第1号、第2号
      申請事由等:総理工吉川邦夫教授の特許及び開発された技術を活用した起業
     称号授与番号:第9号
      授与年月日:H15.1.9
       起業時期:H12.7.25

しかし,もう,ecomeet.co.jpのドメインはないようです。

この会社は,まだあるのでしょうか。倒産しているのでしょうか。
吉川邦夫教授は,まだ東工大にいらっしゃるのでしょうか。


茨城県つくば市で騒ぎになっている早稲田大学(橋詰研究室)の風力発電機問題と,同じことなんでしょうね。いちき串木野市は中央から離れているし,小さな市ですからあまり話題にはなっていなかったようですけれども。
つくば市早稲田大学への損害賠償も検討しているようですが,いちき串木野市の場合は,あくまで(株)ミート・ソリューションズが相手方になってしまうように思います。倒産させたらそれまでで,東工大を訴えるわけにもいかないのでしょう。
地方自治体が,抱えている課題に関して研究助成を行うことは,良いことだと思います。しかし,今回のいちき串木野市の事例は「ベンチャー」という仕組みで,金を取られたという事態になってしまったというわけです。何かおかしな規制緩和の影響ですね。

5月26日追記

考え直して5月26日のエントリー追記しました。

9月19日追記

津川敬さんのブログで,この件についてご紹介いただいています。

10月9日追記

社会保険庁の東京社会保険事務所の「政府管掌健康保険・厚生年金保険の全喪事業所一覧表(平成19年7月処理分)」という書類の千代田社会保険事務所管轄分として

事業所名称 事業所所在地 全喪年月日
㈱エコミート・ソリューションズ 千代田区九段南3−7−7 平成19年6月30日

というものが掲載されています。
もともとの連絡先は, 東京都千代田区九段南3-7-7 九段南グリーンビル7F,TEL:03-3511-0861,FAX:03-3511-0865,URL:http://www.ecomeet.co.jp/だったんですよね。
2000年7月25日設立。2001年6月には代表取締役社長:吉田隆徳,取締役:吉川邦夫,難波菊次郎,監査役:戸田久良,資本金:2000万円。2003年1月15日付けで東京工業大学より「東工大ベンチャー」の称号が授与。2002年12月までには資本金が2500万円に増資。2003年4月には,代表取締役社長:吉田隆徳,取締役:吉川邦夫,難波菊次郎,監査役:戸田久良,資本金:6850万円。2003年6月には,代表取締役社長:藤田淡水,取締役:吉川邦夫,難波菊次郎,野村博,山田一清,監査役:五十嵐和之,資本金は増資して7850万円。2004年8月には,代表取締役社長:藤田淡水,取締役:吉川邦夫,難波菊次郎,野村博,監査役:五十嵐和之,資本金は9100万円。2004年12月には,代表取締役社長:白石英材(Shiraishi Hideki),取締役:吉川邦夫,難波菊次郎,野村博,監査役:五十嵐和之,資本金は9100万円。2005年4月までには資本金は10600万円。2006年2月には,代表取締役会長:吉川邦夫代表取締役社長:白石英材,取締役:難波菊次郎,取締役技術部長:野村博,監査役:五十嵐和之。2006年7月には,取締役会長:吉川邦夫代表取締役社長:白石英材と小刻みな変遷。

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