大阪府立の博物館の特別展等の中止

ちょっと危機感を持って,緊急アップ。
橋下新知事下での大阪府の「行政改革」にともなう府立施設の廃止・民営化を含めた見直しについては,2月5日のエントリーでも触れたところです。
また,「ひつじヶ丘便り」のゆずじゃむさんの記事で紹介されていた博物館の事業の廃止のことについても追記しました。
2月10日の毎日新聞の記事に,その経緯が詳しく紹介されています。

橋下ウオッチ:府立博物館、特別展すべて中止 35人学級も見直し
 補助金カット「文化切り捨て」批判も

大阪府立の博物館などで4月以降に予定されていた特別展などが、橋下徹知事の補助金や委託料の大幅削減方針の影響を受け、中止に追い込まれるなど大混乱に陥っている。府の08年度暫定予算で、橋下知事は府費で行うイベントや講座などを認めない意向だからだ。府の25施設をゼロベースで見直すとしており、8月以降の本予算で復活するかどうかも不透明。関係者は「歴史教育生涯学習の場を切るのはおかしい」と反発している。【坂口佳代】
特別展の事業費は全く認められない。人件費と維持管理費以外はゼロ査定になる」。8日午後、府立弥生文化博物館(和泉市)に府教委から連絡が入った。4〜6月に予定していた春季特別展「倭人がみた竜―竜の絵とかたち」が急きょ中止となり、担当者は関係企業や自治体への連絡に追われた。
 約1000万円の補助金カットで、同博物館は常設展だけの「開店休業に近い状態」(幹部)となる。
 特別展は少なくとも半年前から準備を始めるため、8月の本予算で補助金が計上されても、1年間は特別展を開催できないという。
 府立近つ飛鳥博物館(河南町)でも、同様に4〜6月の春季特別展が中止に追い込まれ、既に準備していたポスターや図録の作成をストップした。幹部は「他の博物館から展示物を借りる約束もあり、信頼関係が損なわれる」と話す。
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 事業中止などの影響がない施設でも、今後の見直しで民営化・売却される可能性も残る。府立上方演芸資料館ワッハ上方)の関係者は「収集した資料は府民の財産として残さないといけない。赤字だからと文化まで切るのは暴論だ」と話している。
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大阪府議会での議論に先立ち,すでに,特別展は中止に追い込まれてしまいました。
 今ごろ,博物館では,さまざまな約束事,他の博物館や個人から借り入れる予定だった特別展用の展示資料の借入の約束,ポスター,図録,展示関連工事等展示の開発・運営にかかる民間業者との約束等の後始末に追われていることでしょう。
 このことによって,文化財等の所有者,様々な博物館,学界関係者は,博物館への信頼は失われないでしょう。でも,大阪府大阪府教育委員会への信頼はどうか。学芸員の士気はどうか,支援者の士気はどうか。
問われているのは,博物館設置者としての大阪府教育委員会,または大阪府のガバナンス。 大阪府大阪府教育委員会に,博物館設置者たる「資格」があるのかどうかが,様々なステークホルダーから問われていきます。

2月16日追記 27施設を見直し対象と

2月15日の朝日新聞の「記事」から。

橋下発言に戦々恐々、施設売却問題 17日から現場視察
「今の財政状況では、二つの図書館以外すべて不要」。大阪府の府立施設をめぐる橋下徹知事の「過激発言」が波紋を広げている。見直し対象に挙がっている箱モノは27施設。橋下知事は売却や民営化も視野に、17日から現地視察を始める。・・・

男女共同参画を後押しする立場なのに、後ろから鉄砲を撃つのか」
 15日、大阪市中央区の女性総合センター(通称ドーンセンター)の利用者らが府庁で記者会見を開き、存続を求める千人の声を添えた要望書を男女共同参画課に出した。
 94年にオープンした同施設は地上10階地下1階建て。DV被害など年間8000件の相談を受け、市町村の相談員の研修も担う。府は補助金・委託料などで今年度は2億7900万円を支出。「相談業務では救急医療なら3次救急のような最後の砦(とりで)」と職員はいう。

 発端は橋下知事の発言だ。関係者によると今月4日、府幹部との協議で橋下知事は府立施設の見直し方針に言及し、厳しく指摘した。
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 「ドーンセンターも単に“中核的な施設”というだけなら切る」
 記者団にも「図書館以外はすべて不要」と語り、物議を醸した。橋下知事マニフェストでも「必要性のないものは民営化・売却を促進します」と掲げていた。
 この日会見した「好きやねんドーンセンターの会」の世話人、越堂静子さん(64)は橋下知事のキャッチフレーズを引用して訴えた。「『子どもが笑う』というけど、DVで苦しんでいるお母さんを見ている子どもの顔が浮かびますか」

見直し対象は府の83施設のうち府民が広く利用する箱モノの27施設。
大阪・ミナミの「なんばグランド花月」前にある吉本興業所有ビルに入居する上方演芸資料館(通称ワッハ上方)もその一つだ。府民から演芸資料の提供を受けて96年に開館。07年度当初予算では賃料約2億8400万円、指定管理者への委託料1億2800万円を府が支出している。
 橋下知事は「吉本に賃料を払っているが無駄」と指摘したとされるが、伊東雄三館長(60)は「大阪の笑いの文化は全国に発信できる誇るべき文化。演芸が生まれたミナミを離れたら影が薄くなる。必要だから支出してきた」と反論する。
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 橋下知事は15日、27施設の見直しについて記者団に問われ、「6月までにすべて検討し直す」と改めて述べた。17日からは現地を見て回る。
 23日に視察予定の堺市南区大型児童館ビッグバンでは、館長を務める漫画家の松本零士さん(70)が出迎える。構想からかかわり、外観は宇宙船をイメージ。4階から8階を貫くジャングルジムが人気だ。「金もうけ一辺倒ではない、子どもの未来を考えた施設。願わくば残して欲しい」と松本さんは話した。

見直しにあたっては,施設の設置者として,施設の事業のガバナンスに責任を持つものとして,大阪府大阪府教育委員会は責任をとるように。
特に,指定管理者制度を導入している施設・機関では,ガバナンス側が事業内容を変更しようとするのであるから,それによって指定管理者が受けた損害については,損害賠償を行う責任があります。
さて,朝日新聞が「箱モノ」と表現している見直し対象の27施設・機関は,はっきりしませんが,朝日新聞によると以下のようです。

中央図書館,上方演芸資料館中之島図書館,門真スポーツセンター,女性総合センター,青少年海洋センター,国際児童文学館,近つ飛鳥博物館・近つ飛鳥風土記の丘,狭山池博物館,花の文化園弥生文化博物館,総合青少年野外活動センター,労働センター,大型児童館ビッグバン,青少年会館,府民牧場,少年自然の家,文化情報センター,臨海スポーツセンター,現代美術センター,漕艇センター,羽衣青少年センター,体育会館,泉北考古資料館,国際会議場,マリンロッジ海風館

3月8日 追記

読売新聞の3月7日の記事より。

「近つ飛鳥」など府立4施設存続 大学教授ら要望書
橋下徹知事の方針で廃止・民営化を含めた見直しが検討されている弥生文化博物館、近つ飛鳥博物館、狭山池博物館、泉北考古資料館の府立4施設について、大阪歴史学会(代表委員、藪田貫・関西大教授)など5団体と大学教授らが6日、存続を求める知事あての要望書を府教委に提出した。
 要望書では「文化財の保護は地方公共団体の責務で、博物館はそのための重要な役割を担っている」と指摘。見直すのであれば、有識者らでつくる諮問機関を設置して判断するよう求めた。藪田教授は「文化財は公共の財産で、後世に伝える義務があるが、知事が重要性を十分に理解しているか危惧(きぐ)している」と話した。

博物館にとっては,側面からの支援ですね。
もっと支援が拡がればと願い,また,様々な人が,それぞれの場で,さまざまな形で支援できればという想いから,私もあらためて。

  • 府立博物館の保有する資料は,大阪府民の,そして人類共通の財産であり,適切に保管し,将来世代へ伝えていくことが大事です。
  • 府立博物館は,府民が集い,府民が自らの自然的・社会的環境に関心を持ち,再発見し,今後の生き方,今後の社会の在り方について主体的に考えるために欠かせない場と考えます。
  • 府立博物館は,大阪の人々と,大阪の人々をとりまく自然的・社会的環境に,国内外の人が触れ,大阪を理解するために欠かせない場と考えます。
  • 見直しにあたっては,この府立博物館の役割の重要さに配慮ください。
  • 万一,大阪府行政に於いて府立博物館を廃止される場合には,府立博物館の保有する資料は人類共通の財産ですので,無償で,他の登録博物館や重要文化財公開承認施設等に寄贈・移管し,確実に保存・公開・継承がなされるように配慮してください。

と,とりあえずの表明。