「図書館以外は不要」橋下氏、大阪府施設の廃止・売却検討−小さな政府(地方行政ですが)を目指す大阪府の新知事

2月5日の読売新聞の記事から

「図書館以外は不要」橋下氏、大阪府施設の廃止・売却検討
大阪府知事に就任する橋下徹氏(38)は4日、府幹部との協議の中で、83の府立施設のうち、中之島図書館(大阪市北区)と中央図書館(東大阪市)の2施設以外は「不要」との考えを明らかにした。
 行財政改革の一環で、大相撲春場所の会場である府立体育会館(大阪市浪速区)や、女性総合センター(ドーンセンター、同市中央区)、上方演芸資料館ワッハ上方、同市中央区)などの施設については廃止・売却の検討を行うよう指示した。知事就任後、庁内に発足するプロジェクトチームで検討を進め、6月に結論を出すという。
 ほかに廃止・売却の対象となるのは、大型児童館ビッグバン堺市)など。この日の協議で、橋下氏は「図書館以外、基本的にはすべて必要ない」との持論を説明。終了後、報道陣に「就任後、すべて視察しながら、選別にかけていく」と述べた。
 また、46ある出資法人についても、中小企業信用保証協会、育英会、障害者福祉事業団、西成労働福祉センターというセーフティーネット(安全網)に関する4法人を除き、全面的に見直す考えを表明。大阪高速鉄道などを対象に、民営化などの検討を進める。

思い切ったことを。
図書館は,民主主義に欠かせない装置ですから,そこまでは踏み込まなかったようですが。
それにしても,83の府立施設っていうのはどこでしょう。
上の記事で,府立体育会館,女性総合センター,上方演芸資料館大型児童館ビッグバンは廃止対象ということが書いてありますが,図書館存続とわざわざ書いてあるところを見ると教育委員会所管の施設も入っているんですよね。また,指定管理者制度を導入した施設も入っていますよね。
とうぜん,直営のところも対象でしょうから,どんなところが考えられるのでしょうか。
救命救急センター(泉州中河内),大阪府立急性期・総合医療センター,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター,大阪府立母子保健総合医療センター,障害者医療・リハビリテーションセンター,障害者自立センター,介護情報・研修センター,整肢学院,大阪府立産業技術総合研究所消費生活センター,女性相談センター,大阪府民の森,大阪府弥生文化博物館,大阪府立近つ飛鳥博物館,大阪府公文書館,府立国際児童文学館,子ども家庭センターあたりでしょうか。
大阪府立大学や府立高校が入っていることはないでしょうけれども。
保健所は地域保健法で定めがありますから,廃止できないですね。統合はあり得ますが。

また,46の出資法人は次の通りということです。

財団法人大阪国際平和センター
 財団法人アジア・太平洋人権情報センター
 財団法人千里ライフサイエンス振興財団
 財団法人大阪府文化振興財団
 財団法人大阪府男女共同参画推進財団
 財団法人大阪府青少年活動財団
 財団法人大阪21世紀協会
 財団法人大阪府マリーナ協会
 財団法人大阪府育英会
 財団法人大阪府国際交流財団
 株式会社大阪国際会議場
 社団法人大阪国際ビジネス振興協会
 財団法人大阪府地域福祉推進財団
 財団法人大阪府保健医療財団
 財団法人大阪がん予防検診センター
 社会福祉法人大阪府総合福祉協会
 社会福祉法人大阪府障害者福祉事業団
 財団法人大阪産業振興機構
 財団法人大阪府産業基盤整備協会
 株式会社大阪繊維リソースセンター
 大阪府中小企業信用保証協会
 財団法人大阪労働協会
 財団法人西成労働福祉センター
 大阪府職業能力開発協会
 財団法人大阪生涯職業教育振興協会
 財団法人大阪府みどり公社
 株式会社大阪府食品流通センター
 財団法人大阪府漁業振興基金
 株式会社大阪鶴見フラワーセンター
 大阪高速鉄道株式会社
 大阪府道路公社
 財団法人大阪府公園協会
 大阪府土地開発公社
 堺泉北埠頭株式会社
 大阪府都市開発株式会社
 大阪外環状鉄道株式会社
 財団法人大阪府下水道技術センター
 泉大津港湾都市株式会社
 大阪府住宅供給公社
 財団法人大阪府都市整備推進センター
 財団法人大阪府タウン管理財団
 財団法人大阪府水道サービス公社
 財団法人大阪国際児童文学館
 財団法人大阪府スポーツ・教育振興財団
 財団法人大阪府文化財センター
 財団法人大阪体育協会

西成労働福祉センターや中小企業信用保証協会,育英会等を見直しの対象にしなかったのは評価しますが,アジア・太平洋人権センター,男女共同参画推進財団,公園協会,スポーツ・教育振興財団,文化財センターなどを民営化するつもりなんでしょうか。行政の責任を放棄したポピュリズムとしか思えませんが。

医療,教育や福祉に行政が金をかけないのも一つの選択ではあります。橋下氏は,国にはもの申す気がないようですから,大阪府内での富の再分配機能が低下するだけ。そうすると,行政サービスが低下することで最も影響を受けるのは中・低所得者層ということです。

府立の博物館について追記 当日

もし,大阪府で,大阪府弥生文化博物館や大阪府立近つ飛鳥博物館を,これ以上持ちきらないということでしたら,廃止ということもあるでしょうね。その場合は,国民共通の財産である収蔵資料は,きちんと保管できるその他の登録博物館や国立博物館に譲渡すべきです。
橋下府政で管理する気がなく,放置されてしまえば,1000年以上過去から保存され,将来に引き継がれるべき収蔵資料は,この10年ほどのうち,すなわち2020年ごろまでに破損,滅失してしまうことになります。

府立の博物館について追記 当日

「博物館の清算」は,府知事選挙の選挙運動の中で,すでに橋下さんは主張していたとのこと。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/travel/6501/1193578801/659

659 :toom:2008/01/22(火) 09:06:17
  橋下優勢が叫ばれてるけど、橋本さんは博物館を精算すると云っているので
  私は絶対入れません。文化なくして大阪なし。もっと他にやることがある!

ということは,当選したからには,粛々と清算するということですね。
収蔵資料は私有財産扱いしないでくださいね。

参考までにICOM Code of Ethics for Museums, 2006(国際博物館会議博物館倫理規定)から抜き書き。
http://icom.museum/ethics.html

Where the museum has legal powers permitting disposals, or has acquired objects subject to conditions of disposal, the legal or other requirements and procedures must be complied with fully.

The decision to deaccession should be the responsibility of the governing body acting in conjunction with the director of the museum and the curator of the collection concerned.

There will be a strong presumption that a deaccessioned item should first be offered to another museum.

Museum collections are held in public trust and may not be treated as a realisable asset. Money or compensation received from the deaccessioning and disposal of objects and specimens from a museum collection should be used solely for the benefit of the collection and usually for acquisitions to that same collection.

処分の際は,法的その他の必要な手続きを完全に実施すること(補助金,寄付,寄贈の際に意思が表明されている資料などへの配慮も必要)。
 処分の決定は管理者(大阪府知事または大阪府教育委員会)が,博物館の館長や学芸員と連携して責任を負うこと。
 処分する資料についてはまず,他の博物館にオファーをすることが望ましいこと。
 博物館の資料は人々の信託を受けているものであり,資産として扱われるべきではない。博物館資料の処分により得た対価や報酬は,資料のためにのみ使われるべきであり,通常は同種のコレクションの収集のために使われるべきである。
というようなことですね。

府立の博物館の収蔵資料について 追記 2月7日

もし,収蔵資料の管理ができなければ,他の博物館にオファーすることが望ましいのですが,受入博物館にしても,資料の整理・保管には当然経費がかかります。有償のオファーでは,一部の特に貴重な資料を除いてはなかなか受け入れがたいのが本音です。
大阪府としては,大きく分けると,二つの途があります。
一つは,無償で他の博物館にオファーすること。そうすれば,資料は博物館という専門機関で良好に保管され,国民の,人類の共有財産として,未来に引き継がれていくことが期待できます。ただし,大阪府には収入は入りません。
もう一つは,有償で他の博物館にオファーすること。そして,他の博物館が引き取らない資料については,博物館以外の者に売却するというものです。博物館に引き取られた資料は良好に保管されるでしょうが,それ以外の者に引き取られたものがどうなるかは天に任せるしかありません。人類の共有財産としての資料の散逸の危険性は高いものとなります。そういえば,日本の美術界で有名な事件として,「俺が死んだら,ゴッホの絵も棺桶に一緒に入れてくれ」というものがありましたね*1

大阪府立大学について追記 当日

大阪府立大学については,wikipedia

大阪府立大学を名指しし、「府立大の必要性を吟味したい」と“国公立大学不要論”を展開しており、「大学経営って、160億円も使ってやることか。私は大学は私立がやるものと思っている」との見解を示し、廃止または民営化を示唆している。

と書いてありますね。
 出典は2007年12月30日のスポーツ報知のようです。
でも,橋下とおる基本政策「『おおさか』を笑顔にするプラン」では,

府民税を投入している大学ですから、蓄積された知識を府民へ還元できるように、大阪府立大学を「府民シンクタンク」と位置づけます。

と書いてありますから,別々の舌で発言されているようです。

2月11日追記 大阪府弥生文化博物館は平成20年度事業中止

「ひつじヶ丘便り」のゆずじゃむさんの記事によると,大阪府弥生文化博物館の平成20年度事業は全て中止になったとのことです。
準備してきた企画展(ものによりますが,企画展は3年ぐらい前から企画し,準備を始めることが多いのです)も全て中止。
ゆずじゃむさんが,弥生文化博物館のパンフレットの一部を写真に撮ってアップしてありますが,そこには「大阪府の財政事情により,平成20年度の事業は中止になりました」とのこと。
この「事業」には何が含まれているのかわかりませんが,少なくても,企画展は含まれていますし,おそらく講演会その他のイベントなどの教育普及活動も含まれているでしょう。すでに資料購入費はゼロになっているでしょうし,もしかしたら調査研究事業も中止に追い込まれているのかもしれません。
地域の歴史と文化の掘り起こし,地域とのコミュニケーション,学会とのコミュニケーション,地域アイデンティティーの形成への支援に大きな影響が出てきます。早く何とかしないと,残るのは,これまでの努力で伝えられてきた文化財等の資料と箱物だけ。新たな調査研究,そして教育普及活動がなくなれば,資料の価値も減ることはあれ,増大することはなくなります。

2月11日追記 産経新聞のためにする記事と,廃止検討の博物館6か所

産経新聞(産経関西)の2月8日の記事から。
なお,省略部分は・・・で

年30億円削減 橋下知事の府営施設見直し
・・・橋下知事は就任前の今月4日の会見で、全83施設について「図書館以外は不要と思う」と発言。府はすでに、図書館や病院などを除く25施設を抽出しており、13日に立ち上げる改革プロジェクトチームで廃止・売却に向けた本格検討を始める見通しだ。
 25施設は、宿泊研修施設(4カ所)▽貸館施設(7カ所)▽スポーツ施設(4カ所)▽博物館(6カ所)▽その他(4カ所)。
 ・・・・赤字額が最も多かった施設は、ワッハ上方大阪市中央区)で4億2900万円。
 このため府では、太田府政時代の「公の施設改革プログラム」で検討対象とした施設のうち、橋下知事の意向ではずした中央図書館(東大阪市)、中之島図書館(大阪市北区)や救命救急センター、公園などを除く25施設を検討施設とした。
 橋下知事は「ゼロベースでの検討」を指示しており、単年度運営黒字を計上した体育会館など3施設も見直し対象に含まれる。プロジェクトチームでは、廃止・売却を前提とした詳細な試算を行う・・・・

ワッハ上方の「赤字」額ですか。
赤字って何? 税金投入分のこと?
そうすると,例えば公立高校の赤字って,「運営費」−「授業料」のこと? 記者の言いたいことがよくわかりませんが。
 そういう意味の「赤字」を減らすのが目的? もし,そうならば,効果など考えず,事業を辞めれば良い。
「赤字」っていうのは関係ないんです。しいて言うならば,考慮すべきことは,市民の生活を守り,福祉を向上させるという事業の効果と税金投入額でしょう。
公立高校にいくら税金を投入しどういう効果を上げているか。救急センターにいくら税金を投入しどういう効果を上げているか,図書館への投入と効果は,博物館への投入と効果は。道路整備にいくら投入しその効果は。企業誘致にいくら投入しその効果は。それが問うべきことでしょう。ためにする記事っていうのはこういう記事のことを言うんでしょうね。
さて,博物館6か所とのことですが,どこでしょう。
弥生文化博物館,近つ飛鳥博物館,近つ飛鳥風土記の丘,泉北考古資料館,現代美術センター,上方演芸資料館あたりでしょうか。
博物館の事業費をけずって,「赤字」を減らそうとしても,博物館活動による効果はさらに衰えてしまうかもしれません。
 なまじ事業費をけずるぐらいなら,とっとと大阪市なり,他の登録博物館なりに文化財等の資料は譲渡してください。

3月28日追記 相変わらずの産経新聞

3月28日の産経新聞の記事から

橋下知事、あなたの意見は?】(12)「府庁の本庁舎、売却したら」
・・・
大阪府立の中央・中之島の両図書館の運営収支は2館あわせて年間約16億円の赤字。廃止の必要はないが、改善点があるかもしれないということだろう。
・・・

「赤字」ですか。
そうすると,産経新聞さんは防衛に関する事業も,だいたい,自己収入4億,業務支出4兆7千億円ですから,4兆7千億円の「赤字」と表記するんでしょうか。

*1:大昭和製紙の名誉会長だった齊藤了英氏が8250万ドルでクリスティーズで落札したゴッホの絵(医師ガシェの肖像)に関するもの。
 日本経済新聞(1991年5月1日)で報道された「自分が死んだら棺桶にいれて焼いてくれ」との齊藤氏の発言が,文化財を私有化するものとして国内外で批判を受けた。
 ただ,個人財産であれば,倫理的には責められるが,それも自由のうち。
 批判を受けて,齊藤氏は「医師ガシェの肖像」を死後,政府または美術館に寄付すると発言を修正した。なお,齊藤氏の死後,この絵は,寄付されることなく,富士銀行の担保とされ,サザビーズで売却された(1997年にサザビーズから9000万ドルで購入したオーストラリア人は,後に破産し,再び,サザビーズに引き取られたという噂もあります)。

 2月12日追記
 齊藤了英氏のエピソードですが,ルノアールの絵(ムーラン・ド・ラ・ギャレット)も一緒に焼いてくれといったらしいです。「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」は,1990年に齊藤氏が7810万ドルでサザビーズで落札したものです。こちらの絵も齊藤氏の死後,富士銀行の担保となり,サザビーズで某人に5210万ドルで売られていったとのことです。細かいことですがこのあたりも参考になります。