博物館にネーミングライツ?

1行だけ追記。(博物館へのネーミングライツ導入についてのデメリットについてはhttp://d.hatena.ne.jp/ironsand/20090720/p1の中段ほどに簡潔に挙げてあります。)

神奈川新聞の12月12日の記事から

開港資料館にもネーミングライツ導入検討/横浜市

 公共施設へのネーミングライツ命名権)導入を進める横浜市が、ペリー来航から関東大震災までの時期を中心に横浜にまつわる二十五万点超の資料を収蔵する横浜開港資料館(横浜市中区)への導入も検討していることが十一日までに分かり、資料を寄贈した市民から「横浜の歴史に対する冒とく」といった反発の声が相次いでいる。スポーツ施設に多い命名権だが、日本博物館協会によると、公立博物館への導入は国内に例がないという。
 同市は、施設維持管理費の財源確保のため命名権導入を積極的に推進する方針を示し、同市文化財課は十月、同資料館と市歴史博物館(同市都筑区)への命名権導入について、施設を管理運営する「横浜市ふるさと歴史財団」(高村直助理事長)に打診した。
 財団は利用者や資料寄贈者らに命名権導入の是非を尋ねたところ、約八割が導入に否定的だったため「導入は難しい」と市文化財課に報告した。
 同課は「財団の回答は参考にするが、決めるのは横浜市。スポーツ施設などと違って文化財の施設として(命名権が)ふさわしいかどうかも含め検討しているところ」と話している。
 同資料館の収蔵資料の約半分は市民からの寄贈や寄託。寄贈・寄託者たちは導入に反発する。
 元県議で横浜能楽連盟会長の新堀豊彦さん(76)=同市港南区=は同資料館開設時に明治期の古文書など数十点を寄贈。「資料館はもうける目的でないからこその公共施設。もうからないから命名権を導入するというのは歴史に対する冒とく」と憤慨する。
 古文書などを提供した同市神奈川区の山室宗作さん(58)も「公の施設だから提供したが、一企業が運営していると勘違いされるような施設に提供したくはない」と反発している。
 同財団の高村理事長は命名権導入による影響として【1】市民の寄託によって成り立っている資料を展示できなくなる恐れがある【2】指定管理者として強化している企業の協力や補助金を仰ぐ取り組みにマイナスになる-といった点を強調。「博物館や資料館は市民のアイデンティティーを養う重要な役割を担っているが、その役割が見えなくなる」と危ぐしている。
 日本博物館協会の新妻洋子事務局長は「全国の公立博物館に命名権を導入した例は把握していない。命名権を得た企業が関連する企画展の開催を迫られるなどの弊害も考えられ、公立博物館にはなじまない」と苦言を呈している。

スポーツ施設には確かにいくらか導入されています。
博物館により類似の施設としては,最近では子ども向けの科学センターへの導入が,いくつか事例があります。栃木県子ども総合科学館が「わくわくグランディ科学ランド」。横浜市では,横浜こども科学館がこの11月30日までネーミングライツパートナーを募集していましたが,そろそろ決定するんでしょうか。
ただ,やはり博物館はちょっと違うんじゃないのかと思います。
ある資料が博物館に展示されるときには,何らかの価値付けが行われます。「ただの壺」でも,博物館に展示されラベルが付くと,何らかの付加価値がつきます。これは,博物館の学芸員という専門家が,その資料を収集に値し,展示に値し,未来永劫保存していくのに値すると価値付けするからです。
博物館という機関にはそういう性格があります。
博物館という施設に,何か,企業が冠をつけると,その冠企業が,価値付けまで担当しているのではないかという誤解も生じます。つまり,博物館の専門的機関としての性質が損なわれるわけです。場合によっては,その冠企業が収集資料や展示資料の在り方まで,実際に影響を及ぼす可能性もあります。博物館というのは,単なる建物ではなく,価値創造,文化創造の機関だからです。

米国の博物館では,民間からの寄付が盛んに行われています。しかし,例えばスミソニアンアメリカ歴史博物館の運輸交通に関する展示の改修に際し,2001年,ゼネラルモーターズが約10億円寄付して,展示室のネーミング権を得ようとしたときに,大反対が起きました。また,スミソニアンの自然史博物館の海洋に関する展示の改修に伴い,2007年,アメリカ石油協会が約5億円寄付し,関連webサイトに名前を掲出しようとしたときに,スミソニアンの本部事務局は一度合意に応じましたが,スミソニアンの理事会が反発し,世論も反対しました。
 アメリカの文化,アメリカの良心を,企業が金で買いたたこうとしているいう反発ですね。

横浜開港資料館は,横浜市の文化の創造,横浜市民の良心の場です。横浜市がどう判断されるのかわかりませんが,数千万を惜しんで,数億の資産,そして,金額ではたとえられない文化,良心を台無しにすることのないように期待します。

同日追記

すでに,11月10日の朝日新聞で報道されていたようです。

横浜開港資料館命名権売却 横浜市が検討

 ペリー上陸図など横浜関連の資料約25万点を収蔵する横浜市中区の横浜開港資料館について、市が命名権ネーミングライツ)の売却を検討していることが分かった。全国的にスポーツ施設やホールに導入する例は多いが、寄贈資料が多い公立博物館の命名権売却は珍しいという。寄贈者からは「一企業の宣伝のために提供したわけではない。資料の引き揚げも考えたい」と批判の声が上がっている。
 開港資料館に加え、横浜市は市歴史博物館についても命名権の売却を検討している。
 今回の命名権売却は10月、市教委文化財課を通して財源課から両館を管理運営する財団法人・横浜市ふるさと歴史財団に打診があった。導入の可否を問うほか、「導入できない」と回答した場合、命名権に代わる「市費負担削減案」の提示を求められた。

横浜市歴史博物館もですか。はあ〜。
まあ,市長も行政も万能ではないですからしょうがないですが。でも,市教委文化財課も反対しなかったんでしょうか。
市議会に期待しましょうか。だめかしら。

12月14日追記

市議会で取り上げられたようですが,横浜市教育委員会の押尾賢一教育長は,推進する構えのようです。
神奈川新聞の12月13日の記事から。

開港資料館命名権導入、「現時点で決定ではないも、検討は必要」/横浜市

 横浜市が横浜開港資料館(同市中区)へネーミングライツ命名権)の導入を検討していることについて、押尾賢一教育長は十二日の市会本会議で、「現時点で導入を決定していない。しかし、市民の支援が得られ、充実した運営が可能となるよう、導入を含め、方策を検討する必要がある」と理解を求めた。民主党の飯田助尚氏(港北区)の質問に答えた。
 押尾教育長は、資料を寄贈した市民らから反発があることを考慮し、命名権を導入した場合でも「(開港資料館の)設立趣旨や経緯を損なうことなく、施設の一部への命名権の設定など多様な視点から検討したい」との考えを示した。
 議場の議員からは「導入の必要はない」「そぐわない」とヤジも出た。
 導入にあたり市民の意見を聞くべきではという質問に、中田宏市長は「もとよりいろんな機会に聞いていかなければならない」と答弁した。
 既に命名権の募集を始めた野毛山動物園(西区)の無料解放について中田市長は、厳しい財政状況を説明した上で「当面は継続したい。本当に無料でできるのかという議論はしていかなければいけない」と述べた。
 横浜市は施設維持管理費の財源確保のため、命名権導入を進めており、横浜開港資料館へも打診していた。

契約としてのネーミングライツの売却(施設の一部の命名権の売却を含む)も,確かに資金獲得の一つの方法です。例えば,産経新聞ネーミングライツを購入するなんていうこともあり得るでしょう。しかし,その場合,他の新聞社は非常に協力しづらくなります。報道にあるように,寄付や寄贈など市民の支援も減る可能性があります。
 市民が時価10万円の資料を寄付しても見返りはほとんどありません。ところが命名権を購入した企業は,多大な見返りを独占的に得るからです。
 これは,(準)公共財としての博物館の在り方にも影響を与える可能性があります。
ネーミングライツの売却に準じて許容される一つの方法としては,基本は寄付とし,寄付額により,ネームプレートを館内に設置するという方法があります。これであれば,見返りの排除性を除却できます。その方向で検討されることを望みます。

 参考までに言えば,教育長というのは,教育委員会の事務局の長にあたる職員で,教育委員会が任命するものです。実際には,市の幹部職員の異動のポストの一つで,市長の指揮監督下に置かれています。
今回の件は,事務方の「暴走」かもしれませんが,横浜市教育委員会も追認するんでしょうか。

文化施設へのネーミングライツ導入の問題については,高橋透さんのページもすごく参考になります。

12月17日追記

横浜市歴史博物館では2006年度に,市民等から22件,1037点の寄贈があったとのこと。また開港資料館では件数は不明だが,7299点の寄贈があったとのこと(約6700点寄贈の大口の市民からの寄贈があったもの)。
 ちなみに,岐阜県立博物館で言えば,現在の館蔵資料について,人文部門では21,159点の資料中,寄贈によるものが17,614点。自然部門では63,487点中,寄贈が31,712点。
 もちろん,購入したものや博物館が自分で収集したものもあります。これらについても,博物館にボランタリーに安い値段で譲ったものや,博物館だからと特別に地権者の許可を得て採集したものが含まれているはずです。
 博物館にある企業の名前が付いた場合,これらの寄贈や許可は減少してしまうことも予想されます。

12月26日追記

野毛山動物園については,とにかく中田市長は,議論も深めないまま手続きを始めてしまっています。
野毛山動物園の名称を,独り占めにしようという企業は出てくるのでしょうか。悪名でもいいから名前が広がった方がビジネスに好都合という企業あたりの申込みもあるのかもしれません。
そして,市民の心は離れていく。。。

2007年2月29日追記

横浜こども科学館ネーミングライツの取得企業がきまったということです。
2月20日神奈川新聞の記事から

横浜銀行命名権取得/横浜こども科学館
横浜市は二十日、横浜こども科学館(同市磯子区)のネーミングライツ命名権)について、横浜銀行(同市西区)と基本合意書を締結した。四月一日から「はまぎん こども宇宙科学館」に変わる。期間は五年間で、契約金額は年間三千万円。
 同市の命名権導入は日産スタジアム横浜国際総合競技場)、ニッパツ三ツ沢球技場(三月一日から変更)に続き三例目。文化施設では初めて。
 中田宏市長と小川是頭取が同日、横浜市役所で合意書を交わした。中田市長は「『宇宙』が加わり、最新鋭プラネタリウムが売りということがすぐに分かる。さらに魅力ある施設にして、子供たちの理科離れを食い止めたい」と話した。
 小川頭取は「次世代を担う子供たちの育成活動に積極的に協力していく当行の方針と合致した。科学の面から、健やかな成長を手助けしたい」と述べた。
 同科学館は一九八四年五月に開館し、最近十年間の入館者数は二十八万〜三十万人で推移している。命名権は市が昨年秋にスポンサーを募集。六社から問い合わせや相談があったが、最終的な応募は同行のみで、同年十二月の選定委員会で決定した。

英語名称も「HAMAGIN SPACE SCIENCE CENTER」になるとのこと。
命名権の売却により年間3000万円の節約,大きいですね。でも,横浜銀行が名称を独占してしまったことで,科学館への市民の理解,支援がどれぐらい減少していくのか,考えるのが怖くなります。
 

同じく2月20日神奈川新聞の記事から

「現時点では困難」/横浜開港資料館への命名権導入
横浜市と市教育委員会は二十日までに、検討していた横浜開港資料館(同市中区)への命名権導入について、「現時点では困難」という意向を固めた。
 施設維持管理の財源確保などのために導入を検討。しかし収蔵資料の寄贈・寄託者から「公の施設だから資料を提供したが、一企業が運営していると勘違いされるような施設には提供したくない」などの反発が出ていることから、現時点で導入は困難という判断に傾いたものとみられる。
 同資料館はペリー来航から関東大震災までの時期を中心とし、横浜にまつわる二十五万点超の資料を収蔵している。

市民の寄付・寄贈・ボランティアなど,市民に支えられ,市民とともにある博物館をめざすという点で,横浜市教育委員会の判断は極めて妥当だと思います。横浜こども科学館を所管する横浜市こども青少年局とのスタンスの違いが明らかになってきました。

2008年3月5日 追記

野毛山動物園命名権販売状況についてニュースになっていました。詳しくは3月5日のエントリーで。

2008年5月30日追記

横浜市議会定例会2007年12月12日の議論から

◆(飯田助尚君)・・・
 このたび、横浜開港資料館がネーミングライツ導入について検討されるとのことですが、このことにより、横浜開港資料館の持つ役割や特徴に影響が出ないかを考える必要があると思います。そこで、横浜開港資料館の設立趣旨や開港以来の歴史、文化資料を所蔵する施設の特徴、価値についてどのように考えているのか、教育長に伺います。
 次に、ネーミングライツを導入することにより、ネーミングライツスポンサー企業の施設との誤解が市民に生じてしまわないかが心配です。私が聞いた範囲では、歴史学者や市民など、そのような危惧を抱いている方は多くいました。さらに、それだけではなく、貴重な資料を寄贈している方には、施設の趣旨にそぐわない、また誤解を招くような場合、自分の寄贈資料の展示そのものを差し控えるよう要望する、もしくは資料自体を施設から引き揚げるといった、今まで培ってきた施設との協働の経緯や施設の設立趣旨とは全く逆の意見が出てきている状態です。そこで、横浜開港資料館へのネーミングライツの導入についての考え方について教育長に伺います。
 文化、芸術事業は、予算をかけたからといって直後に成果が上がるような性質のものではなく、教育と同じく、公の立場で、人材や人々の意識を地道に育成するものだと私は考えておりますが、仮に厳しい財政状況を考慮してネーミングライツを導入した場合、今まで市民と協働で培ってきた横浜開港資料館としての歴史、文化を損なうことにはならないか、教育長に伺います。
 ところで、我が国は法治国家であり、地方自治については、憲法第92条以下4条を最上位に、地方自治法横浜市の条例を根拠に、横浜市の行政執行が行われているものと理解しております。今お話ししてきましたネーミングライツについては、実はこの執行にかかわる根拠法令がなく、ネーミングライツという文言すら入っていない、横浜市の広告掲載要綱及び広告掲載基準を類推解釈し、適用していることになっております。
 言うまでもなく、法律や条令は議会の承認なしには成立しないものであり、要綱、基準を根拠に、行政の判断だけでいわば勝手に適用することは、幾ら市長に権限移譲されていることであり、そこに違法性がないとはいえ、余りにも市民、さらには議会を無視した行政運営であるのではないかと言わざるを得ません。(「そのとおり」と呼ぶ者あり)これは非常に大きな問題であると考えております。(「よし」と呼ぶ者あり)
 今後、さまざまな公共施設、特に文化、芸術などの施設へのネーミングライツの導入について積極的に推進するとなれば、その導入に当たってはさまざまな配慮が必要になると思います。そこで、施設へのネーミングライツ導入に際しては、行政の中だけで決めるのではなく、もっと幅広く市民や議会などの意見を聞くようにすべきだと思いますが、市長に伺います。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
 また、さきの横浜開港資料館においては、横浜のローカルアイデンティティーである港、その歴史背景に注目いたしました。しかしながら、それだけではなく、戦後の特別都市計画法により横浜国際港都建設法が施行されているのは、市長もよく御存知のはずです。日本では、横浜と神戸だけが港を中心とした国際港都として都市計画をするよう法律で定められておりますが、被爆地広島では、広島平和記念都市建設法が制定されております。もし同様に広島市において平和記念資料館がネーミングライツを導入するとなったら、想像するだけでもおぞましい感じがいたします。
 このようにネーミングライツの導入については、それぞれの施設の置かれているさまざまな状況を十分にしんしゃくして進めるべきではないでしょうか。そこで、ネーミングライツの導入を検討するに当たっては、施設の目的、特性、価値等を含め総合的に検討する必要があると思いますが、市長に伺います。
 ・・・
◎市長(中田宏君)
 飯田議員にお答えを申し上げてまいります。
 まず最初に、ネーミングライツについての私への質問のほうでありますけれども、ネーミングライツ導入に際しての市民意見ということでありますけれども、これはもとよりいろいろな機会に今後も聞いていかなければいけないというふうに思っております。その上で横浜市をどうやって持続可能な財政にしていくのかということの中で、やはり議会の皆さんの御意見も十分に承って、その上で決めていくことが肝要かと思います。
 ・・・
 今回飯田議員から御質問の通告をいただいて、私も教育委員会からさまざま説明を初めて受けましたけれども、議論をいろいろな角度でしているようでありますけれども、現段階で決定をしているものでもないようでありますし、これからも議論が必要なものだということであります。そういう意味では、教育委員会も含めて横浜市の行政のいろいろな各所が、ネーミングライツや、あるいはどうすればもっと効果的な行政をするように展開ができるのか、工夫はあり得ないのかということをそれぞれに考え始めているということは、私はある意味ではたくましさを少し感じました。タブーというようなところも含めてどうやって議論をして、そしてその上で物を決めていくのかということについては、まさに現場に着眼した議論が必要なのであって、ネーミングライツの件はなじむ、なじまないといった議論などは、まさにそうした中でしっかりと決定をしていけばよいことだろうと思います。先ほど申し上げたように、この件について決定をしているということなどはまだ一向に決まっている話でもなく、また、今後の推移というものをぜひごらんいただければというふうに思います。
 ・・・
◎教育長(押尾賢一君)
 ネーミングライツについて御質問をいただきました。
 横浜開港資料館の設立趣旨や施設の特徴、価値についてですが、横浜開港資料館は、江戸時代から大正、昭和初期に至る横浜の都市形成と横浜市民の歩みを証明する関係資料を初め25万点余りを収蔵し、広く公開しているところでございます。これにより、市民の横浜の歴史に対する理解を深め、市民文化の向上に寄与するために、本市はもとより我が国の近代化と発展のもととなった開港の地に建てられた資料館と位置づけております。
 横浜開港資料館へのネーミングライツ導入についての考え方でございますが、横浜開港資料館の運営のあり方について検討しておりますが、現時点では同館へのネーミングライツの導入について決定してはおりません。しかしながら、市民の一層の御支援が得られ、より充実した運営が可能となるよう、ネーミングライツの導入も含め方策を検討する必要があると考えております。(私語する者あり)
 仮に導入した場合についてでございますが、先ほど申し上げましたとおり、同館へのネーミングライツの導入については決定してございません。仮に導入に当たりましても、同館の設立趣旨や経緯を損なうことなく、(「そぐわないよ」と呼ぶ者あり)施設の一部へのネーミングライツの設定等、多様な視点から検討してまいりたいと考えております。

横浜市環境創造・資源循環委員会の2008年3月13日の議論から

◆(若林副委員長)
 1点だけ、野毛山動物園ネーミングライツに関して伺います。
 まだスポンサーの手が挙がらないということで、昨年、御報告いただいたときに、そこには万全を期すという話だったと思うのです。その際は、募集条件とネーミングライツが動物園になじむだろうかという議論だったと思うのですけれども、その場合の新聞報道などで、命名権が所有権などの財産権には及ばないという記事を目にしまして、改めてネーミングライツの契約を締結するに当たっての法的な問題について確認させてください。過去に日産スタジアムについて導入したときに、商標権に準ずる権利という話を伺ったことがあるのですが、ネーミングライツの契約を締結するのは、商標権を設定すると考えていいのでしょうか。
◎(小松崎環境創造局長)
 ネーミングライツの法的位置づけということかと思いますけれども、いわゆるネーミングライツを権利として法制するということになれば、当事者間の権利によって内容が決まって、債権に当たることにはなると思っております。
 それから、商標権についてですけれども、そもそも商標権と申しますのは、商標登録を行わないと認められない権利でございます。条例で定められた施設名称は、そもそも商標登録を行っていないということでございますので、ネーミングライツそのものは商標権との関連はないという解釈でございます。
◆(若林副委員長)
 今、条例に記された名称という話があったのですが、広告にかかわるような無形の財産に対して、その定義が自治法などにもまだしっかりと示されていない中で、この問題を整理していかないといけないと思うのです。債権に当たるということは、では、私権を設定するという認識でいいのですか。
◎(小松崎環境創造局長)
 基本的にはそういうことかと思っております。
◆(若林副委員長)
 動物園は行政財産だと思うのですが、行政財産である動物園に私権を設定することはできるのでしょうか。
◎(小松崎環境創造局長)
 これは、もともと条例で定められた名称は、ネーミングライツとは別に厳然と存在するわけでございまして、行政財産としての名前は条例で決まっているという形でございます。新たにネーミングライツというものを付加して、そこに債権が発生するという解釈でございます。
◆(若林副委員長)
 今、行政財産としての名前という御発言だったのですが、動物園は名称も一体となった行政財産だと思うのです。その行政財産に私権の設定はできないのではないかと思うのですが、もう一度お願いします。
◎(小松崎環境創造局長)
 それは、さまざまな解釈をされる法律家の方がいらっしゃるかもわかりませんけれども、私どもの解釈としては、先ほど私が申し上げた形で考えているということでございます。
 また、これは横浜市全体でネーミングライツを今やっておりますので、そういう中で確認しながら進めているところでございます。
◆(若林副委員長)
 環境創造局だけの問題ではなくて、他局にもかかわることで、来年度、共創事業本部のほうで整理されるということなので、1つ検討事項ではないかと思うのです。今、条例に定められている名称だと局長もおっしゃったのですが、となれば名称変更には、今度は条例改正が必要ではないかと思うのですが、そこはどう考えたらいいですか。
◎(小松崎環境創造局長)
 行政財産としての名称は条例に定められているものでございまして、ネーミングライツはいわば愛称でございますので、行政財産に定められた名前を変更することは一切ございません。
◆(若林副委員長)
 今、愛称とおっしゃったのですが、募集要項を見ますと看板の設置、新名称を表示しますと。それから、案内看板も新名称を表示します、すべて新名称と要項にも書かれていて、条例で制定した名称の重みというのが私はあると思うのです。これは愛称と言っていても、実質的には名称の変更に近いのではないですか。
◎(小松崎環境創造局長)
 解釈の仕方によるかと思いますが、基本的には行政財産の名前は変えないことがルールでございますので、そういう解釈で私どもは進めているということでございます。
◆(若林副委員長)
 私は、前回の提案のときにここまで踏み込んだことを伺っていません。今、チャートに乗ってこの話は進んでいるということですので、ここまでにしたいと思うのですけれども、今、スポンサーの手も挙がっていないということで時間的な余裕もあるかと思います。これも改めてぜひ整理をしていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

3月14日の都市経営・行政運営調整委員会から

◆(太田委員)・・・
 ネーミングライツの話です。公有財産の命名権ということになっているのだけれども、実際には、例えばこども科学館を見てみると、そこで売られているグッズにラベルを張ったりして、物品の販売にも名前を使っていく。排他的にそういう権限を与えています。ということは、命名権というのは、社会的に、法律的にかたまっている権利でないとか何とかいうことを言っていたけれども、それは置いておいて、そうすると商標権ということになるわけだ。
 だからインターネットでネーミングライツというところを出すと、すぐ右のほうに、登録ができます、商標権ですと書いてあります。品物にラベル張ったり、いろいろやるからか、商標権として登録できるのですね。そういうことをネーミングライツ横浜市がやっているということは御認識だと思うのだけれども、どうですか。
◎(大場行政運営調整局長)
 関連の施設等でそういう事例はあるとわかっておりますが、今お話しいただきました商標権とネーミングライツとの関係ということになります。こんなことを申し上げてはあれですけれども、商標権は商標登録を行わないと認められない権利でございまして、ネーミングライツのほうは愛称ということで私どもは今取り組んで、説明させていただいている段階でございます。
◆(太田委員)
 おとといは動物園の関係で我が会派の若林議員が質問していました。要するに、今の愛称とか何かとは名前のことだ。くどいようだけれども、名前に付随して、あそこで売っている物品とか、いろいろなものに対して、商標登録していいという感じになっているわけだ。今あなたがおっしゃったように、商標登録する、しないは別だけれども、金を払ってそういう権利を与える、金を払ってそういう権利をもらうということになっているから、これは商標権ということになると思うのです。それでは、何の権利があってそんなことができますか。愛称というのはわかる。愛称というのは、太田正孝ならマーちゃん。愛称だ。それはいい。愛称をつけてもらうのに、お金をもらっているのではないでしょう。実際には、あらゆる物品に対して、パンフレットでも何でも全部あの名前をつけてやっていくということになる、その権利を与えるということになる。その権利に対して相手が金を払っているということになっているではないですか。商標登録する、しないは別だ。だけれども、登録しようと思えば登録できる。そういう権利を与えているということは事実でしょう。現実的に品物に対して、ラベルでも何でもやるわけだから。そういうことを言っているのだけれども、どうですか。
◎(大場行政運営調整局長)
 施設の名称等でネーミングライツに名乗りを上げていただいて、決まった企業が名称をつけるということについて確認はしておりますが、私も物品販売のところを、横浜市として関連企業と一定の決めをしているというところの確認は、この段階ではできておりませんので、また調べさせていただきたいと思います。
◆ (太田委員)
 なぜそういうことを聞いているかというと、要するに、動物園の募集要綱を見ても、そういうことが書いてあります。積極的にそれをやっていく、PRすればいいということになっている。行政運営調整局が公有財産の管理権を持っているから、その辺のところを知らないでは済まないわけです。ではそれは、申しわけないけれども、委員会が終わってからでいいから、きちんと文書で、命名権と言っているのだけれども、命名のほかに、そういうことも許しているということを僕は聞いているわけよ。現に許しているわけだから。だから命名権のほかに商標権も与えていると考えていいのではないかと思うので、その辺のところを明確にさせてください。

私権が発生するというところは市行政も認めているところですね。そして,市行政の論理としては,正式名称とは別に「いわば愛称」というものを市が施設に付加する,その「愛称」を考案し付ける権利を債権として,特定の者と排他的に契約するということですね。
でも,横浜こども科学館(「愛称」:はまぎんこども宇宙科学館)のトップページ(魚拓)を見ますと「横浜こども科学館は4月1日から新しい名前になりました。」って書いてありますから,実質的には名称の変更ですね。議会で可決された「正式名称」は基本的に市民に対しては使わないわけですから。
2月29日の追記にも書いたように,一社が愛称(実質的には名称)を「独占してしまったことで,科学館への市民の理解,支援がどれぐらい減少していくのか,考えるのが怖くなります。」

2008年6月17日追記

横浜こども科学館命名権を購入した横浜銀行について,天野屋旅館の一件との関わりを指摘しているページがあります。信憑性は何ともわかりませんが。
 【ミニ情報】明治創業の湯河原・老舗旅館「天野屋」が取り壊しか!? (2007年7月5日)
 【ミニ情報】湯河原・老舗旅館「天野屋」、〝文化財〟申請・登録後に転売 (2007年7月17日)
 【ミニ情報】国の有形文化財「天野屋旅館」が転売後に〝長期間放置〟 (2007年12月1日)
 【ミニ情報】国の有形文化財「天野屋旅館」がついに〝バリケード封鎖〟 (2007年12月5日)
 【ミニ情報】文化財「天野屋旅館」がついに解体、取り壊しへ (2008年2月19日)
 【ミニ情報】週刊金曜日が登録有形文化財「天野屋旅館」について記事掲載 (2008年3月16日)
 【注目記事】ZAITEN5月号「地元文化財旅館を取り壊しの瀬戸際に追い込む地銀の雄・横浜銀行の〝品格〟」 (2008年4月5日)
 【ミニ情報】国の登録有形文化財「天野屋旅館」、ついにリゾートトラストが解体工事に着手へ (2008年5月25日)
天野屋旅館の一件については,次の記事も。
2007年11月13日の神奈川新聞の記事から

文化財の老舗旅館、転売で保存が危うく/湯河原町
登録有形文化財の老舗「天野屋旅館」(湯河原町宮上)を所有する運営会社が、登録が決まって三カ月後の今年六月に同旅館を転売し、保存が危うくなっていることが、十二日までに分かった。文化庁は「所有者が代わる前例はない」として、国の文化財の登録制度が形骸(けいがい)化することを懸念、各都道府県に対して所有者への保存の意思確認を徹底するよう求めている。
 同旅館は、明治初期創業の湯河原温泉の老舗。各地の銘木を多用していることから「銘木旅館」と呼ばれ、箱根の大工によるデザイン的にも凝った秀作とされている。
 二〇〇五年四月に閉館後、〇六年三月に「クリスタルゲート」(本社・東京)が購入。ク社は同年十一月、本棟や別棟など建物五件の登録を町を通して県に申請。県は文化庁に意見を上げ、今年三月に登録が決まった。
 だがク社は、七月の正式発表を待たずに六月下旬、会員制リゾートホテルなどを経営する「リゾートトラスト」(本社・名古屋)に転売した。ク社の男性役員は「温泉設備や施設の補修に想定外の資金がかかることが、今年春分かったため」と理由を説明している。
 文化庁担当者は申請を受けて、現地調査で保存再生の意向をク社から聞いたといい、「信頼していたので非常に残念。その上、正式発表前に売るなんて思いもよらなかった」と怒っている。県教委生涯学習文化財課も「移転をもって取り壊しの意味があると受け止めている。ショッキングな出来事だ」と危うくなった旅館保存を案じた。
 「対象は都道府県からの意見として紹介されるため、登録の取り下げ手続きはできない」と文化庁。転売で保存前提でなくなっても建物自体は登録され続け、固定資産税減額などの支援措置を受けられることになる。
 転売を想定していない登録制度の弱点が露呈した格好だが、現所有者のリ社は所有変更の届け出をしておらず、支援措置は受けていない。
 リ社の広報担当者は「現建物をどうするかは検討中」としている。同社は箱根町宮ノ下の老舗旅館「奈良屋」を解体し、会員制リゾートホテルを建設中だ。・・・

2008年2月16日の神奈川新聞の記事から

湯河原の老舗旅館取り壊しへ/有形文化財の保存再生ならず
登録有形文化財の「天野屋旅館」(湯河原町宮上)を保存活用する意向だった同旅館の前運営会社が文化庁に解体撤去を届け出ていたことが、十五日までに分かった。同社は資金難を理由に、リゾート開発を進める別会社に同旅館を転売していた。明治初期創業の老舗旅館の文化財登録は抹消、取り壊しという結末を迎えることとなる。
同旅館は二〇〇五年四月に閉館。その後、当時の所有者から運営会社「クリスタルゲート」(本社・東京)が購入。本棟や別棟など五件の建物を国登録有形文化財として申請したが、登録決定直後の昨年六月下旬に会員制リゾートホテルなどを運営する「リゾートトラスト」(本社・名古屋)に転売していた。
 湯河原町は同年十二月、ク社から同館の解体撤去の届け出を受け、県を経由して文化庁はこれを受理した。
 県内では、解体撤去で国登録有形文化財が抹消されたケースは、リ社が購入して解体した箱根町宮ノ下の老舗「奈良屋旅館」だけ。同旅館跡地では一〇年春完成を目指して会員制リゾートホテルの建設を進めている。
 全国に約二十カ所のリゾートホテルを開発しているリ社は、県内二カ所目となる天野屋旅館の土地の開発計画を明らかにしていないが、同社広報担当者は「天野屋旅館は場所が魅力的。一年に一カ所のペースで開発を進めているので早急ではない」と話している。
 十四日に開会した湯河原町議会三月定例会の提出議案によると、リ社はすでに買収した天野屋旅館本棟などに加えて、周辺の町有地なども広範に購入する意向を示している。
 ・・・建築的、歴史的にも価値ある旅館の取り壊しを受けて、町は「記録として図面を残すか、現部材を(別の建物で)できる限り使ってもらうぐらいしかない」とあきらめた様子。文化庁担当者は「保存再生を願ったが非常に残念」と話している。・・・

2008年11月13日追記 宝塚市手塚治虫記念館

2008年11月12日の産経新聞兵庫版の記事から

手塚治虫記念館などに命名権導入 兵庫・宝塚市
宝塚市が来年度から、市ゆかりの漫画家、故手塚治虫さんの直筆原稿を展示する「市立手塚治虫記念館」(同市武庫川町)など公共の3施設に、ネーミングライツ(施設命名権)を導入することが11日、分かった。同市は平成22年までの3年間で41億円の財源不足を見込んでおり、「広告収入で少しでも増収につなげたい」としている。
 導入されるのは、手塚治虫記念館のほか、昭和55年開館の音楽専用ホール「ベガ・ホール」(同市清荒神)と、平成5年開館の多目的ホール「ソリオホール」(同市栄町)。
 いずれも企業や大学が対象で、期間は3年間。年額は未定だが、2つのホールは年額数百万円程度で検討。一方、手塚治虫記念館は名称に「手塚治虫」を残すことなどを募集条件として今後、手塚作品の著作権を管理する「手塚プロダクション」(東京都)に了解を求めるという。

手塚治虫記念館は教育委員会ではなく首長部局所管の施設のようですね。目的は「手筭治虫氏の偉業を広く後世に伝えるとともに、未来を担う青少年に夢と希望を与える」こと。googleで見てみると,手塚治虫主宰の雑誌「COM」や直筆の手紙,手塚治虫の製作した昆虫標本など,全国から様々な寄贈も受けているようです。また,独自に収集も進めています。
愛称命名権を独占的に一企業に売却した際に,寄贈や収集への協力・支援が当該企業以外の人々からスムーズに得られるのかが鍵となりそうです。
まだ,手塚プロダクションの合意はとれていないとのこと。
 そういえば,公募ではなく,株式会社手塚プロダクションにであれば,独占的な権利として市行政が命名権を売却するということは許容範囲の気がします。