独立行政法人整理合理化&市場化テスト 偽装請負の疑いは?

行政改革推進本部事務局のホームページに,有識者会議の指摘事項(「独立行政法人の整理合理化計画の策定に関する指摘事項」)が掲載されています。
11月27日の毎日新聞に,この「指摘事項」に関する記事が載っています。

<独法改革案>廃止・民営化法人名を削除 有識者会議報告書

 独立行政法人の改革案を検討している「行政減量・効率化有識者会議」の茂木友三郎座長は27日、年末の整理合理化計画の前提となる基本方針を福田康夫首相に文書で報告した。ただ、有識者会議が廃止・民営化対象と文書に盛り込んだ11法人名は直前に削除され、今後も個別法人の改廃論議には踏み込まないことになった。所管省庁の抵抗が依然強いためとみられ、改革は大詰めで迷走する可能性が出てきた。
 「会議としての結論は出ておらず、この段階で特定の法人名を出さない方がいいという政府の判断だ」。茂木座長は記者会見で法人名を伏せた理由をこう説明した。ただ、会見の直前に記者団に配布された資料には、都市再生機構国土交通省所管)、日本貿易保険経済産業省所管)、国立健康・栄養研究所厚生労働省所管)など11法人が明記されており、職員が急きょ回収するドタバタぶりだった。
 関係者によると、渡辺喜美行革担当相は同日、町村信孝官房長官に基本方針を説明。その後、茂木座長が首相と面会する段階では法人名が削除されていたという。一方、名指しされた省庁は公表しないよう官邸側に働きかけており、官邸も、対立を先鋭化させるより水面下で調整する方が得策と判断したようだ。
 さらに有識者会議は12月に予定していた最終報告書の作成も中止した。これに個別の法人の改革案を盛り込み、政府の整理合理化計画に反映する段取りだった。行革推進本部事務局幹部は「有識者会議の能力を超えていた」と語り、事実上の「敗北」を宣言した。
 有識者会議は基本方針で、改革対象の101の独法を(1)事務事業見直し(2)廃止・民営化(3)統合・移管(4)非公務員化−−に分類して整理する方針を打ち出した。今後の改革の行方は、来週から始まる渡辺行革相と所管省庁の閣僚の折衝に委ねられるが、議論をリードしてきた有識者会議の失速によって、廃止・民営化対象の法人を多く抱える国交省などとの協議は難航しそうだ。【三沢耕平】

行政改革推進本部のページに掲載されているものも,法人名が削除されたものということですね。しかし,もう,あちらこちらで具体的な法人名や事業名が報道されています。概略は次のようです。

 《廃止・民営化》
 ▽通関情報処理センター日本万国博覧会記念機構メディア教育開発センター教員研修センター国立健康・栄養研究所労働政策研究・研修機構緑資源機構日本貿易保険海上災害防止センター都市再生機構住宅金融支援機構

 《統合、他機関・地方への移管》
(1)国民生活センターを中心とする消費者保護機能の集約化 (2)国立女性教育会館国立青少年教育振興機構 (3)農業生物資源研究所農業環境技術研究所農業・食品産業技術総合研究機構国際農林水産業研究センター森林総合研究所水産総合研究センター (4)水産総合研究センター水産大学校 (5)土木研究所▽建築研究所電子航法研究所▽交通安全環境研究所▽海上技術安全研究所港湾空港技術研究所(6)空港周辺整備機構

 《事務・事業の見直し等》
 ▽造幣局国立印刷局の通貨製造業務以外▽日本スポーツ振興センターのtoto事業▽日本学生支援機構奨学金事業▽雇用・能力開発機構の「私のしごと館」など▽農畜産業振興機構の畜産事業▽情報処理推進機構のソフトウエア開発への助成

 《非公務員化》
 ▽統計センター▽国立病院機構

労働政策・研究研修機構については,このダイアリーの9月27日9月28日10月18日のエントリーでも取り上げたところですが,民営化ということも考えられないでしょうから,廃止が妥当と「有識者」は考えたということですね。
ネオリベラリズムは,労働環境への攻撃をさらに強めようとしているようです。
また,日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金事業も廃止として俎上にあがってきています。ネオリベラリズム創始者フリードマンは,ある意味,究極のアナキストで,市民権運動へも反対をしていました。とにかく,国は福祉や教育については積極的に何もするべきでなく,市場の手に委ねることが第一と。そうでなければ,努力し,成功する者が報われないと。
 成功した者と,その子孫が繁栄する社会のできあがりです。「有識者」はみんな成功者でしょうから,彼らの利己的にはそういうお考えもわかりますが,本当にそれでいいのか。
むき出しの資本主義,グローバルなマネーゲームに蹂躙される日本は,ますます生きづらい国になりそうです。

市場化テスト

ついでに,本日のNHKニュースから。

独立行政法人 競争入札を導入

 政府は、むだが多いと批判が出ている独立行政法人について、「ほんとうに必要なもの以外は廃止する」という閣議決定に沿って、101ある法人の見直しを進めています。政府の「官民競争入札等監理委員会」は、この見直し作業にあわせて、廃止されたり民営化されたりしなかった場合でも、独立行政法人の事業に民間企業が参加する競争入札制度を導入し、コストの削減を進める方針で検討を続けてきました。その結果、日本スポーツ振興センターが所有する競技場や、労働政策研究・研修機構が持つ労働大学校の管理や運営事業などおよそ30の事業について、民間企業による競争入札などの導入がふさわしいとして最終的な調整を続けており、年内に対象の事業を取りまとめたいとしています。

競争入札」と表現していますが,NHKもせっかくのニュース価値を台無しにしていますね。「官民競争入札等監理委員会」が検討しているということは,ここでいう「競争入札」は「市場化テスト」ということです。
「国立競技場の運営,労働大学校の運営が市場化テストにさらされる」と表現した方が,よほどニュースバリューがあると思います。
この官民競争入札等監理委員会では,博物館の運営も話題になっていました。この30の中に含まれるのでしょうか。議論では,調査研究は職員が行うことがわかるが,資料の保存や展示の運営は年限を切って競争入札で委託してはとされていました。
もし,導入されたら,寄贈・寄託している資料の取り付け?引き上げ騒ぎが起きるかもしれませんね。学芸員の流出も始まるかもしれません。後に残るのはそれこそハコモノだけになったりして。

偽装請負

官民競争入札等監理委員会のページに,市場化テストを実施する事業の一覧が「基本方針の別表」として出ています。
例えば,「社会保険事務所で実施している国民年金保険料の滞納者に対する納付の勧奨及び請求,納付の受託等の業務」などもあります。
 (株)もしもしホットラインや(株)オリエントコーポレーション日立キャピタル債権回収(株)などが受注しているようですね。オリエントコーポレーション(貸金業登録:関東財務局長(8)00139)はオートローン,ショッピングクレジット,カード,eビジネス,料金決済などを扱っている会社ですね。
 これらの企業が未納者情報を持って督促に来るということです。社会保険庁の職員が直接,指揮監督することはできませんから,「ちょっと待ってくれ」などという個別事情については例えばオリエントコーポレーションの責任者が判断するということになります。
 もし,個別事情について社会保険事務所の職員が判断し,従事者に直接指示したら,偽装請負,違法行為となってしまいます。「介護保険関係の窓口業務」や「市町村窓口関連業務」なんて,派遣ならともかく,業務委託できる業務なのかと勘ぐってしまいます。
(このあたりについては,hamachanさんのEU労働法政策雑記帳の2006年10月12日のエントリーが大変参考になります。)
それとも,偽装請負が違法にならないからくりがどこかにあるのか,それともなし崩しにネオリベラリストたちは偽装請負を合法にしようとしているのか。
一方では「警察大学校の施設の管理・運営業務」「消防大学校の施設の管理・運営業務」というのもありますが,これは何でしょうか。清掃や電気設備の監視など,すでに民間委託しているんでしょうから,市場化テストをするということは中小業者の締め出しを狙っているんでしょうか。
様々な反省があってできた労働基準法職業安定法独占禁止法市場化テストは骨抜きにしようとしているように感じます。