三館の運営費が約2千万円?

鳥取県米子市の博物館に関する話題。
http://www.nnn.co.jp/tokusyu/wadai/061122.htmlより。

米子市歴史館 指定管理者導入から半年

 米子市立の三つの歴史・考古資料館に指定管理者制度が導入され、民間企業に管理運営が委託されるようになって半年以上が経過した。学芸員の複数設置、入館料の無料化、支援する会の立ち上げなど、新たな取り組みが実行される一方、予算の確保、市民との連携など課題も浮き彫りになっている。公立の文化施設が民間委託された県内初のケースとして、今後の展開が注目されている。
入館者倍増 でも予算苦しむ
 三施設は、山陰歴史館(米子市中町)、福市考古資料館(同市福市)、淀江歴史民俗資料館(淀江町福岡)。指定管理者制度導入に伴い、市はこれらの施設を「米子市歴史館」として本年度から五年間、倉吉市米子市のビルメンテナンス会社が組んだ「エバー・中ビル共同企業体」(米子市上福原三丁目、山本慧代表)に管理運営を一括委託した。
 市としては、経費削減と民活による施設の活性化を期待し、同制度をビジネスチャンスとする企業側は、企業イメージのアップ、地域社会へのアピールをねらう図式だ。

■入館料無料化
 指定管理者の同企業体は四月から施設の入館料を無料にした。集客施設として不十分な現状から、入場料収入を得るより、多くの人たちに足を運んでもらい認知度を高めようという作戦。
 その結果、新しい制度への興味もあって、四月から九月の半年間の三施設の入館者数は七千七百五人で、対前年同期比で50%増となった。特に、下町観光の集合場所となっている山陰歴史館は63%増で、玄関ロビーにソファを置くなど来館者サービスにも努める。
 ただ、淀江歴史民俗資料館は26%増にとどまり、地域密着の運営がなされていただけに、地域への浸透が課題だ。

■少ない予算
 市からの年間委託費は二千七十七万円。これに同企業体が二百五十五万円を持ち出して、運営している。ほとんどが人件費で、企画展示に充てられる予算はわずか。
 また、人員体制も、十一月から学芸員三人体制になり、常勤は事務局長、事務職員一人の計五人。補助的なパート職員二人がいるが、三施設を抱えるためぎりぎりの人数だ。
 十月末、同企業体は、市条例の市歴史館運営委員会とは別に、経済界などから外部理事を迎えた独自の管理運営協議会を設置。併せて、企業や市民から協賛金を募る「米子市歴史館を支援する会」を立ち上げた。
 山本代表は「手探りの中で今までやってきた。勉強不足もあり、予算的に苦戦している」としながら、「われわれが体制を整えしっかりすることが大事。実績がすべて」と話す。

■課題は連携
 元山陰歴史館館長で市歴史館運営委員会の杉本良巳委員長は、こうした指定管理者側の動きに対して「資金をどうするかが一番の問題だが、リピーターを育てるには絶えず資料の収集整理を続けていく必要がある。学芸員が働きやすい環境をつくってほしい」と要望する。
 また、下町観光ガイドとして山陰歴史館を利用している高橋 夫さんは「経済界だけでなく研究者、市民ボランティアなどあらゆる層を巻き込んで歴史館をバックアップする組織が必要。市も丸投げではダメ」と指摘する。
 米子市が進める合併プロジェクト「伯耆の国文化創造計画」では、歴史館はその中核を担う。市教委文化課の長谷川明洋文化課長は「設置者と指定管理者がどう連携していくかが重要。今後は指定管理者との定例会を設けて問題点を整理していきたい」と話している。

日本海新聞 11月22日

公立博物館として,まさに博物館法に定められているとおり,入館料を無料としたのは,ガバナンス側の米子市(教育委員会)の英断でしょう。全国のより多くの事例では,むしろ,入館料による利用料金制を前面に出し,営利セクターのインセンティブにしているところが多いようです。
今回の米子市の例では,入館料を無料とすることによって,市にとって,市民にとって博物館がどのような存在なのか,積極的に広報(Public Relations)することができたことと思います。
ただ,年間委託費が約2千万円というのは,いくらなんでもありえないもの。そもそも委託費2千万円で,常勤職員5人,パート職員2人を雇っているのがミラクルですらあります。
展示施設をただ管理するだけでは,博物館という肩書きはおろした方が良いでしょう。
ここを地域文化の創造の拠点とするのであれば,今ある展示や施設,すでに収集された標本資料を保存管理するだけでなく,地域に埋もれた価値を発掘し,その証拠たる標本資料を収集することが必要です。さらに,それらを新たな展示や教育普及活動で発信するとともに,ボランティアや経済界,地域コミュニティの活動のコーディネイトを学芸員等の職員が行う。
おそらく,常勤の学芸員は,一生懸命その責務を果たそうとしているのでしょうが,いかんせん,活動経費がこれだけないと成果を出すことは困難でしょう。
指定管理者制度導入直前の17年度予算では,三館合わせて約3100万円の予算がついていました(しかも山陰歴史館と福市考古資料館は直営施設だったので,人件費は別途計上されていたのでは?)。それを考えればこの三館に指定管理者制度を導入することで,数千万円単位の節約をすることができたとは考えられます。しかし,このことによる文化的損失も評価しなければなりません。
最終的には市行政であり,市議会・市民が選択することでしょうけれど,はっきり言って現状は疑問に思います。

2009年11月4日

2009年11月4日の読売新聞鳥取版の記事から

歴史ファン3施設支援米子市歴史館友の会事務局長 佐々木 彬夫さん 64(米子市
米子市の山陰歴史館、福市考古資料館、淀江歴史民俗資料館の3館の運営を支援する「米子市歴史館友の会」が約50人の歴史ファンらで9月に発足、会報の発行や会員講座などの活動を始めた。3館の指定管理者の企業「エバークリーン」の社員で、会の結成を呼びかけた佐々木さんに狙いや背景、施設運営を取り巻く状況を聞いた。
――会員はどんな人たちですか?
 歴史館で取り組んできた中世の城館巡りや旧街道を歩くイベントに参加した人たちが多いですね。「定年になったので歴史を学びたい」という人たちも。
――情報提供や勉強が活動の中心になるんですか
 それだけでなく、館の運営も手伝ってもらいたいと考えているんです。小学校を回ってPRした効果が出て、歴史学習に訪れる児童らが9〜10月だけで1000人を超えました。この児童ら向けに、縄をなう作業など昔の暮らしを実演するお手伝いが欲しいのです。常駐の解説ボランティアにもなってもらえれば。
――市民と一体になって館を運営するのですね
 市民参加で盛り上げたいんです。2010年は、06年から務めている指定管理期間の最後の1年で、旧館から通算して山陰歴史館開館70周年の記念の年。様々な企画を通して元気を発信します。もちろん、会の皆さんの力も借りて。
――2月に指定管理者制度に関する考えを歴史館便りに発表されました
 文化・教育にかかわる施設なので、息長い運営が必要ですが、今の制度では管理運営するのは5年です。公募なので、次の審査で他社に負けたら、運営方針も変わりますよね。ラーメン屋が5年後にはうどん屋、その次はそば屋に変わっては混乱します。
――国の政権交代で混乱が起きるのと同じ
 その懸念をなくすために、運営は行政が担当し、本来の施設管理だけを企業に任せるとか、指定管理の期間を長くするなどの対策を検討すべきだと考えています。
――例えば
 淀江歴史民俗資料館は上淀廃寺のガイダンス施設になるのではっきりしていますが、福市考古資料館の将来像は見えません。展示の中心の弥生〜古墳時代の出土品は、ほかでも見ることができるので特徴付けをしないと。私としては、大人の考古ファンが土器を洗ったり、拓本を取ったりといった専門的な施設にしてもいいと思っています。行政はどう考えているのか、けんけんごうごうの議論をしたいものです。
(聞き手・大櫃裕一)
 <トークメモ>県職員だった日野町出身の父の転勤に伴い、東京で育った。疎開などで幼少期と中学生時代は同町で過ごす。大学を卒業して鉄道建設公団(当時)で務めたが、ゼネコンなどへの天下り体質を嫌って46歳で退職し、帰郷。デパートなど流通業界で働いた後、2007年2月にエバークリーンの前身の共同企業体から誘われた。「客の立場でものを見ることをたたき込まれた流通業界の経験が、館の運営に役立っている」

なお,中国ビルサービスが本社経営に専念したいとのことから,「エバー・中ビル共同企業体」が平成20年12月31日で解散したため,平成21年1月1日からは,「株式会社エバークリーン」が単独で指定管理者に選定されています。非常勤の館長1名,常勤の事務局長1名,事務局員1名,学芸員2名,学芸補助員4名の合計9人体制については変化はありませんでした。