航空科学振興財団歴史伝承委員会の企画展

航空科学振興財団とは,成田の航空科学博物館の運営などの活動を行っている財団法人である。
その財団法人が所管する歴史伝承委員会が25日から成田で企画展を実施する。http://www.rekishidensho.jp/kikakutenji.html
タイトルは『―土・くらし・空港―「成田」40年の軌跡1966-2006』。「成田国際空港が成田の地に位置決定されてから今年で40年を迎えます。歴史伝承委員会では成田空港問題の歴史を後生に残すため,その背景となる地域の風土や歴史をも含め,できうる限りの史料を収集したいと活動を続けてきました。このたび,これまで収集した資料などをもとに,空港の位置決定から今日に至るまでの経緯について企画展示を開催いたします。」とのこと
展示の構成は(1)空港のはじまり−新空港計画と揺れる地域社会(1961-66),(2)位置決定の衝撃(1966-67),(3)力による対決の時代(1967-78),(4)社会正義と新たな地域像−シンポジウム・円卓会議(1979-94),(5)歴史伝承委員会がめざすもの(1995-)の五部構成。それに加えて,開港反対闘争を担う三里塚の人々の活動を記録しつづけてきた小川プロダクションについての紹介コーナーもある(12月2日には,「三里塚・第二砦の人々」「映画作りとむらへの道」の上映会もある。
成田空港開港は,行政や警察による人々の生活の締め付け,闘争を担う人々の高齢化など,結局,民主主義の原則たる対話もないまま,国の強権的なごり押しが通ったものであり,日本国という統治機関の性格を象徴するできごとであった。
だからこそ,この闘争の記憶は,生活する自然人の視点で将来に語り続けられたら良いと思う。
歴史伝承委員会は,現在,航空科学振興財団のもとにある。この財団は国土交通省所管の法人であり,その目的はあくまで「航空に関する科学知識について、一般国民特に青少年に対しその啓発を図り、もって航空思想の普及及び航空に関する科学技術の振興に資し、あわせて我が国民間航空の発展に寄与することを目的とする」というものである。それゆえに,展示にかかわらず,資料の掘り起こし,保存においても,そのイデオロギーを逃れることは不可能であろう。とはいえ,保存の安定性ということでいえば,信頼には値する組織である。
複雑な思いを抱えながらも,この企画展を見に行こうと思っている。

歴史伝承事業プロジェクトチーム発足 2007年4月22日追記

航空科学振興財団歴史伝承委員会が歴史伝承事業プロジェクトチームを発足。
 座長は新井勝紘専修大教授。
 今年秋をめどに,今後の歴史伝承事業の在り方をまとめ,空港の運用をチェックする第三者機関「成田空港地域共生委員会」に提出するとのこと。

2009年4月26日追記

4月26日の毎日新聞千葉版の記事から

空港反対闘争の伝承施設建設へ
成田国際空港建設反対闘争の歴史を後世に伝える展示施設を作ろうと,成田国際空港会社(NAA)が「歴史伝承委員会」を社内に設けた。24日の初会合では,空港南の航空科学博物館(芝山町岩山)の敷地内に建てることで合意。来年3月の完成を目指す。
 委員会は,地元の「空港問題の歴史を正確に伝えてほしい」という要望に応えて組織された。実際に反対闘争に使われた鉄パイプや火炎瓶,ビラ,空港反対派が旧運輸省と初めて話し合った「成田空港問題シンポジウム・円卓会議」(91〜94年)の資料などを展示する予定。【山田泰正】

NAAが,NAA側から見た一面的な研究や展示をやるとは思わないし,そう信じたいところではあるが,スポンサーがNAAである以上,スポンサーの意を汲まない展示ができないであろうことも注意することだけは押さえておかないと。

2009年6月3日追記

6月3日の東京新聞千葉版の記事から

苦難の闘争資料を展示  成田空港『歴史伝承館』建設へ
成田空港の苦難の歴史を紹介する「歴史伝承館」(仮称)が芝山町内に近く建設される見通しになった。空港問題の記録を集めていた「歴史伝承委員会」(座長・新井勝紘専修大教授)の資料などを展示。成田国際空港会社(NAA)は現在、展示内容を検討している。 (宮本隆康)
歴史伝承委は一九九七年に結成され、地元自治体や空港会社、大学教授、地元住民らで構成。元反対派幹部や初期に移転した農家、自治体職員らに聞き取り調査をしたり、資料を提供したりしてもらった。これまでに空港反対闘争の映像や写真、ビラ、反対派のヘルメットなど約三万点を集めている。
 この収集資料を常設展示するため、歴史伝承館の建設計画が浮上。空港会社が歴史伝承委の活動を引き継ぎ、費用を負担して建設する。来年三月にも完成する見通しだ。
 計画では、空港近くの芝山町岩山地区にある航空科学博物館の敷地内に建設。空港建設前の農村の様子から激しい反対闘争、シンポ・円卓会議を経て、現在に至るまでの関係資料を展示する。
 国際的にも評価が高いドキュメンタリー映画監督、故小川紳介さん主宰の「小川プロダクション」が撮影した映像を放映する映写室の設置も検討中だ。
 展示内容の公平性を確保するため、空港会社は社長の諮問機関として、大学教授や元反対派らを加えた委員会を今年四月に発足させ、協議を進めている。
 委員長を務める伊藤斉常務は「成田空港はいろいろな歴史の積み重ねの上に成り立っている。これらの歴史を風化させてはならない」と話している。

「展示内容の公平性を確保するため、空港会社は社長の諮問機関として、大学教授や元反対派らを加えた委員会を今年四月に発足させ、協議を進めている。」ことは優れて評価できます。
オープン時点での展示が楽しみです。
そして,オープン後がどうなるのか心配です。

  • 会社の歴史は,地域住民の苦しみとともにあって,今後も,過去の反省にたって現在の地域住民との連携を深めることが,まさに会社経営にとって必要不可欠であることを認識して,
  • 歴史伝承館委員会・もしくは協議会等を引き続き置くとともに,その委員会が推薦又は選任する常勤の学芸員を置いて,引き続き資料の収集と調査,評価を進める体制を整備する。また,
  • チラシ等のアーカイブを整備するとともに,それらの資料をコンピュータまたはフィルムによって広く人々に公開する。また,
  • 同館への財政支出を継続的に行うように努める。

そんなことを期待しています。