ハードワーク,ニッケル・アンド・ダイムド

ハードワーク−低賃金で働くということ

ハードワーク~低賃金で働くということハードワーク~低賃金で働くということ
ポリー・トインビー 椋田 直子

東洋経済新報社 2005-06-17
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イギリスの低賃金労働者の実態のルポ。サッチャー政権時代の改革が生み出したものは何だったのか。
サッチャー政権によって社会福祉制度はがたがたにされたが,アメリカよりはまだ社会福祉制度が備わっているイギリス。社会民主主義的な考えが存在し,一方ノーブレスオブリッジの伝統も残るイギリス。
しかし,一方で,ニューカマーからの富の収奪が進む社会でもある。

ニッケル・アンド・ダイムド -アメリ下流社会の現実

ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実
B.エーレンライク 曽田 和子

東洋経済新報社 2006-07-28
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アメリカ低賃金労働者の実態のルポ。公的な社会福祉制度が貧困なアメリカ(NPOによる活動は活発であるが,恩恵を受けられる人々は多くはない)での生活状態。これは小泉,安部政権の進む方向を示しているかもしれない。再チャレンジ以前の生活に人々を置いている現状,有産層による無産層の労働収奪。
マルクス主義で言われていた有産層による富の収奪,搾取が盛んに行われている現状。
「先進国」による発展途上国の富の収奪が,以前ほど見込めなくなった中,「先進国」内で搾取が激しくなってきている。
右肩上がりの経済成長が幻想となったいま,人々はどのようなパラダイムを見つけ出すことができるのか。

市場化テスト,指定管理者,独立行政法人などの公共サービス改革は,公共サービス部門での低賃金化を招きつつある。
もちろん,企業では,アルバイト・パートという不安定な雇用形態が遙かに先行して行われてきていた。
一部の勝ち組による低所得者からの富の収奪,安定した中高年層による若年層からの富の収奪。
アメリカでは依然として,アフリカ系アメリカ人をはじめ,非白人からの富の収奪が続き,イギリスではニューカマーからの富の収奪が行われている。
これももちろん問題。 だが,
日本では,若年層から,未来の日本社会を担う層からの富の収奪が続く。
金持ちの家の子どもは資産を持つことができるだろう。だが,そうでない若者は搾取され続ける。
果たして,これらの国に未来はあるのか。

参考(10月21日追記)

丸山貞行さんのページ「格差」http://blog.goo.ne.jp/forum-m/e/e1a9857dcebc815994e0ec14bcdd8089

イギリスの医療崩壊 2007年1月13日追記
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
小松 秀樹

朝日新聞社 2006-05
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虎ノ門病院泌尿器科部長による本。特に慈恵医大青戸病院事件について,医師が刑事責任を問われることの意味,民事上の争いとなった際の医師と法律関係者の視点の違いと,今後の医療へ投げかける問題等についての本。航空機事故においても,刑事事件として捜査が進められることで,再発防止のための事故の原因究明が進まなくなることが指摘されているが,医療問題でも同様の問題があるとのこと。
なお,本ブログでも東京女子医大病院を舞台とした刑事事件について触れているが,http://d.hatena.ne.jp/ironsand/20050108#p1,これはカルテ改ざんであり,明らかに正当性を欠いたもの。
さて,この本によれば,イギリスでは患者はGPと呼ばれる一般医の中から主治医を選択して登録し,熱が出たようなときは,通常主治医に電話で相談する。どうも熱が下がらない場合は電話で予約することとなるが,受診できるのは2〜3日先になると言う。さらに専門医の診療が必要だと主治医が判断した場合は,専門医を紹介されることとなるが,2001年3月時点での専門医受診待機者リストは28万3千人だったという(全国の専門医の合計?)。
この手続きではなかなか診療が受けられないため,直接救急外来を利用する人もいるという。ある月曜日に救急を受診した3893人を対象とした調査によると,診察を受けて,入院が必要だと判断されてから病棟に移るまでの平均待ち時間は3時間32分(診察待ちの時間は含まれていない)。最高時間は78時間だったという。78時間ストレッチャーの上で待たされていたと言うことである。
入院待機患者数も多い。保守党時代に増えた入院待機患者数であるが,労働党は1997年公約(2001年までに待機患者数を10万人削減)の目標を遙かに達成し,2001年には15万人削減に成功したという。しかし,それでも待機患者数は100万7000人もいたという。

概要を紹介したイギリスの事情は,次の本が原典とのこと。

「医療費抑制の時代」を超えて−イギリスの医療・福祉改革

「医療費抑制の時代」を超えて―イギリスの医療・福祉改革「医療費抑制の時代」を超えて―イギリスの医療・福祉改革
近藤 克則

医学書院 2004-05
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イギリスの医療事情については医者でもある「まさ」氏のページもとても詳しいです。
http://www.geocities.jp/jgill37jp/
イギリス南部のサザンプトン留学中に長女が病気にかかった際の体験を中心にイギリスの医療事情を紹介しています。

アメリカの医療がかかえる問題についての本 1月16日追記
市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗

市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗
李 啓充

医学書院 2004-10
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ボストン在住の日本人医師 李啓充氏の本。
 アメリカの医療が市場原理に委ねられてきた結果,巨大病院チェーンがいかに医療を荒廃させてきたか。
 人々が普通の医療を受けることへのアクセスが閉ざされているアメリカの現状がよく描かれている。
日本でも,混合診療解禁,医療への株式会社の参入などが問題となっているが,この「失敗事例」を精査する必要があろう。
李氏によるもう一冊も紹介。

市場原理に揺れるアメリカの医療

市場原理に揺れるアメリカの医療市場原理に揺れるアメリカの医療
李 啓充

医学書院 1998-10
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