四日市市の公害資料館計画と指定管理者

12月13日の毎日新聞三重版の記事から

四日市市環境学習センター指定管理者案を否決−−公害資料室活用で市議会委
四日市市議会都市環境委員会は12日、四日市公害関係資料を集めた「公害資料室」がある市環境学習センター(四日市市本町)の指定管理者を選定する議案を反対多数(賛成3、反対5)で否決した。19日の本会議で改めて採決する。田中俊行新市長は、市長選直前の公開討論会で公害資料館の整備検討を明言している。
 センターは市の環境教育の拠点として96年度に開設した。市の業務見直しで来年度から指定管理者制にすることとし、他自治体で似た施設の運営経験がある「アクティオ」(東京都)が選ばれた。
 委員会は11、12日に審議。アクティオの事業計画に公害資料室の活用が含まれないことなどから「四日市公害や産廃問題などを踏まえず四日市の環境施策が担えるのか」「認定患者が今も苦しむ中、市が環境教育を手放していいのか」など批判が相次いだ。市側は今後も運営指導をすることや、アクティオが急きょ作成した公害被害地見学などの追加事業案を示したが、同委は否決した。
 市川吉則・環境保全課長は「本会議もあるので、それまでに市議会各会派に説明に回り理解を求めたい」と話していた。【清藤天】

自分自身,2008年10月19日のエントリーで「三重県四日市市では,web上の仮想資料館『四日市公害資料館』を開設しています。望むらくは,リアルな資料館が建設されることを。」と,メモしたところでしたが,地域でそれを望む声が一定程度あることがわかりました。
さて,四日市市環境学習センターへの指定管理者制度の導入については,調べたところ,本年6月市議会で条例が改正されています(改正条例の施行は2009年4月1日から)。ただ,その際,都市・環境委員会の審議で「条例が可決された後に仕様書等を指定管理者選定委員会に諮るという進め方では、議会において条例議案を十分に審査することができない」という意見があったことが委員長報告において明らかとされています。今回の委員会での否決は,その時点からの執行部側の不手際も影響しているかもしれません。

環境学習センターへの指定管理者制度の導入が,市の公害資料館整備に具体的にどのような影響を与えるのかは,まだ良く分かりません。環境学習センターの指定管理に関する仕様書もまだ見ていない(市のページからはリンクがなくなっています)ところですが,改正条例によれば,施設の維持管理だけでなく,情報収集,環境学習に関する調査研究,普及啓発,研修,市民・団体の交流支援等の全ての環境学習に関する事業も指定管理者が行うこととなっています。記事中にも「アクティオが急遽作成した公害被害地見学などの追加事業案を示した」とあるとおり,市はガバナンスは一定程度行うとしながらも,実際の事業は全て指定管理者任せとなります。そうであるならば,市執行部は,公害資料館の整備も主体的には取り組もうとしないのではないかと懸念せざるをえません。
まあ,議会としてもスマートではなくて,今の時点で執行部案に反対するよりは,条例改正時点で疑義をとなえるべきであったろうと思います。本会議でどのような採決結果になるのか,注視です。
なお,応募は,アクティオ(株)と四日市大学エネルギー環境教育研究会グループ(構成団体は四日市大学エネルギー環境教育研究会とNPO法人四日市大学自然環境教育研究会)の2者。
 四日市大学エネルギー環境教育研究会代表の新田義孝四日市大学環境情報学部教授は,もともと電力中央研究所に在職され,環境学習センターの研修講師を勤めていたりと,市としては安心どころだったようにも思うのですけれどもね。結局は「環境に関する研究と有能な人材が豊富である点は評価できます。しかし、事業主体としての機能性並びに実行性においては、経験が浅いため、管理運営面での安定感が若干不足しているように見受けられました」ということで,選定されなかったようです。
一方のアクティオ(株)は,社会教育施設等の指定管理者として,それなりの実績はありますね。流山市生涯学習センターの指定管理者になっていることは,2007年6月23日のエントリー「指定管理者が水商売を推進」でも紹介したところです。

12月20日追記 環境学習センターの指定管理者としてアクティオ(株)を指定するという議案が可決されました。

12月20日の毎日新聞三重版の記事から

四日市市議会:環境学習センターの指定管理者議案、賛成討論なく可決
四日市市議会は19日、常任委員会で否決された四日市公害関係資料を集めた「公害資料室」がある市環境学習センター(四日市市本町)の指定管理者選定議案を本会議で賛成多数で可決した。賛成討論がないままの逆転可決となった。田中俊行新市長は公害資料館の設置検討を表明しておりセンターの指定管理者移行がどのように影響するか注目される。
 本会議では、原案通り可決するかが諮られた。「公害の歴史を踏まえ、環境基本条例に基づき施策を進めねばならないのに民間に投げ出すのは無責任だ」との反対討論だけ行われ、採決を行った。
 可決に伴い、センターは来年度から3年間、他自治体で似た施設の運営経験がある「アクティオ」(東京都)が運営する。【清藤天】

水商売には御用心。というのはネタですが,四日市市行政が,市民と行政の公害への闘いの歴史にどう向かい合おうとしているのかが,いよいよ問われてきます。

2009年1月12日追記 イタイイタイ病資料館

1月10日の読売新聞富山版の記事から。

イ病資料館建設 環境相に協力要請へ−被害地域住民ら面会
イタイイタイ病被害地域の住民らが13日、イ病に関する公立資料館建設への協力を求めるため、環境省で斉藤鉄夫環境相に面会し、要望書を手渡すことが決まった。資料館問題で患者側が大臣に直接、要請するのは初めて。地元選出の県議らも同行し、県議会の建設要望も伝える。住民らは「県や原因企業からの協力を引き出すような前向きな発言を期待したい」と話している。
 環境相と面会するのは、住民団体神通川流域カドミウム被害団体連絡協議会」(被団協、小松義久代表)の高木勲寛副代表(67)ら10人。2002年に資料館建設を求める請願を全会一致で採択した県議会からも、島田一県議(公明)ら2人が参加し、環境相に口頭で協力を求める見通しだ。
 被団協によると、イ病の患者や団体が大臣に面会するのは、1968年の公害病認定以前も含めて今回で4回目。過去3回は認定基準の運用や不服審査会などに関する要請で、資料館問題では初めてとなる。
 イ病の資料収集を巡っては、石井知事が公害病認定から40年にあたる昨年5月8日、汚染土壌の復元が終わる11年度をめどに検討する考えを初めて表明。県は資料の所在を調べる作業を始め、環境省も同様の調査に着手することを決めた。
 ただ、県も国も資料館建設については明言していない。これに対し、住民側は「患者の高齢化が進んでおり、歴史伝承には早期建設が必要」と主張。県議らを通じて、環境省に、大臣との面会を要請していた。
 40年以上にわたって住民運動の先頭に立ってきた小松義久代表(84)は「患者救済や汚染除去を勝ち取り、原因企業に『無公害企業』を宣言させたイ病の歴史は、環境保護の上で世界的な意義がある。大臣にはその点を訴え、県などとの協力を促したい」と話している。

いちおう,水俣病資料館新潟水俣病資料館はあります。水俣病資料館は水俣市立ですし,新潟水俣病資料館は新潟県立です。
 また,水俣には水俣病歴史考証館もあります。ここは,財団法人(全国3,300万円のカンパにより1974年に設立)水俣病センター相思社の運営です。
 さらに,国立水俣病総合研究センターの水俣病情報センターもあります。
設置者はまちまちですが,それぞれの公害事件と,それへの反省に基づく人間の暮らしと社会のあり方について,調査し,資料を収集して保存し,記憶を保存して継承し,また人々の交流の場となっています。
イタイイタイ病についても,被害者が賠償金を出し合って作った清流会館があり,イタイイタイ病に関する資料の保存や展示の公開を,対策協議会が中心となって行っています。県が設置者となって設置することがベストとは思いません。しかし,県や三井金属イタイイタイ病の資料と記憶を後世に伝えていくことを責務として(資料と記憶を消滅させたいと実は願っているのかもしれませんが),設置または支援に取り組むのが当然なのではないでしょうか*1

2011年6月4日追記

2011年5月31日の毎日新聞富山版の記事から

イタイイタイ病資料館:風化させず教訓継承を 県、6月議会へ設置条例案
◇運営・利用促進、検討会で議論−−来春開館予定
イタイイタイ病の教訓や資料を継承する県立資料館について、県は名称を「富山県イタイイタイ病資料館」とすることなどを盛り込んだ設置条例案を6月定例議会に提案することを決めた。27日に県庁で開かれた同館のあり方を議論する「イタイイタイ病資料館(仮称)整備・運営検討会議」で、県側が委員に明らかにした。委員からは、資料館の運営や開館後の利用促進に関する意見が相次いだ。【岩嶋悟】
資料館は、富山市友杉の国際健康プラザにある「国際伝統医学センター」を改修して設置。整備費は4億2000万円で、うち2億1000万円は昨年9月に原因企業の三井金属鉱業から受けた寄付金5億円から充てる。開館は来年春の予定。
条例案では名称のほか、資料館の受け付け業務などを委託する指定管理者制度を導入することも盛り込んだ。しかし、展示内容については県が決定するという。委員の高木勲寛・イタイイタイ病対策協議会会長は「運営に被害者団体の意見を反映できないのか」と質問。県は「地元団体の理解を得るのを前提にして、運営方針を決定したい」と答えた。
また、県は、利用促進策として小中学校の課外授業を積極的に受け入れるほか、イ病への関心を深める講演会を実施することなどを説明。委員は「最初の3年から5年は人が集まるかもしれないが、段々風化すると人が集まらない状況になるかもしれない」と企画などでの工夫が必要と指摘した。

記録と資料の保存を一義的にお願いしたい。
そして,その上で,人の心に残る共有の記憶が行われる空間づくりを。ぜひ,学芸員とともに活動するコーディネイターの確保を。

*1:県議会は2002年9月議会で,イタイイタイ病資料館建設に係る請願を全会一致で採択している