症例A 他&国立博物館の戦時中の資料疎開

症例A

症例A (角川文庫)症例A (角川文庫)
多島 斗志之

角川書店 2003-01
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小説としては,出だしで少しもたつく感があるとともに,ちょっと強引なところが気にはなりますが,一気に読ませてしまう力を持っています。解離性同一性障害が一つのテーマですが,実はかなり興味深い博物館小説。
ネタバレですが,東京国立博物館での戦時下の資料の疎開が鍵となっています。
東京国立博物館百年史』を調べてみると,まず,1941年2月21日に,東京帝室博物館総長から宮内大臣に,有事の際の保護方針案について上申を行っていたことが載っています(格納庫の建設,上野付近崖地に横穴式倉庫建設等の構想)。4月5日に変更案を上申(横穴式倉庫はやめて現在地に地下倉庫)。
まあ,実際上は巨大施設の整備は困難だったようで,疎開に移っていきます。1941年8月18日に第一陣の疎開(約20点)が奈良帝室博物館へ。1942年7月には南多摩郡横山村武蔵陵墓への疎開も行われます。
 1943年12月14日には政府で「国宝,重要美術品の防空施設整備要綱」が閣議決定され,建造物に対する防護設備の強化や偽装の実施,分散疎開などの措置が定められます。これも踏まえ,1944年には出品者への疎開の意味での返却,武蔵陵墓内倉庫への疎開福島県耶麻郡翁島高松宮別邸への疎開が行われます。さらに1945年には武蔵陵墓に疎開された資料の再疎開も含め,京都府桑田郡山国村常照皇寺,京都府桑田郡弓削村弓削旅館,岩手県二戸郡浄法地町大森邸・小田島邸への疎開が行われています。
戦後は,1946年1月から還送が開始されたが,常照皇寺分は還送が遅れ,少なくても7月までずれ込んだようです。
この疎開と還送が『症例A』の大きな材料になっています。
ちなみに,1945年3月10日(東京大空襲の日)から東京国立博物館は閉館し,再開したのは1946年3月24日とのことです。1947年には帝室博物館は国へと移管されています。

国立科学博物館疎開

国立科学博物館百年史』を見ると,1945年3月に山梨県東八代郡八代村南,長野県軽井沢町南原,群馬県碓氷郡九十九村小日向,山梨県北巨摩郡清春村中丸,栃木県芳賀郡物部村高田,神奈川県横浜市中区山手町120に疎開したことが出ていました。還送については1946年3月までに終了させる計画が,最終的に完了したのは1948年1月20日であったとのことです。戦争による被害についても紹介されています。

私(岩佐動物学部主任)が来た時は建物はもう軍の手で取り壊されており,中にあった旧帝室博物館以来の多数の古い剥製標本の姿は殆どない。空地に穴を掘って埋めたとのことであり,わずかに残っていた剥製も皮を切り裂かれ,尻尾を切られ,などと惨憺たる有様である。

資料は,(大日本帝国軍隊によって)瓦礫のように扱われて破損あるいは散逸してしまった。本館が太平洋戦争で蒙った最大の被害はこのとき生じたものである。

ちなみに,東京国立博物館と同じく1945年3月10日から一時閉館となり,同年12月1日から再開したということです。

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講談社 2008-11-05
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まあ,面白い。ぜんぜん精緻ではないが。