研究開発能力強化法

正式名称が「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」というもので,6月4日の衆議院文部科学委員会で審議,5日の本会議で賛成多数で可決されたとのことです。
日本共産党の反対討論

本法案では研究開発システムの改革を行うとされていますが、大学など公的研究機関の研究能力を事実上大企業の国際競争力強化に奉仕させるものと言わざるを得ません。
 公務員の任期づき採用や国の委託研究の成果の無償譲渡など、研究交流促進法の諸制度を引き継ぐとともに、国等の知的基盤の民間への開放などを定めています。これらは、国の研究機関における研究活動とその成果の公共的性格を弱め、全体の奉仕者たる研究公務員を一部の大企業の奉仕者へと変質させかねないものです。
 また、本法案は研究開発の基盤強化を大きな柱としていますが、予算配分の重点化と競争の強制によって深刻な予算不足に陥っている公的研究機関の現状を改善する方策は示されず、逆に、さらなる重点化と効率化、競争の促進で、研究環境を一層ゆがめ、悪化させると言わざるを得ません。
 社会問題化している若手研究者の就職難も、是正されるどころか、より深刻化させるおそれがあります。
 研究開発成果の実用化について、それを阻害する要因解消のための規制の見直しについても、大企業に使い勝手のよいものにするだけのものになりかねません。
 このように、法案が我が国の研究開発の発展につながるものではないことを指摘し、反対討論とします。

衆議院文部科学委員会での附帯決議

研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律案に対する附帯決議(案)

政府は、本法施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

  • 一 国際的な頭脳獲得競争の中で、我が国の研究開発力の強化を図るためには、その基礎となる優れた研究人材の養成・確保が不可欠であり、研究人材に係る適切な人件費の確保、若手・女性・外国人研究者のための研究環境整備に努めること。
     また、技術士等の人材の有する技能及び知識の有効な活用及び継承が非常に有効であることを踏まえ、その積極的な活用・推進に努めること。
  • 二 研究開発法人における外部資金の積極的な受入れを促進する観点から、毎年度の運営費交付金の算定に際して、研究開発法人における自己収入増大に向けた経営努力を積極的に評価し、更に促すよう適切な対応を図ること。
  • 三 我が国の研究開発力の強化に当たっては、独創的・基礎的な研究活動及び教育活動を実施する大学の基盤の強化を図るため、国立大学法人の運営費交付金や私学助成を確実に措置すること。
  • 四 我が国の研究開発等を効率的に推進する観点から、国の資金による研究開発に係る収入や購入研究機器等については、その積極的な活用が図られるよう制度面・運用面での改善を図ること。
     その際、我が国の研究開発における民間企業の果たす役割の重要性にかんがみ、これらの機器が広く民間企業にも共用されるよう十分配慮すること。
  • 五 国際競争力の確保の観点から、特許その他の知的財産に係る審査等の手続きについて、迅速かつ的確に行うための審査体制の更なる充実・強化その他必要な施策を講じること。
  • 六 研究開発システムの在り方に関する総合科学技術会議の検討においては、研究開発の特殊性、優れた人材の確保、国際競争力の確保などの観点から最も適切な研究開発法人の在り方についても検討すること。

iPS細胞の話題が一つのきっかけとなったんでしょうか。それでも,国立大学が一息付ける内容の法律ということでもないんでしょうけれども。
理科離れ,科学離れと言われていますが,理系のドクターを取って,それでも先が見えない時代では,学校教育の中でどれほど理科離れ対策を行っても限りがあると思います。

ついでに参議院内閣委員会での決議

    我が国の研究開発力強化に関する決議(案)
政府は、研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律の施行に当たり、次の事項について十分配慮すべきである。

  • 一、我が国の研究開発力の強化に当たっては、独創的・基礎的な研究活動及び教育活動を実施する大学の基盤の強化を図るため、国立大学法人の運営費交付金や私学助成を確実に措置すること。
  • 二、国際的な頭脳獲得競争の中で、我が国の研究開発力の強化を図るためには、その基礎となる優れた研究人材の養成・確保を図ることが不可欠であり、研究人材に係る適切な人件費の確保、若手・女性・外国人研究者のための研究環境整備に努めること。
  • 三、我が国の研究開発等を効率的に推進する観点から、国の資金による研究開発に係る収入や購入研究機器等については、その積極的な活用が図られるよう制度面・運用面での改善を図ることが重要である。
     その際、我が国の研究開発における民間企業の果たす役割の重要性にかんがみ、これらの機器が広く民間企業にも共用されるよう十分配慮すること。
  • 四、研究開発法人における外部資金の積極的な受入れを促進する観点から、研究開発法人における自己収入増大に向けた経営努力については、毎年度の運営費交付金の算定に際して、その経営努力を積極的に評価し、更に促すよう適切な対応を図ること。
  • 五、我が国の研究開発力の強化を図るためには、技術士等の人材の有する技能及び知識の有効な活用及び継承が非常に有効であることを踏まえ、その積極的な活用・推進に努めること。
  • 六、研究開発システムの在り方に関する総合科学技術会議の検討においては、研究開発の特殊性、優れた人材の確保、国際競争力の確保などの観点から最も適切な研究開発法人の在り方についても検討すること。
  • 七、国際競争力の確保の観点から、特許その他の知的財産に係る審査等の手続きについて、迅速かつ的確に行うための審査体制の更なる充実・強化その他必要な施策を講じること。

  右決議する。

6月12日追記 ポスドク待遇改善

6月12日の赤旗の記事から

つくば研究機関 公務員宿舎に入居 可
 財務省認める ポストドクターに朗報
 紙議員要求
財務省は十日、茨城県のつくば研究学園都市にある独立行政法人研究機関で働くポストドクター二百二十二人の国家公務員宿舎への入居を認めることを決めました。これは同宿舎制度が始まって以来はじめてです。
 ・・・議員が、二〇〇六年から二度にわたる質問主意書と国会質問で要求したことで実現したものです。つくばに独立行政法人研究機関を持っている関係省庁が、研究機関に勤務しているポストドクターに入居要望をとり、財務省と協議を続けてきました。
 ポストドクターは、博士課程卒業者の短期の非正規雇用制度です。不安定雇用であることに加えて、福利厚生などの面でも放置されています。若手研究者自身だけでなく、日本の科学技術の将来にとっても重大な問題をはらんでいます。
 今回の公務員宿舎への入居の実現は、宿舎に空きがあれば全国で実現可能で、国立大学で働くポストドクターの宿舎問題の解決へ道を開くものとなります。

生活費的には結構大きな改善でしょうね。