独立行政法人等の非営利法人への寄附の全額控除の検討

5月14日の産経新聞の記事

独立行政法人への寄付、全額税額控除を検討

 国立美術館国民生活センターなどの独立行政法人(独法)に対する企業や個人の寄付を促すため、政府は寄付金を法人税所得税から全額控除する制度を導入する検討に入った。独法に対しては官僚の天下りの受け皿になっているとの批判があり、巨額の国費投入がその原因の一つとされている。このため、独法の自主財源を確保して、こうした状況を改善すると同時に、「寄付の状況を国民の『評価』ととらえ、独法の整理・合理化の際の指標にする」(政府関係者)狙いもある。
 現在、独法への寄付は、所得控除の対象。寄付額の一定割合を課税ベースとなる所得から差し引き納税額を減らしている。これを全額税額控除に変更し、寄付額と同額の税還付が受けられるようにする考えだ。
 政府関係者によると、「企業や個人は、独法の実績や将来性などを踏まえて寄付先や金額を選択する。独法の評価そのものにつながる」とみている。各独法が「国民からの評価」に応じて寄付を確保する仕組みができれば、競争原理で業務の効率化が求められる上、情報開示やPRの促進も期待できるという。公益法人なども対象にするかどうか検討する。
 背景には、独法への国費支出が「ばらまき行政の元凶」(政府関係者)との認識がある。国は101ある独法に補助金交付金として年間約3兆5000億円を支出。所管省庁を通じて財務省に予算要求する仕組みとなっており、「独法に天下りしたOBと省庁との癒着が生まれやすい」(同)と指摘されている。官製談合の疑いで摘発された緑資源機構も独法だ。
 このため、安倍晋三首相は9日の経済財政諮問会議渡辺喜美行政改革担当相に「本格的に改革を進めてもらいたい」と指示。政府は年内をめどに、独法の民営化・廃止を含めた整理・合理化計画を策定する方針だ。政府は、寄付の額や件数が明確になれば、整理・合理化の際の指標になるとみている。
 渡辺氏は「各省庁の子会社化している独立行政法人が自立的に運営できるようになっていく」との改革図を描いている。
 ただ、寄付金全額の税額控除は税収減につながるとする財務省や、天下り先を抱える所管省庁の警戒感は強い。また、知名度が高い独法に寄付金が集中する懸念もあるため、ブランド力のない独法の反発も予想され、早くも「公務員制度改革以上に反発は出る」(財務省中堅)との見方が出ている。
 一方、自民党中川秀直幹事長は13日、大津市で開かれた党滋賀県連大会での講演で、「障害者の社会活動などを寄付で支えるのも税制の重要な問題だ」などと述べ、特定非営利活動法人NPO法人)や社会福祉法人への寄付についても、現行の所得控除ではなく税額控除にすべきだとの考えを示した。中川氏は自治体への寄付についても税額控除適用を提唱している。

5月9日の経済財政諮問会議での,渡辺臨時議員(渡辺喜美*1 国・地方行政改革担当大臣)の次の発言も関連しているものであろう。

そもそも独法は、橋本行革の時代に、イギリスのエージェンシーをモデルに導入されたはず。ところが、本当に独立の法人格でやっているのかという疑問が出ている。つまり、いつの間にか役所の関連会社、子会社というような位置づけになってしまっている。
 これを解決するには、ヒトとカネの両面から解決策を図っていくべき。ヒトの面では、御案内のように、予算と権限を背景とした押し付け的な天下りというのが元凶。国家公務員法改正によって、この天下りを根絶していく。そうすると、廃止・民営化も含めた大胆な改革が可能になっていく。
 カネ、財源の面では、今は運営費交付金に大きく依存している体制。話が飛ぶが、菅議員がふるさと納税という御提言をされておられ、慶應義塾大学の跡田教授がホームタウンドナー制ということを言っておられる。これは税額控除。その延長線で私の立場から、非営利法人ドナー制度、公益ドナー制と言ってもよいが、そういう制度を導入したらどうか。
 つまり住民が自ら選択した自治体や非営利法人などに寄附するということは、税額の一部をこういったところに寄附する、充てるというところに行き着く。是非この公益ドナー制を導入することによって、独法が省庁の関連会社、子会社的な位置づけから、まさに独立していく方向を目指すべき。国民の方を向いて仕事をしていくということになる。その成果が出なければ、つぶされていくことになろう。
 今日の議論の対象ではないが、大学は本来寄附で成り立っているのが普通。大学や研究所について、是非こういった財源の面からの改革も進めていくべき。

個人や法人の所得に応じて税金が徴収され,防衛まで含め,公的サービスに回ってきたのが,これまでの姿。
 日本型社会主義と言われながらも,富の再分配の役目を果たし,戦後の日本社会全体の底上げ,発展を支えてきた仕組みの見直しがついに主張され始めた。
これは,税金を納める代わりに,独立行政法人等の非営利法人に,個人も企業も,寄附をし,その分行政が差配できる税金が減るということである。
 防衛というサービスへの支出を,日本国政府が減らすとは思えないから,これは教育や福祉といった公的サービスの減少を招くものである。
渡辺大臣は,公益法人が直接,教育や福祉を担い,全体として公的サービスの減少を招くことはなく,むしろ効率化を高めるものである,と主張するのであろう。
でも,それらの公益法人は,「公益」活動を実施するうえで,スポンサーの顔を伺い始める。
例えば独立行政法人医薬基盤研究所に,ある企業,例えば製薬会社が寄附を行う。例えば独立行政法人日本原子力研究開発機構に,ある電力会社が寄附を行う。例えば独立行政法人国立環境研究所に,ある自動車会社が寄附を行う。
それで成し遂げられる効率化とは何か,それで成し遂げられる「公的サービス」の向上とは何なのか。
もちろん,現在でも,さまざまな独立行政法人は,スポンサーである政府,与党の方を向かざるを得ない状況に置かれている。
 しかし,国にしても,国会にしても,憲法・法律の下にあり,衆人の監視のもとにある機関。
「税額控除」による「寄附文化の醸成」とは,言葉としてはきれいだが,結局,憲法・法律によりチェックされるお金がアンダーグラウンドに回ってしまう可能性がある。よほど注意深く,この発言の行方を見守らなければならないと思う。

6月1日追記

なぜか,本日になってから,某!関係を中心に「公益ドナー」という検索語で飛んでこられる方が増えてきています。何か動きがあるんでしょうか。

6月2日追記

大臣の就任,記者会見が6月1日にありましたから,その下作業かもしれませんね。記者会見にはふるさとドナーも含め,出てはおりませんでしたが。
記者会見見てみましたら,日本の農業について「法人化を進めるということもそのとおりです。規模の小さな農家も集落営農という形で力を合わせていく」なんてことも言っているんですね。
また,記者からは「緑資源機構だけではなくて、林野庁の事業全般を、組織全般を見直すようにというようなお考えはないでしょうか」という質問がありましたが,何か林野行政について情報が出ているような。。。

*1:渡辺美智雄外務大臣の長男。いわゆる二世議員自民党無派閥。衆議院栃木三区。『安倍改革というのは愛の構造改革』と発言した「愛の人」