博物館が危ない,美術館が危ない

東大の小柴ホールで開かれた日本学術会議の公開講演会,事前申込みで満員になったほどの盛況でした。この種の講演会では珍しいことではないでしょうか。あちらこちらの公立博物館の館長さんも数人聞きにきてました。
博物館の指定管理者に関しては,様々な課題があることが再確認されたところです。
指定期間の問題に関しては,研究においても展示その他の活動においても中長期的計画が不可能となってしまうことがあります。特別展一つをとっても,3年から5年のスパンで見ることが必要ですし,常設展はさらに長い時間を要します。国立科学博物館の新館展示は,11年間かかっているとのこと。当然といえば当然のことですが,そのことが,あまりにも知られていないように思います。
標本の保存については,基本的には永久に保存することをめざすわけですが,もし,どこかで破壊・消滅されたら,取り返しはまさにつきません。
しかも,博物館はすでに持っている標本だけでなく,地域や自然界にまだ「埋もれている」ものも見いだし,収集をします。保存され,また新たに見いだされた標本は,博物館で展示や教育普及活動で活用されたり,国内外の研究に活用されたりするわけですが,基本的にクライアントは未来の世代future generationです。価値交換のための「市場market」が存在しないわけですから,そもそも経済としてはなりたたない活動となります。
営利企業が短期的に指定管理者になったとして,この活動にどれだけ経営資源を投入するのか。その経営の在り方については,指定管理者にまず委ねられてしまいます。
安定して,資料の保存・収集が行われるかというところが大きな問題となります。
そのほかにも,人材の養成がきちんと行われていくのかという問題も出てきます。例えば長崎歴史文化博物館の指定管理者の期間は5年(博物館によっては2年,または3年という期間のところもあります)。また職員の任期は1年間。養成というより即戦力,場合によっては「使い捨て」の可能性も。
シンポジウムでで出た話題ではないですが,このブログで良く触れている「ぐんまフラワーパーク」という植物園は,過去,2003年には日本植物園協会の大会が行われたところです。しかし,指定管理者となった現在,あそこを植物園として価値あるところと見る人は少なくなってきていることと思われます。
どのような文化を生み出すことができるのか,将来も含め人々に支持される場所であるために今何を行っていくのか,理念が不在の行政と指定管理者が揃うと,あっという間に博物館は変節してしまうことでしょう。

配付資料等

配付資料が日本学術会議のサイトにアップされています。http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/gakujutu/siryo.pdf
また,開催報告がメールニュースで公開されました。http://www.scj.go.jp/ja/info/mail/20061107.pdf