指定管理者制度の動き−メモ
図書館友の会全国連絡会などによる要望書
毎日新聞の記事より。
03年の地方自治法改正で、公共施設の管理・運営を地方自治体が指定する民間企業やNPO法人に委ねる指定管理者制度が導入されたが、公立図書館への制度導入を巡り、各地で異論が出ている。静岡市では今月、学識者らの諮問機関が「経費削減以外の効果が不透明」などとして施行凍結決議をした。利用者の交流団体「図書館友の会全国連絡会」などは25〜26日、文部科学省と総務省に、同制度を公立図書館に適用しないことを求める要望書を提出する。
経費削減や住民サービス向上を目的に導入された指定管理者制度だが、要望書は▽コストカットによる住民サービス低下▽司書の確保が不十分になる▽資料の散逸・廃棄の恐れ――などを挙げて、導入に反対する。
約15都道府県の図書館利用者30団体の連絡役を務めた同会メンバーの阿曽千代子さん(52)は「経済効率の観点だけでは、図書館の持つ地域文化や情報収集の拠点機能が損なわれる恐れがある」と危ぶむ。
日本図書館協会などによると、3月までに北九州市や山梨県山中湖村など8自治体で公共図書館に指定管理者制度を導入。開館時間延長や経費削減などで一定の成果も挙げつつある。他の自治体でも導入が検討されているが、図書館法で入館料や貸出料は無料と定められているため、収益性も導入のネックとなっている。
千葉大の長澤成次・教育学部教授(社会教育学)は「経費削減で安い賃金と雇用不安の中で、図書館司書の専門性が養えるのか。効率性ばかり優先されて公共性が危うくされかねず、指定管理者制度にそぐわない」と指摘する。【清水隆明】
図書館への指定管理者制度の導入って変だな
「公」から「民」へ,というのは,改革の一つの方向。その一環として,指定管理者制度が各地方自治体に導入されてきています。
組織の硬直化,不適切な人員配置(お役人は,人事異動が命のようなところもあるしね。そのため,2,3年の間隔で,図書館のことをろくに知らずに異動してきて,なおかつ,腰掛けのようにその任期を全うするという例もあることでしょう)などの悪弊が,様々な行政サービスで見られたことも事実です。
だから,行政サービスの種類によっては,指定管理者制度を導入することで,より熱意のある管理者,効率的な運営,結果として効果を上げるという事例もあるのだろうと思います。
ただ,公立図書館についてはどうでしょうか。体育館や駐車場の運営を指定管理者に委ねる例であれば,行政サービスの効果を上げ,利用者を増やすことにより,管理者の収入が増えるというインセンティブも考えられますが,図書館の場合は,そのようなことはありません。
その結果として,指定管理者の目の向け方が,利用者増よりも,経費の削減に目がいくのは仕方がない,ある意味当然のことでしょう。
経費の削減,すなわち職員を減らし,また給料を下げる方向に向かうということは十分予想されます。そして職員の意欲がそがれるとともに知識や経験を持たない職員が増える。
一方,図書購入費をもし減らすとなれば,以前「八千代市の図書館の悲惨な状況」http://d.hatena.ne.jp/ironsand/20050417#p1でも書いたように,図書のコレクションとしての価値,信頼性は一気に低下します。もちろん,知識や経験を持たない職員が増えても,図書のコレクションとしての価値,信頼性は低下します。
もうひとつ起こっている問題があります。いま,あちこちの図書館で,子どもたちへの読み聞かせ,視覚障碍者等を対象とした点訳や対面朗読などのサービスをボランティアの人が担っています。図書館の運営の担い手が地方自治体,教育委員会という「公」から「民」,特に企業へ移ったとき,ボランティアによるその体制がとれるかどうかという不安があります。ボランティア自身「その企業に利用されたくない」「指定管理者になったら活動は止める」と言っている例もあるようです。
一方,ボランティアの活用は,それなりに手間のかかる作業です。図書館の運営を委ねられた指定管理者が,「一銭にもならない」ボランティアの募集・育成・コーディネイトという労を避けることも十分予想されます。
図書館への導入は,私もどうかと思います。
静岡市立図書館−行政と図書館協議会
静岡市立図書館の事例が記事の中にも出てきます。公立図書館にしても,公立博物館にしても「協議会」というものがしばしば置かれています。
図書館法を見てみると第14条1項に「公立図書館に図書館協議会を置くことができる。」と。また,14条2項に「図書館協議会は、図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、図書館の行う図書館奉仕につき、館長に対して意見を述べる機関とする。」と書かれています。
また,「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/07/010742.htmでは市町村立図書館・都道府県立図書館について「図書館協議会を設置し,地域の状況を踏まえ,利用者の声を十分に反映した図書館の運営がなされるよう努めるものとする。」と書かれています。
さて,この静岡市立図書館,市行政は指定管理者制度を進めたがっているようですが,「利用者の声」である図書館協議会の意見を本当に無視されるおつもりなのか。静岡市の民度が問われるものだと思います。
八千代市の図書館
http://d.hatena.ne.jp/ironsand/20050417#p1で書いた八千代市の図書館。2005年度の補正予算でかなり復活し,図書購入の状況は改善されました。(逐次刊行物については復活されていませんが)
さらに八千代市の図書館について追記
http://d.hatena.ne.jp/ironsand/20060614#p1でも書きましたが,「週刊金曜日」が市内1館で2006年度から復活するなど,逐次刊行物についても配架状況が改善されています。
指定管理者が荒らして逃げ出した
http://shitei.seesaa.net/article/17973568.htmlの記事です。(元記事は朝日新聞、奈良版、06.2.22)
奈良県野迫川村「野迫川温泉ホテルハイ・タトラ」(指定管理者制度導入後の名称は『命洗湯(めいせんとう)の宿』)の指定管理者として運営を委ねられた大手アウトソーシング会社「大新東」(東京都文京区)が,3年の契約を途中で打ち切り、営業開始10か月で撤退したとのことです。記事によると「人員削減などの合理化でサービスが低下し、登山や避暑のなじみ客が離れて宿泊客が半減したという。会社側は『業務を改善し、役割は終わった』と説明するが、住民からは『負の遺産を残した』との声も。 村は委託先を元に戻し、失った客の回復に懸命だ。」とのこと。
途中で契約を打ち切るにあたっての違約金が契約上盛り込まれていなかったようですが,あきれた事件です。
この施設を大新東が受けたときの記事がhttp://d.hatena.ne.jp/siteikanrisha/20050528の下の方に紹介されています。
なお,この会社 (株)大新東は,www.shiteikanrisha.comは「『行財政改革』と『町おこし』のコンサルタントです。」というサイトも作っています。ここを見ますと,幅広く指定管理者を受託しているようです。
北海道湧別町では総合体育館,町営プール,文化センター,パークゴルフ場,野球場,地場産加工センター,宿泊施設しらかば(旧 林業研修センター)など。
神奈川県 横須賀市の横須賀市立公郷老人憩いの家。
長野県 松本市の自転車駐車場。
岡山県 久米南町の久米南町農村公園ふれあいプラザ久米南(道の駅くめなん)。
埼玉県 草加市の草加市立氷川児童センター。
兵庫県 明石市の明石市立中央図書館と西部図書館。
島根県 安来市の安来節演芸館。
栃木県 小山市の小山市勤労青少年ホームと勤労者体育センター。
埼玉県 小鹿野町にある越谷市民保養施設おがの山荘。
埼玉県 白岡町の自転車駐輪場。
埼玉県 和光市の下新倉保育クラブ。
について「指定管理者制度に基づく管理実績」として掲載されていました。そのほかに,
高知県 大豊町のゆとりすとパークおおとよ,山荘梶ケ森・梶ケ森天文台,大杉観光センター」(道の駅大杉)。
さすがに,途中で契約を打ち切った奈良県野迫川村の宿泊施設は載っていません。
これらの施設の運営がうまくいけばいいですね。w