冤罪法廷 他
冤罪法廷
弁護人弘中惇一郎が,検察の無理なストーリーを明らかにし,そのひどさを周知させるうまさあたりも,なかなか面白い。
もう一つ興味深かったのは特捜検察の歴史。主要官庁でなかった司法省の東京地裁検事局(当時は裁判官も司法省が管轄)が1909年の日糖疑獄の捜査・起訴で影響力を増したこと。また,1910年の大逆事件の創造など,"国家安寧"への検察の"貢献"を見せつけたことから,検察が行政のみならず政治的にも影響力を増し,検事出身の平沼麒一郎はついに1939年には総理大臣に就任するなど権限を強化し,国家暴力を背景として統制と思想弾圧に大きな役割を果たしてきたことが描かれています。
戦後,GHQでは,検察の役割から捜査を排除し,公訴官として位置づけようという見方もあったようですが,結局,GHQとの綱引きの中,検察も付随的ながらも捜査権を確保してきたとのこと。
本書は,書かれたタイミングから,無罪判決は出ておらず,もとより証拠のフロッピィのデータ改変は明るみになっていない段階のものですが,検察の質の悪化は十分明らかになっています。
末尾に著者の魚住氏が弘中弁護士に,魚住氏が「特捜の正義」を信じていたころの検察特捜部と,今の検察特捜部の違いを尋ねたことが記されています。弘中弁護士の回答は「あえて言うとするなら,以前は悪質・巧妙だった捜査が,悪質・ズサンなものになったということでしょうね」。
旧石器遺跡捏造事件
詳細は,本人周辺でないともちろんわからないところですが,本書だけ見ると,仕様がなかった面もあるかもしれないが,ちょっと責任逃れに見える記述も見受けられるところ。
いずれにせよ,捏造事件により,藤村氏の関わった全ての旧石器遺跡は一度その価値をリセットせざるをえないところに追われています。
昨年,島根で,松藤和人同志社大教授を団長とする調査団が,砂原遺跡というところから約12万年前の旧石器時代の石器を発掘したと新聞記事が出ました。発表するのは自由な話ですが,偽石器という見方をしている研究者もおり,その価値については,様々な意見が考古の学界内であるようです。昨年段階の新聞の記述はフライング気味のような。
僕僕先生
そういえば,ライトノベルの『GOSICK』は,しゃがれ声を持つリアル少女。僕僕先生は,見た目少女で実は・・という設定とも言えるような。
その他,良かったもの。『「ニッポン社会」入門−英国人記者の抱腹レポート』,『速記者たちの国会秘録』,『狼と香辛料13』。
今回,イマイチだったが,今後に期待するものとして『オサキ江戸へ』。ストーリーに面白みはありそうだけれども,ストーリーの為だけに勝手な設定の登場人物が動いているだけで,主人公をはじめ人に厚みがない。今後に期待。続編はすでに出ているので,登場人物が動き回るようになっていれば良いんですが。