下関及び金沢での人体の不思議展興行について 追記あり:京都での興行&日本解剖学会のガイドライン

本エントリーは,2009年6月27日のエントリー「人体の不思議展が7月から静岡と松江で興行予定とか 追記:名古屋と熊本,下関でも興行」の続きです。
山口県民主医療機関連合会が,人道上・医療倫理上、看過できるものではないとして,人体の不思議展の中止を求める声明を発表しています。

2010年2月18日


人間の尊厳が守られていない「人体の不思議展」の中止を求める声明
山口県民主医療機関連合会
会 長 野田浩夫
 


2002年以降、全国で「人体の不思議展」が開催され、山口県では、今年4月4日から「海峡メッセ下関」で開催される計画があります。
人体の不思議展」は、プラスティネーションという技術で遺体そのものを標本として展示しており、各地では毎回多くの人が訪れています。この展示会の端緒となったのは、1995年に日本解剖学会100周年企画として開催された「人体の世界」です。現在行われている「人体の不思議展」は、その性格が大きく変質しているものと考えざるを得ません。一つひとつの展示について十分な解説や、人体標本を展示する上での必要な配慮がなされておらず、教育的意義が大きいとは思えません。さらに、以下の問題があると考えます。
1.人間の尊厳が守られていない
 遺体への冒涜は人間の尊厳をないがしろにするものです。「人体の不思議展」では、遺体が不必要にポーズをとらされているなど興味本位の見世物として扱われているように思えます。また、入場料を徴収し、会場に臓器をモチーフとした土産物を販売する売店も設置されるなど、明らかに遺体が営利目的のために使われています。
2.自らの意思にもとづいた献体か、きわめて不明確である
 標本について「遺体は生前の意思により献体されたものである」と紹介されていますが、意思確認の内容がきわめて不明確です。日本では、「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」によって献体について定められていますが、これはあくまでも医科・歯科大学などの教育に関する法律で、一般市民に有料で公開されることを想定したものではありません。このような展示方法で多くの観客の目に曝されることまで同意を得ていたかどうかは、はっきりしていません。しかも母体と胎児の標本があり、どのような手続きを経て献体の意思確認がされているのか、大いに疑問が残ります。
3.標本に外国人の遺体を利用している
 死体解剖保存法に照らして考えると、このような展示に日本人の遺体を使用することは、国内では認められていません。日本の展示会で使われている標本は、外国人の遺体を利用し、中国の工場で製造されているとのことです。主催団体は、遺体の提供・処理などの過程を明らかにすべきです。


以上のように、「人体の不思議展」が含んでいる問題は、人道上・医療倫理上、看過できるものではありません。「人体の不思議展に疑問を持つ会」などが問題点を指摘し、国内外の批判が高まる中で少なくない団体等の抗議の声をうけ、日本医師会日本看護協会日本歯科医師会などをはじめ、各地の教育委員会など後援をとりやめる団体が出ています。
人間の尊厳が守られていない重大な問題をもつ「人体の不思議展」は中止すべきです。
また、新聞社・テレビ局、各自治体・教育委員会などは、本展示には人道的・倫理的に多くの問題があることを認識され、興業を目的としたこのような展示会の開催・後援に関与しないとともに、「中止を求める」世論喚起のための取り組みをすすめられるよう強く要望します。



また,山口県保険医協会が,会場を管理する山口県国際総合センター中止要請を行っています。

2010年3月5日


財団法人 山口県国際総合センター
 理事長 伊藤 俊昭 様
山口県保険医協会
会 長 高橋泰


法と社会通念にそぐわない「人体の不思議展」の中止を求める要請
私たちは、県内の医科・歯科保険医の団体です。来る4月4日から5月12日まで「海峡メッセ下関」で「人体の不思議展」が開催されることについて、人命を守り医療を提供する医療従事者の立場から、その中止を要請します。
人体の不思議展」は、何か医学教育的な意義が有るかのように宣伝され、これまで世界的に開催されているようです。しかし、その内容は、特殊技術で防腐処置を施した実物の死体を使い、全身の皮を剥がれた状態で立て、また、各臓器をバラバラに展示し、或いは、遺体が不必要にポーズをとらされています。
人体標本について「遺体は生前の意思により献体されたものである」と紹介されていますが、意思確認の内容がきわめて不明確です。しかも母体と胎児の標本があり、どのような手続きを経て献体の意思確認がされているのか、大いに疑問が残ります。
わが国では、死体の利用は死因調査、医学教育・研究に限定されています(「死体解剖保存法」)。また同法では「死体の取り扱いに当たっては礼意を失われないように注意しなければならない」と明記しているように、死体に対して敬意を払うべきというわが国の社会通念に根ざしたものです。さらに、献体の必要事項を定めるわが国の「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」は、あくまでも医科・歯科大学などの教育に関する法律であり、死体を一般市民に有料で公開されることを想定したものではありません。フランスのように、2009年4月21日に裁判所がパリで開かれている「人体展」の中止を命ずる判決を出している国もあります。
これに対し、「人体の不思議展」では、遺体が興味本位の見世物として扱われており、また、入場料を徴収し、会場では臓器をモチーフとした土産物を販売する売店も設置されるなど、明らかに遺体が営利目的のために使われています。
さらに、わが国のこのような展示に日本人の遺体を使用できませんので、標本は中国の死刑囚などの死体を使用し、中国の工場で製造されているとのことです。 
以上のように、「人体の不思議展」が含んでいる問題は、人道上・医療倫理上、大いに問題であります。
つきましては、貴職として、下記の事項を執り行っていただくようお願い致します。
1、 上記のような問題点をご検討のうえ、あいまいな「死体の利用」を許さない立場で、「人体の不思議展」への会場使用許可を取り消していただくこと
2、この展示を後援し、また、「招待券」を配っている団体等へ、わが国の法律と社会通念に照らし「死体利用」の是非を深く検討し、直ちにこれをやめるようご教示いただくこと。
以上

11月19日追記

12月4日から2011年1月23日の予定で,京都市勧業館みやこめっせで,人体の不思議展興行が行われるとのこと。
主催者は,「人体の不思議展実行委員会 」と書いてあるだけで,全くわかりません。博物館や大学などの教育機関・研究機関が行っているのではなさそうです。個人か,企業か,はたまたヤーサンか,全くわかりません。問い合わせ電話番号は,06-6372-5337として,大阪府内の電話番号が掲載されていますが,何か理由があるのか,全く会社名などはわかりません。
10月25日に,京都民主医療機関連合会が人間の尊厳が守られていない「人体の不思議展」の中止を求める声明を出しています。10月26日には,京都府保険医協会が「人体の不思議展」の開催中止を求める理事会声明を出しています。10月28日には,大阪府保険医協会が疑惑の「「人体の不思議展」は中止せよ」という声明を出しています。
会場スタッフの募集の連絡先は,人体の不思議展京都運営スタッフ採用係(静岡県静岡市駿河区稲川1-3-4 2F,080-3090-5040)となっています。住所だけ見るとNEVETという団体が募集しているように見えますが,よくわかりません。何か理由があるのか,全く会社名を出していないからです。


さて,ほぼ時を同じくするようですが,10月25日には社団法人日本解剖学会が「人体標本の展示に関するガイドライン」を策定公表し,公の場での展示がこのガイドラインを遵守したものとなるよう解剖学会員に呼びかけたところです。その内容は次のとおり。

「人体標本の展示に関するガイドライン
人体標本(人体あるいはその一部・臓器等を用いた標本)の公の場における展示は、人体の構造・機能等をテーマとした、営利を主目的としない学術的・教育的な企画においてのみ許容され、かつその必然性があると認められた場合のみに限定される。展示の実施に際しては、医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(いわゆる献体法)など関連法規の精神に則り、人体標本としての使用について文書による献体者の事前の同意を得るなど、人の尊厳を損なうことのないよう最大限の配慮をする。
社団法人日本解剖学会
作成日:平成22年9月25日

「営利を主目的にしない学術・教育的な企画においてのみ許容され,かつその必然性があると認められた場合のみに限定される」
献体法など関連法規の精神に則り、人体標本としての使用について文書による献体者の事前の同意を得る」
「人の尊厳を損なうことのないよう最大限の配慮をする」
解剖学会会員が,ゆめゆめ,主催者すら不明で目的もわからず,かつ,標本としての使用についての「献体者」による文書による同意が明示されていない「人体の不思議展」に協力することがないよう,強く求めるものとなっています。さらに,公の場でもし,このガイドラインに反するような展示がなされるならば,それは解剖学会のガイドラインに反する旨,声を上げるなどの配慮も必要になってくるでしょう。
もう少し早く出して欲しかったというのが個人的には本音ですが,日本解剖学会のガイドラインの策定と公表に賛同いたします。