狭山事件再審での東京高裁の検察に対する勧告

狭山事件第3次再審請求の,高裁,高検と弁護団による三者協議(2009年12月16日)において,東京高裁の門野博裁判長が,東京高検に証拠開示勧告を行っています。
この日記の2004年10月17日のエントリー「刑事裁判での検察側証拠開示」でも触れたように,日本では,税金を使って行われた警察,検察の捜査資料に,弁護側のアクセス権が認められておらず,国連からも改善勧告がなされてきているところです。
狭山事件についても,検察側は検察に不利な証拠をずっと隠匿しているのではないかと言われてきていて,弁護団は1986年から開示請求を行ってきていますが,積み重ねて2〜3mにも及ぶという未開示資料のうち,これまで極一部が開示されたのみ。裁判を適正に受ける権利が奪われ続けています。
今回,完全ではありませんが,東京高裁により,少し事態が動き始めたように思います。門野裁判長が行った証拠開示勧告は次の8点についてです。

  • 「殺害現場」とされる雑木林内の血痕反応検査の実施とその結果に対する捜査書類一切(検察の主張によると殺害現場とされる場所で,当然血痕が検出されて然るべき。しかし,検察は,検査報告書は存在しないと主張。元埼玉県警鑑識課員はルミノール反応が出なかったと証言している。)
  • 捜査官が「殺害現場」のすぐ近くで「犯行時間帯」に農作業をしていたOさんから第3回目の事情聴取をしたときの捜査報告書もしくは供述調書
  • Oさんを捜査段階で取り調べた捜査官の取り調べメモ(手控え),取り調べ小票,調書案,備忘録など(犯行時間帯とされる時間に,殺害現場とされる場所にすぐ近くにいたOさんは,被害者の姿を見ておらず、被害者の悲鳴も耳にしていないと証言。ところが捜査段階での供述調書及び寺尾判断では強引な牽強付会か)
  • 司法検察員作成の1963年7月4日付け実況見分調書に記載の現場撮影8ミリフィルム(「殺害現場」の「犯行時間帯」の状況の検証のため)
  • 石川さんが製菓会社に勤務当時の借用書,筆跡鑑定などのために収集した石川さんの筆跡が存在する書類や石川さんが逮捕・拘留中に書かれた脅迫状と同内容の文書など,石川さんの筆跡が存在する文書(脅迫状の犯人の筆跡と石川さんの筆跡が同一人物のものだというならば,検察は自信を持って開示できるはずだけれども...)
  • 石川さんの取り調べについての調査官の取り調べメモ(手控え),取り調べ小票,調書案,備忘録など
  • 1963年5月16日付五十嵐鑑定人作成の鑑定書添付の写真
  • 1963年5月4日付け司法警察員作成の実況見分調書添付の現場写真以外の被害者の死体に関する写真(そもそも五十嵐鑑定は扼殺としており,「自白」と合致しない。五十嵐鑑定の主張する殺害時刻自体についても疑義が唱えられている)

狭山事件再審弁護団主任弁護人の中山武敏氏によると,カナダでは「検察官が所有している捜査の成果は,有罪確保のために使用される訴追側の財産ではなく,正義が実現されることを確保するための公共の財産である」との判例があるとのこと。

2010年3月22日追記

弁護人,検察官,裁判官による三者協議は,狭山再審請求では,第三次再審請求で初めて実現。

2010年6月27日追記

5月13日に東京高裁で開かれた三者協議で36点の証拠が開示されています。

  • 「殺害現場」とされる雑木林内の血痕反応検査の実施とその結果に対する捜査書類一切については不見当。(ルミノール反応も調べたという捜査員の証言がありながら)
  • 捜査官が「殺害現場」のすぐ近くで「犯行時間帯」に農作業をしていたOさんから第3回目の事情聴取をしたときの捜査報告書一通開示。
  • Oさんを捜査段階で取り調べた捜査官の取り調べメモについては,上記の他にもう一通の捜査報告書。
  • 司法検察員作成の1963年7月4日付け実況見分調書に記載の現場撮影8ミリフィルムは不見当。
  • 石川さんが製菓会社に勤務当時の借用書,筆跡鑑定などのために収集した石川さんの筆跡が存在する書類や石川さんが逮捕・拘留中に書かれた脅迫状と同内容の文書など,石川さんの筆跡が存在する文書については6点の筆跡関係書類。
  • 石川さんの取り調べについての調査官の取り調べメモ(手控え),取り調べ小票,調書案,備忘録などについては,捜査報告書等19通と取り調べ録音テープ9本(これまで開示されたことのないもの)
  • 1963年5月16日付五十嵐鑑定人作成の鑑定書添付の写真は不見当。
  • 1963年5月4日付け司法警察員作成の実況見分調書添付の現場写真以外の被害者の死体に関する写真は不見当。

この数十年検察によって隠されてきた資料の数々,そしておそらくまだ検察が隠し,または密かに廃棄した資料の数々。その中には冤罪を明らかにできる資料が含まれている/いたのかもしれない。何しろ再審開始決定となった「布川事件」でも,検察は再審開始決定のきっかけとなった資料(取り調べテープや毛髪鑑定書,証人取り調べ供述書)を,検察は35年間カクし続けてきたのだから。
そして,村木厚子さん裁判において検察の取り調べメモ廃棄事件が明らかとなったところだが,今回狭山事件で開示された捜査報告書や供述調書のもととなった?捜査員の取り調べメモを,どのような裁判ででも開示できるようにならなければ,日本の裁判,特に検察庁・検事の活動に対する信頼性は失われる一方だろうことを,ひしひしと感じています。