指定管理者制度に関する美術館連絡協議会によるアンケート結果から

6月11日の読売新聞の記事から

指定管理者制度に疑問−公立美術館アンケート
全国124の公立美術館で作る美術館連絡協議会が・・・加盟館の活動実態に関するアンケート調査をまとめた。回答は加盟館の8割にあたる99館。
公立美術館は近年,経費削減と観客増などの実績を求められてきた。企業やNPO法人も含めた幅広い団体に運営を委託できる指定管理者精度はその象徴だ。しかし調査結果によると,導入した館は約3割にとどまる。導入した館と自治体が直営する館で,5年前より入館者数が「増えた」とする回答はそれぞれ39%,40%。10年前との比較では,「増えた」とする直営館が導入館よりも10ポイント多い53%にのぼり,制度の効果を疑問視する声が多かった。
年間予算はこの10年間に「2〜4億円」規模の館が減って「6000万円以下」が増え,昨年度の作品購入費は約半数がゼロに。教育普及費は例外的に微増で,美術館と教育の連携を進める最近の自治体の動きを裏付けた。また,予算不足の埋め合わせに財団などの助成金を申請する動きが目立ち,5000万円以上集めた館は10年前の約6倍,5年前の3倍に達した。
調査結果を受けて先月,シンポジウムも開かれた。小勝禮子栃木県立美術館学芸課長は活動の根幹が揺らいでいる背景として,「地方公共団体など美術館の設置者と,館のスタッフ,観覧者の3者で,共通認識が微妙にずれてしまったのではないか」と指摘。いわき市立美術館の佐々木吉晴副館長は市民のボランティアや「友の会」の役割が増したと述べ,山脇一夫金城学院大教授(元名古屋市美術館学芸課長)は市民や他の美術館との連携強化に加え,遠方から観客が足を運んでくれる個性的で良質なコレクション作りの重要性を挙げた。
他の美術館との間で所蔵品の貸し借り,共同企画展も増えている。司会の井上隆邦三重県立美術館長は「公立美術館の置かれた状況は大変厳しいが,『連携』が一つのキーワードなのかな,という感じがした」と総括した。(高野清見)

美術館連絡協議会は公立美術館間の協力・活性化を推進することを目的として,全国の公立美術館が参加して1982年に結成されたもので,事務局は読売新聞東京本社事業局内にある組織です。現在の理事長は世田谷美術館館長。理事の中には読売新聞グループ本社代表取締役会長も名前を連ねています。
記事中のシンポジウムは,5月24日(日)に,「日本の美術館名品展」の開催記念として,「公立美術館はいま」と題して開催されています(於:東京都美術館)。
さて,もちろん利用者が少ない美術館であってはいけない。とはいえ,指定管理者制度の効果を,入館者数の増減だけで見る淋しい記事,またはアンケート。
シンポジウムにおいて,指定管理者制度の功罪に関する発言があったのかどうかわかりません。でも美術館への指定管理者制度の導入の最大の問題点の一つは,価値の発見・創造という営み,すなわち研究や資料収集の継続性,効率性が落ちるということであって,そのことへの発言はあって当然のような気はしています。まあ,指定管理者制度を導入して,資料収集の継続性・効率性が落ちたから長期的に入館者数が減少したというロジックを,すでに読売新聞社さんが持っていて,それを記事に反映したということかもしれませんが。

シンポジウムの感想に関して追記

気ままブログさんの「公立美術館の今とこれから」というエントリーに,そのシンポジウムに出席された感想が出ています。

市民のニーズをどう汲み取っているかって質問に対して、あるパネリストが答えた言葉が気になった。市民のニーズよりも、当館が考える地域にあった美術品をどのように伝えるかが重要って内容だった。ここがズレてるんだよなって思う。

確かに,気ままぶろぐさんのおっしゃるとおりかもしれない。市民と離れてしまっては公立美術館は存続なんてできないから。
「市民のニーズ」のとらえ方自体に,市民と美術館のずれがあるのかもしれません。
私自身は,地域の価値の発見・再発見と文化の創造が公立美術館の活動の根底でありミッションであるといいなと思っていますので,ミッションから導かれる経営戦略の中心に市民ニーズが置かれる必要はないと思っています。
ではどうするか。
逆説的ですが,美術館活動の実践を通して,「地域の価値の発見・再発見と文化の創造」が市民ニーズであるように関係性を作ることこそが大事ではないか。
優れた西洋画を間近で鑑賞したいというニーズもあるでしょう。美術館と地域の価値を高めるために,著名な画を展示して,多くの人が来市,来館するようにしたいというニーズもあるでしょう。とはいえ,地域と関係性の薄い,例えばゴッホの絵を購入,展示することには疑問を感じます。
むしろ美術館が,いや実際には,美術館学芸員が自ら地域の歴史,文化を発掘し,価値を再発見し,その証拠を保存,展示する。その活動を通して市民と地域に貢献し,また市民や地域とともに活動を続ける。
そういう美術館こそが,市民との関係性を高める美術館だと思うのですが,高望みしすぎでしょうか。