市来一般廃棄物利用エネルギーセンター問題続報

5月1日のエントリー「いちき串木野市(鹿児島県)ごみ発電問題」,5月26日のエントリー「東京工業大教授の責任」,8月9日のエントリー「東工大吉川教授のごみ発電技術続報」に関連する一件。
11月7日に,会計検査院平成19年度決算検査報告を内閣に報告しました。
 その中に,いちき串木野市の市来一般廃棄物利用エネルギーセンターの件も「不当事項」の一つとして指摘されています。→指摘事項原本はこちら(pdfファイルです)

環境省
廃棄物処理施設整備事業の実施に当たり、仕様書で定めた設備能力についての確認が十分でないまま施設の引渡しを受けたなどのため施設が所期の機能を発揮できず不当

1件 不当金額(支出) 2億4793万円 

1 補助事業の概要
 廃棄物処理施設整備費国庫補助金は、廃棄物の円滑かつ適正な処理を行うことにより生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として、ごみ処理施設等の廃棄物処理施設の整備を行う市町村等に対して交付されるものである。
 本件補助事業は、鹿児島県日置郡市来町(平成17年10月11日以降はいちき串木野市)が、14、15両年度に、新技術を導入して一般ごみと肉骨粉を混合して処理する廃棄物処理施設を総事業費 860,788,765円(補助対象事業費 745,566,560円、国庫補助金 247,938,000円)で整備したものである。同施設は、一般ごみと肉骨粉を混合して処理することにより燃料ガスを発生させるためのごみ処理施設と、発生した燃料ガスを主燃料、軽油等を補助燃料として発電するための発電施設(最大 900kW)から成るものであり、本件補助事業は、これらの施設のうち、ごみ処理施設及び発電した電力をごみ処理施設の自家消費に充てる分(252kW)の発電施設の設置に必要な経費の一部を補助するものである。
2 検査の結果
 市来町が16年2月に発電施設の引渡しを受けた際には、ごみ処理施設で生成された燃料ガスを使った引渡し確認試験は実施しておらず、また、同年3月にごみ処理施設の引渡しを受けた当時もごみ処理施設からは発電が可能となる燃料ガスが生成されていなかったことから、生成ガスの燃料としての適格性を確認できていない状況であった。
 そして、同町では、上記のとおり設備能力の確認ができていないのに、施設が完成したとする検査調書を添付するなどして、鹿児島県に実績報告書を提出していた。
 また、施設の引渡し以降、ごみ処理施設は低調な稼働状況となっており、ごみ処理施設から生成される燃料ガスは燃料としての適格性を欠いていて、発電施設は燃料ガスによる稼働ができない状況となっていた。
 このような状況において、いちき串木野市は、本件施設の改善に向けた取組を行うとしていたものの、改良工事の費用が多額に上り、確実な効果も見込めないこと、基本設計業者等の協力が得られないことなどから、改良工事等を行っておらず、全く改善のめどが立たないため、依然としてごみ処理施設の稼働は低調であり、発電施設は稼働しないままとなっていた。
 したがって、本件補助事業で整備した施設は、一般ごみと肉骨粉を混合して処理することにより燃料ガスを生成して、これを主燃料として発電するという補助の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金 247,938,000円が不当と認められる。

会計検査院が今回,環境省に対して,補助金支出が不当であると指摘したことから,今後は環境省いちき串木野市に対し補助金の返還を求めることになってくるものと思われます。
会計検査院の指摘の中に,当該施設が所期の機能を発揮できなかった原因(補助金を受託した側の不適切な処理)が触れられています。整理すると次のとおり。

  • 町は、設備能力の確認ができていないのに、施設が完成したとする検査調書を添付するなどして、県に実績報告書を提出していたこと。
  • 引渡し以降、ごみ処理施設は低調な稼働状況となっており、施設から生成されるガスは燃料としての適格性を欠いていて、燃料ガスによる稼働ができない状況となっていたこと。
  • 市は、施設の改善に向けた取組を行うとしていたものの、改良工事の費用が多額に上り確実な効果も見込めないこと、基本設計業者等の協力が得られないことなどから改良工事等を行っておらず、全く改善のめどが立たないため、依然としてごみ処理施設の稼働は低調であり、発電施設は稼働しないままとなっていたこと。

ですね。そして,おおもとの原因(不適切な処理)は,表題にもなっていますが,

  • 仕様書で定めた設備能力についての確認が十分でないまま施設の引渡しを受けたこと。

と指摘されています。
そもそも,仕様書で定めた能力を達成していないのに引き渡しを受けてしまったことにおいて,いちき串木野市(当時は合併前ですから,市来町ですね)には瑕疵があったということです。

追記 南日本新聞で報道されています

11月7日の南日本新聞の記事から

いちき串木野ごみ発電 補助3億円全額「不当」−検査院指摘、返還へ
会計検査院は7日、2007年度の決算検査報告を公表した。鹿児島県関係では、いちき串木野市川上のごみ処理発電施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」について、当初計画通りの発電が出来ず補助の目的を達していないとして、環境省新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)の補助金全額3億268万円を「不当」と指摘した。同市は今後、補助金の返還を求められる。補助事業に伴う市債4億2000万円の繰り上げ償還も求められる可能性がある。
 補助金の内訳は環境省分が2億4793万円、開発機構分が5475万円。報告は不当の理由について、同施設を建設した当時の市来町が施設の能力を十分に確認しないまま、施設が完成したとする検査調書をつけて県に実績報告を提出し、請負業者から引き渡しを受けたことや、改善のめどがまったく立っていないことを挙げ、「補助の目的を達していない」としている。
 会計検査院によると廃棄物処理施設で補助金全額を不当としたケースは異例という。
 同施設は東京工業大学吉川邦夫教授が考案し、市来町が建設。ごみ処理で発生したガスを燃料に発電する仕組みで、年間最大2000万円の売電が可能との触れ込みだった。
 しかし、04年4月の完成以来不具合が続き、すでに発電は断念。ごみ処理も不調だが、市町村合併後、施設を引き継いだいちき串木野市は「補助金全額返還を避けるには使わざるを得ない」として操業を継続。総事業費9億9385万円のほか、維持管理費などに4年間で約4億円を投じている。
 同市は吉川教授や建設業者に対し、10億4700万円の損害賠償請求訴訟を起こす方針を決めている。

11月20日追記

11月20日の南日本新聞の記事から

ごみ発電施設廃止へ いちき串木野市長「改善は無理」
当初計画通り発電できていないことから、会計検査院が国の補助金は不当と指摘したいちき串木野市川上のごみ処理発電施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」(エネセン)について、田畑誠一市長は19日、市議会全員協議会で施設を早急に停止する意向を示した。
 田畑市長は全協後、南日本新聞の取材に対し「今の技術では改善は無理」と説明しており、施設は事実上の廃止となる見通し。停止理由については、会計検査院補助金全額を不当としていることや、同市の別の焼却施設「串木野環境センター」が可燃ごみ1トン当たり約1万7000円で処理できるのに対し、エネセンでは30万円以上かかり非効率である点などを挙げた。
 施設の停止時期は今後、管理業務を委託している業者と協議して決定するという。停止後の施設をどうするかは未定。
 同市の可燃ごみ処理量は2007年度8923トン。串木野環境センターで8601トンを処理し、エネセンの処理量は全体の3.6%に当たる322トンだった。同市は環境センターの処理能力に余裕があるため、エネセン停止による支障は生じないとしている。
 エネセンは02年、旧市来町が着工し合併(05年10月)前の04年4月から稼働したが、当初から発電できず不調が続いていた。市は環境省と協議しごみ処理のみの操業を続けていた。
 7日の会計検査院の決算報告は「工事完了時の性能確認が不十分だった」として、環境省新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)の補助金3億268万円について全額を「不当」と指摘した。
 市は今後、国から補助事業に伴う市債4億2000万円の繰り上げ償還も合わせ、約7億円の返還を求められる見通し。

12月4日追記 いちき串木野市へ少し朗報

12月4日の南日本新聞の記事から

市来ごみ発電施設 不当補助金返還、7000万円減額見通し
いちき串木野市のごみ処理発電施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」が当初計画通り稼働せず、会計検査院が国の補助金約3億円全額の支出を「不当」とした問題で、環境省が同市に求める返還額が約1億8000万円となる見通しであることが3日分かった。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)の補助金は5475万円。環境省分(2億4793万円)の一部減額により、同市の返還額は合わせて2億3500万円程度になるとみられる。県や同市によると発電はしなかったものの、廃棄物処理施設として使用したことが考慮された。返済方法は無利子で10年間の分割返済となる見通しという。

約6500万円の減額及び無利子返済は,小さな自治体の財政に影響を与えることへの国側の配慮ということでしょうか。
廃棄物処理施設として使用されたことが考慮されたということのようですね。
 個人的には,自然科学にしても,科学技術にしても,幾多の失敗の上にこそ成り立つものであるから,小規模自治体の廃棄物エネルギーの発電への利用実験・実用化実験として考慮する方が本来は妥当のようにも思いますが。
いちき串木野市にとって少し朗報ですが,もしかしたら吉川邦夫教授らにとっても少し朗報ともなるのかもしれませんね(損害賠償金額算定上)。市債の繰り上げ償還分など,損害額は依然として大きいのですけれども。

2009年2月16日追記

2月16日のMBCニュースから

いちき串木野市、ごみ処理施設損賠提訴 [02/16 18:02]
いちき串木野市のごみ処理発電施設が計画どおり稼動していない問題で、いちき串木野市はきょう、施設を設計・施工した業者らを相手どり総額9億8000万円あまりの損害賠償請求訴訟を鹿児島地裁に起こしました。
 これは2004年に稼動したいちき串木野市のごみ処理発電施設が稼動直後から、発電やごみの処理が出来ないなどのトラブルが続き、去年12月に稼動を停止したものです。
 いちき串木野市では改善のための工事を発注しましたが、発電はほとんど行えず、ごみ処理能力も予定の30パーセント程度にとどまっており、この改善費用や環境省からのおよそ3億円の補助金を含め、これまでに10億5000万円以上の費用がかかっていました。
 これを受け、いちき串木野市はきょう、施設の設計などを行った神奈川県のエコミート・ソリューションズと吉川邦夫代表、建設を請け負った東京都の三井三池製作所に対し、多大な費用を要する施設の建設を進めさせ、損害を生じさせたとして9億8300万円あまりの損害賠償請求訴訟を鹿児島地裁に起こしました。
 なお、いちき串木野市は補助の目的を達していないとして環境省からの補助金のうち2億4000万円余りの返還請求を受けています。
 訴えられたエコミート・ソリューションズと三井三池製作所は、いずれも「訴状が届いていないのでコメントできない」と話しています。

2月16日のKTSニュースでも

【動画】ごみ処理発電施設問題で損賠訴訟
相次ぐトラブルで計画通りに発電できず、国に補助金を返還することになったいちき串木野市のごみ処理発電施設をめぐる問題で、いちき串木野市は施設の設計、施工業者など3者を相手取って、総額9億8000万円余りの損害賠償を求める訴えを16日鹿児島地裁に起こしました。
訴えられたのは、ごみ処理発電施設を考案した東京工業大学大学院の吉川邦夫教授と、施設の設計にあたった神奈川県相模原市の「エコミート・ソリューションズ」、それに施工業者で東京都中央区の「三井三池製作所」の3者です。
 いちき串木野市のごみ処理発電施設は、旧市来町がおよそ3億円の国庫補助金などを含む総事業費およそ10億円をかけて建設したもので2004年4月に稼動を始めました。
 しかし、相次ぐトラブルで計画通りに発電できず、補助金のうちおよそ2億4000万円を国に返還することになっています。
 訴えによりますと、3者はそれぞれ実用化の上で問題点がないことを十分確認しないまま施設の設計や建設にあたり、その後の改善工事でも予定の性能は発揮されず結局建設や改修、維持などの費用が無駄になったとして3者に合わせて9億8345万円余りの損害賠償を求めています。
 なお、この施設はすでに昨年末で閉鎖されています。

2009年7月27日追記

津川敬氏のブログ「循環型社会って何!」の7月8日のエントリー「いちき串木野市・国庫補助金返還の顛末」で,再度,このゴミ処理発電施設について紹介されています。
9月4日に次の公判があるということのようです。

2013年4月24日追記 地裁の判決が出たとのこと

4月24日の南日本放送ニュースから

ごみ発電訴訟 いちき串木野市の訴え棄却 [04/24 18:32]
およそ10億円で建設したごみ処理発電施設が稼働しなかったとしていちき串木野市が、設計した業者らを相手に9億8000万円あまりの損害賠償を求めている裁判で鹿児島地裁は24日、市の訴えを棄却しました。
この裁判は、2004年に稼働したいちき串木野市のごみ処理発電施設が、計画通り稼働しなかったとして、市が施設を設計した神奈川の業者と建設した東京の業者らに、9億8300万円の損害賠償を求めているものです。この施設は旧市来町が国からの補助金3億円を含むおよそ10億円で建設しましたが2004年の稼働当初から発電もごみ処理もうまくいかず2008年に稼働を停止しました。
24日の判決で鹿児島地裁の吉村真幸裁判長は「業者らが必要な調査、検討を行わなかったという注意義務違反は認められない」などとしていちき串木野市の訴えを棄却しました。この判決についていちき串木野市の田畑誠一市長は「誠に遺憾。今後については弁護士と相談して決めたい」とのコメントを発表しています。
この施設を巡ってはいちき串木野市が、2010年から2011年にかけて3回にわたり最低売却価格1500万円で売りに出しましたが入札されず去年2月には最低売却価格1万円で売り出したものの、このときも入札が辞退されました。そして、去年8月に、発電施設のみを県内の業者が211万円で落札しています。