大阪府の文化施策続報

6月5日に大阪府「財政再建プログラム(案)」が公表されています。
気になる点をメモしておきます。

国際児童文学館
 見直しの方向性: 【廃止・他施設に移転】・関係機関との協議の上、H21 年度中に中央図書館への移転を実施し、あわせて運営を一層効率化  ・施設は撤去、もしくは利用について検討
 理由: ・年間入館者数が約65 万人の中央図書館の中で事業を実施する方が、多くの府民に提供し得る  ・中央図書館へ移転することにより、運営の効率化が図れる  ・おはなし会や読書相談などは、中央図書館の子ども資料室等の場所において提供可能

「移転」先の中央図書館という場においてどんな「事業」を想定しているのか。なお,中央図書館に「国際児童文学館」が移転するとともに,ドーンセンターや文化情報センターなどの図書が集約されることとなっていますけれども(中之島図書館にもドーンセンターや文化情報センターなどの図書が集約されます)。

○(財)大阪国際児童文学館
 方向性: 抜本的見直し (21年度中)  ・必要な事業は府で実施  ・府からの委託は廃止  ・府派遣職員は引上げ  ・施設の移転が完了する21年度中に見直し
 考え方: ・中央図書館に施設の移転完了後の平成22年度以降は、資料の管理など必要な事業は府で実施  ・府からの補助金・委託料などの財政的関与や人的関与を廃止

花の文化園
 見直しの方向性: 【地元市町村・NPO等との協働、連携強化】・民間企業や地元南河内地域の市町村・NPO・ボランティア・森林組合等との協働、連携を強化するなど、運営を一層効率化  ・コスト縮減の状況を踏まえて、改めてあり方を検討
 理由: ・地元南河内地域の市町村、森林組合、民間企業との運営面における連携強化の余地やNPO・ボランティア等とのさらなる協働などを通じて運営の効率化を見極めることが必要  ・市街化調整区域内に位置し、また宮山遺跡もあるため、施設の用途変更や開発を伴う民間への売却が困難

○(財)大阪府みどり公社
 方向性: 存 続  ・農地保有合理化法人として条例に基づく事業を実施  ・府派遣職員の見直し
 考え方: ・府内唯一の府全体をカバーする農地保有合理化法人として、「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」に基づく事業を実施しており、農地の賃貸借契約が発生するなど事業の推進において必要性が認められることから、法人は存続  ・地球温暖化防止活動事業は、温暖化防止に向けて必要な事業を代替できるNPO等が育つまでの間は継続して実施  ・法人の自立性を高める観点から、府派遣職員の見直しなど府の関与のあり方を検討

大型児童館ビッグバン
 見直しの方向性: 【運営の一層の効率化及び資産の処分・利活用】・業務内容の見直しによる管理委託料の削減  ・資産の売却や利活用など収入確保の実施
 理由: ・所蔵する時代玩具、敷地内の森部分等を今後さらに活用することにより収入増を図る  ・起債残高・国庫補助金が多額であることから、当面存続するが、引き続き施設のあり方を検討

○(財)大阪府地域福祉推進財団
 方向性: 存 続・介護サービス事業者・利用者を対象とした自主事業を中心に事業を実施  ・府派遣職員は段階的に引上げ
 考え方: ・法人運営の自立化を図る観点から、法人の専門性やノウハウを発揮できる自主事業を中心に事業を展開し、段階的に運営補助金を廃止  ・幅広い分野の福祉関連事業を府から受託しているが、府からの委託事業は精査の上、市場化テストを実施

上方演芸資料館
 見直しの方向性: 【他の府有施設等に移転、規模縮小】・展示機能及び演芸ライブラリー機能のみ存続  ・貸主との契約期間であるH22年度末までに移転
 理由: ・約5万件の寄贈資料の保存・展示は必要  ・現在の場所で、すべての施設機能を維持するには多額の費用が必要

現有の寄贈資料の保存・展示は必要とのこと。あとは?

○現代美術センター
 見直しの方向性: 【廃止(新展開により別途検討)】機能を大阪市西区江之子島(旧産業技術総合研究所跡地)に移転する(H23 年度当初予定)とともに、各地の倉庫にある収蔵品を集約化し、経費を節減
 理由: ・江之子島地区まちづくり事業コンペにおいて、旧産業技術総合研究所旧館を新たにアートセンターとして活用することを決定  ・収蔵庫に係る経費を節減

○労働センター
 見直しの方向性: 【運営の一層の効率化】・本館・南館の会議室等の更なる利用促進、維持管理経費などの経費節減により一層の効率化を図り、効果の一部について府へ還元を求める  ・青少年会館の廃止(H20 年度末予定)による機能集約施設としての役割を一部担う
 理由: ・労働委員会や本庁の課が入居するなど府の庁舎との一体性が強く施設の有用性も高い  ・納付金収入もあり、短期的には府の財政負担は少ない  ・廃止する青少年会館の一部機能について役割分担を図る

○(財)大阪労働協会
 方向性: 自立化 (21年度〜)  ・府委託事業の見直しと市場化テストの実施  ・府委託事業に係る府派遣職員の引上げや、府OB 役員の見直し
 考え方: ・府委託事業を見直すとともに、大阪労働大学講座は民間等でも実施可能なことから市場化テストを実施  ・府の出えんがないことから、人的関与を見直した上で、自立化を促す

○女性総合センター
 見直しの方向性: 【他施設との集約、多機能化】・館内配置の見直し等によりスペースを創出。対象を女性以外にも拡大  ・青少年会館の廃止(H20 年度末予定)による機能集約施設としての役割を一部担う
 理由: ・開設後約14 年しか経過しておらず、建物の有効活用が必要  ・今後の事業等の見直しにより創出されたスペースに青少年会館等の機能を集約し、施設の有用性を一層高める

○(財)大阪府男女共同参画推進財団
 方向性: 自立化 (21年度〜)  ・府の男女共同参画施策の実施体制を見直す  ・府派遣職員は引上げ  ・事業収入の確保を図り、法人への運営補助金は廃止
 考え方: ・事業実施体制の透明化・簡素化を図る観点から、府、法人、NPOの関係を整理  ・府の委託事業については、市場化テスト等を実施  ・市町村・大学・民間事業者等からの講座事業の受託やNPO等とのイベント共催などにより事業収入を確保し、府からの運営補助金は廃止

○狭山池博物館
 見直しの方向性: 【市との共同運営等による有効活用】・大阪狭山市との共同運営等による施設の有効活用  ・施設の有料化、開館日の縮小などの経営改善方策による運営の一層の効率化  ・ボランティアとの連携により地域協働を積極的に推進する
 理由: ・狭山池は地域協働の拠点であり、府市共同運営と地域の協力のもと活用方策を検討する方が望ましい  ・開設後約7年しか経過していないため、建物の有効活用策を検討すべき  ・敷地が河川区域に位置することから民間への売却は困難

○泉北考古資料館
 見直しの方向性: 【廃止・市へ移管】・府の施設としては廃止  ・堺市との協議の上、H21 年度中に移管
 理由: ・須恵器発祥の地である地元市で、管理、保存、公開されるのが望ましい  ・施設はS45 年の開設後約37 年が経過

弥生文化博物館,近つ飛鳥博物館,近つ飛鳥風土記の丘
 見直しの方向性: 【地元関係自治体等との協働、連携強化】・利用者、地域及び地元関係自治体との協働・連携により、博物館を支える仕組みや活用策を検討  ・積極的な館外事業の展開・入館料、使用料の見直し  ・上記の取組みの成果を検証し、H21 年度に改めてあり方を検討  ・風土記の丘については、近つ飛鳥博物館と一体的に管理していく中で、一層のコスト縮減
 理由: (弥生文化)・周辺史跡とあわせて文化財を保存、公開し、当該施設を教育の場として提供・維持していくことが妥当  ・史跡に追加指定される可能性もあり、開発を伴う民間への売却は困難  (近つ飛鳥)周辺史跡とあわせて文化財を保存、公開し、当該施設を教育の場として提供・維持していくことが妥当  (風土記の丘)古墳群として文化財指定され、府有施設として取得し保存・公開してきた経過から、府による管理が適当

○(財)大阪府文化財センター
 方向性: 存 続  ・発掘事業については、市場化テストを導入
 考え方: ・国の動向を踏まえ、「大阪府における今後の埋蔵文化財保護体制のあり方」について検討し、基準を策定した上で、市場化テストを導入

○(財)アジア・太平洋人権情報センター
 方向性: 撤 退 (20年度)  ・法人への補助金を廃止  ・府派遣職員は引上げ
 考え方: ・研究成果に対しては、国際的に一定の評価を得ているが、府民・企業に対して研究成果が十分に還元されておらず、府が法人運営に関与する必要性は高くないため撤退する

○(財)大阪国際平和センター
 方向性: 存 続  ・府派遣職員は必要最小限とし、民間活用等により運営コストを抑制  ・特別展及び企画事業への補助は中止
 考え方: ・戦争の悲惨さを次の世代に伝え、平和の尊さを訴えるという法人事業の必要性は高い  ・法人は、府市協調で平和施策を実施するための事業主体である  ・今後は、常設展示を中心に、府民から寄贈された収蔵品の活用を図り、平和の情報発信に努める

○(財)大阪府人権協会補助金
 見直し内容: (1)人権相談・自立支援に関わる事業:市町村との役割分担等を踏まえ、より専門的・補完的事業に重点化。  (2)人材育成、啓発に関わる事業:協会の有する専門性等が発揮される事業に特化。地域啓発交流支援事業は、平成20年度に廃止し、21年度に市町村人権協会等が実施する交流事業への助成から、公募によるモデル事業に対する助成に転換。  (3)同協会の自立化と組織のスリム化:府派遣職員3名の引き上げ(平成20年度末)。プロパー職員の人件費補助も平成22年度末までに段階的に廃止。
 見直しの考え方: ・運営補助を事業補助に転換し抜本的に見直す。  ・人権協会を活用するメリットが明確な事業に絞り込んだ上で、事業を効率的・効果的に実施。

博物館については,最悪の結果は免れたのかもしれませんが,いろいろと気にかかるところはたくさん。
さて。。

11月3日追記

読売新聞関西版の記事から

府立狭山池博物館 橋下共同運営案「白紙に」 府の管理職引き揚げ、「丸投げ」市が反発
大阪府橋下徹知事がまとめた行財政改革案「大阪維新プログラム」で、来年度から地元自治体と共同運営される予定だった「府立狭山池博物館」(大阪府大阪狭山市)を巡り、府が管理職を引き揚げる大幅なリストラ案を決めたことに大阪狭山市側が「運営を市に丸投げするものだ」と反発し、共同運営の白紙撤回を府に伝えたことがわかった。<橋下改革>で初めて関係先と合意した府立施設の見直しは一転、暗礁に乗り上げることになった。
 同博物館は、日本最古の治水・かんがい用ため池とされる狭山池に隣接し、土木開発の歴史を紹介する施設として2001年にオープン。建物は建築家の安藤忠雄さんが設計した。
 人件費を含めた年間運営費1億8500万円(2006年度決算)を大幅削減するため、橋下知事が吉田友好市長に直談判して、府と市の共同運営を持ちかけ、今年4月に合意した。
 市は合意に基づき、運営費3000万円と職員2人を投入している市立郷土資料館を博物館内に移転し、予算と人員を博物館に回す支援策をまとめた。
 一方、府は事務職ら常勤職員4人を学芸員1人だけに減らす案を市に提案した。府によると、年間運営費の2割にあたる3500万円削減できるという。
 しかし、府案では、資料館から博物館勤務に転じる市の主査(係長級)が同博物館の“事務職トップ”になるため、市は「府立施設の責任者が市の係長というのは、本末転倒。責任ある共同運営とはいえず、府のリストラだけが狙いだ」と反対。10月中旬に吉田市長が橋下知事に直接交渉するなど、府に再考を促したが、物別れに終わった。
 市は、来年度から資料館を移転する手続きの期限が迫っているとして、10月31日に府に白紙撤回を通告、交渉を打ち切った。吉田市長は「府と市の連携で一緒に博物館を運営できれば、改革のいいモデルになったはず。残念」と話している。
 府都市整備部は「リストラ案は支出を抑える効果がある。博物館運営にも支障はない。市に理解を求めたい」と、交渉再開を訴えている。

橋下知事以下の大阪府行政が公共の博物館というものの運営をどう捉えているのかが,具体的な現象になって現れてきています。
参考までに,大阪狭山市議会の6月定例会(6月12日)での教育委員会教育長の答弁から

・・・(府の)PT試案で取り上げられた本市郷土資料館と狭山池博物館との共同運営に関して、統合を条件に賛成と伝えられているが、教育委員会の見解と取り組み状況についてお答えいたします。
 財政再建プログラム試案で、大阪府狭山池博物館については、その見直しの方向性として大阪狭山市との共同運営等による有効活用や有料化、開館日の縮小、地域協働などの経営改善方策を検討とし、狭山池博物館の運営改善を目指す内容が示されました。そのことを受け、4月26日、市長が知事と懇談されたときに、市長が「大阪狭山市にとって1400年の歴史ある狭山池と博物館は一体のものであり、博物館だけをなくすというようなことは想像すらできない」として、「博物館を中心に大阪狭山市の歴史を展示でき、お互いの経費節約、サービスの向上につながるのであれば共同運営について協議していきましょう」と申し上げたところであります。
 5日に示されました財政再建プログラム案におきましても、運営費については試算以上のコスト削減が求められていますが、市との共同運営等による有効活用という見直しの方向性は変わっておりません。教育委員会といたしましても、統合することによって貴重な狭山池の文化遺産を府・市共同で保護・継承し、府民・市民と協働して全国へ発信する拠点となることを願っております。
 さらに、年間入館者の増大も期待されると同時に、分散していた特別展等の催しに必要な財源及び人的資源を集中的に運用することが可能となることから、協議を前向きに進めてまいりたいと考えております。
 府との協議に当たっては、郷土資料館を狭山池博物館の中に移設し、府・市が共同して2つの公の施設を運営する方向で検討し、両施設の設置目的に照らして資料の保管・展示を柱に従来どおりの機能を発揮する、また、統合することでサービスに低下を来すことのないこと。財政的にも上乗せをして府に財政支援をするということは無理でありますので、現在、郷土資料館に投資している予算の範囲内で協議を継続しているところでございますので、よろしくご理解いただきますようお願いいたします。

11月12日追記 大阪狭山市大阪府が合意に達したとの報道

11月8日の読売新聞大阪版の記事から

狭山池博物館 府、職員引き揚げ縮小 3人→2人 大阪狭山市長と知事合意
府の職員引き揚げ案に反発し、大阪狭山市が府との共同運営計画を白紙撤回していた府立狭山池博物館(同市)について、橋下徹知事は7日、吉田友好市長と会談し、引き揚げる職員の人数を縮小することで合意した。市側も新たに管理職の配置を提示。博物館は来年度から、全国でも珍しい府市の共同運営で再スタートする。
 府が管理職を含む常勤職員4人を学芸員1人に削減する案を市に提示したことから、市が「府のリストラだけが狙いだ」と反発。市職員2人と運営費3000万円を博物館に回す支援策を撤回していた。この日の会談で、知事は職員削減数を3人から2人に見直す考えを伝え、「府市連携の博物館運営を実現しましょう」と持ちかけた。会談後、吉田市長は「政治決断に感謝する。施設を有効活用して改革のモデルにしたい」と話した。

ついでに,国際児童文学館に関する大阪府議会を含めた動きも紹介します。
 10月10日の共同通信の記事から

府議会、橋下知事にノー 文学館存続の請願採択
大阪府議会教育文化常任委員会は10日、府立国際児童文学館吹田市)の存続を求める請願を全会一致で採択した。橋下徹知事は、財政再建策の一環として府立中央図書館(東大阪市)に移転、統合する方針を示しているが、府議会がノーを突きつけた形で、府は方針転換を迫られそうだ。
 「知事与党」の自民党は「移転は引っ越し費用がかかり、存続させる方が財政負担が少ない」として賛成した。民主、公明、共産の各党も賛成で、請願は15日の本会議でも採択される見通し。
 請願は日本児童文学学会や文学館の支援団体など20団体が連名で提出。「1984年の開館以来、国際的な児童文学の研究拠点として大きな役割を果たしている」として「当面現地で存続させること」を求めた。
 請願採択について国際児童文学館向川幹雄館長は「府議会などのご支援は大変ありがたい。橋下知事には子どもたちの文化を守ってくれるようお願いする」と話した。

委員会採択を受けて本会議でも全会一致で採択されています。10月16日の毎日新聞大阪版の記事から

府議会:国際児童文学館の請願採択 全会一致、知事に存続迫る−−閉会
9月定例府議会は15日、大阪ミュージアム基金新設の補正予算案や空席だった3人目の副知事の選任同意など35議案を原案通り可決して閉会した。また、府立国際児童文学館吹田市)の現地存続を求め、20団体から出された請願を全会一致で採択。拘束力はないが、09年中の廃止・移転を掲げる橋下知事に再考を迫る形となった。・・・
 橋下知事は児童文学館の存続について、取材に「請願は重く受け止めるが、考えに変わりはない。中央図書館への移転で早く子どもたちに資料を見せたい思い」と述べた。・・・【石川隆宣】

「中央図書館への移転で早く子どもたちに資料を見せたい思い」って,どういうことですか?

2009年1月23日追記

1月22日の毎日新聞大阪版の記事から

府立国際児童文学館:蔵書寄贈の鳥越さん、移転強行なら資料引き揚げも
府の財政再建策で来年度中の廃止方針が示された府立国際児童文学館吹田市)について、橋下徹知事は21日、同館に約12万冊の蔵書を寄贈した児童文学研究者、鳥越信さんら関係者7人と面談した。存続の訴えに対し、橋下知事は「寄贈者の思いだけで府政運営はできない」と主張した。
 鳥越さんは終了後、廃止された後に約70万点の資料を府立中央図書館(東大阪市)へ移転する府の方針に関し「移転を強行するのなら、資料の引き揚げを検討する」と述べた。
 府は文学館を運営する財団法人に、委託料として1億6200万円(08年度予算)を支出。管轄する府教委は、来年度当初予算案に5億8700万円の移転事業費を盛り込むよう要求している。【平川哲也、手塚さや香

この日記の2008年4月25日のエントリー追記部分で,休館の琵琶湖文化館への寄託資料の引き上げについて紹介していましたが,残念ながら寄託と寄贈はやはり話が違ってきます。
寄託は,所有権はもともとの所有者のままですが,資料の保存や活用の点で,博物館等の機関に管理を委ねることと考えられます。
 しかし,寄贈は,所有者がその意思で,資料を公共の財産へと寄附・提供したものと考えられます(ここで,公共とは,行政という意味ではありません。"open to the public"に近い意味で,ただ定義上も完全な公共財とはなり得ませんので,強いて言えば,「広く人々が,一定の管理の責任を持ちつつ,フェアに利用できる」というぐらいの意味です)。
大阪府立国際児童文学館条例によれば,国際児童文学館大阪府教育委員会が所管する大阪府の施設ですから,保管資料については,大阪府教育委員会に直接的には管理責任があると考えられます。すでに,寄贈資料は公共の財産となっていますので,寄贈者の意思も一定程度尊重しつつも,資料の保管・活用については大阪府教育委員会が公共の付託を受け,適切に判断する必要があります。そのため,鳥越さんが引き揚げを主張しても,必ずしも大阪府教育委員会には返還の義務は生じません。
ただ,もし,国際児童文学館自体が廃止されるのであれば,資料の性格を考えても,鳥越さんに所有権を返還した方が,広く人々のための保管・活用が図られるように思います。その選択肢も含め,資料の扱いについて適切な判断をされるよう,大阪府教育委員会に期待いたします。

<さらに追記
博物館というのは,社会教育機能と研究機能を持っているので,それなりに議論が拡散してしまいがちです。
 しかし,文学館というのは,その博物館的機能とともに,図書館的機能の両面を持っていますから,博物館以上に議論の軸足が人によって違ってくることが予想されます。
 そのことが,国際児童文学館をめぐる議論について,あちこちで議論がかみ合わないことが起きている原因の一つになっているように思います。
国際児童文学館は展示活動は弱いですから,博物館的とあまり思われていないのかもしれませんが,実物資料の取り扱いやその研究手法,専門スタッフによる普及機能は極めて博物館的です。中央図書館に資料が移管してしまったら,研究や普及への活用はほぼストップしてしまうことを危惧しています。
そして,それらの活動の基盤となる蔵書資料,特に鳥越氏の12万点の寄贈資料が1984年の国際児童文学館の立上げの母体ともなったことを考えれば,新首長が廃止を目論んでいる同館の,そもそもの主要な寄贈者であり支援者が引き揚げを検討するのも肯ける部分があります。

2009年2月23日追記

2月23日の読売新聞の記事から

橋下知事の文学館廃止方針、寄贈者が資料14万点返還要求へ
大阪府橋下徹知事が府立国際児童文学館大阪府吹田市)を廃止する条例案を2月府議会に提出することについて、反対する児童文学研究者の鳥越信さん(79)ら3人は、同館に寄贈した資料計約14万点の返還を府に求めることを決めた。
 対象は同館の蔵書約70万点の2割を占め、府立中央図書館(同府東大阪市)に蔵書を移転する予定の府教育委員会は「所有権は府にあり、返還はできない」と困惑している。
 同館は1984年に開館したが、来館者数の不振などを理由に橋下知事が廃止を決定。アニメ映画監督の宮崎駿さんら文化人が存続を要望していた。
 今年1月、鳥越さんらが現地での存続を府に求めた際、橋下知事が「(返還を希望するなら)寄贈資料は返します」と発言したといい、鳥越さんは返還を求める理由について「移転後に、資料が丁寧に管理されるか不安。知事は聞く耳を持たずに移転を強行しようとしている」と話している。

返還の義務はないが,必ずしも「返還できない」わけではありません。人々の共有財産としての資料の価値を高めることを考えれば,国際児童文学館閉鎖の際には返還した方が良い。
それにしても,橋下氏の口約束には重みがないことがよく分かります。

2009年2月25日追記

2月25日に,『府立国際児童文学館続報』というエントリーをアップしました。