東京工業大教授の責任

5月1日のエントリーで書いた,(株)エコミート・ソリューションズ取締役会長にして,東工大教授の吉川邦夫氏の件。
考えてみれば,研究者(学者と言い換えても良いが)の発言や行動は,研究者としての責任はあるものの,民法的にはあまり責められる世の中となってはいけないと思い返しているところです。
悪意を持ってとか,インサイダー取引など「山師」ならともかく,学術的に真摯な探求であれば,学者は民法上の責任を負うべきではない。
例えば,ある企業の経営者が契約上はただの知り合いとしか言いようのない大学教授にサジェッションを求めたとして,そのサジェッション通りに行ったとして企業が損失を被った場合。例えば,企業の社外監査委員の教授が,監査役とは別な立場で何かサジェッションをした場合。例えば,総理大臣の諮問機関である○○○○会議の民間委員が何か意見を言った場合。
それを実行に移すかどうかは,COEであり,執行役であり,内閣でありの判断。学者個人に責を及ぼすべきではない。


先日のエントリーでは早稲田大学の橋詰匠研究室の例を出しました。個別の例については,個別の事情があって悪意認定や山師認定ということもあるかもしれませんが,一般的には学者としての橋詰氏はサジェッションや見解を出した立場,つくば市は判断した立場もと考えられます。
ですから,つくば市には申し訳ないのですが,「学園都市」つくば市も研究者の自由な発想や探求活動を育む立場にありますので,悪意認定,山師認定をするつもりがないのであれば,あまり深入りをするのはどうかとも思います。


ところが,一方,5月1日のエントリーで取り上げた「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」に関するいちき串木野市(鹿児島県)と吉川邦夫氏の件については,吉川氏はサジェッションや見解を出した学者ではなく,営利企業の取締役会長としての立場ですね。
トンネル法人としての,また,吉川氏の手足としての法人という(株)エコミート・ソリューションズかもしれませんが,れっきとした営利法人として存在する(存在した?)のです。その取締役としての責任は,探求の徒・学者としての責任とは別物。
 一般的に,取締役の責任によって(株)エコミート・ソリューションズに損害を与え,また第三者に損害を与えた場合は,学者としての責任とは別に取締役個人に責任が発生します。
 吉川氏の会社が,どれぐらい一般的なところ(だった?)かは承知しませんが,まだまだ個人としての責任を追求する余地はあるかもしれません。


吉川氏が仮に口八丁手八丁のビジネスマン風であって,規制緩和のこの時代に成功が見込まれる人だとしても,今後,一層大学発のベンチャービジネスを育てる立場からも,コンプライアンスを大事にし,信頼に足るベンチャー企業のみこそを育むことが,必要な時代になっていると思います。いちき串木野市行政は,大変だと思いますが,ぜひ,もう一踏ん張りしていただきたいと思います。

6月6日追記

6月6日の南日本新聞の記事から

いちき串木野・ごみ発電 先月から全操業停止−ガス不純物除去炉が故障 復旧のめど立たず
ごみ処理発電施設をうたいながら、発電を断念し、ごみ処理だけの操業を続けていたいちき串木野市の「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」(エネセン)が、5月7日からごみ処理も停止している。発生するガスの不純物を除去する炉が故障したためで、同市によると、復旧のめどは立っていない。5日の市議会全員協議会で市側が報告した。
 同市によると、同市の可燃ごみはすべて串木野環境センターに搬入しており、ごみ処理自体に影響はないという。
 炉は2005年秋に機能を向上させる改修工事が行われた。06年秋に故障し、工事を行った業者が無償で改修。市は設計や構造自体に問題があるとして、今回もこの業者に無償改修を要請しているが、業者はこれまで現地を訪れることもなく、修理時期は未定という。
 同市の田中正幸副市長は「業者の返答を待っている段階。何とかごみ処理だけは継続したい」と話している。
 エネセンは旧市来町が国庫補助金約2億4800万円を含む総事業費約9億9300万円を投入して建設し、04年4月に稼働。しかし、計画通りの運転ができない状態が続き、会計検査院から「補助金の効果が認められない」と指摘を受けた。発電機能の復旧についてはすでに断念、ごみ処理量も当初計画の約3割にとどまっていた。
 同市はごみ処理施設として操業するため、08年度は経費約8400万円を予算計上。同市議会はエネセンの今後のあり方を議論するため特別委員会を設置、委員からは停止や廃止を求める意見も出ている。

吉川教授らのごみ発電「実験」炉は機能不順でしたが,いよいよ通常の焼却炉としても,運用ができなくなったとのこと。
設備の運用には当然,メンテナンス費用を計上しているようですが,妥当な経費では運用できない設備となったという意味合いですね。

6月16日 追記

ほぼ同じ記事ですが,特別委員会の中間報告がまとまったというニュースが出ていました。
6月15日の読売新聞鹿児島版の記事から

特別委が廃止要求 故障続きで市民も批判
トラブルが相次いでいるごみ処理・発電施設「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」の在り方について協議しているいちき串木野市議会特別委員会は、事実上、同センターの廃止を求める中間報告をまとめた。運転を止めるべきという市民の意見が多いことなどを挙げ、「市は早急に決断すべき」と迫っている。26日の市議会最終本会議で報告する。(馬場豊)
センターは一般ごみと牛の肉骨粉を蒸し焼きにして発生するガスで発電する仕組みで、2004年に完成した。しかし、直後から施設で不具合が見つかり、発電業務は断念に追い込まれた。ごみ処理についても計画の約3割の処理量にとどまっており、5月上旬からは、故障でごみ処理業務もストップし、修理に追われている。一方で、市は今年度センターの運営費として約8400万円の予算を計上している。
 建設費は約10億円でうち、約3億円は環境省などから補助金を受けているため、05、06、08年に会計検査院から「補助金の効果が出ていない」などと指摘を受けており、今後、補助金返還を求められる恐れも出ている。
 昨年12月から協議を続けてきた特別委は中間報告で、「今後の見通しが立たない現状を踏まえると、運転を止めるべきとの意見が市民から多く出されている」と指摘。その上で「改善工事の見通しが立たないことや多額の維持費用が懸念されることから、会計検査院の判断結果などにとらわれず、市として早急に決断すべき」としている。
 田中正幸副市長は「真摯(しんし)に受け止め、中間報告を踏まえて対応していきたい」と話している。

さかのぼりますが,6月7日の朝日新聞鹿児島版の記事から

いちき串木野の発電施設 ごみ処理全面停止
ごみの焼却で発生するガスによる発電施設として、04年に稼働したいちき串木野市の「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」が、焼却炉の故障で1カ月前から全面的に稼働を停止していることが分かった。完成当初から設備のトラブルで発電できず、ごみ処理も不能な事態に陥っている。ごみは別の処理施設に回しているが、復旧のめどは立っていない。
 市によると、ごみ処理が停止したのは5月7日。温度を下げてガスの不純物を除去する炉で、パイプから水漏れが確認された。市が原因究明や修理の見積もりを求めている施工業者は停止後、施設を訪れておらず、復旧のめどは立たない。
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追記

8月9日のエントリーに続報を書いています。