地上波デジタルと視聴覚障碍

総務省の情報通信審議会 地上デジタル放送推進に関する検討委員会の第35回において,日本障害者協議会理事/日本点字図書館理事長 田中徹二氏,全日本ろうあ連盟理事 西滝憲彦氏,全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長 高岡正氏による意見発表が行われています。
これまで,地上波デジタルを推進している社団法人地上デジタル放送推進協会は,地上波デジタルでは視聴覚障碍者に様々なサービスを提供することが可能となっていると,美辞麗句を並べて突進してきたのですが,それがオーパーなプロパガンダにすぎなかったことが明らかになったものといえます。

字幕放送については,米国においては,以前から法律(アメリ障碍者法,リハビリテーション法)により,積極的に取り組みが進められてきていまして,少なくても10年前の時点においても,字幕表示機能のないテレビ(13インチ以上)は販売できませんでした。ニュースも含め,ほとんどの番組で字幕放送が行われていて,すぐに字幕を表示でき(ヒアリングが苦手な外国人にも,とてもやさしい機能でした),日本の状況との違いに驚いたものです。

日本のNHK放送博物館(放送センターだったかな)に,アナウンサーの音声を自動的に字幕にする装置のプロトタイプが置かれていて,その精度の高さ(もちろん,かなりの確率で誤りもおこしますが)に驚かされたのも,もう5年以上も昔のことではなかったかと思います。
 そして,この数年,あらかじめテクニカルタームを辞書として入れておくことで,訓練されたアナウンサーが読み上げるものについては,より低コストで字幕放送が可能になり,スポーツ中継などの字幕化も,さすがにNHKでは進んできたところです(NHK総合テレビが最も字幕化率が高く,約40%となっている)。しかし,それでも災害速報などは人手の確保が困難で後回しになっています。これは障碍者生存権にかかわる問題なのですけれども。

一方,放送局による手話放送はほとんど取組みがなされていないため,NPO法人CS障害者放送統一機構が,ニュースや災害の字幕や手話通訳をCSで送信し,専用の受信装置アイドラゴンでPicture in Pictureにして見れるような取組みを独自で行ってきたところです。

いま,地上波デジタルは,アナログ停波に向けて,官民一体となって邁進中ですが,手話放送や字幕放送に係るNPO法人による取組みは顧みられることもなく,効率性のみが先行しています。美辞麗句は並べられながら,結局,障碍者の視点がスポッと抜け落ちていたことが,上記意見発表で明らかになったということです。

ラビットさんのブログ「難聴者の生活」を見ても,知らなかったことがたくさん問題になっていることがわかります。
地上デジタル放送移行とデジタル・デバイド
視覚障害者のデジタル放送へのアクセシビリティ
デジタル放送に何を求めているか
デジタル放送の技術革新は進む アクセシビリティ保障も進めてほしい
緊急災害時の字幕付与のパブリックコメント
手話放送がデジタル放送で見られない理由
昨日の視聴覚障害者向け放送普及行政の指針の公表


ついでに,2008年4月3日に公表された米国政府の情報アクセスビリティ調達基準改定原案と現行の調達基準