気多大社の神社本庁からの離脱

石川県羽咋市気多大社が,宗教法人神社本庁から離脱しようとして,神社本庁側から襲撃を受けているようです。
http://www.keta.or.jp/incident/index.htm
 またはhttp://www.keta.or.jp/appeal.htm
何だかよくわかりませんのではっきり言えませんが,もし,政治カルトの末端にいるよりも,地元氏子とともにあるshrineという立場を選んだのであれば,個人的には好きです。

9月14日追記 行政訴訟の地裁判決

9月14日の読売新聞によると,気多神社側が文部科学大臣を相手として行っていた行政訴訟東京地裁判決が出たようです。
これは,気多神社側が役員会決議として2005年9月に行った宗教法人の規則変更(神社本庁との関係等)に関するものです。2005年11月に所管の石川県知事が規則変更認証書を発行。2006年1月に神社本庁と旧責任役員がそれぞれ文部科学大臣に規則変更認証の取消しを求める不服審査請求。2006年5月文部科学大臣が石川県知事の認証を取消す裁決という流れ。
東京地裁の13日の判決では大門裁判長は「変更した規則は、宗教法人法の規定に適合する」と認め,国に裁決の取り消しを命じたとのこと。
9月22日の中外日報社の記事から

三井宮司側 勝訴 石川県の気多神社紛争
東京地方裁判所民事第二部(大門匡裁判長)で十三日午後、気多神社(石川県羽咋市)の神社本庁(矢田部正巳総長)からの離脱手続きを適法とする判決が言い渡された。同神社責任役員らが原告となり、同神社の神社本庁からの離脱認証取り消しを不服として国を提訴していた。原告の全面勝訴といえる判決内容で、国による控訴が無ければ月内にも判決が確定する。
 気多神社役員会は神社本庁からの被包括関係を廃止することなどを内容とする規則変更を決議し、石川県に申請。同県は平成十七年十一月、神社本庁からの離脱を認証した。
 しかし神社本庁は、石川県による認証を不服とし、文部科学省に対し、認証取り消しを求める審査請求を提出。昨年五月に認証取り消しの裁決が下され、神社本庁からの離脱が認められなかった。
 当時の裁決は取り消しの理由として、新しい規定は「基本財産、宝物その他の財産の処分」に関する規定を欠き、違法であると指摘した。
 今回の判決では、昨年五月の認証取り消し裁決について「違法なものというべきであるから取消しを免れない」と指摘。
 これにより、神社本庁からの離脱認証が有効とされる。
 新しい規則については「財産関係に関する最低限の根本規範として不明確な点は存せず、本件変更に伴い組織の管理運営に支障が生じることはない」と、財産関係の規定が無くても違法ではないとする判断が示された。
 離脱の手続きを進めた三井秀夫宮司は昨年八月末、神社本庁により懲戒免職とされ、新たに石川県神社庁長(当時)の厚見益樹氏が特任宮司に任命された。
 しかし今回の判決によれば、すでに三井宮司が免職された時点では同神社が神社本庁から離脱していたことになるため、一連の人事が無効となる。

文部科学省が,この後,どう動くのか。このまま判決が確定すると,石川県知事による規則変更の認証が有効となる。気多神社神社本庁から離脱したこととなり,その後の2006年8月,神社本庁宮司に対して出した懲戒免職処分が無効となるのでしょう。

2008年10月28日追記

宗教法人規則変更に係る行政訴訟控訴審判決があったとのこと。
 9月23日の中外日報の記事から。

三井氏側の請求棄却 石川・気多神社神社本庁離脱問題
能登一の宮気多神社(石川県羽咋市)の神社本庁離脱をめぐって、離脱手続きに必要な規則変更の認証を文部科学省が認めない決定を下したことを不服とし、裁決の取り消しを三井秀夫氏ら神社責任役員が求めた裁判で、東京高裁(藤村啓裁判長)は十日、三井氏側の請求を認めた一審判決を破棄し、三井氏側の請求を棄却した。東京高裁は財務処分に関する規定が削除された規則変更は違法だとして、国の判断を支持した。これに対し、三井氏側は二十二日に最高裁へ上告した。
三井氏側は平成十七年九月に神社本庁からの離脱を通告し、同年十一月、石川県で気多神社の規則変更の認証を受けた。
 しかし、神社本庁は十八年一月に石川県による認証を不服とし、文部科学省に認証取り消しを求める審査請求を提起、同年五月に文科省から認証取り消しの裁決が下された。
 このため、三井氏側は同年十一月に裁決の取り消しを求めて東京地裁に提訴。十九年九月に東京地裁は三井氏側の請求を認め、文科省に対して認証を認めなかった裁決の取り消しを命じていた。
今回の東京高裁の判決について三井氏側の弁護士は「とんでもないことで、問題外だ」とし、「離脱目的で本庁とのかかわりに関する部分を削除する規則変更を行ない、『財産処分に(神社本庁)統理の承認を受けなければならない』とあるのを削除した。県にも認証を受けた」と説明。「判決は宗教法人法の意義を考慮していない」と話す。
神社本庁は平成十八年八月に三井氏を懲戒免職し、新しく石川県神社庁長(当時)の厚見益樹氏を特任宮司に任命。現在、三井氏側は宮司としての地位保全などを求めて金沢と東京両地裁で係争中。
 一方、厚見氏側も三井氏に対して社務所などの明け渡しを求めて金沢地裁に提訴している。・・・

宗教法人の規則の変更の認証は機関委任事務から法定受託事務になっているんですよね。
地方自治法では,法定受託事務に関して,第2条第16項,第17項で次のように規定されています。

16  地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。
17  前項の規定に違反して行つた地方公共団体の行為は、これを無効とする。

ですので,県の規則変更の認証が無効になる可能性があります。


一方,宗教法人法では,第26条第3項において次のように規定されています。

3 宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、当該関係を設定しようとする場合には第27条の規定による認証申請前に当該関係を設定しようとする宗教団体の承認を受け、当該関係を廃止しようとする場合には前項の規定による公告と同時に当該関係を廃止しようとする宗教団体に対しその旨を通知しなければならない。

気多神社のサイトでは,おおよそ次のような経緯が紹介されています。

  • 2005年9月11日 気多神社神社本庁に対して,包括関係を廃止しようとするため,通知を行う(第26条3項関係)。
  • 2005年11月22日 所轄庁に規則変更の申請(28日に認証)。
  • 2006年5月16日 文部科学大臣が所轄庁の認証を取り消す旨の裁決(これが今回の高裁判決関係)。
  • 2006年5月26日 気多神社神社本庁に対して,包括関係を廃止しようとするため,再度通知を行う。
     (但し,この通知に係る変更申請については2006年8月5日に気多神社責任役員会で見送ることを決議し,8月6日に神社本庁に通知)
  • 2006年8月29日 神社本庁による気多神社宮司の懲戒免職処分



なお,宗教法人法第78条及び78条第2項では次のようにも規定されています。

第78条 宗教団体は、その包括する宗教法人と当該宗教団体との被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由として、第26条第3項(第36条において準用する場合を含む。)の規定による通知前に又はその通知後2年間においては、当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の役員又は規則で定めるその他の機関の地位にある者を解任し、これらの者の権限に制限を加え、その他これらの者に対し不利益の取扱をしてはならない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。

まあ,宮司の解任が有効か無効かは,行政訴訟とは別の件となりますけれども。
それにしても,個人的には「神社本庁は,伊勢の神宮を本宗と仰ぎ」という神社本庁の性格から見て,気多神社がわざわざ神社本庁に包括されることを選択するのもどうかとは思っています。それぞれの神社が,決して単に伊勢神宮末社としてではなく,それぞれ歴史と信仰を持っていても良いんではないかと思うからです。。

2009年1月15日追記

1月8日の中外日報社の記事から

「損害認められぬ」と却下 石川県気多神社本庁離脱問題
石川県羽咋市気多神社神社本庁離脱をめぐる問題で、神社本庁から特任宮司に任じられた厚見益樹氏が、同庁から同社宮司を懲戒免職された三井秀夫氏に対して社務所の明け渡しや建物への立ち入り禁止などを求めた仮処分申請で、東京地裁民事八部(矢尾和子裁判官)は昨年十二月二十六日、「回復しがたい著しい損害が生じているとは認めるに足りず、保全の必要性を認めるに足りない」として、厚見氏の申し立てを却下した。
 三井氏側は三日、「神社本庁が任命した厚見氏の保全申立が却下されたことにより、厚見氏が社務所を占有し離脱阻止することができなくなった」とコメントを発表。厚見氏側では「まだ判決文を見ていない」として、今後の対応は未定としている(五日現在)。
 仮処分申請の審尋は十二月八日と十九日の二回行なわれた。東京地裁は三井氏が占有したままでは宗教法人として本来の宗教活動ができないとの厚見氏の主張に対して、昭和五十七年以降、宮司として宗教活動を執り行なっており、「従来の宗教活動と異なる宗教活動を行なっている事実は認められない」との判断を下した。

一審段階での仮処分申請の却下ですから,流れには大きな影響はありませんが。
本訴において判断が確定する以前に,仮処分を認めるほどの緊急性はないというところでしょう。
本訴は,厚見氏側が社務所の明渡しなどを求めた訴訟ということでしょうが,上告中の行政訴訟も絡みますし,他にも係争中の裁判があるようで,複雑です。

2009年1月21日追記

東京地裁の仮処分申請却下決定に対して,厚見氏側が即時抗告を行ったとのことです。

2009年3月12日追記

仮処分申請に関する即時抗告については,3月2日付で東京高裁は抗告を棄却とのこと。まあ,仮処分ですから本筋ではないですが。

2009年12月16日追記

2009年12月16日の読売新聞石川版の記事から

気多大社訴訟、宮司の地位確認
気多大社羽咋市)の宮司解任を巡る訴訟の判決が14日、東京地裁であった。森純子裁判官は「三井秀夫宮司(77)が代表役員の地位にあることが認められ、後任の任命は無効と言わざるを得ない」として、三井氏側の地位確認の訴えを認めた。一方、神社本庁(東京)から後任宮司に任命された厚見益樹氏(80)については、「正当な代表者ではない」とし、三井氏らに社務所の明け渡しを求めた同本庁側の訴えを却下した。
 判決などによると、三井氏は1982年11月、神社本庁により宮司に任命され、代表役員に就いた。しかし、三井氏らが同本庁からの離脱を表明し、同本庁は三井氏の懲戒免職処分を決定。2006年8月、県神社庁長だった厚見氏が、後任に任命された。このため、三井氏側は同本庁などを相手取り、代表役員の地位確認と約500万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴。厚見氏側も、三井氏側に社務所の明け渡しを求めて金沢地裁に提訴し、宮司の地位を巡る争いは「泥沼化」していた。
 厚見氏側は、気多大社には宮司の懲戒処分に関する規定がなく、「定めのないものは神社本庁の庁規で定める」規則が適用されると主張。森裁判官は「白紙委任条項があれば、(宗教団体の自主性を保障した)宗教法人法の趣旨に反する」と指摘したうえで、代表役員の三井氏の意見を欠く宮司の処分は「効力がない」と認定した。
 判決を受け、三井氏側は「結論は極めて妥当」と話し、厚見氏側は、代理人を通じ「控訴の方向で検討している」とコメントした。

原告,被告がはっきりしませんが,おそらく三井氏らを原告とする神社本庁に対する宮司(=代表役員。神社本庁庁規第78条に「宮司をもって代表役員とし・・・」とある)の地位確認の訴えと,神社本庁気多大社宮司としている厚見氏らを原告とする社務所の明け渡しの訴えがあって(反訴だか弁論の併合だか),全部判決が出たもののようです。そのうち,社務所の明け渡しの訴えについては,その前に仮処分の申請がありましたが,これは以前書いたように却下されています。

2010年4月20日追記

4月20日共同通信ニュースの記事から

最高裁、神社規則の変更認める 羽咋市気多神社訴訟
「縁結びの神様」として知られる石川県羽咋市気多神社(通称気多大社)の役員9人が、神社本庁から離脱するため変更した規則を認めなかった文部科学相の裁決を取り消すよう求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は20日、請求を退けた二審判決を破棄した。規則の変更を認め、裁決を取り消した一審判決が確定した。
神社などは、財産の管理や処分を決める際の方法を規則に盛り込むことが宗教法人法で義務付けられている。気多神社が、神社本庁の承認を必要とする財産処分についての条文を削除したため、同法に抵触するかが争われた。
田原睦夫裁判長は「規則に記載すべき財務項目を挙げた宗教法人法の条文は例示にすぎず、必ず記載する必要があるとまではいえない」と初判断を示した。財産処分に関する条文を明記しなくても違法ではないと結論付けた。
過去に神社本庁から離脱した宗教法人は、日光東照宮明治神宮がある。
判決によると、気多神社は2005年9月、規則変更を決議。県知事は認証。文科相は06年5月知事の認証を取り消したため、神社役員の一部が提訴。一審東京地裁判決は裁決を取り消したが、東京高裁判決は原告逆転敗訴としていた。

気多神社をめぐる裁判は、この最高裁判決で一気に片付きそうな予感。