行政書士等による戸籍等の不正取得への取り組み(福山市)

2005年8月に,行政から福山市個人情報保護審議会に,「行政書士による戸籍不正請求取得事件の被害者への事実の告知」について諮問が行われた。

諮問の理由

 通常,本人の依頼によらない場合に,第三者からの請求に基づいて本市が戸籍等を交付した事実は,本市が伝えなければ対象者には知るすべがないが,このことは当該請求行為が適正に行われている場合は何ら問題はない。
 しかし,本件における(行政書士の)職務上請求は不正に行われたことがすでに判明しており,身元調査等不当な目的に悪用されていた可能性も大きい。こうした中で,-snip-,(戸籍等を交付した)事実を(対象者に)告知しなければ,対象者はその判断ができないばかりか,被害にすら気づかないと考えられる。
 このため本市としては,条例の基本理念である基本的人権の尊重と自己情報コントロール権を保障する方向で検討した結果,(個人情報保護)条例第三条に基づき,市の責務として対象者への告知が必要であると判断したところであり,このことについて当審議会の意見を聴くものである。

諮問内容に対する考え方

(1)対象者の自己情報コントロール権の保障
  • 条例は,-snip-本人から請求があった場合の個人情報の開示等,自己情報コントロール権の保障について規定しているものの,本件のような場合に市が積極的に対象者に事実経過を告知することの明文規定はない。
     しかしながら,対象者は市からの告知なしには自分にかかわる事案として本件事実を知り得ないことは明らかであり,自己情報コントロール権の行使の手段である開示請求を行うことも困難であると考えられることから,条例第三条第二項「個人情報の適正な取扱いを確保するため,市民に対する支援に必要な措置を講ずるよう努めなければならない」との規定に基づき,自己情報コントロール権を積極的に保障するため,本人に告知すべきと考える。
  • 市は,プライバシーがいったん侵害されると回復困難な損害を及ぼすことを常に念頭に置き,公務の執行にあたっては市民の基本的人権を擁護することを基本として個人情報保護を図る必要があり,その実効性を確保するためには,-snip-市民に対する必要な支援を行う必要がある。
     本件においてはその(戸籍謄本等の)請求行為が不正のおそれがあることが明らかにされているため,-snip-人権侵害の可能性も大きく,-snip-不正行為を背景としている本件においては,一層対象者への告知の必要性は高いと考えられる。
  • 現行の戸籍等の請求に係る開示請求においても,条例第十七条に基づく「戸籍・住民票等の請求書に係る開示請求処理要綱」第三条により。「第三者による不当な目的による請求,交付された証明書の利用によって権利侵害のおそれがある」場合,このことについて疎明すれば開示請求により,当該請求書に記載された-snip-(申請者の)名前を対象者に知らせることができるようになっている。
     こうした制度運用の考え方からも,本件に関し,不正請求があったことを対象者に告知することで,本人の意思に基づく対応を可能とすべきである。
(2)告知への対応
  • 対象者への告知に当たっては,-snip-個別に訪問して事情を説明することを基本とし,本件の経過,開示請求権の明示,人権侵害のおそれがあること-snip-(等)を説明し,理解を求める。
  • 本件は一部の行政書士による確信犯的な不正請求事件であり,厳格な取扱いを行っている本市においても職務上請求書の悪用を防止できなかった。このため,被害の事実を把握した場合は,対象者に告知することにより,その意思に基づいて対応する以外に有効な手段はないと考えられ,告知後は対象者個々の実態を十分把握するとともに,適宜適切な情報提供を図っていく。

(以下略)